クラウドやSaaSはすでに当たり前の存在になったはずなのに、現場では「DXが進まない」「投資効果が見えない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
一方で、レガシーシステムの限界が表面化し、いわゆる「2025年の崖」が現実の経営リスクとして迫っています。ITコストの高止まり、人材不足、セキュリティ不安といった課題は、もはや先送りできる段階ではありません。
さらに近年、生成AIは単なる効率化ツールを超え、業務を自律的に代行する「Agentic AI」へと進化しつつあります。SaaSやXaaSの価値は、操作するものから“任せるもの”へと大きく変わろうとしています。
本記事では、国内XaaS市場の成長構造、産業別の具体事例、経済安全保障としてのクラウド選定、そしてAgentic AIがもたらす業務変革までを一気通貫で整理します。複雑に見えるトレンドを因果関係でひもとき、自社の戦略を考えるための視座を得られる内容です。
XaaSとは何か──サービス化が止まらないITと産業の現在地
XaaSとはEverything as a Serviceの略称で、ITや産業のあらゆる機能を「所有するもの」から「必要な分だけ利用するサービス」へと転換する考え方です。かつてはSaaSやIaaSといったクラウド用語の総称に過ぎませんでしたが、2025年から2026年にかけて、その意味合いは大きく拡張しています。現在のXaaSは、ITの提供形態ではなく、企業の事業構造そのものを変える経営モデルとして捉えられています。
IDC Japanの調査によれば、国内クラウド市場は2027年に約13兆円規模へ成長すると予測されています。一方で注目すべきは成長率の鈍化です。これはクラウドが普及しきった結果ではなく、単なる移行型利用から、業務変革や価値創出へ進む段階で多くの企業が壁に直面していることを示しています。経済産業省が指摘する「2025年の崖」が現実化し、レガシーシステムの維持限界がXaaS活用を加速させる構図が鮮明になっています。
現在のXaaSは、ソフトウェアにとどまらず、ハードウェア、データ基盤、AI、さらには業界固有の業務プロセスまでを包含します。例えば建設や物流では、業界特化型SaaSが法規制対応と事業継続を同時に支える存在となりました。ここではIT導入が効率化施策ではなく、使わなければ事業が成り立たないインフラとして機能しています。
| 従来のIT利用 | 現在のXaaS | 企業への影響 |
|---|---|---|
| システムを購入・保有 | 機能をサービスとして利用 | 初期投資の抑制と柔軟性向上 |
| 汎用SaaS中心 | 業界特化・業務特化型 | 競争力の源泉がITに直結 |
| 人が操作するツール | AIが業務を代行 | 人材不足への直接的対応 |
特に2025年以降、XaaSの進化を象徴するのがAgentic AIの台頭です。これは人がツールを操作する前提を崩し、AIが自律的に業務を遂行するサービス形態です。専門家の間では、XaaSは「ITサービス」から「業務そのものの外部化」へ進化したと評価されています。つまり企業は、システムを使うのではなく、成果を依頼する段階に入りつつあります。
さらに地政学的リスクの高まりを背景に、データ主権を重視したソブリンクラウドへの関心も急上昇しています。これはXaaS選定において、価格や機能だけでなく、どの国の法制度下でデータが管理されるかが重要な判断軸になったことを意味します。XaaSとは、技術トレンドの集合体ではなく、経営・産業・安全保障が交差する現在地なのです。
国内クラウド市場の成長と質的転換:数字が示す本当の課題

国内クラウド市場は引き続き高い成長軌道にありますが、**数字の裏側では明確な質的転換が進行しています**。IDC Japanによれば、2022年から2027年にかけて国内クラウド市場は年平均成長率17.9%で拡大し、2027年には約13兆円規模に達する見通しです。表面的には力強い成長ですが、2024年以降は成長率の鈍化が観測され、市場のフェーズが変わったことを示唆しています。
この変化を理解する鍵は、成長ドライバーの中身にあります。2022年の急拡大は、為替の円安進行や半導体不足に伴う単価上昇、そして既存システムをそのままクラウドへ移行するLift & Shift案件の増加が重なった結果でした。しかし、これらは一過性の要因であり、IDCも2023年以降は反動減と構造的な成長鈍化を指摘しています。
