半導体、EV、再生可能エネルギー。これら最先端産業を支える「重要鉱物」を巡り、世界はかつてない緊張状態にあります。表面上は米中対立が緩和されたように見える一方で、水面下では資源を武器とした静かな攻防が激化しています。
特に日本は、レアアースや電池用金属をほぼ輸入に依存する立場にあり、ひとたび供給が滞れば産業全体が揺らぎかねません。2026年に入り、日本政府が390億円の予備費を投じた背景には、こうした切迫した現実があります。
本記事では、重要鉱物を巡る最新の国際情勢、中国の輸出規制の行方、日本政府と企業の具体的な対応、そして南鳥島沖レアアース泥や脱レアアース技術といった希望の芽までを俯瞰します。資源を持たない国は本当に不利なのか。その常識が変わりつつある今、日本の生存戦略とビジネスチャンスを立体的に読み解いていきます。
2026年の地政学と重要鉱物を巡る世界構造の変化
2026年の世界は、重要鉱物を巡って表面的な協調と構造的対立が同時進行する、極めて不安定な局面にあります。国際政治学者や資源経済の専門家が指摘するように、この状況は「グレート・バイファーケーション(大いなる二極化)」と呼ばれ、経済合理性だけでは説明できない地政学リスクが常態化しています。特に半導体、EV、再生可能エネルギーといった戦略産業の基盤を成す鉱物資源は、国家間の交渉カードとして露骨に利用される段階に入りました。
象徴的なのが、2025年10月に署名された米中間の「釜山合意」です。この合意により、中国はガリウムやゲルマニウム、黒鉛、レアアース関連材料の輸出規制を一時的に停止しましたが、期限は2026年11月までと明確に区切られています。米中の緊張緩和を演出する一方で、恒久的な信頼回復には程遠く、企業や市場は合意失効後の再規制、いわゆる「リバーサル・ショック」を強く警戒しています。
背景には、米国の先端半導体技術による「計算機圧力」と、中国の鉱物精製における圧倒的支配力の衝突があります。複数の調査によれば、中国は世界の重要鉱物精製カテゴリの大半で依然として主導権を握っており、これを「ミネラル・シールド」として機能させています。これは軍事力とは異なる、しかし極めて効果的な非対称的抑止力です。
| 要素 | 米国 | 中国 |
|---|---|---|
| 戦略の中核 | 先端半導体・計算能力 | 重要鉱物の精製・供給 |
| 優位分野 | 2nm世代以下の製造技術 | ガリウム、レアアース等 |
| 主な手段 | 輸出管理・同盟国連携 | 輸出規制・ライセンス制 |
この二極構造の中で、日本は最も影響を受けやすい立場にあります。資源輸入国でありながら、半導体材料や自動車、電池といった高度な製造業を抱えるためです。2026年1月、中国が対日輸出規制にレアアース関連品目を含める可能性を示唆しただけで、東京株式市場が大幅に反落した事実は、資源問題が金融市場と直結している現実を浮き彫りにしました。
重要鉱物はもはや「コモディティ」ではなく、「地政学的インフラ」です。IEAや主要コンサルティングファームの分析でも、供給の集中度が高い鉱物ほど価格変動と政治リスクが連動しやすいとされています。2026年の世界構造は、安定を前提としたグローバル分業から、分断を織り込んだ戦略的ブロック化へと明確に移行しつつあり、その最前線に重要鉱物が位置づけられています。
米中対立と釜山合意が示す資源リスクの本質

米中対立が資源リスクとして顕在化する本質は、対立そのものよりも、一見すると協調に見える合意が内包する期限付きの不安定さにあります。2025年10月に署名された釜山合意は、米中間の通商摩擦を一時的に緩和しましたが、2026年11月までという明確な失効期限を持つ「時限的休戦」にすぎません。とりわけ重要鉱物分野では、この限定的な融和が逆説的にリスクを増幅させています。
釜山合意により、中国はガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、黒鉛、レアアース関連材料の輸出規制を一時停止しました。しかし国際エネルギー機関や米国の戦略研究機関が指摘するように、中国が支配するのは鉱山そのものではなく、精製・分離という中流工程です。この構造が変わらない限り、規制停止は供給安定を意味しません。むしろ企業は、合意失効後を見据えて備蓄を積み増し、需給の逼迫を早期に招いています。
