医薬品の開発から承認に至るまでの道のりは、多大な時間とコストを必要とします。このプロセスを効率化するために、製薬会社は臨床試験の一部または全てを外部の専門組織、つまり臨床試験受託会社(CRO: Contract Research Organization)に委託することがますます一般的となっています。この記事では、2023年現在の世界の臨床試験受託会社ランキング、時価総額TOP30を紹介します。ランキングは、各企業の経済的な規模と業界における地位を反映しています。
世界の臨床試験受託会社ランキング:時価総額TOP30
下記の世界の臨床試験受託会社ランキング一覧は、本メディアReinforz Insightが各社の公表情報を元に集計している時価総額ランキングです。時価総額は、各企業の株式時価に基づいて算定されており、企業の実質的な価値を示す指標となります。
このランキングを元に分析すると、以下が特徴として見えてきます。
- 地域別の分布: アメリカと中国がランキング上位を占めています。これは、両国が世界の科学技術と経済力の中心であることを反映しています。特に、アメリカはその創新的な科学研究と強力な企業エコシステムで知られています。一方で、日本の企業は中位から下位の範囲に位置しており、日本の企業が国際的な時価総額で競争するにはさらなる成長が必要ということを示している可能性があります。
- 時価総額: 1位のIQVIA Holdings Incと30位のChoksi Laboratories Ltdの間で時価総額には大きな違いがあり、市場規模や各企業の業績に大きな差があることを示しています。ランキングの下位に位置する企業は、より特化したニッチな領域で事業を展開しているか、新興市場に位置している可能性があります。
- 国別企業数: アメリカの企業が最も多く、次に日本、中国、インドが続きます。これはそれぞれの国が持つ経済規模、産業の成熟度、そして研究開発への投資水準を反映している可能性があります。
このような分析を通じて、各国や各企業の時価総額、業界内での位置付け、さらには各国の産業競争力などについて深い理解を得ることができます。
以下は、ランキングトップ5にランクインしている企業です。
1位:IQVIA Holdings Inc(アメリカ)
IQVIAは、製薬と生命科学産業に向けた高度な分析、テクノロジーのソリューション、臨床研究サービスを提供しています。また、大規模な医療データベースを保有しており、製薬企業の製品開発と市場戦略を支援します。
IQVIAのデータ駆動型のアプローチは、製薬産業における意思決定を効率化し、リスクを最小限に抑えることが可能です。その結果、多くの製薬企業から信頼を得ており、強固な顧客基盤と高い利益を実現しています。
2位:Wuxi AppTec Co Ltd(中国)
Wuxi AppTecは、製薬、バイオテクノロジー、医療機器企業向けの一連の研究開発と製造サービスを提供しています。サービスは、前臨床開発から臨床試験、製造までの全範囲をカバーしています。
Wuxi AppTecの包括的なサービスと、中国という急速に成長する医薬品市場へのアクセスは、同社を生命科学企業の魅力的なパートナーとして位置づけています。
3位:Icon PLC(アイルランド)
Icon PLCは世界的な臨床研究組織(CRO)で、製薬とバイオテクノロジー業界に臨床試験管理と他の開発サービスを提供しています。
Icon PLCは、グローバルなネットワークと豊富な専門知識を活用して、製薬企業が新製品を効率的かつ効果的に市場に導入できるよう支援しています。
4位:エムスリー(日本)
エムスリーは、医療関連情報の提供と医療機関と製薬会社をつなぐプラットフォームを提供しています。医療業界向けのオンラインマーケティングや市場調査も行っています。
デジタル化が進む医療業界で、エムスリーのプラットフォームは製薬会社と医療専門家の間のコミュニケーションを改善し、情報共有を容易にしています。
5位:Charles River Laboratories International Inc(アメリカ)
Charles River Laboratoriesは、製薬、バイオテクノロジー、医療機器企業向けの各種の研究サービスを提供しています。これには、早期発見研究から安全性評価、製造支援までが含まれます。
Charles River Laboratoriesは、製薬研究のあらゆるステージをカバーするサービスを提供しているため、企業が製品の開発と製造に集中することができます。その結果、製薬会社からの信頼とビジネスを獲得しています。
これらの企業は、それぞれの市場での位置づけやビジネスモデルにより、高い時価総額を達成しています。また、製薬と生命科学産業は大規模な投資と専門的な知識を必要とするため、これらの企業が提供するサービスは極めて重要であり、その結果として高い評価を得ていると言えます。
【世界の臨床試験受託会社ランキング:時価総額TOP30リスト】
※対象となる臨床試験受託会社として「上場企業」かつ「臨床試験受託会社業を展開している企業」
※対象決算期はデータ入手が可能な直近決算期を採用
※時価総額は記事執筆時点(2023年7月7日)の株価および為替レートで算出
ランキング | 企業名 | 所在国 | 決算期 (決算期) | 時価総額(億円) |
1 | IQVIA Holdings Inc | アメリカ | 2022/12 | 55,344 |
2 | Wuxi AppTec Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 35,230 |
3 | Icon PLC | アイルランド | 2022/12 | 27,201 |
4 | エムスリー | 日本 | 2023/03 | 21,109 |
5 | Charles River Laboratories International Inc | アメリカ | 2022/12 | 14,280 |
6 | Hangzhou Tigermed Consulting Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 10,727 |
7 | Medpace Holdings Inc | アメリカ | 2022/12 | 9,721 |
8 | Pharmaron Beijing Co Ltd | 香港 | 2022/12 | 8,079 |