| 観点 | 初期成長フェーズ | 現在のフェーズ |
|---|---|---|
| 主な投資内容 | 既存システムのクラウド移行 | DX・データ活用基盤の構築 |
| 難易度 | 比較的低い | 組織・文化変革が必要 |
| 成長への影響 | 短期的な市場拡大 | 中長期の競争力を左右 |
現在、市場を押し広げているのは単なるITインフラ更新ではなく、**クラウドを前提としたビジネス変革への挑戦**です。基幹系やミッションクリティカルな領域に踏み込むほど、経営戦略、業務プロセス、人材構造までを含めた変革が不可避となります。経済産業省のDX関連調査でも、データを全社的に活用できている企業は一部にとどまり、多くの企業が構想段階で停滞している現状が示されています。
成長率鈍化は市場の成熟を意味する一方で、**日本企業が直面する「変革の壁」の高さを可視化した結果**でもあります。IT予算の大半が既存システムの維持に充てられ、新規投資に踏み切れない企業では、クラウド利用がコスト削減止まりとなり、付加価値創出につながりません。このギャップこそが、市場全体の伸びを抑制しています。
つまり、国内クラウド市場の本当の課題は規模拡大ではなく、**成長の質をいかに転換できるか**にあります。DXやデータ駆動型ビジネスへ踏み出せた企業だけが、次の成長曲線を描ける状況に入りつつあり、同じクラウド利用でも成果の二極化が急速に進んでいます。
「2025年の崖」が現実になる理由とレガシーシステムの代償
「2025年の崖」は単なるIT部門の課題ではなく、**企業経営そのものを揺るがす構造問題**として現実化しています。経済産業省がDXレポートで示した最大年間12兆円の経済損失は、警告ではなく、多くの企業の損益計算書に静かに反映され始めています。背景にあるのは、長年使われ続けてきたレガシーシステムが、変化への適応力を奪い、競争力を確実に削っているという事実です。
問題の本質は「古いシステム」そのものではありません。**長年の改修でブラックボックス化し、誰も全体像を把握できない状態**が、経営判断のスピードを著しく低下させています。経済産業省のDX関連調査によれば、多くの日本企業でIT予算の8割以上が既存システムの維持保守、いわゆるラン・ザ・ビジネスに充てられています。これにより、新規事業やデータ活用、AI導入といった攻めの投資に回す余力が構造的に失われています。
| 領域 | レガシーシステムがもたらす影響 | 経営上の代償 |
|---|---|---|
| データ活用 | 部門ごとのデータ分断 | 全社DX・AI活用が進まない |
| コスト構造 | 保守・運用費の高止まり | 成長投資の原資不足 |
| リスク管理 | 老朽化による障害・脆弱性 | 事業停止・信用低下 |
特に深刻なのが人材面の代償です。COBOLなど旧来技術を扱える技術者は高齢化が進み、引退とともに暗黙知が失われています。結果として、**小さな仕様変更にも過大な時間とコストがかかる状態**に陥り、ビジネス側の要求スピードとITの提供能力の乖離が拡大しています。これは単なる効率低下ではなく、市場機会の逸失を意味します。
さらに見過ごされがちなのがセキュリティとガバナンスの問題です。経済産業省や専門機関の指摘によれば、老朽化したシステムは最新のセキュリティ対策を適用できず、サイバー攻撃や情報漏えいの温床になりやすいとされています。**一度の重大インシデントが、長年築いてきたブランド価値を一瞬で毀損する**時代において、これは看過できない経営リスクです。
「2025年の崖」が現実になる理由は明確です。レガシーシステムは、見えにくい形でコスト、スピード、リスクのすべてに負の影響を与え続けます。その代償はIT費用の増加にとどまらず、意思決定の遅れ、競争力の低下、そして企業の将来選択肢そのものを狭めていく点にあります。
人材不足とSIer構造がDXを難しくするメカニズム

日本企業のDXが思うように進まない背景には、慢性的なIT人材不足と、日本独特のSIer中心構造が複雑に絡み合った問題があります。単なる人手不足ではなく、人材が配置される構造そのものがDXに最適化されていない点が、本質的な障壁になっています。