| 鉱物 | 中国の精製シェア | 釜山合意下の状態 | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| ガリウム | 約98% | 輸出規制を1年停止 | 失効後の再規制と価格急騰 |
| ゲルマニウム | 約60% | ライセンス制を緩和 | 防衛・通信用途への影響 |
| アンチモン | 世界最大 | 全面禁止を一時停止 | 電池・難燃材の供給途絶 |
米国側の視点では、先端半導体で中国に対し複数世代の技術的優位を保つ「計算機圧力」が交渉力の源泉です。一方、中国にとっては資源こそが非対称に行使できる戦略カードであり、釜山合意はそのカードを温存したまま時間を稼ぐ手段と位置づけられています。著名な地政学リスク分析では、2026年後半に合意が失効した場合、特定鉱物の価格変動幅が数百%に達する可能性が示唆されています。
日本にとって深刻なのは、この合意が米中二国間取引であり、同盟国の供給安定を保証する枠組みではない点です。実際、中国は対米輸出を再開する一方で、日本向けにはレアアース関連技術や磁石を交渉材料として残しています。2026年1月に東証株価が急落した事例は、資源が外交シグナルとして市場心理に直結することを明確に示しました。
つまり、釜山合意が示した資源リスクの本質は、対立か協調かという二項対立ではありません。期限付きの協調が、将来の断絶を前提に行動を歪め、市場と産業に不安定性を注入する構造そのものにあります。この構造を理解することが、2026年以降の資源戦略を考える上での出発点となります。
中国の輸出規制動向と2026年後半に迫る供給ショック
2026年後半に向けて最大の不確実要因となっているのが、中国の輸出規制の再発動リスクです。2025年10月に署名された釜山合意により、中国はガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、黒鉛、レアアース関連材料の輸出規制を1年間停止していますが、この措置は2026年11月27日に期限を迎えます。**この合意は恒久的な制度変更ではなく、政治的妥協による時限的な休戦に過ぎません。**
実際、2026年に入ってからは規制が緩和されているにもかかわらず、企業の調達行動はむしろ慎重さを増しています。IEAや主要投資銀行の分析によれば、合意失効後に規制が元に戻る、いわゆる「リバーサル・ショック」を警戒し、半導体材料や電池材料の在庫を前倒しで積み増す動きが世界的に加速しています。この需要の前倒し自体が、すでに価格変動を増幅させる要因となっています。
| 鉱物 | 中国の精製シェア | 2026年後半の主なリスク |
|---|---|---|
| ガリウム | 約98% | 半導体向け供給停止による急騰 |
| ゲルマニウム | 約60% | 通信・防衛用途での調達難 |
| アンチモン | 世界最大 | 難燃剤・電池材料の供給制約 |
| 重希土類 | 極めて高い | 磁石材料の中流工程停滞 |
特に問題視されているのは、中国が依然として精製・分離といった中流工程で圧倒的な支配力を持っている点です。複数の地政学リスク分析では、合意が失効した場合、対象鉱物の価格ボラティリティが最大で400%以上に達する可能性が示唆されています。これは単なる値上がりではなく、契約不履行や操業停止を伴う「供給そのものの断絶」を意味します。
さらに重要なのは、釜山合意が米中間の取引であり、日本や欧州の立場が制度的に守られていない点です。専門家の間では、中国が同盟国向けには選別的にライセンス審査を厳格化し、表向きは合意を尊重しつつ実質的な供給制限を行う可能性が高いと見られています。2026年1月に日本株式市場が急落した事例は、こうしたシグナルに市場が極めて敏感であることを示しています。
このように、中国の輸出規制動向は、単なる通商政策ではなく、時間差で波及する供給ショックの引き金です。**2026年後半は、実際に規制が発動される前から、市場心理と調達行動が連鎖的に揺さぶられる局面に入る**と見るのが現実的です。
日本政府の重要鉱物政策と390億円予備費の意味

