長時間労働の是正やテレワークの普及をきっかけに、日本の働き方は大きく変わったと言われてきました。しかし最近では、出社回帰の動きや副業による過重労働など、新たな課題も同時に浮かび上がっています。
柔軟な働き方は本当に定着しているのか、それとも揺り戻しの局面にあるのか。こうした疑問を抱くビジネスパーソンや人事・経営層は少なくありません。
本記事では、最新の法改正動向、テレワークや副業をめぐる統計データ、実際の企業事例、研究機関による知見を手がかりに、日本の労働市場で何が起きているのかを立体的に整理します。
単なる制度紹介にとどまらず、なぜ今「柔軟性」が企業戦略や個人のキャリアに直結するテーマとなっているのかを明らかにします。
読み進めることで、変化の全体像を理解し、自社や自身の働き方を考えるための視座を得られるはずです。
労働市場の転換点としての柔軟な働き方
2025年から2026年にかけて、日本の労働市場は大きな転換点を迎えています。柔軟な働き方は、もはや一部の先進企業が採用競争のために導入する施策ではなく、労働力不足が常態化する中で企業存続を左右する基盤条件へと位置づけが変わりました。働き方改革関連法の完全施行以降、柔軟性は「努力目標」から「前提条件」へと格上げされ、企業と個人の関係性そのものを再定義しています。
この変化を象徴するのが、時間と場所の裁量をどう設計するかという論点です。厚生労働省の制度設計やパーソル総合研究所の調査が示すように、テレワーク実施率は2025年時点で22.5%と横ばいで推移する一方、実施経験者の82.2%が継続を希望しています。制度利用の広がりは止まっても、価値認識は後戻りしていないという点が、これまでの労働市場とは決定的に異なります。
柔軟な働き方が転換点となる理由は、個人の満足度だけではありません。リクルートワークス研究所によれば、働き方の裁量が高い環境ほどワーク・エンゲージメントが高まり、離職意向が低下する相関が確認されています。人口減少局面において、採用よりも定着が経営課題となる現在、柔軟性は人材流出を防ぐ装置として機能しています。
| 観点 | 従来型労働市場 | 柔軟性重視の労働市場 |
|---|---|---|
| 時間管理 | 画一的な始業・終業 | フレックス・裁量の拡大 |
| 場所 | 出社前提 | ハイブリッド・選択制 |
| 人材戦略 | 採用数重視 | 定着・再活性化重視 |
企業側の視点に立つと、柔軟な働き方はコストではなく投資です。勤務間インターバル制度やフレックスタイム制の活用は、過重労働リスクを抑制するだけでなく、生産性の平準化につながります。特にプロジェクト型業務では、繁閑に応じた労働時間調整が可能となり、長時間労働に依存しない業務設計への転換を後押ししています。
一方で、この転換点は個人にも選択を迫ります。柔軟な働き方は自由度を高める反面、成果と自律がより強く求められます。慶應義塾大学の鶴光太郎教授が人的資本経営の文脈で指摘するように、今後の労働市場では職務とスキルの可視化が進み、時間ではなく価値で評価される働き方が主流になります。
柔軟な働き方が労働市場の転換点である理由は、制度・企業戦略・個人意識の三層が同時に変化している点にあります。どれか一つでも欠ければ成立しません。この三層が噛み合い始めた今、日本の労働市場は量的な雇用調整から、質的な働き方設計へと確実に舵を切っています。
働き方改革関連法が企業経営に与えた実務インパクト

働き方改革関連法は、企業にとって理念的なスローガンではなく、日々の経営判断や現場運用を左右する実務ルールとして定着しました。2019年の施行以降、2024年には建設業・物流業・医師といった例外業種にも時間外労働の上限規制が完全適用され、**2025年時点では「未対応=法令違反」という明確な線引き**がなされています。これにより、経営層は売上や納期よりも先に「労働時間の確保可能性」を検証する必要に迫られています。
特にインパクトが大きいのが、時間外労働の上限規制と割増賃金率引き上げの組み合わせです。月60時間超の残業に対する50%以上の割増賃金は、2023年に中小企業の猶予措置が終了しました。厚生労働省の解説によれば、これは長時間労働を前提とした事業モデルそのものの見直しを促す設計です。実際、物流業界では配送ルートの再編や取引条件の見直しが進み、**人件費管理が経営戦略の中心課題**として浮上しています。