経済産業省のDXレポートやIDC Japanの分析によれば、日本では高度IT人材の多くがユーザー企業ではなくSIerに所属しています。その結果、DXの主導権が事業部門に戻らず、要件定義から実装までが分断されたまま外注依存が固定化しています。特にクラウドネイティブやデータ活用、AI設計といった領域では、この分断が致命的になりがちです。
| 観点 | 従来型SIer構造 | DXに必要な状態 |
|---|---|---|
| 人材の所属 | SIer側に集中 | ユーザー企業内に中核人材 |
| 業務理解 | 仕様書ベース | 現場データと意思決定に直結 |
| 価値提供 | 人月・保守中心 | 継続的な業務変革 |
さらに問題を深刻化させているのが、SIer自身の人材疲弊です。情報サービス産業全体でエンジニア不足が続く中、多くの技術者がレガシーシステムの保守運用に張り付けられ、クラウド、マイクロサービス、AIといった新領域へのリスキリング時間を確保できない状況が常態化しています。
IDC Japanは、2024年以降の国内クラウド市場における成長鈍化について、「技術的な移行は終えたが、DXを担う人材と組織が追いついていない」点を要因の一つとして指摘しています。これは市場の需要不足ではなく、実行能力の不足による“供給制約型の停滞”だと言えます。
この構造下では、DXプロジェクトは長期化し、投資対効果が見えにくくなります。その結果、経営層が追加投資に慎重になり、さらに人材育成が後回しになるという悪循環に陥ります。人材不足とSIer構造の問題は独立した課題ではなく、相互に増幅しながらDXを難しくするメカニズムとして理解する必要があります。
建設・物流業界に広がるIndustry Cloudと2024年問題への対応
建設・物流業界においてIndustry Cloudが急速に広がった最大の背景は、2024年4月に本格適用された時間外労働規制、いわゆる2024年問題への実務的な対応にあります。これらの業界では、従来の長時間労働を前提としたオペレーションが制度的に成立しなくなり、デジタル化は競争力以前に事業継続性を左右する条件へと変わりました。
経済産業省や業界団体の調査によれば、建設・物流分野は他産業と比べてIT投資比率が低く、紙・FAX・電話が依然として基幹業務を支えてきました。Kubellや週刊BCNの分析では、物流事業者の約5割が「毎日FAXを使用している」と回答しており、Industry Cloudはこのアナログ慣行を前提に設計されている点が特徴です。
| 業界 | 主要課題 | Industry Cloudの役割 |
|---|---|---|
| 建設 | 長時間労働、現場分断 | 現場情報の即時共有、移動・手戻り削減 |
| 物流 | ドライバー不足、荷待ち時間 | バース予約による待機時間の可視化・削減 |
建設業界では、SPIDERPLUSやANDPADに代表される現場管理SaaSがIndustry Cloudとして機能しています。週刊BCNによれば、SPIDERPLUS導入企業では1人あたり1日約2.5時間の作業時間削減が確認されており、これは残業規制を順守するための決定的な余力を生み出しました。重要なのは、これらのSaaSが高度なITスキルを前提とせず、職人が直感的に使えるUIを備えている点です。
物流業界では、HacobuのMOVO Berthに代表されるバース予約システムが象徴的です。国土交通省関連データを引用した業界分析によると、トラックドライバーは1日平均1.5時間を荷待ちに費やしてきましたが、MOVO Berth導入拠点では平均63分の待機時間削減が報告されています。これは単なる効率化ではなく、限られた労働時間内で輸送量を維持するための構造改革です。
Industry Cloudの本質は、単一企業の最適化ではなく業界全体の制約条件を共有前提で設計している点にあります。建設現場や物流拠点という物理空間の制約、法規制、慣行を織り込んだSaaSであるからこそ、現場に定着しやすく、短期間で効果が顕在化します。IDC Japanが指摘するように、2024年以降のSaaS投資は「DX」ではなく「BCP投資」として意思決定される傾向が強まっています。
この視点に立つと、建設・物流業界におけるIndustry Cloudの普及は一過性のブームではありません。労働人口減少と規制強化が続く中で、業界特化型クラウドはインフラの一部として組み込まれ、使わない企業ほど競争から退出せざるを得ない状況が静かに進行しています。
製造業のXaaS化とServitizationが生む新たな収益モデル