日本政府が2026年1月に決定した390億円の予備費支出は、単なる景気対策や産業支援ではなく、**重要鉱物を国家安全保障の中核に据えた政策転換を象徴する措置**です。背景には、中国がレアアース関連品目を含む輸出規制を対日カードとして示唆したことによる市場の急激な動揺があります。実際、この示唆直後に東証株価指数は一時556円安となり、資源供給リスクが金融市場を通じて実体経済に即座に波及する現実が浮き彫りになりました。
この390億円は、経済産業省が所管する経済安全保障推進法の枠組みを実際に機動させる「初動資金」としての性格を持ちます。**狙いは価格高騰後の補填ではなく、供給途絶が起きる前に手を打つこと**にあります。具体的には、レアアース磁石材料や電池用金属といった特定重要物資について、権益取得、緊急備蓄、調達先切り替えに要する費用を即座に執行できる点が最大の特徴です。
この政策判断の重みは、過去との比較でより鮮明になります。2010年のレアアースショック時、日本は主に民間企業の努力と市場調整に依存しました。しかし2026年の対応では、**政府がリスクの一部を引き受け、時間を買う役割を明確に担っています**。資源価格が短期的に不利であっても、国家として許容する姿勢を示した点は、企業の調達行動に大きな心理的安定をもたらしました。
| 観点 | 2010年レアアースショック | 2026年予備費対応 |
|---|---|---|
| 政府関与 | 限定的・事後対応中心 | 事前介入・迅速執行 |
| 位置づけ | 産業政策 | 国家安全保障 |
| 主目的 | 供給回復 | 供給途絶の予防 |
また、この予備費はJOGMECなどの実務機関を通じて執行されるため、単年度で消える補助金ではありません。**中流工程への投資や長期契約を前提とした備蓄は、数年単位で効力を持つ防衛線**となります。資源問題に詳しい国際機関や大手コンサルティングファームも、重要鉱物を巡る競争では「最初に動いた国が供給網の設計権を握る」と指摘しており、日本の判断はこの国際的な潮流と整合的です。
さらに重要なのは、390億円という金額そのものよりも、**「予備費」という手段を選んだ点**です。通常予算ではなく予備費を使うことで、外交・市場環境の急変に即応できる柔軟性を確保しました。これは、釜山合意が時限的であり、2026年後半に再び規制が反転する可能性を強く意識した制度設計だと言えます。
このように、日本政府の重要鉱物政策と390億円予備費は、資源を巡る不確実性を「管理可能なリスク」に変えるための装置です。**資源を持たない国が、生き残るために制度と資金で主権を補完する**。その現実的かつ戦略的な選択が、2026年の政策には色濃く表れています。
JOGMECが担うサプライチェーン中流工程の再構築
重要鉱物の供給網において、JOGMECが近年最も注力しているのが、採掘と製品化の狭間に位置する中流工程の再構築です。製錬や分離、一次加工といった工程は、付加価値と支配力が集中する一方で、長年中国が世界的な優位を保ってきた領域でもあります。**日本が地政学リスクを実質的に低減するには、この中流工程を自国内、あるいは信頼できる同盟圏に取り戻すことが不可欠です。**
JOGMECは従来、探鉱や権益取得への出資が中心でしたが、2026年時点では政策金融機関に近い役割を担い、製錬設備そのものへの直接支援を本格化させています。経済産業省の方針とも連動し、単なる民間任せでは成立しにくい高リスク・長回収の中流投資を、公的資金で下支えする構造が明確になりました。
| 中流工程 | 従来の課題 | JOGMECの関与 |
|---|---|---|
| 製錬 | 巨額投資と価格変動リスク | 設備投資への補助・出資 |
| 分離・精製 | 中国企業の技術・規模優位 | 国内実装への資金支援 |
| 中間原料化 | 海外依存による供給不安 | 国内供給網の構築 |
象徴的な事例が、フェロニッケルを原料とするニッケルマット生産への支援です。JOGMECは日向製錬所に対し約132億円の助成を行い、EV電池向けニッケルを国内で高純度化する体制を後押ししました。国際エネルギー機関によれば、電池用ニッケルの需給は2030年にかけて構造的な逼迫が見込まれており、この投資は短期的な供給安定と長期的な競争力の双方を意識したものと評価されています。
