VRやARといった没入型技術は、かつてはゲームやイベント向けの先端技術という印象が強かったのではないでしょうか。しかし近年、その立ち位置は大きく変わりつつあります。

少子高齢化や人手不足といった日本社会の構造課題を背景に、没入型技術は現場の省人化や遠隔化、さらには人の能力そのものを拡張する手段として現実の社会に組み込まれ始めています。アバターによる就労、触覚を伝送する通信技術、都市や建設現場のデジタルツインなどは、すでに実証段階を超えた活用フェーズに入りました。

本記事では、日本国内で進む没入型技術の社会実装を軸に、技術的な到達点だけでなく、医療や建設、都市、エンターテインメントにおいてどのような価値を生み出しているのかを整理します。単なる未来予測ではなく、今まさに動いている事例を知ることで、読者の皆さまが自社ビジネスや研究、キャリアに活かすための具体的なヒントを得られる内容を目指します。

没入型技術が「体験装置」から社会基盤へ変わった理由

没入型技術が「体験装置」から社会基盤へと位置づけを変えた最大の理由は、技術進化そのものよりも、社会課題との接続点が明確になったことにあります。かつてのVRやARは、非日常的な没入感を楽しむための付加価値的な存在でした。しかし2025年前後、日本が直面する少子高齢化や労働人口減少、地域間格差といった構造的課題に対し、XRが実効性のある解決手段として機能し始めたことで、その役割が根底から変わりました。

象徴的なのが、内閣府ムーンショット型研究開発制度で進められてきたサイバネティック・アバターの社会実証です。大阪大学の石黒浩教授らによる大規模実験では、100体規模のアバターが実際の施設運営に投入され、遠隔地からの労働参加や、一人が複数の業務を並列的に担う運用モデルが成立することが示されました。XRは娯楽ではなく、人手不足を補完する労働インフラとして評価され始めたのです。

観点 従来のXR 社会基盤化後のXR
主用途 ゲーム・体験型コンテンツ 労働・医療・都市運営
価値軸 没入感・驚き 持続性・代替性
導入主体 個人・エンタメ企業 行政・基幹産業

もう一つの転換点は、通信と触覚技術の進展です。産業技術総合研究所の極薄ハプティクスや、NTTドコモによる5Gハプティクス実証が示したのは、視聴覚中心だったデジタル空間に「手応え」や「力加減」といった身体的リアリティが持ち込まれたという事実です。遅延補償技術によって遠隔操作が安定化したことで、XRは現場作業や医療行為を担える水準に達しました。

国土交通省のProject PLATEAUに代表される都市デジタルツインの進化も、社会基盤化を後押ししています。XRによる可視化は、専門家だけの分析ツールではなく、住民や行政が合意形成を行うための共通言語となりつつあります。学術的にも、東京大学の稲見昌彦教授が指摘するように、能力は個人に内在するものではなく環境との関係で生成されます。没入型技術は、その環境そのものを再設計する装置として、社会の前提条件に組み込まれ始めているのです。

サイバネティック・アバターが切り拓く新しい働き方

サイバネティック・アバターが切り拓く新しい働き方 のイメージ

サイバネティック・アバターは、働くことの前提そのものを静かに書き換え始めています。これまで仕事は「特定の時間に、特定の場所へ、自分の身体で行くもの」でしたが、CAの実用化により、その制約が現実的に外れつつあります。2025年に内閣府ムーンショット型研究開発制度の一環として行われた大規模実証では、**一人の操作者が複数のアバターを切り替えながら並列的に業務を担う**という、新しい労働モデルが確認されました。

大阪・アジア太平洋トレードセンターで行われた実証では、施設案内や警備、接客といった実務を、合計100体超のアバターが担いました。注目すべきは、操作拠点が大阪に限られず、東京や長崎、さらには海外からも遠隔参加が行われた点です。石黒浩教授率いる研究チームによれば、距離や国境が労働参加の障壁にならないことが、実運用レベルで示されました。

この仕組みがもたらすのは、単なるテレワークの高度化ではありません。**「身体を並列化する」という発想**により、一人の専門人材が複数拠点の業務を横断的に支援することが可能になります。たとえば、熟練した接客担当者が複数施設のピークタイムだけをアバターでカバーしたり、警備の専門家が広域を横断して状況判断を行ったりする働き方です。