製造業におけるXaaS化とServitizationは、単なるサブスクリプション化ではなく、収益構造そのものを変革する動きとして2025〜2026年に明確な成果を示し始めています。従来のモノ売りモデルは、需要変動や設備投資サイクルの影響を強く受け、景気後退局面では売上が急減する脆弱性を抱えていました。これに対し、**製品とデータ、サービスを一体化して継続的価値を提供するXaaSモデルは、売上の安定化と顧客ロックインを同時に実現**します。
この変化を象徴するのが、建設機械やFA機器といった高額設備分野です。経済産業省のものづくり白書でも指摘されている通り、製造業の競争力は「高性能な製品」から「稼働率や成果を保証するサービス」へと評価軸が移りつつあります。例えばコマツのスマートコンストラクションでは、建機の販売に加え、測量・施工・検査データをクラウドで統合し、現場全体の生産性向上を成果として提供しています。**この結果、ハード販売が減少する局面でもサービス収益が下支えとなり、全社売上のレジリエンスが高まっています**。
同様に、ファナックのFIELD systemは、工作機械の稼働データを基にした最適化サービスをXaaSとして展開しています。サステナビリティレポートによれば、AIによる熱変位補正により暖機運転時間を大幅に短縮し、省エネと生産性向上を同時に達成しました。ここで重要なのは、顧客が購入しているのが「機械」ではなく、**加工精度の維持やエネルギー削減という成果そのもの**である点です。この成果連動型の価値提供が、新たな価格設定と長期契約を可能にしています。
| 観点 | 従来モデル | XaaS・Servitization |
|---|---|---|
| 収益源 | 製品販売の一括収入 | 月額・成果連動型収入 |
| 顧客関係 | 納品後は希薄 | データを介した継続関係 |
| 競争優位 | 性能・価格 | 運用知見とデータ蓄積 |
IDC Japanの分析によれば、国内クラウド市場は成長を続ける一方、単純な利用料モデルでは差別化が難しくなっています。製造業がXaaSで優位性を築く鍵は、**自社製品から得られる独自データを基に、稼働保証、予防保全、GX対応といった高付加価値サービスへ昇華できるか**にあります。これは模倣が困難であり、価格競争から脱却する有効な手段です。
製造業のXaaS化は、売り切り型からの延長線では成立しません。顧客のKPIを自社の収益モデルに組み込み、成果に責任を持つ覚悟が求められます。その代わりに得られるのは、**景気変動に左右されにくい安定収益と、データを軸にした長期的な競争優位**です。2026年時点で、この転換に踏み出した企業とそうでない企業の差は、すでに財務指標と市場評価に表れ始めています。
経済安全保障とソブリンクラウドがクラウド選定を変える
2025年から2026年にかけて、クラウド選定の評価軸は価格や機能だけでは不十分になっています。**経済安全保障とソブリンクラウドの台頭により、「どこにデータがあり、どの法律の下に置かれるのか」**が、意思決定の中心に移りました。これはIT部門の技術判断ではなく、経営判断そのものへと格上げされています。
背景にあるのは、地政学的リスクの顕在化と各国のデータ保護規制の強化です。経済産業省やデジタル庁が示している通り、基幹システムや重要データが国外法の影響を受ける構造は、事業継続やガバナンス上のリスクと認識され始めました。NTTデータの分析によれば、データ主権を確保できない場合、法的開示要求や制裁措置への対応コストが中長期で経営リスクになると指摘されています。
こうした流れの中で注目されているのがソブリンクラウドです。代表例が、ガバメントクラウドにおける国産クラウドの採用です。デジタル庁が進めるガバメントクラウドでは、**データの保管場所、運用主体、法的管轄を国内に限定できるか**が厳格に問われています。さくらインターネットが条件付きながら認定されたことは、国内企業にとって象徴的な転換点となりました。
| 選定観点 | 従来のクラウド選定 | ソブリンクラウド重視 |
|---|---|---|
| 主な評価軸 | コスト、機能、拡張性 | データ主権、法的管轄、BCP |
| リスク認識 | 障害・性能中心 | 地政学・法規制リスク |
| 意思決定者 | IT部門主導 | 経営・法務・リスク管理 |