またJOGMECは、国内完結に固執するのではなく、同盟国との分業を前提に中流工程を配置する戦略も採っています。北米や豪州で生産された鉱石を、日本や同志国で製錬・分離する設計は、中国の輸出管理が及ばないサプライチェーンを形成する上で現実的です。資源ナショナリズムが強まる中、JOGMECは資金・技術・情報を束ねるハブとして機能し、日本企業単独では不可能だった中流工程の再構築を実行段階へと押し上げています。
脱レアアース技術が切り拓く日本の技術主権
脱レアアース技術は、日本が資源制約を技術力で乗り越え、供給国の意向に左右されない技術主権を確立するための中核となっています。とりわけ中国が輸出規制を強化してきた重希土類は、EVや産業機械に不可欠な高性能磁石のボトルネックでした。この制約に対し、日本企業と研究機関は材料科学と製造プロセスの革新で正面から応えてきました。
代表的なのが、重希土類を使わないネオジム磁石の実用化です。大同特殊鋼やホンダが進める熱間加工ネオジム磁石では、結晶粒をナノサイズまで微細化し、高温下で起きる磁力低下を抑制しています。ホンダのHEV駆動モーターで量産採用された事実は、研究開発が実装段階に到達した明確な証拠といえます。トヨタとプロテリアルが推進する粒界制御技術も、必要最小限の元素配置で性能を確保する点で、資源効率と安定供給を両立させています。
| 技術アプローチ | 主な担い手 | 技術主権への意味 |
|---|---|---|
| 重希土類フリーネオジム磁石 | ホンダ、大同特殊鋼 | 中国依存の核心部分を回避 |
| 粒界制御磁石 | トヨタ、プロテリアル | 使用量削減による供給耐性向上 |
| 鉄・窒素系磁石 | 大学研究機関、企業連携 | 完全非レアアースという長期選択肢 |
さらに注目すべきは、磁石に頼らないモーター設計です。日産自動車などが採用する巻線界磁型モーターは、レアアースを一切使用せず、制御技術で性能を引き出します。国際的な調査分析によれば、2026年時点でEV需要の約4割がこうしたレアアースフリー技術に移行しつつあり、日本発の設計思想が世界標準の一角を占め始めていることが示唆されています。
これらの技術革新は、単なるコスト削減や代替材料開発にとどまりません。資源を「持たない」ことを前提に、材料設計、製造、制御までを一体で最適化することで、日本は供給網の外部リスクを内部の知恵で吸収しています。経済産業省や学術界の分析によれば、脱レアアース技術は日本産業の交渉力を高め、国際分業の中で不可欠な存在であり続けるための戦略的基盤と位置づけられています。
資源に縛られない技術を持つ国だけが、分断の時代に自律性を保てる。脱レアアース技術は、その現実的な解答として、日本の技術主権を静かに、しかし確実に押し広げています。
日豪・日米・日加連携で進む国際資源ブロック化
日豪・日米・日加の連携は、単なる協力関係を超え、2026年に入って明確な「国際資源ブロック」として機能し始めています。背景にあるのは、中国が精製・分離といった中流工程で圧倒的な支配力を持ち続ける現実と、釜山合意が示した協調の不安定さです。資源を市場任せにせず、同盟圏内で囲い込む発想が、各国の政策を貫いています。
まず日豪連携では、オーストラリアの資源量と日本の資金・技術を組み合わせる補完関係が深化しています。JETROの分析によれば、豪州は2026年後半から政府主導の重要鉱物戦略備蓄を本格運用し、価格下落局面でも鉱山開発を継続できる仕組みを整えました。これにより、日本企業は長期契約を通じて、価格変動リスクを抑えた安定調達が可能になりつつあります。
日米連携の軸は、米国の半導体輸出管理と連動した鉱物政策です。米政府関係者の発言として知られるように、「シリコン・チョーク」と「ミネラル・シールド」は表裏一体の戦略です。テネシー州で建設中の製錬所や、MSPの枠組みは、中国依存を数年単位で低減する現実的なロードマップを示しました。日本にとって重要なのは、単なる需要国ではなく、精製能力を持つパートナーとして位置づけられている点です。
| 連携軸 | 主な役割 | 戦略的意義 |
|---|---|---|
| 日豪 | 採掘・中間加工 | 供給源の多角化と価格安定 |
| 日米 | 精製・先端産業連動 | 対中依存の構造的低減 |
| 日加 | 分離・環境基準 | クリーン供給網の確立 |
