ブロックチェーンやWeb3は、かつて「投機的で不安定な技術」というイメージで語られることが少なくありませんでした。しかし近年、日本ではその位置づけが大きく変わりつつあります。法制度や税制の整備が進み、金融、不動産、行政、教育といった実社会の中で、具体的な成果が見え始めています。

特に注目すべきなのは、企業向け税制改正によるスタートアップ環境の改善や、セキュリティトークン市場の立ち上がり、自治体主導によるNFTやDAOの実装事例です。これらは単なる技術実験ではなく、日本の産業構造や地域経済のあり方そのものを変える可能性を秘めています。

本記事では、制度・市場・技術・人材という複数の視点から、日本におけるブロックチェーン活用の現在地を整理します。最新の事例や市場データを踏まえながら、ビジネスパーソンや専門家が押さえておくべきポイントを立体的に解説します。読み終えたとき、日本でブロックチェーンが「どこまで社会実装され、これから何が起ころうとしているのか」が明確になるはずです。

日本のブロックチェーン市場が迎えた構造転換

2024年から2025年にかけて、日本のブロックチェーン市場は質的に異なる段階へ移行しました。かつては暗号資産価格の変動に市場全体が左右され、「投機的ブームと規制強化の反復」と評されてきましたが、現在は制度を前提とした産業化フェーズに明確に入っています。この変化の本質は、技術そのものではなく、国家戦略と産業構造の再設計にあります。

内閣府や経済産業省が主導するWeb3政策は、従来の実証実験止まりの支援とは一線を画します。法人税制や投資規制の見直しを通じ、ブロックチェーンを一時的な成長分野ではなく、日本経済に組み込む恒常的な基盤と位置づけました。金融庁や国税庁が関与する形で制度設計が進んだ点は、諸外国と比較しても特徴的です。

特に重要なのは、市場参加者の構成が変化したことです。スタートアップや個人投資家中心だった市場に、上場企業、金融機関、地方自治体、大学といった既存の制度主体が本格的に参入しました。これにより、ブロックチェーンは「実験的技術」から「責任ある社会インフラ」へと役割を拡張しています。

観点 従来 2025年以降
市場の主役 個人投資家・スタートアップ 企業・金融機関・自治体
成長要因 価格上昇期待 制度整備と実需
政策スタンス 抑制・事後対応 戦略的推進

この構造転換は、資本の流れにも表れています。野村総合研究所やBCC Researchの分析によれば、世界市場が回復基調に入る中で、日本は制度の明確性を武器に中長期資金を呼び込みつつあります。短期的な値動きよりも、法的安定性や事業継続性が評価軸となり始めました。

また、政府関係者や有識者の間では「Web3鎖国からの脱却」という表現が用いられています。過去に指摘された過度な規制や税制の歪みが、海外流出を招いていたという反省が共有され、その是正が進められているためです。これは単なる市場活性化策ではなく、デジタル時代における日本の競争力を再定義する試みといえます。

結果として、日本のブロックチェーン市場は、熱狂や失望に振り回される段階を終えました。制度と実装が噛み合い始めた今、2026年を見据えた産業構造の転換点に立っていることは、多くの専門家が一致して指摘するところです。

法人税制改正がもたらしたWeb3企業環境の変化

法人税制改正がもたらしたWeb3企業環境の変化 のイメージ

2025年度の法人税制改正は、日本のWeb3企業環境に質的な転換をもたらしました。最大の変化は、企業が保有する暗号資産に対して長年適用されてきた期末時価評価課税の見直しです。これにより、**国内で事業を継続すること自体が税務リスクになる**という構造的な歪みが、ようやく是正されました。

従来は、トークンを売却していなくても、期末時点の含み益に課税される仕組みでした。その結果、資金流出を避けるために海外拠点を選ばざるを得ないスタートアップが続出していました。経済産業省や国税庁の整理によれば、2025年度改正では、自社発行トークンを継続保有する場合、一定の技術的・契約的な譲渡制限を条件に、課税対象から除外されることが明確化されています。