従来の働き方 CAを用いた働き方
1人1拠点での業務遂行 1人が複数拠点を同時・切替操作
通勤・移動が前提 地理的制約を受けない参加
身体能力に依存 アバターにより能力を拡張

さらに重要なのが、CAが精神的・身体的なバリアを下げる点です。実証では、外出が困難な高齢者や、対面コミュニケーションに不安を抱える人が操作者として参加しました。アバターという媒介が心理的な安全領域となり、対人不安が軽減されるケースが多く確認されています。自己効力感が高まることで、就労体験そのものがメンタルヘルスの改善につながる可能性も示唆されています。

東京大学の稲見昌彦教授が提唱する「自在化身体」の観点では、能力は個人に固定されたものではなく、環境との関係性で立ち上がるとされます。CAはまさにその環境を再設計する装置です。適切なインターフェースとAI支援があれば、年齢や身体条件に左右されず、社会に価値を提供できる。**サイバネティック・アバターは、省人化のための代替技術ではなく、人の可能性を拡張するための労働インフラ**として、新しい働き方を現実のものにし始めています。

身体を編集するという発想──自在化身体の現在地

没入型技術の進化が示しているのは、身体を固定的なものとして捉える従来の前提が崩れつつあるという事実です。2025年時点で注目される「自在化身体」という発想は、身体を与えられた制約ではなく、目的や環境に応じて編集可能なリソースとして捉え直します。東京大学の稲見昌彦教授によれば、能力とは個人の内部に恒常的に宿るものではなく、人と環境の相互作用の中で立ち上がる動的な現象だとされています。

この視点に立つと、身体拡張やアバター操作は単なる補助技術ではありません。**人は環境を着替えることで、自身の身体そのものを書き換えている**と解釈できます。ロボット、センサー、XR空間があらかじめ組み込まれた環境に入った瞬間、人はそれらを含めた拡張身体を獲得します。2025年の実証研究では、環境側に能力を分散配置する設計思想が具体化し、利用者は意識せずとも高度な身体能力を発揮できる状態が確認されています。

視点 従来の身体観 自在化身体の考え方
能力の所在 個人の内側に固定 人と環境の間に生成
身体の形 生物学的身体が前提 ロボットやアバターを含む
制約への対応 克服・代替を目指す 編集・再構成する

この思想を象徴するのが、学生主体の実験的取り組みが集まるIVRC 2025です。名城大学の学生チームが発表した作品では、人間以外の生物の身体感覚をVRで再構成し、利用者が直感的に操作できることを示しました。ここで重要なのは、リアルな再現性そのものではなく、**人はどのような身体であっても学習と適応によって自分のものとして扱える**という点です。

自在化身体の現在地は、SF的な未来像ではなく、現実的な社会設計の議論へと移行しています。身体を編集できるという発想は、障害の有無や年齢、居住地といった条件を能力の制限要因から切り離します。結果として、誰が何をできるかという問いは、個人の属性ではなく、どのような身体環境を用意するかという設計の問題へと置き換わりつつあります。

**身体はもはや変えられない前提ではなく、目的に応じて選択・構成できるインターフェースになり始めています。**この転換点に立っていること自体が、2025年から2026年にかけての没入型技術が示す最も本質的な変化だと言えるでしょう。

触覚を伝える通信技術がもたらす産業インパクト

触覚を伝える通信技術がもたらす産業インパクト のイメージ

触覚を伝える通信技術は、産業構造そのものに静かな変革をもたらしています。視覚や音声中心だったデジタル通信に「力」「硬さ」「滑り」といった物理的ニュアンスが加わることで、遠隔作業は単なる監視や指示から、実作業を伴う価値創出フェーズへと移行しつつあります。2025年以降、この変化は実証段階を超え、具体的な産業競争力の差として現れ始めています。

代表例が、産業技術総合研究所による極薄ハプティクスと、NTTドコモの5Gリアルハプティクスの融合です。産総研が開発した厚さ0.01mmの触覚デバイスは、装着者の作業感覚を阻害せず、指先の微細な振動や抵抗感を高精度に再現します。これにより、製造業では熟練工の「力加減」をそのままデータ化し、遠隔地の若手作業者へ伝送する実験が進んでいます。経済産業省の製造DX議論でも、技能伝承のボトルネック解消策として触覚共有の重要性が指摘されています。