特に金融、製造、重要インフラ関連企業では、**外資系ハイパースケーラーと国産クラウドを用途別に使い分ける「分離設計」**が現実解として広がっています。顧客データや制御系システムはソブリンクラウドに置き、分析や周辺系はグローバルクラウドを活用する構成です。IDC Japanも、2026年以降はマルチクラウド戦略の主因がコスト最適化からリスク分散へ移ると分析しています。
さらに見逃せないのが為替と調達の視点です。ドル建て契約が中心の外資クラウドに対し、円建てで契約可能な国産クラウドは、為替変動リスクを抑制できます。これは短期的な利用料差以上に、**中長期のTCOと経営の安定性**に影響します。2025年以降、クラウドは単なるIT基盤ではなく、経済安全保障を支える経営インフラとして再定義されつつあります。
SaaSからAgentic AIへ:業務を代行するAIの衝撃
従来のSaaSが「人が操作する業務支援ツール」であったのに対し、2025年以降に急速に存在感を高めているのが、業務そのものを代行するAgentic AIです。この変化は機能追加の延長線ではなく、SaaSの価値定義そのものを塗り替えるパラダイムシフトだと言えます。
これまでのSaaSは、入力、判断、実行の最終責任を人間が担っていました。一方Agentic AIは、目標を与えるだけでAIがタスクを分解し、複数のSaaSや社内システムを横断的に操作しながら結果を出します。IDC Japanが指摘するように、日本企業のDX停滞要因は「人手不足」と「複雑な業務フロー」にありますが、Agentic AIはその両方に同時に作用します。
象徴的なのが、ソフトバンクが発表した法人向けAIエージェント基盤です。営業報告書の作成や社内調整メールの送信など、これまでホワイトカラーが日常的に費やしてきた間接業務を、AIが自律的に完結させる設計になっています。経済産業省のDXレポートが問題視してきた「人がシステムに縛られる構造」からの脱却が、ここで現実味を帯びてきました。
| 観点 | 従来型SaaS | Agentic AI |
|---|---|---|
| 役割 | 業務を支援 | 業務を代行 |
| 操作主体 | 人間 | AIエージェント |
| 価値の源泉 | 効率化 | 人的制約の突破 |
営業支援SaaSを展開するマツリカも、2025年以降のB2B領域では「Human-in-the-Loop」を前提とした自律型エージェントが主流になると分析しています。これはAIが提案や実行を担い、人間は監督と意思決定に集中する分業モデルです。単なる自動化ではなく、人の判断力を最大化するためにAIが働く点が重要です。
日本企業にとってのインパクトは生産性向上だけではありません。IT人材不足が深刻化する中、Agentic AIは暗黙知に依存していた業務を形式知化し、属人性を低減します。富士キメラ総研も、2026年以降のソフトウェア市場では「ツール提供型」から「成果代行型」への移行が進むとしています。
つまりSaaSからAgentic AIへの進化とは、クラウドの次なる成長軸ではなく、企業活動の実行主体が人からAIへ部分的に移ることを意味します。この変化をどう受け入れ、統制し、競争力に変えるかが、2026年以降の企業価値を大きく左右していきます。
小売・サービス業に見るAI実装のリアルな成果
小売・サービス業におけるAI実装は、PoC段階を超え、**定量的な成果が現場レベルで確認されるフェーズ**に入っています。特に2025年以降は、人手不足と原価高騰が同時進行する中で、AIは単なる業務効率化ツールではなく、収益構造そのものを支える基盤として位置づけられています。
代表的なのが、需要予測と発注業務へのAI活用です。ライフコーポレーションが導入したAI発注支援では、販売実績、天候、気温、販促計画などを統合分析し、最大3週間先までの発注数量を自動提示します。AI経営総合研究所の整理によれば、これにより**欠品と廃棄ロスの同時削減**が進み、熟練者依存だった発注判断が標準化されました。現場では、発注作業時間そのものよりも、判断のばらつきが減った点を評価する声が多いとされています。
サービス業では、顧客接点におけるAIの価値がより直接的に売上へ結びついています。コンビニやGMSでは、購買履歴を基にしたクーポン配信やレコメンドが高度化し、**一人当たり購買点数や再来店率の改善**が報告されています。こうした動きについて、IDC Japanは「小売AIはコスト削減よりもLTV最大化に軸足が移った」と分析しています。