| 法制度の要点 | 実務への影響 | 経営上の判断ポイント |
|---|---|---|
| 時間外労働の上限規制 | 繁忙期でも年720時間以内に抑制 | 業務量調整・外注活用の是非 |
| 割増賃金率50%以上 | 残業コストの急増 | 固定残業制・評価制度の再設計 |
| 労働時間の客観把握 | PCログ等による厳格管理 | IT投資とガバナンス強化 |
また、労働時間の客観的把握義務は、管理職の役割を大きく変えました。自己申告制が事実上否定されたことで、PCログや入退室記録と申告時間の乖離チェックが標準業務となり、**管理職は「成果管理」と同時に「労働時間監督者」**としての責任を負っています。日本労働研究機構の分析でも、サービス残業の是正は進んだ一方、管理職の負荷増大が新たな課題として指摘されています。
同一労働同一賃金も、企業経営に静かな緊張感をもたらしています。最高裁判例の積み重ねにより、不合理な待遇差の判断基準は明確化しつつありますが、職務内容や責任の定義が曖昧な企業ほど訴訟リスクを抱えやすい状況です。結果として、**職務記述書の整備や評価制度の透明化が、法対応と人材戦略を兼ねる施策**として注目されています。
さらに見逃せないのが、産業医の権限強化です。メンタルヘルス不調者の増加を背景に、産業医からの勧告が実質的に配置転換や業務制限に直結するケースが増えています。経済産業研究所の専門家も、これは企業の人事権行使に「医学的視点」が組み込まれたことを意味すると指摘しています。**健康管理はコストではなく、事業継続リスク管理の一部**として再定義されているのです。
このように、働き方改革関連法がもたらした最大の実務インパクトは、労務管理を人事部門だけの問題から、経営トップと現場管理職を巻き込む全社的テーマへと押し上げた点にあります。法令遵守を出発点に、生産性、コスト、人的資本価値をどう両立させるかが、2026年に向けた企業経営の力量を測る試金石となっています。
育児・介護と仕事の両立を巡る制度変更の意味
2025年の育児・介護を巡る制度変更は、単なる支援拡充ではなく、仕事とケアの関係性そのものを再定義する意味を持っています。これまで育児や介護は「個人の事情」として扱われがちでしたが、**制度改正によって企業が主体的に関与すべき経営課題へと位置づけ直された**点が最大の特徴です。
象徴的なのが、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、複数の柔軟な働き方を選択肢として提示することが事業主の義務となる点です。テレワークや短時間勤務を一律に指定するのではなく、**労働者が自ら選べる設計**が求められます。厚生労働省の検討資料でも、制度利用率の低さの背景に「選択肢の乏しさ」があったと指摘されており、制度の実効性を高める狙いが明確です。
子の看護休暇の拡充も、実務への影響は小さくありません。対象年齢が小学校3年生まで引き上げられ、学級閉鎖や入学式への参加が認められることで、突発的・断続的な休暇取得が前提となります。**欠勤ではなく制度利用として整理されることで、評価やキャリアへの不利益を抑制する効果**が期待されます。
| 項目 | 従来 | 2025年以降 |
|---|---|---|
| 柔軟な働き方 | 努力義務・限定的 | 複数制度の提示が実質義務 |
| 子の看護休暇 | 病気・けが中心 | 学級閉鎖・行事参加も対象 |
| 企業の位置づけ | 福利厚生 | コンプライアンス |
介護分野では、直接企業を縛る改正以上に、介護保険制度の持続可能性を高める動きが重要です。介護サービス事業者に経営情報の報告を義務づけた改正は、現場の透明性を高め、結果としてビジネスケアラーの不安定さを軽減します。日本総合研究所などの分析でも、**介護離職の主因は制度不足ではなく将来不安**であるとされ、間接的支援の意義は大きいとされています。
これらの制度変更が示すのは、「育児・介護を理由に働き方を緩める」のではなく、**ライフステージを織り込んだ働き方を前提に生産性を設計する社会への転換**です。企業にとっては運用負荷が増す一方、対応できない企業は人材流出という形で競争力を失います。制度変更は優しさの表明ではなく、労働市場における新しいルール提示だと言えるでしょう。