通信側の進化も決定的です。NTTドコモが実証したジッターバッファと遅延補償制御は、触覚通信における最大の課題だった不安定性を実用レベルで克服しました。慶應義塾大学のリアルハプティクス理論を基盤に、5G環境下でも力覚フィードバックを破綻させない制御が実現されています。実験では、壊れやすいポテトチップスを把持・搬送する作業において、動作の滑らかさを示すJerk Costが有意に改善したことが報告されています。

産業分野 触覚通信の効果 期待されるインパクト
製造業 力加減・振動の共有 技能伝承の高速化と品質平準化
建設・インフラ 重機・ロボットの遠隔操作 危険作業の無人化と人手不足対応
医療 繊細な触診・縫合感覚 遠隔医療の適用範囲拡大

特に注目すべきは、触覚通信がコスト構造を変える点です。これまで現地常駐が前提だった高度技能者は、ネットワーク越しに複数拠点を支援できるようになります。これは単なる効率化ではなく、希少人材の時間価値を最大化する経営戦略そのものです。IDC Japanが指摘するエッジインフラ投資の拡大は、こうしたリアルタイム触覚処理需要の高まりと軌を一にしています。

触覚を伝える通信技術は、デジタル化の最終段階である「身体性の共有」を可能にし、産業を場所依存から解放します。視覚情報だけでは代替できなかった判断や責任を伴う作業が遠隔化されることで、産業はより柔軟で持続可能な形へ再設計されていくのです。

建設・都市分野で進むデジタルツインと遠隔化

建設・都市分野では、デジタルツインと遠隔化が単なる効率化手段ではなく、人手不足と安全性という構造課題への現実解として急速に定着しています。2024年問題以降、国土交通省や大手ゼネコンが主導する取り組みは、設計・施工・運用を一体で捉える方向へと進化しました。

象徴的なのが、国土交通省のProject PLATEAUです。2025年時点で3D都市モデルは全国の主要都市をカバーし、可視化用途を超えて、防災・環境・都市経営を支えるシミュレーション基盤として使われています。構造計画研究所などの実証では、土石流や浸水、暑さ指数WBGTを都市スケールで再現し、XRで体験可能にしました。これにより、専門家だけでなく住民や行政職員が同じ空間認識を共有でき、EBPMの実践速度が大きく向上しています。

活用領域 デジタルツインの役割 実務上の効果
防災計画 浸水・土砂災害の事前再現 避難計画の具体化と合意形成の迅速化
都市環境 暑熱・風環境の可視化 熱中症対策や再開発設計の精度向上
行政運営 政策効果の事前検証 説明責任の強化と意思決定の透明化

一方、施工現場ではリアルタイム性が競争力を左右します。鹿島建設が推進するA⁴CSELでは、造成工事の重機群を遠隔から統合制御し、固定の管制室に加えて移動管制室も実装しました。これにより、オペレーターは現場に常駐せず、複数現場を横断的に管理できます。大阪・関西万博の工区自体がリビングラボとなり、遠隔施工の実用性が大規模に検証されました。

清水建設の事例も示唆的です。相鉄線連続立体交差工事では、四足歩行ロボットやLiDARで現場を常時スキャンし、点群データをBIMと即時連携させました。現場監督は事務所から進捗や干渉、危険箇所をミリ単位で把握でき、移動時間と属人的判断への依存が大幅に低減されています。こうした取り組みは、米国や欧州の建設DX動向とも整合的であり、国際的にも注目されています。

デジタルツインと遠隔化の本質は、省人化ではなく判断と操作を分離できる構造を作る点にあります。現場作業は自動化・遠隔化し、人は安全な場所で複数現場を統括する。建設・都市分野は今、現場が工場のように管理される段階へと移行しつつあり、その基盤としてデジタルツインが不可欠な社会インフラになっています。

医療・リハビリにおける没入体験の治療的価値

医療・リハビリ分野において没入体験が持つ治療的価値は、2025年以降「補助的ツール」から「治療そのもの」へと位置づけが変化しています。VRやXRは、医師や療法士の技術支援にとどまらず、**患者の行動変容や心理状態に直接作用するデジタル治療(DTx)**として実装段階に入りました。

特に注目されているのが、注意転換と主体的関与を同時に引き起こす点です。岡山大学と日本電子専門学校が共同開発した小児がん患者向けVRリハビリでは、腕の挙上やペダリングといった訓練動作を魔法発動や冒険体験に置き換えています。臨床現場では、**リハビリに対する拒否感が軽減し、運動継続率が向上した**ことが確認されており、疼痛緩和におけるディストラクション効果の知見と整合します。