9 | Abcam PLC | イギリス | 2022/12 | 6,848 |
10 | Syneos Health Inc | アメリカ | 2022/12 | 5,800 |
11 | Evotec SE | ドイツ | 2022/12 | 5,159 |
12 | Syngene International Ltd | インド | 2023/03 | 5,044 |
13 | Certara Inc | アメリカ | 2022/12 | 3,860 |
14 | Stratec SE | ドイツ | 2022/12 | 1,090 |
15 | 新日本科学 | 日本 | 2023/03 | 887 |
16 | Boji Medical Technology Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 736 |
17 | インテージホールディングス | 日本 | 2022/06 | 661 |
18 | PT Prodia Widyahusada Tbk | インドネシア | 2022/12 | 454 |
19 | シミックホールディングス | 日本 | 2022/09 | 365 |
20 | CrystalGenomics Inc | 大韓民国 | 2022/12 | 317 |
21 | アイロムグループ | 日本 | 2023/03 | 242 |
22 | リニカル | 日本 | 2023/03 | 202 |
23 | WDBココ | 日本 | 2023/03 | 154 |
24 | Vimta Labs Ltd | インド | 2023/03 | 148 |
25 | トランスジェニック | 日本 | 2023/03 | 52 |
26 | China Health Group Inc | 中国 | 2022/12 | 32 |
27 | フェニックスバイオ | 日本 | 2023/03 | 22 |
28 | Malaysian Genomics Resource Centre Bhd | マレーシア | 2022/06 | 19 |
29 | Jeevan Scientific Technology Ltd | インド | 2023/03 | 12 |
30 | Choksi Laboratories Ltd | インド | 2023/03 | 6 |
出典:各社プレスリリースなど
世界の臨床試験受託会社ランキングの有用性
臨床試験受託会社(CRO: Contract Research Organization)のランキングは、多くの観点から有用な情報を提供します。以下にいくつかの主な利点を示します
- 市場の透明性: ランキングは、CRO業界の主要なプレイヤーとその規模を明示的に示します。これにより、業界の動向、競争状況、各企業の相対的な市場シェアなどを評価するのに役立ちます。
- 投資決定の支援: 投資家やアナリストにとって、ランキングは投資対象となる企業の選定や投資決定を行う際の重要な参考情報となります。市場価値や業界での地位などの情報は、企業の財務健全性や将来性を評価するために使われます。
- パートナーシップ選定の指標: 製薬企業やバイオテクノロジー企業などが、新しい薬剤や治療法の開発を進める際に、CROとパートナーシップを組むことが多くあります。ランキング情報は、信頼性や専門性を考慮したパートナー選定の一助となります。
- 業界動向の把握: 時価総額ランキングは、各企業がどのように成長または縮小しているかを示すものであり、業界全体のトレンドや動向を理解する上で有益です。これは、規制の変化、技術の進歩、市場の成熟度など、業界全体の動きを把握する上で重要です。
- 市場リサーチ: 市場研究者やアナリストにとって、ランキングは特定の市場セグメントにおけるビジネスの規模と成功を評価する基盤を提供します。これは、戦略的な意思決定、市場調査、競合分析などに利用できます。
ただし、ランキングが提供する情報は一部の視点に限られるため、全体像を理解するためには、その他の情報(企業の業績、製品ポートフォリオ、戦略、技術力など)も考慮することが重要です。
世界の臨床試験受託会社ランキング:変化を与える要素
世界の臨床試験受託会社ランキングに変化を与える要素は、以下の通りです。
業績と収益性
会社の収益や利益は、時価総額と密接に関連しています。そのため、企業の財務状況や業績が良好であればあるほど、ランキングは高くなる可能性があります。
新規契約
新規の臨床試験契約を獲得すると、企業の収益見通しが改善し、その結果、株価が上昇し、時価総額ランキングも上昇します。
製薬会社との関係
製薬会社との長期的なパートナーシップや信頼関係が確立している場合、それは安定した収益源となり、結果的にランキングを上げる要素となります。
研究開発の成功
企業が受託した臨床試験が成功し、新薬が承認されると、その成功は企業の評価を高め、新たなビジネスチャンスを生み出します。
M&A(合併・買収)
CROが他の企業を買収することで規模を拡大し、市場シェアを増やすことが可能となります。これにより時価総額が増加し、ランキングが上昇します。
規制や政策の変更
特に、新薬の臨床試験や製造に関わる規制や政策が変更されると、CROのビジネス環境に大きな影響を及ぼす可能性があります。規制が厳格化されれば、それが企業の業績にネガティブに影響を及ぼす可能性があり、逆に規制緩和はポジティブな影響をもたらす可能性があります。
業界のトレンド
医療や製薬業界のトレンド、例えばパーソナライズド医療の進展やレアディジーズ(希少疾患)への注目度なども、CROの需要と評価を左右します。
これらの要素が複雑に絡み合い、企業の時価総額とランキングを決定します。
まとめ
本記事では、2023年最新版の世界の臨床試験受託会社ランキング、時価総額TOP30を掲載しました。市場の規模や競争状況を把握するために、ランキングは重要な情報源となります。一方で、ランキングだけでは全てを語りつくすことはできません。企業の業績、新規契約の獲得、製薬会社との関係、研究開発の成功、M&A、規制や政策の変更、業界のトレンドなど、ランキングに影響を及ぼす要素は多岐にわたります。
今後もCRO業界は製薬業界のトレンドや技術進歩、規制環境などの変化に伴って、その動きを見せるでしょう。引き続き最新の情報に注目しつつ、この興味深い業界の動向を追っていきましょう。