つながらない権利が示す新しい労働時間観

つながらない権利は、単なる勤務時間外の連絡禁止ルールではなく、労働時間そのものの捉え方を再定義する概念として注目されています。テレワークや業務用チャットの常態化により、従来は明確だった「労働時間」と「非労働時間」の境界が溶け出した結果、実労働が可視化されにくくなりました。その歪みを是正する思想が、つながらない権利の核心です。
欧州ではすでに制度化が進んでいます。フランスでは2017年に労働法典へ明記され、従業員50人以上の企業に対し、勤務時間外のデジタル連絡に関する社内協定の策定を義務付けました。欧州労働安全衛生機関によれば、この取り組みは長時間労働の抑制だけでなく、心理的ストレスの低減にも寄与したと報告されています。
一方、日本では明文規定こそ存在しませんが、厚生労働省の検討会や専門家の議論では、黙示的な時間外労働をどう扱うかが主要論点となっています。Canonの2026年制度予測でも、法制化に先立ち、企業による自主的ルール整備が強く求められる流れが示されています。
| 観点 | 従来の労働時間観 | つながらない権利が示す視点 |
|---|---|---|
| 時間の区切り | 出退勤時刻が中心 | 連絡可能性そのものを管理 |
| 評価対象 | 在席・応答の速さ | 成果と集中の質 |
| リスク | 長時間労働 | 常時接続による疲弊 |
実務面では、すでに先行事例が現れています。深夜や休日のメール送信をサーバー側で自動停止する仕組み、役員自らが休日連絡を行わないと宣言するトップダウン型の運用などです。これらは福利厚生ではなく、労務リスク管理と生産性戦略の一体化として導入されています。
研究面でも示唆は明確です。リクルートワークス研究所のワーク・エンゲージメント調査によれば、仕事から心理的に切り離される時間を確保できている層ほど、エンゲージメントと幸福感が高い傾向が確認されています。常につながる状態は、努力や献身ではなく、むしろパフォーマンス低下の要因になり得るのです。
つながらない権利が示す新しい労働時間観とは、時間を増やすか減らすかの議論ではありません。働く時間と回復する時間を意図的にデザインするという発想への転換です。2026年に向け、日本企業はこの概念をどう制度と文化に落とし込めるかが問われています。
テレワーク実施率の停滞と出社回帰の背景
コロナ禍を契機に急拡大したテレワークですが、2025年から2026年にかけて、その実施率は明確に停滞局面に入っています。パーソル総合研究所の調査によれば、2025年7月時点の正規雇用社員におけるテレワーク実施率は22.5%と、前年からほぼ横ばいで推移しています。**一度は社会実装されたはずのテレワークが、普及フェーズから「選別フェーズ」へ移行した**ことを示す数字です。
特に注目すべきは企業規模による差です。従業員1万人以上の大企業では実施率が前年差で低下しており、オフィス回帰の動きが鮮明になっています。一方、中小企業では実施率がもともと低水準にとどまり、業務の性質以前にIT投資や制度整備の遅れが壁となっています。国土交通省や労働政策研究・研修機構の分析でも、「テレワークで行える業務ではない」よりも「制度が整っていない」ことを理由に挙げる企業が増えている点が指摘されています。
| 区分 | 2025年の傾向 | 背景要因 |
|---|---|---|
| 大企業 | 実施率が低下 | 組織統制・文化再構築を重視 |
| 中小企業 | 低水準で停滞 | IT・セキュリティ投資不足 |
この停滞とは対照的に、従業員側の意識は大きく乖離しています。同調査では、テレワーク実施者の82.2%が「今後も続けたい」と回答しており、継続希望率は過去最高水準に達しました。**テレワークはもはや一時的な福利厚生ではなく、生活設計を支えるインフラとして認識され始めている**ことが読み取れます。通勤時間の削減や育児・介護との両立といった実利的価値が、個人の中で定着した結果です。