没入体験の価値は身体機能の回復に限定されません。認知症ケア領域では、株式会社シルバーウッドのVR認知症プログラムが全国の自治体や医療・介護施設に導入されています。この取り組みは、当事者の症状を一人称視点で追体験させることで、介護者や医療従事者の認知的理解を超えた共感を生み出します。**行動心理学的には、共感の獲得がケアの質とストレス耐性を高める**ことが知られており、実践的な人材教育として高く評価されています。

活用領域 没入体験の設計 治療的価値
小児リハビリ ゲーム化された運動課題 疼痛軽減・継続率向上
認知症ケア 一人称視点の症状体験 共感形成・対応改善
医療教育 実写360度VR訓練 安全な反復学習・早期戦力化

さらに医療教育の分野では、ジョリーグッドの医療福祉VRプラットフォームがIT導入補助金の対象となり、全国の病院で活用が進んでいます。救急対応や手術室といった高リスク環境を仮想空間で再現することで、**実地経験に近い学習効果を安全かつ低コストで得られる**点が評価されています。厚生労働省が課題としてきた新人教育の属人化や指導者不足への現実的な解となっています。

これらの事例に共通する本質は、「体験が認知と行動を同時に変える」点にあります。米国国立医学図書館に蓄積された先行研究でも、没入型介入が不安、痛み、治療忌避行動を低減することが報告されてきました。2026年時点の日本では、その知見がようやく社会実装に追いついた段階にあります。

没入体験は薬剤や機器と異なり、副作用が極めて限定的で、個別最適化が容易です。**患者の主観的体験そのものを治療資源として活用する発想**は、今後の医療とリハビリの設計思想を大きく変えていくでしょう。

エンターテインメント市場に見る没入型体験の進化

エンターテインメント市場における没入型体験は、2025年を境に「視覚的な驚き」から「身体ごと物語に巻き込まれる体験」へと質的な進化を遂げています。背景にあるのは、XRデバイスの性能向上だけでなく、演出設計や空間デザイン、運営オペレーションまで含めた総合的な体験価値の最適化です。単発の話題作りではなく、持続的に来場者を惹きつける仕組みとして没入型体験が再定義されつつあります。

象徴的な事例が、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンによるXRライドの高度化です。SPY×FAMILY XRライドでは、VR映像と実際の加速度、風圧、振動を精密に同期させることで、脳が仮想と現実を区別できないレベルの没入感を実現しています。**これは単なるVR映像ではなく、身体感覚を含めたマルチモーダル体験設計が競争力の源泉になっていることを示しています。**

一方、都市型施設ではイマーシブシアターが独自の進化を遂げています。イマーシブ・フォート東京の事例では、観客が物語の「観測者」ではなく「当事者」として振る舞う設計が徹底されています。来場者は役割を与えられ、演者との即興的な相互作用を通じて物語が分岐します。この構造により、同じ演目でも体験内容が再訪ごとに変化し、リピート需要を生み出しています。

体験タイプ 主な特徴 価値の源泉
XRライド型 映像・重力・風などの同期 身体錯覚レベルの没入感
イマーシブシアター型 観客参加・物語分岐 再現性のない唯一体験

市場データからも、この進化が一過性でないことが読み取れます。矢野経済研究所の調査では、XR・360度動画市場は2019年比で約3倍規模に成長していますが、特徴的なのは急激なバブルではなく、LBEや企業向け導入を軸とした安定的な拡大です。**専用空間でしか成立しない高付加価値体験が、価格競争に陥らないビジネスモデルを支えています。**

さらに重要なのは、没入型エンターテインメントがデータドリブン化している点です。滞在時間、行動導線、視線や選択結果といったデータが分析され、次の演出改善に活かされています。これはテーマパークや演劇の世界に、デジタルプロダクト的なPDCAが持ち込まれていることを意味します。結果として、体験はより洗練され、来場者満足度と収益性の両立が可能になっています。

このように、現在の没入型エンターテインメントは技術ショーケースではなく、**身体性・物語性・データ活用を統合した総合産業**へと進化しています。体験そのものがブランド価値を形成し、ファンとの長期的な関係性を築く基盤となっている点に、2026年時点の本質的な変化があります。

企業導入と市場データから読み解く成長の実像

没入型技術の成長を最も端的に示しているのが、研究開発段階を超えた企業導入の広がりと、それを裏付ける市場データです。2025年から2026年にかけての動向を見ると、XRは話題先行型の新技術ではなく、業務プロセスに組み込まれる実用技術として定着し始めていることが明確になっています。