日加連携も見逃せません。カナダで稼働を始めたレアアース分離施設は、中国以外でも中流工程が成立することを実証しました。EYのレポートによれば、環境・人権基準を満たす供給網は、将来的にプレミアム価格を正当化するとされています。日本企業にとっては、高コストでも長期的に信頼できる調達先を確保する意味があります。
この三極連携が生み出しているのは、自由貿易の否定ではなく「信頼圏内での再編」です。2026年現在、G7が検討する価格床制度も含め、資源は地政学的価値を持つ戦略資産へと再定義されています。日豪・日米・日加の結節点に立つ日本は、資源ブロックの受益者であると同時に、その設計者の一角を担い始めていると言えるでしょう。
南鳥島沖レアアース泥開発がもたらす資源革命
南鳥島沖のレアアース泥開発は、日本の資源政策を量的確保から構造転換へと押し上げる資源革命の起点になります。最大の特徴は、これまで海外依存が前提だったレアアース供給を、日本の排他的経済水域内で完結させ得る点にあります。**資源の所在が地政学リスクそのものを左右する時代において、自国海域に眠る資源は準戦略資産としての意味を持ち始めています。**
南鳥島沖のレアアース泥は、鉱石型とは異なり、魚骨由来のリン酸塩に希土類元素が吸着した特殊な形態をしています。東京大学やJAMSTECの研究によれば、酸処理による抽出効率が高く、重希土類を含めて回収しやすいことが確認されています。これは、精鉱化や高温処理を必要とする陸上鉱山に比べ、エネルギー投入量と環境負荷を抑えられる可能性を示しています。
この特性は、サプライチェーン全体の再設計を可能にします。採掘、初期処理、製錬、磁石や触媒といった最終製品までを国内で垂直統合できれば、中国が支配する中流工程を迂回するルートが成立します。経済産業省関係者が指摘するように、**価格競争力よりも供給確実性を優先する産業では、多少コストが高くても国産原料が選好される局面が増えています。**
| 観点 | 従来の海外依存型 | 南鳥島レアアース泥 |
|---|---|---|
| 供給リスク | 輸出規制・外交摩擦の影響大 | 日本のEEZ内で完結 |
| 中流工程 | 中国精製に依存 | 国内製錬への展開が可能 |
| 戦略的価値 | 調達コスト中心 | 経済安保・技術主権と直結 |
さらに重要なのは、市場心理への影響です。EYのレアアース分析でも指摘されている通り、供給源の存在そのものが価格の極端な変動を抑制します。南鳥島沖の開発が商業化段階に近づくだけで、中国による輸出規制がもたらす交渉力は相対的に低下します。**実際の生産量以上に、「代替がある」という事実が資源市場を安定させる効果を持つのです。**
この資源革命は、単なる原料確保にとどまりません。深海採掘技術、環境影響評価、海洋データ解析といった分野で蓄積される知見は、将来の海洋産業全体の競争力を底上げします。南鳥島沖レアアース泥開発は、日本が資源を輸入する側から、資源秩序を形作る側へと立場を変える転換点として、2026年時点ですでに世界から注視されています。
循環経済とリサイクルが支える次世代資源戦略
循環経済とリサイクルは、地政学リスクが常態化した2026年において、日本の資源戦略を根底から支える現実的な解となりつつあります。**一次資源の海外依存を減らし、国内で資源を循環させる仕組みは、価格変動や輸出規制への耐性を高める「見えない備蓄」**として機能します。経済産業省が循環経済を経済安全保障政策の中核に位置づけた背景には、環境配慮だけでなく、供給網を国内に閉じ込める戦略的意図があります。
その象徴が、使用済みリチウムイオン電池の本格的な商業リサイクルです。住友金属鉱山が2026年に稼働を予定するLIBリサイクルプラントは、年間約1万トン規模の処理能力を持ち、ニッケル、リチウム、コバルトを高純度で回収します。国際エネルギー機関によれば、EV普及が進む2030年以降、リサイクル由来金属は新規需要の2〜3割を賄う可能性があるとされ、**二次資源はもはや補完材ではなく、主要供給源になり得る**段階に入っています。
| 回収対象 | 主な製品 | 2026年時点の技術的特徴 |
|---|---|---|
| ニッケル・コバルト | EV用電池 | 乾式と湿式を組み合わせた高回収率プロセス |