それでも出社回帰が進む背景には、経営側の合理的な判断があります。LINEヤフーや米Amazonなど、かつてリモートワークの先進事例とされた企業が出社比率を引き上げたことは象徴的です。経営陣は、リモート環境下での中間管理職の負荷増大、若手育成の難しさ、偶発的な対話の減少によるイノベーション低下を課題として挙げています。ハーバード・ビジネス・スクールの研究でも、完全リモート環境では弱い紐帯から生まれる創造的アイデアが減少する可能性が示唆されています。
さらに見逃せないのが、テレワークがもたらす「見えないコスト」です。パーソル総合研究所の研究では、孤独感や疎外感が高まることで、エンゲージメントが低下するリスクが指摘されています。**効率性を高めるはずのテレワークが、放置すれば人材流出の引き金になり得る**という逆説が、出社回帰を後押ししているのです。
結果として現在の停滞は、テレワークそのものの失敗ではなく、「一律運用」の限界が露呈した状態だと言えます。業務特性や組織フェーズを無視した全面リモートも、逆に画一的な出社強制も、いずれも持続可能ではありません。2026年に向けて企業に問われているのは、実施率の高低ではなく、**なぜ出社し、なぜリモートを使うのかという戦略的説明力**なのです。
経営層と現場に広がるテレワーク意識ギャップ
テレワークを巡る最大の論点は、制度や技術そのものではなく、経営層と現場の意識のズレにあります。2025年時点で、パーソル総合研究所の調査によれば、テレワーク実施者の82.2%が今後も継続を希望しており、この数値は過去最高水準に達しています。一方で、多くの企業で出社回帰の方針が打ち出されている現実は、両者の認識が決定的に乖離していることを示しています。
現場側にとってテレワークは、単なる利便性ではありません。通勤時間の削減による可処分時間の増加、育児や介護との両立、集中環境の確保など、**生活基盤を支えるインフラ**として認識されています。特に共働き世帯や専門職ほど、この恩恵を実感しており、「元に戻る」こと自体がキャリアリスクだと捉えられ始めています。
対照的に経営層が重視するのは、組織全体の成果や中長期的な競争力です。リクルートワークス研究所やパーソル総合研究所の分析でも、経営側の懸念として繰り返し挙げられるのは、コミュニケーションの質の低下、若手育成の難しさ、イノベーション創出の停滞です。これらは定量化しにくく、だからこそ「出社したほうが安心」という判断に傾きやすい構造があります。
| 視点 | 経営層の主な認識 | 現場の主な認識 |
|---|---|---|
| 生産性 | 対面の方が全体最適 | 個人の集中度は向上 |
| 人材育成 | OJTは出社前提 | 成果ベースで評価してほしい |
| 帰属意識 | 物理的接触が重要 | 柔軟性が信頼を生む |
このギャップを拡大させている要因の一つが、中間管理職の存在です。テレワーク環境では、成果管理やメンタルケア、育成の負荷が管理職に集中しやすく、現場の要望と経営方針の板挟みになります。パーソル総合研究所も、テレワークが停滞する背景として「マネジメントの壁」を明確に指摘しています。
象徴的なのが、先進的なリモート制度で知られた大手IT企業が、2025年以降に相次いでフルリモートを見直した動きです。経営判断としては合理的でも、現場からは「合意形成が不十分」「一律ルールへの反発」といった声が上がり、エンゲージメント低下を招いたケースも報告されています。**意識ギャップが埋まらないままの出社回帰は、静かな人材流出を引き起こすリスク**をはらんでいます。
重要なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。経営層が懸念する課題は実在し、同時に現場のテレワーク継続意向も合理的です。この断層を放置せず、職種やチーム単位での合意形成、評価制度やマネジメント手法のアップデートに踏み込めるかどうかが、2026年以降の組織競争力を左右する分水嶺になりつつあります。
大手企業の事例に見るハイブリッドワークの現実
ハイブリッドワークは理想的な折衷案として語られがちですが、大手企業の実態を見ると、その運用は決して単純ではありません。2025年から2026年にかけて、日本を含むグローバル企業では「柔軟性」と「統制」のバランスを巡る試行錯誤が続いています。特に注目すべきは、先進的と評価されてきた企業ほど、現実的な制約に直面している点です。