市場規模の観点では、矢野経済研究所の調査が象徴的です。同研究所によれば、日本国内のXR・360度動画市場は2025年時点で2019年比約3倍に拡大しています。注目すべきは、急激なバブル的成長ではなく、法人需要を中心とした緩やかで持続的な拡大曲線を描いている点です。これは、PoC止まりだった導入が本実装フェーズへ移行していることを示唆します。

指標 2025年時点の状況 示唆される意味
XR市場規模 2019年比 約3倍 法人活用を軸に安定成長
エッジインフラ投資 約1.9兆円(前年比+12.9%) 低遅延前提の実運用が増加
2030年予測 2兆円規模 長期投資対象として認知

この成長を下支えしているのがインフラ投資です。IDC Japanによると、XRやデジタルツインを支える国内エッジインフラ市場は2025年に約1兆9,000億円へ拡大し、2028年には約2兆6,000億円に達すると予測されています。体験品質を左右する低遅延・高信頼の計算基盤に、企業が本気で投資し始めたことが読み取れます。

企業導入の具体像としては、「空間コンピューティング」が業務フローに溶け込み始めています。Apple Vision ProをはじめとするハイエンドXRデバイスは、設計レビュー、製品マニュアル制作、研修用途などで活用が進んでいます。Tooの事例では、教育機関や制作現場での導入が進み、単なるデモ用途ではなく、既存業務の生産性向上に寄与していると報告されています。

また、建築・製造・不動産分野では3Dデータの扱い方が変わりました。MESONが開発したVision Pro向け3Dビューワーのように、巨大で複雑な3Dモデルを空間上で直感的に確認できる環境は、レビュー時間の短縮や意思決定の高速化をもたらしています。不動産テック企業スペースリーのVR研修・内見システムも、大手企業での導入が進み、現場DXの実効性を示す具体例となっています。

市場データと導入事例の共通点は、没入型技術が「試す技術」から「使い続ける技術」へと役割を変えたことです。

総務省関連データや民間調査で示される2030年に向けた2兆円規模の市場予測は、短期的な流行ではなく、企業活動の基盤技術として位置付けられ始めた結果だと言えます。企業導入の質的変化と市場データの整合性こそが、没入型技術の成長が実像であることを雄弁に物語っています。

研究現場と人材育成が支える没入型技術の未来

没入型技術の持続的な発展を左右する最大の要因は、デバイスや通信性能そのものではなく、それを生み出し、使いこなし、社会に実装できる人材と研究環境です。2025年時点で、日本の研究現場はこの点において大きな転換期を迎えています。理化学研究所が進める自律実験ラボは、その象徴的な事例です。

理研ではAIとロボットが試薬調合や実験準備といった定型作業を担い、研究者は仮想化された実験環境上で設計と考察に集中できます。没入型インターフェースによって研究そのものへの没入度が高まり、発見までの時間を短縮するという効果が確認されています。これは研究DXであると同時に、人材育成の質を高める基盤でもあります。

大学教育や学生主体のイノベーションも重要です。国際学生対抗VRコンテストIVRC 2025では、身体性や感覚の再設計をテーマにした作品が高く評価されました。名城大学の学生チームによる座位シャコは、身体的制約を前提にしながら、新たな身体感覚を創出する発想を提示しています。このような経験は、将来アバターやロボットを自在に扱う研究者・開発者の基礎素養を育てます

育成の軸 具体的取り組み 将来への効果
研究環境 自律実験ラボ、XR設計空間 創造的思考への集中と研究速度向上
教育機会 学生コンテスト、実証参加 実践的スキルと越境発想の獲得
キャリア支援 産学連携・社会実装型研究 研究継続性と人材流出の抑制

一方で、日本バーチャルリアリティ学会などが指摘するように、博士課程学生や若手研究者はキャリアの不確実性という課題を抱えています。それでも没入型技術分野では、産業界との距離が近く、研究成果が社会実装に直結しやすいという特性があります。研究と実装を往復できる人材ほど、市場価値が高まる構造が形成されつつあります

研究現場と人材育成が連動することで、没入型技術は単なる先端技術ではなく、次世代の知的生産を支える基盤へと進化します。未来の没入体験は、こうした地道な教育と研究の積み重ねの上に築かれていくのです。

参考文献

Reinforz Insight
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