項目 改正前 改正後
自社発行トークン 期末時価で課税 条件付きで非課税
他社トークン(長期保有) 原則課税 非課税方向で整理
キャッシュフロー 未実現でも納税義務 実現時中心へ

この改正がもたらした本質的な変化は、**トークンを「事業資産」として扱える環境が整った**点にあります。Web3企業は、エコシステム維持やガバナンス参加のためにトークンを保有するケースが多く、短期売買を前提としません。長期保有トークンが課税リスクから切り離されたことで、DAOへの参画や企業間アライアンスの形成が、会計・税務上も現実的な選択肢となりました。

実務への影響も具体的です。国内でのICOやIEOを検討する企業が増え、監査法人や税理士法人もWeb3特化チームを拡充しています。大手会計事務所関係者によれば、「税務上の不確実性が減ったことで、取締役会でWeb3投資を説明しやすくなった」という声も出ています。これは単なる税負担軽減ではなく、意思決定プロセスの正常化を意味します。

一方で、すべての暗号資産が無条件に非課税となったわけではありません。短期売買目的の保有や、譲渡制限が不十分な設計では従来通り課税対象となります。そのため、**トークン設計と税務を初期段階から一体で考える重要性**が、以前にも増して高まっています。

総じて法人税制改正は、日本をWeb3事業の「実験場」から「定着地」へと押し上げる制度的インフラとなりました。税制という足枷が外れた今、企業間競争の焦点は、技術力やプロダクトの社会的価値そのものへと移りつつあります。

LPS法改正とベンチャーキャピタル投資の新潮流

2024年から2025年にかけてのLPS法改正は、日本のベンチャーキャピタル投資の前提条件を大きく書き換えました。最大の転換点は、投資事業有限責任組合(LPS)が暗号資産、すなわちトークンを直接取得・保有できる法的道筋が示された点にあります。これまで国内VCは、Web3スタートアップの価値の中核であるトークンエコノミーに正面から関与できず、株式出資に限定されてきました。

経済産業省が主導した産業競争力強化法等の改正は、この構造的な歪みを解消する狙いがあります。海外メディアや金融市場分析で知られるThe Blockなども指摘しているように、日本のVCがトークン投資に踏み出せない状況は、優良プロジェクトの海外流出を招いてきました。LPS法改正は、資金だけでなくガバナンスと知見を国内に留めるための制度的インフラと位置付けられます。

この変化により、VCの投資行動そのものが質的に変わり始めています。従来のIPOやM&Aを唯一の出口とするモデルに加え、トークンのネットワーク価値向上やコミュニティ成長を中長期で支援する投資戦略が現実的な選択肢となりました。

観点 改正前 改正後
投資対象 株式中心 株式+トークン
主な出口 IPO・M&A IPO・M&A・トークン価値向上
国内資金の役割 限定的 エコシステム中核へ

特に注目されるのが、Web3特化型ファンドの組成です。DAO型プロジェクトやプロトコル開発企業など、株式発行を前提としない事業モデルに対しても、法的に整理された形で投資できるようになりました。これはシリコンバレーやシンガポールで一般化している「トークン・ネイティブ投資」を、日本でも制度面から解禁したことを意味します

さらに重要なのは、国内機関投資家マネーの呼び水効果です。年金基金や事業会社系CVCにとって、法的リスクの不透明さは最大の参入障壁でした。LPS法改正により、コンプライアンス上の説明可能性が高まり、間接的にではありますが、Web3分野への資金流入余地が拡大しています。

この新潮流は単なる投資対象の追加ではありません。スタートアップ、VC、そして規制当局が同じ制度言語でトークンを扱えるようになった点に本質があります。2026年に向け、日本のベンチャー投資は「株式中心」から「価値ネットワーク全体を育てる投資」へと、静かに進化しつつあります。