象徴的な事例が、米Amazonの方針転換です。同社はコロナ禍以降、職種に応じたリモートワークを認めてきましたが、2025年には原則週5日の出社を求める方針を明確にしました。経営陣は社内コミュニケーションや意思決定の速度低下を理由に挙げています。これは、効率性の数値化が難しいイノベーション領域では、対面の価値が再評価されやすいことを示しています。
日本企業でも同様の動きが見られます。LINEヤフーは「どこでもオフィス」制度で国内外から注目を集めましたが、2025年以降はフルリモートを原則としない体制へ移行しました。パーソル総合研究所の調査によれば、テレワーク実施率は横ばいである一方、管理職層の負荷増大が顕在化しています。**制度としての柔軟性が、マネジメントの持続可能性と必ずしも両立しない**という現実が浮き彫りになりました。
| 企業名 | ハイブリッド方針 | 主な狙い |
|---|---|---|
| Amazon | 原則週5日出社 | 意思決定速度と一体感の回復 |
| LINEヤフー | 出社と在宅の併用 | 育成・文化維持の強化 |
| メルカリ | 週2日程度の出社推奨 | 自律性と協働の両立 |
一方で、完全な出社回帰が万能解ではないこともデータは示しています。テレワーク経験者の8割以上が継続を希望しているという調査結果は、柔軟性が人材定着に直結していることを意味します。リクルートワークス研究所の研究でも、裁量度の高い働き方はワーク・エンゲージメントを高め、離職意向を下げるとされています。
こうした状況下で、多くの大手企業が採用しているのが「チーム単位」でのハイブリッド設計です。全社一律ではなく、業務特性やプロジェクトのフェーズに応じて出社頻度を調整する手法です。**ハイブリッドワークの現実は、場所の自由ではなく、調整コストをいかにマネジするかに集約されつつあります。**
大手企業の事例が示すのは、ハイブリッドワークが完成形ではなく、経営戦略と組織文化に応じて常に更新される「動的な仕組み」だという点です。柔軟性を掲げるだけでは不十分であり、その運用を支える評価制度、育成プロセス、マネジメント能力まで含めて設計できるかどうかが、2026年以降の競争力を左右します。
副業市場の拡大とプロフェッショナル化の進展
副業市場は2025年から2026年にかけて、量的拡大の段階を越え、明確にプロフェッショナル市場へと移行しています。パーソル総合研究所の調査によれば、副業の平均時給は3,617円、中央値でも2,083円に達し、過去最高水準を更新しました。これは単純作業型の副業が中心だった数年前とは構造が異なり、IT、データ分析、マーケティング、経営企画、専門コンサルティングといった高付加価値領域が市場を牽引していることを示しています。
副業が「余暇の延長」ではなく、「もう一つの専門職」として評価され始めている点が、現在の最大の特徴です。企業側も即戦力性を強く意識するようになり、成果物ベースで報酬を支払う契約形態が増加しました。経済産業研究所(RIETI)でも、人的資本の流動化を促す実践的手段として、副業の役割が繰り返し言及されています。
特に注目すべきは、副業が採用市場の前工程として機能し始めている点です。同調査では、副業経験者の6.7%が副業先企業へ転職しており、20代では13.6%に上ります。履歴書や面接では把握しにくいスキル水準やカルチャーフィットを、実務を通じて相互に検証できるため、企業にとっては採用リスクの低減、個人にとってはキャリアの選択肢拡張という合理的な結果を生んでいます。
| 観点 | 従来型副業 | プロフェッショナル副業 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 収入補填 | 専門性の発揮・実績構築 |
| 報酬水準 | 低〜中 | 中〜高(時給3,000円超も一般化) |
| 企業側の期待 | 作業遂行 | 成果・課題解決 |
一方で、市場の成熟と引き換えに、見過ごせない課題も顕在化しています。それが過重労働のリスクです。副業時間と本業の残業時間を合算すると、月45時間を超える層が約3割に達し、その半数が企業に申告していないというデータもあります。労働基準法上、労働時間は通算管理が原則であり、副業のプロ化は、労務管理の高度化を企業に突きつけているとも言えます。