| 活用領域 | AIの役割 | 確認されている成果 |
|---|---|---|
| 需要予測・発注 | 販売・外部データの統合分析 | 廃棄ロス削減、欠品率低下 |
| 販促・CRM | 顧客嗜好のスコアリング | 再来店率、購買単価向上 |
| 店頭オペレーション | AIアバターによる案内 | 省人化とCS維持の両立 |
注目すべきは、これらの成果が**AI単体ではなくXaaSとして提供されている点**です。クラウド経由で常にモデルが更新され、全店舗のデータが学習に還元されることで、導入企業が増えるほど精度が高まる構造になっています。経済産業省のDX関連調査でも、分散した店舗データを統合できた企業ほど、AI活用の投資対効果が高い傾向が示されています。
小売・サービス業のAI実装のリアルな価値は、派手な自動化ではなく、**現場の判断を静かに置き換え、再現性のある成果を積み上げている点**にあります。この積み重ねこそが、価格競争に陥りやすい業界において、持続的な差別化を生む源泉となっています。
XaaS導入が失敗する理由と成功企業に共通する考え方
XaaS導入が失敗に終わる企業には、いくつか共通した構造的な理由があります。最大の要因は、XaaSを単なるITコスト削減手段として捉えてしまうことです。うるるBPOが2024年に実施したSaaS利用実態調査によれば、生産性向上を「非常に実感できている」と回答した人は4割未満にとどまりました。その理由として最も多かったのが「業務にかかる工数が減っていない」「機能を使いこなせていない」という回答です。
これはツールそのものではなく、導入の考え方に問題があることを示しています。多くの失敗企業では、既存の業務プロセスを前提にXaaSを当てはめ、結果として紙やExcelとの二重管理が発生しています。レガシー業務を温存したままクラウドを重ねるだけでは、DXどころか業務は複雑化します。
経済産業省のDXレポートが指摘する「2025年の崖」も、この延長線上にあります。老朽化した基幹システムを刷新せず、部分最適でSaaSを追加していくと、データは分断され、Agentic AIのような高度な活用は不可能になります。XaaS時代における失敗とは、技術選定の誤りではなく、経営判断の先送りなのです。
| 観点 | 失敗しやすい企業 | 成功している企業 |
|---|---|---|
| 導入目的 | コスト削減・流行対応 | 事業変革・競争力強化 |
| 業務設計 | 既存業務を維持 | 標準機能に業務を合わせる |
| データ活用 | 部門ごとに分断 | 全社横断で統合 |
一方で、XaaS導入に成功している企業には明確な共通点があります。第一に、「Fit to Standard」を戦略として受け入れていることです。自社の独自要件に合わせて過剰なカスタマイズを行わず、SaaSの標準機能を前提に業務そのものを再設計しています。これにより、アップデートへの追随や外部サービス連携が容易になります。
第二に、成功企業はXaaSを「業務を代行する存在」として捉えています。Agentic AIの登場により、SaaSは人が操作するツールから、業務を自律的に実行するパートナーへと進化しました。マツリカが提唱するHuman-in-the-Loop型の営業AIのように、人とAIの役割分担を前提に設計された企業ほど、導入効果を最大化しています。
第三に重要なのが、経営層の深い関与です。経済産業省の調査でも、データを経営資産として位置づけている企業ほどDXの成熟度が高いことが示されています。XaaS導入をIT部門任せにせず、経営戦略そのものとして扱う姿勢が、成功と失敗を分ける決定的な分岐点になります。
XaaSは導入した瞬間に価値を生む魔法のサービスではありません。業務、組織、意思決定のあり方まで含めて再設計する覚悟を持つ企業だけが、2026年以降の競争環境で優位に立つことができます。
参考文献
- IDC Japan:国内クラウド市場予測を発表。2027年の市場規模は13兆円超
- 経済産業省:DXレポートと2025年の崖に関する調査分析
- 週刊BCN+:2024年問題解決に挑む 建設、物流業界向けSaaS
- Publickey:さくらインターネット、ガバメントクラウド向けに24時間365日サポートを提供開始
- ソフトバンク:法人向けAIエージェントプラットフォーム『AGENTIC STAR』を提供開始
- AI経営総合研究所:小売業界のAI活用事例10選