個人投資家を巡る税制課題と申告分離課税の行方

個人投資家を巡る税制課題と申告分離課税の行方 のイメージ

日本のWeb3市場が制度面で前進する一方、個人投資家を巡る税制課題は2026年時点でも最大のボトルネックとして残っています。現在、暗号資産取引で得た利益は雑所得として総合課税の対象となり、所得水準によっては税率が最大55%に達します。この水準は株式や投資信託、FXなどに適用される申告分離課税の約20%と比べても突出して高く、投資行動そのものを萎縮させてきました。

国税庁の制度解釈に基づく現行税制では、売却益だけでなく暗号資産同士の交換やDeFi取引の一部も課税対象となり、損益計算は極めて煩雑です。税理士会連合会や日本公認会計士協会の研究会でも、暗号資産の取引履歴管理と評価方法の難しさが繰り返し指摘されてきました。高税率と事務負担の二重苦が、個人投資家の参入障壁として機能しているのが実情です。

こうした状況を変えるため、一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)は2025年7月、2026年度税制改正に向けた要望書を提出しました。最大の柱が申告分離課税の導入であり、暗号資産を株式等と同じ「資産形成手段」として再定義する発想です。JBAによれば、税率を一律20.315%とすることで、投資判断が税制ではなくリスクとリターンに基づく健全なものになるとしています。

項目 現行制度 要望される制度
課税方式 総合課税(雑所得) 申告分離課税
税率 最大55% 一律20.315%
損失の扱い 繰越不可 3年間の繰越控除
暗号資産同士の交換 原則課税 非課税(課税繰延)

特に注目すべきは、JBAが外部調査機関に委託したアンケート結果です。回答者1,500人のうち約75%が、確定申告の負担を軽減する源泉分離課税を含む簡素な制度を望んでいると回答しました。これは「税率の高さ」以上に、「申告の複雑さ」が一般投資家の心理的ハードルになっていることを示しています。

国際比較の視点でも、この問題は明確です。OECD加盟国の多くでは、暗号資産はキャピタルゲインとして分離課税または軽減税率の対象となっています。シンガポールでは個人のキャピタルゲイン課税が原則非課税であり、米国でも長期保有による税率優遇があります。日本の税制は投資先として選ばれにくい構造にあると、金融庁関係者や大学研究者も指摘しています。

2025年末に策定される税制改正大綱で申告分離課税がどこまで具体化するかは、2026年以降の市場流動性を左右します。個人投資家の資金が国内市場に留まり、長期保有や分散投資が促進されれば、価格変動の安定化や健全なエコシステム形成にもつながります。申告分離課税の行方は、個人投資家保護にとどまらず、日本のWeb3産業全体の競争力を測る試金石と言えるでしょう。

セキュリティトークン市場の拡大とODXの役割

日本におけるセキュリティトークン市場は、2024年から2026年にかけて「制度先行型」で拡大している点が大きな特徴です。金融庁の監督下で金融商品取引法に基づく明確なルールが整備されたことで、投機性の高い暗号資産とは一線を画し、実物資産を裏付けとしたデジタル証券という新しい投資領域が本格的に立ち上がりました。

この市場拡大を実質的に牽引しているのが、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営するセキュリティトークン市場「START」です。STARTは私設取引システム(PTS)として、不動産セキュリティトークンを中心にセカンダリー取引を可能にしました。これにより、従来は流動性が極めて低かった不動産小口化商品が、株式に近い感覚で売買できる環境へと進化しています。

観点 従来型不動産小口商品 ODX STARTのST
流動性 原則中途換金不可 セカンダリー市場で売買可能
最低投資額 数十万〜数百万円 約10万円前後
権利管理 紙・集中管理 ブロックチェーン上で管理

START市場で取引されている銘柄を見ると、ビジネスホテル、都心オフィス、地方中核都市の商業施設など、裏付け資産は多様化しています。基準価格が10万円前後に設定されている点は、個人投資家の参入障壁を意識した設計であり、機関投資家と個人投資家が同一市場で取引するという日本型ST市場の特徴を象徴しています。