また、副業を通じたリスキリング効果も無視できません。パーソルイノベーションの調査では、副業を認める企業ほど、従業員の学習意欲や市場価値向上への意識が高い傾向が示されています。社外で獲得したスキルや知見が本業に還元されることで、組織全体の競争力が底上げされる好循環が生まれつつあります。
副業市場の拡大とプロフェッショナル化は、単なる働き方の多様化ではありません。それは、個人が専門性を軸に複数の経済圏と接続し、企業が必要なスキルを柔軟に調達する、新しい労働市場インフラの形成を意味しています。この構造変化をどう設計し、どう管理するかが、2026年以降の企業競争力を左右する重要な分岐点になっています。
副業がもたらすリスキリング効果と過重労働リスク
副業は2025年以降、単なる収入補填ではなく、実務を通じてスキルを更新するリスキリングの場として位置づけが大きく変わりました。パーソル総合研究所の副業調査によれば、副業実施者の多くが「本業では得られない経験」を目的にしており、特にIT、マーケティング、事業開発領域では、社外プロジェクトへの参画が学習効果を高めているとされています。
研修やeラーニングと異なり、副業は成果責任を伴うため、知識が即座に実践知へと転換されます。限られた時間で価値を出す経験そのものが、問題解決力や専門性の深化につながる点が最大の特徴です。実際、みらいワークスの企業調査でも、副業解禁企業の多くが「社員の視野拡大」「スキルの社内還流」を導入効果として挙げています。
| 観点 | リスキリング効果 | 潜在的リスク |
|---|---|---|
| 個人 | 実務ベースでのスキル獲得、市場価値の可視化 | 長時間化による疲労、学習効率の低下 |
| 企業 | 社外知の還流、イノベーション刺激 | 労働時間通算管理の複雑化 |
一方で見過ごせないのが過重労働リスクです。同研究所のデータでは、本業と副業を合算した時間外労働が月45時間を超える層が約3割存在し、その半数近くが会社に申告していません。副業が自己研鑽であるという認識が、法的には「労働時間」である事実を曖昧にしているのが現状です。
特に若手・専門職ほど「成長機会を逃したくない」という心理から、副業時間が膨張しやすい傾向があります。リクルートワークス研究所が指摘するように、学習と就労の境界が曖昧な状態は、短期的なスキル獲得と引き換えに、中長期のエンゲージメント低下や健康リスクを招きかねません。
副業を真のリスキリング手段として機能させるには、量ではなく質を管理する視点が不可欠です。企業側には通算労働時間の把握と産業医連携、個人側には学習目的と稼働上限を明確にするセルフマネジメントが求められます。副業は万能薬ではなく、設計次第で成長装置にも消耗装置にもなり得ることを、今あらためて認識する必要があります。
人手不足時代に選ばれる企業の条件
人手不足が常態化する2026年の労働市場において、企業が人材から選ばれるかどうかは、待遇や知名度だけで決まらなくなっています。「この会社で長く、安心して働き続けられるか」という視点が、あらゆる層の求職者に共有されているためです。リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査では、2026年卒で約30万人の求人超過が見込まれ、構造的な人手不足が続くことが示されています。
この環境下で選ばれる企業に共通するのは、柔軟な制度の有無そのものではなく、その運用の質です。働き方改革関連法や育児・介護休業法の改正により、多くの制度は「あって当たり前」になりました。差がつくのは、制度が現場で本当に機能し、個々人の事情に応じて使えるかどうかです。
例えば、同じフレックスタイム制を導入していても、上司の暗黙の了解で利用が制限されている企業と、成果ベースで利用が歓迎される企業とでは、従業員のエンゲージメントに大きな差が生まれます。パーソル総合研究所の調査でも、柔軟な働き方を実感できている層ほど、継続就業意向が高い傾向が示されています。
| 観点 | 選ばれにくい企業 | 選ばれる企業 |
|---|---|---|
| 制度の位置づけ | 法対応・形式的 | 経営戦略の一部 |
| 柔軟性の実態 | 使いにくい・例外扱い | 職種別・個別最適 |
| マネジメント | 時間管理重視 | 成果と信頼重視 |