| リチウム | スマートフォン・蓄電池 | 不純物を抑えた低コスト抽出技術 |
| レアアース磁石 | モーター・家電 | 自動解体と磁石分離の高度化 |
注目すべきは、都市鉱山の活用が企業連携を通じて加速している点です。エネルギー企業、自動車メーカー、リサイクル事業者が回収から再投入までを一体で設計し、使用済み製品を戦略資源として管理し始めています。欧州委員会やIEAも、リサイクル網の整備が供給途絶時のショックを緩和すると指摘しており、日本の動きは国際的にも先進事例と評価されています。
さらに、リサイクル技術の高度化は技術主権とも直結します。回収効率や精製純度で優位性を確立できれば、国際市場においても価格決定力を持ち得ます。**資源を掘る国ではなく、資源を循環させる国になること**が、分断時代を生き抜く次世代の資源戦略として現実味を帯びているのです。
産業界が取るべきアクションと2030年への展望
地政学的分断が常態化する中で、産業界に求められるのは「待ちの対応」ではなく、時間軸を先取りした行動です。特に2026年後半に想定される釜山合意失効後の混乱を見据えると、企業の意思決定は2030年を起点に逆算される必要があります。重要鉱物はもはやコスト要因ではなく、事業継続そのものを左右する戦略資産として扱う段階に入っています。
第一に取り組むべきは、調達・在庫戦略の構造転換です。多くの製造業が前提としてきたジャスト・イン・タイムは、地政学リスクの前では脆弱です。米国戦略国際問題研究所(CSIS)も、重要鉱物については最低6〜12か月分の物理在庫を持つことが、企業価値の安定性に直結すると指摘しています。特にガリウムや黒鉛のように代替が効きにくい素材では、財務指標よりも供給継続性を優先した判断が求められます。
第二に、調達コストに対する考え方の刷新です。中国産素材と比べ、日豪・北米由来の鉱物は価格が高止まりする傾向にありますが、これは単なる割高ではなく「地政学リスク保険料」と捉えるべきです。EYの重要鉱物レポートによれば、供給途絶が発生した場合の逸失利益は、平時の調達コスト差の5〜10倍に達するケースも報告されています。安さよりも確実性を買うという文化を、経営レベルで共有できるかが分岐点となります。
| 意思決定軸 | 従来モデル | 2030年型モデル |
|---|---|---|
| 調達評価 | 単価・短期最適 | 供給安定性・長期契約 |
| 在庫水準 | 最小化 | 戦略的冗長性 |
| 投資判断 | ROI中心 | 安保・技術主権を含む総合評価 |
第三に、技術開発と調達戦略を分断しないことです。マテリアルズ・インフォマティクスや代替材料研究は、研究部門だけのテーマではありません。中国が規制カードを切る前に実装まで持ち込めるかどうかは、事業部門が初期段階から関与し、量産性や調達網を同時に設計できるかにかかっています。経済産業省が指摘するように、2030年に競争力を持つ企業ほど、2026年時点で材料選択の自由度を確保しています。
2030年を展望すると、重要鉱物を巡る世界は二層化が進むと考えられます。一つは同盟圏内での高コスト・高信頼サプライチェーン、もう一つは規制と不透明性を内包した低コスト圏です。どちらに依拠するかは、企業の価値観そのものを映し出します。短期利益を取るか、長期の事業存続を取るかという選択は、すでに始まっています。2026年の意思決定の積み重ねが、2030年における日本産業の立ち位置を静かに、しかし決定的に形づくることになります。
参考文献
- ORF Online:The Busan Rapprochement: The US-China Trade Deal
- Discovery Alert:China Lifts Critical Minerals Export Ban to Ease Trade Tensions
- nippon.com:レアアース確保へ390億円=中国輸出規制に予備費で対応―政府
- JETRO:日豪連携で強める重要鉱物供給網
- JOGMEC:重要鉱物助成金交付事業 : 金属資源開発
- 毎日新聞・週刊エコノミスト:初の深海レアアース回収目指し南鳥島沖で試験
- 住友金属鉱山:リチウムイオン二次電池リサイクルプラントの建設を決定