また、ODXの役割は単なる取引の場にとどまりません。三菱UFJ信託銀行のProgmatやBOOSTRYのibet for Finといった国内主導の発行基盤と接続することで、発行から流通までを一貫して国内制度の中で完結させています。野村総合研究所などが指摘するように、これは海外依存を避けつつ市場を育成する上で極めて重要なポイントです。

ブロックチェーンを活用することで、配当分配や名義書換といったバックオフィス業務の自動化・低コスト化も進んでいます。これにより、発行体側は資金調達コストを抑えられ、投資家側は透明性の高い運用情報にアクセスできます。金融インフラとしての効率性向上が、市場拡大の土台を支えていると言えるでしょう。

世界的にはRWA(実物資産トークン化)市場の急拡大が予測されていますが、日本ではODXを中心としたST市場が、その受け皿として現実的に機能し始めています。規制の明確性、実需資産へのフォーカス、流動性の確保という三点を同時に満たしている点で、ODXは日本のセキュリティトークン市場拡大における中核的存在になりつつあります。

不動産・実物資産トークン化が生み出す新たな投資機会

不動産やインフラなどの実物資産をブロックチェーン上でトークン化する動きは、2026年に向けて日本の投資環境を大きく変えつつあります。
最大の変化は、これまで一部の富裕層や機関投資家に限られていた実物資産投資が、数万円規模から参加可能な投資機会へと再設計されている点です。
金融庁の制度整備と市場インフラの進展により、投機ではなく資産形成を目的とした参加者が着実に増えています。

象徴的な存在が、大阪デジタルエクスチェンジが運営するセキュリティトークン市場です。
ここでは不動産受益権を裏付けとするデジタル証券が、株式と同様に売買されています。
三菱UFJ信託銀行のProgmatやBOOSTRYの基盤を用いることで、権利移転や配当分配の事務が効率化され、流動性という不動産投資最大の課題が実務レベルで改善されています。

項目 従来の不動産投資 不動産トークン
最低投資額 数百万円以上 約10万円前後
換金性 低い セカンダリー市場で売買可能
事務コスト 高い ブロックチェーンで自動化

市場で取引されている銘柄を見ると、ビジネスホテル、都市型オフィス、地方中核都市の商業施設など、実需に支えられた資産が中心です。
野村総合研究所などが指摘するように、低金利環境の修正局面では、安定したキャッシュフローを生む実物資産への回帰が起きやすいとされています。
トークン化はその流れを、デジタル技術によって加速させています。

不動産トークンは「価格上昇を狙う商品」ではなく、「収益を分配するデジタル証券」として設計されている点が重要です。

さらに注目すべきは、将来の拡張性です。
国際的に影響力を持つ投資家ヤット・シウ氏が指摘するように、RWA市場は今後も急拡大が予測されています。
日本では、IoTデータと連動した配当調整や、災害リスクを条件とする自動保険付与など、プログラム可能な金融商品の実装が現実味を帯びています。

こうした動きは、個人投資家にとって新しい分散投資の選択肢を提供するだけでなく、
不動産事業者や自治体にとっても、資金調達と投資家参加を両立する手段となります。
実物資産トークン化は、金融と現実経済を接続する実践的な投資インフラとして、静かに定着し始めています。

地方自治体が主導するWeb3活用と地域経済への波及

地方自治体が主導するWeb3活用は、2025年から2026年にかけて実証実験の段階を越え、地域経済に具体的な波及効果をもたらすフェーズへと移行しています。国のWeb3推進戦略と歩調を合わせながら、自治体自身が発行主体・実装主体となる点に、日本型Web3の大きな特徴があります。

代表例として注目されるのが、NFTやトークンを単なるデジタル資産ではなく「権利」や「参加証明」として設計する動きです。北海道余市町では、ふるさと納税の返礼として希少ワインの購入権をNFT化し、高額寄付にもかかわらず都市部の若年層やWeb3ユーザーを取り込むことに成功しました。総務省やデジタル庁が示す関係人口創出モデルの中でも、デジタル施策が実際の来訪や消費行動に結び付いた事例として評価されています。