また、人手不足時代において重要性を増しているのが、キャリアの自律性を尊重する姿勢です。副業や社外活動を単なる例外扱いにせず、リスキリングや人材育成の一環として捉える企業は、結果的に離職率が低くなります。副業経験者の一定割合が副業先へ転職しているというデータは、企業側が「試される立場」にあることを示しています。
さらに見逃せないのが、心理的安全性と健康配慮です。勤務間インターバルや、将来的に議論が進む「つながらない権利」への対応は、単なる福利厚生ではなく、持続的に働ける職場かどうかを測る指標になりつつあります。リクルート系の研究では、ワーク・エンゲージメントの高さが離職意向の低下と強く結びつくことが明らかにされています。
人手不足時代に選ばれる企業とは、待遇を競う企業ではありません。人の生活と成長を前提に、働く仕組みをアップデートし続けられる企業です。その姿勢が、結果として採用力と定着率の双方を高め、長期的な競争優位につながっていきます。
ワーク・エンゲージメントと人的資本経営の視点
ワーク・エンゲージメントは、人的資本経営を実質化するための中核指標として、2025年から2026年にかけて日本企業の間で急速に注目度を高めています。単なる従業員満足度とは異なり、仕事に対する活力、熱意、没頭の度合いを測る概念であり、個人の内発的動機と組織成果をつなぐ架け橋と位置づけられています。
リクルートワークス研究所やリクルートマネジメントソリューションズの調査によれば、ワーク・エンゲージメントが高い層ほど離職意向が低く、主観的幸福感や自己成長感が有意に高いことが示されています。特に注目すべきは、柔軟な働き方そのものよりも、裁量性や心理的安全性が担保されているかどうかがエンゲージメントを左右するという点です。
人的資本経営の文脈では、こうしたエンゲージメントは「測定し、投資し、開示する」対象へと変化しています。経済産業省が推進する人的資本可視化の流れの中で、多くの上場企業が非財務指標としてエンゲージメントサーベイを導入し、戦略KPIに組み込むようになりました。これは人材をコストではなく資本として扱う発想への転換を意味します。
| 観点 | 従来型人事 | 人的資本経営 |
|---|---|---|
| 人材の位置づけ | 管理対象 | 価値創出の源泉 |
| 重視指標 | 勤続年数・満足度 | ワーク・エンゲージメント |
| 柔軟な働き方 | 福利厚生 | 投資リターン最大化手段 |
慶應義塾大学の鶴光太郎氏が指摘するように、AI時代の人的資本経営では、スキルや経験だけでなく、主体性や学習意欲といった非認知能力の重要性が増しています。ワーク・エンゲージメントは、これら目に見えにくい価値を捉える数少ない指標であり、組織文化やマネジメントの質を映し出す鏡でもあります。
実務の現場では、テレワークや副業の可否以上に、上司との対話頻度、評価の納得感、成長機会へのアクセスがエンゲージメントに強く影響します。パーソル総合研究所の分析でも、孤独感や疎外感が高まるとエンゲージメントが低下し、生産性や創造性にも負の影響が及ぶことが示されています。
つまり、人的資本経営における本質的な課題は制度設計ではなく運用です。柔軟な働き方を導入しても、目的や期待役割が共有されなければ逆効果になり得ます。個人の自律性を引き出し、組織の戦略と接続する装置としてワーク・エンゲージメントをどう高めるかが、2026年以降の企業価値を左右する重要な分岐点となっています。
参考文献
- 契約ウォッチ:「働き方改革関連法」とは? 9つの対策ポイントを分かりやすく解説!
- Money Forward Biz:労働基準法改正の変更点!2025年の人事労務担当者向け法令改正まとめ!
- MS&AD Compass:【2025年施行】法改正まとめ|育児・介護休業法や雇用保険法などを解説
- パーソル総合研究所:第十回・テレワークに関する調査
- PR TIMES:テレワーク実施率は22.5%、継続希望は82.2%に
- パーソル総合研究所:第四回 副業の実態・意識に関する定量調査
- リクルートワークス研究所:第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)
- RIETI:鶴 光太郎 プロフィール