また、観光分野ではメタバースとO2Oを組み合わせた施策が顕在化しています。静岡県焼津市はVRイベントへの出展を通じ、バーチャル空間で地域体験を提供し、来場者数は70万人規模に達しました。経済産業省の地域DX調査でも、こうした仮想体験型プロモーションは従来型広告と比べ、認知から行動への転換率が高いとされています。

自治体 Web3施策 地域経済への波及
北海道余市町 NFT化した購入権付きふるさと納税 高付加価値寄付と観光来訪の増加
静岡県焼津市 メタバース観光・体験型イベント 認知拡大と実地観光への送客
複数自治体 合同会社型DAOの検討・導入 住民参加型プロジェクトの活性化

さらに重要なのが、2024年の法整備により可能となった合同会社型DAOの活用です。自治体や地域団体がDAOを通じて資金管理や意思決定を行うことで、外部支援者も含めた分散型ガバナンスが実装されつつあります。TMI総合法律事務所の分析によれば、これは従来の補助金依存型モデルから、自走型の地域経済モデルへの転換を後押しする仕組みとされています。

地方自治体主導のWeb3活用は、技術導入そのものよりも「制度」「関係人口」「地域資源」の再設計に価値があります。中央集権的なプラットフォームに依存せず、地域が自ら価値を発行し循環させるこの動きは、2026年以降の日本経済において、地方が成長の起点となる可能性を示しています。

DAOと新しい組織形態が示すガバナンスの可能性

DAOは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトを基盤に、意思決定と資金配分を自動化・透明化する新しい組織形態として注目されています。最大の特徴は、所有と統治が分離しにくい点にあります。株式を通じて一部の経営層が権限を握る従来型組織と異なり、DAOではトークン保有や参加条件に基づき、ルールに沿った形で誰がどのように意思決定に関与できるかが事前にコードで定義されています。

この構造は、ガバナンスの透明性と説明責任を飛躍的に高めます。投票結果や資金移動はブロックチェーン上に記録され、後から検証可能です。MITメディアラボのデジタルガバナンス研究でも、DAO型の仕組みは意思決定プロセスのトレーサビリティを高め、不正や恣意的運用の余地を縮小する点が評価されています。

日本では2024年の法改正により合同会社型DAOが制度的に位置づけられ、実務での活用が現実味を帯びました。これにより、DAOは単なる実験的コミュニティから、法的裏付けを持つ事業主体へと進化しています。地域資源の管理や共同事業の運営など、利害関係者が多様な分野での応用が想定されています。

観点 従来組織 DAO型組織
意思決定 取締役会・経営層中心 ルール化された投票
透明性 内部資料に依存 オンチェーンで公開
参加範囲 雇用・株主に限定 条件を満たせば広く参加

一方で、DAOは万能ではありません。投票参加率の低下や、トークン保有量に比例した発言力の偏りといった課題も指摘されています。スタンフォード大学の研究では、ガバナンス設計次第で少数の大口保有者に権限が集中するリスクが示されています。これに対し、日本の実証事例では、議決権の上限設定や役割別トークン設計など、参加の質を高める工夫が試みられています。

重要なのは、DAOを「中央集権か分散か」という二項対立で捉えないことです。実際の社会実装では、人による判断とコードによる自動執行を組み合わせたハイブリッド型ガバナンスが主流になりつつあります。DAOは既存組織を置き換える存在ではなく、意思決定の信頼性とスピードを補完する新しい選択肢として、2026年に向けて現実的な位置づけを確立し始めています。

アカデミアと産業界が育てる次世代Web3人材

日本のWeb3産業が2026年にかけて持続的に成長できるかどうかは、技術や制度以上に「誰が担うのか」にかかっています。アカデミアと産業界が連動して次世代Web3人材を育成する動きは、投機中心だった過去のフェーズから、社会実装を前提とした成熟段階への移行を象徴しています。

代表的な取り組みが、東京大学工学系研究科によるブロックチェーン公開講座です。同講座は、暗号理論や分散システムといった基礎研究の知見を、スマートコントラクト開発やDAO設計といった実務に直結させる点に特徴があります。東京大学の公開情報によれば、2025年度は生成AIを補助的に活用しながらSolidity開発を行うなど、現場水準を意識した設計がなされています。

特筆すべきは、産業界との距離の近さです。トヨタ自動車や三井住友フィナンシャルグループといった国内中核企業が講座を支援し、受講生は単なる学習者ではなく、将来の事業創出候補として見られています。修了証がSBTとして発行される点も、Web3的なアイデンティティ管理を体験的に理解させる設計と言えるでしょう。

項目 東京大学 慶應義塾大学
主軸 ブロックチェーン技術と社会実装 AI×ブロックチェーンの融合
特徴 産学連携・実践型開発 サミット形式による横断議論
到達像 即戦力Web3エンジニア・PM 複合領域型イノベーター

一方、慶應義塾大学ではAICを中心に、ブロックチェーンを単独技術として扱わず、AIやデータサイエンスと組み合わせて議論する姿勢が際立っています。2025年冬に予定されているサミットでは、分散型技術が意思決定や自律システムにどのような影響を与えるかが議論される予定で、技術の社会的意味を問う人材育成に重点が置かれています。

経済産業省や文部科学省が掲げるリスキリング政策とも呼応し、こうした動きは大学の外にも波及しています。企業内教育やスタートアップコミュニティと接続することで、日本独自の「研究起点・実装直結型Web3人材モデル」が形成されつつあります。これは単なる人材不足対策ではなく、日本がWeb3の制度設計と実装を同時に輸出できる国になるための基盤整備だと評価できます。

市場データから読む日本ブロックチェーン産業の展望

日本のブロックチェーン産業を市場データから俯瞰すると、2024年を底に回復基調へ転じ、2026年に向けて質的転換を伴う成長局面に入ったことが読み取れます。野村総合研究所などの分析を参照したBCC Researchの予測では、世界のブロックチェーン市場規模は2026年に約567億ドルへ拡大すると見込まれており、日本市場もこの成長曲線に連動する可能性が高いとされています。特に近年は、投機的取引量よりも実需に裏付けられた取引額や導入件数が評価指標として重視されるようになっています。

国内の資金調達データを見ると、その変化はより鮮明です。PitchBookやSpeedaの集計によれば、2024年の日本におけるWeb3・ブロックチェーン関連スタートアップの調達は、件数こそ抑制的である一方、1件あたりの調達額と企業評価額が大きく上昇しました。**シードおよびアーリーステージの評価額中央値が前年比で大幅に伸びた点は、市場が「数」から「質」へと評価軸を移した証左**といえます。

指標 2023年 2024年
国内Web3調達件数 多いが小口中心 厳選・減少
1件あたり調達額 低水準 上昇傾向
評価額中央値 停滞 大幅上昇

この背景には、インフラ層への投資集中があります。高性能レイヤー1やレイヤー2、ゼロ知識証明関連といった基盤技術への資金流入は、日本企業がグローバル市場で競争力を持ち得る領域に投資家の視線が定まっていることを示しています。CoinPostが報じた2024年第2四半期の世界調達額約27億ドルという数字も、回復が一過性でないことを裏付けています。

また、日本特有の強みとして見逃せないのが、セキュリティトークンや企業向けブロックチェーンを含む周辺市場の広がりです。これらは暗号資産価格の変動とは相関が低く、**安定した市場規模の積み上げに寄与する構造的需要**を形成しています。金融庁や経済産業省の制度整備が進んだことで、機関投資家や大企業の参入データも徐々に可視化され始めました。

総じて市場データが示しているのは、日本のブロックチェーン産業が「期待先行型」から「検証済み成長型」へ移行しつつあるという事実です。2026年に向けては、個人投資家市場の動向次第で流動性が一段と高まり、国内市場規模が国際比較でも存在感を持つ段階に入るかどうかが、数値として明確に示される局面を迎えるでしょう。

参考文献

Reinforz Insight
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