近年、世界の外航海運業界は急速な変動と革新を見せています。経済の動向、燃料価格の変動、技術の進歩、環境規制、そして地政学的な要因など、多岐にわたる要素が外航海運会社の競争状況や市場のポジションを変える原動力となっています。
そんな中、2023年最新のデータをもとに、時価総額でのランキングTOP100を紹介します。このランキングを通じて、現在の海運業界のリーダーたちはどのような戦略を取りながら、どのような課題に立ち向かっているのか、その全貌が明らかになるでしょう。
世界の外航海運会社ランキング:時価総額TOP100
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下記の世界の外航海運会社ランキング一覧は、本メディアReinforz Insightが各社の公表情報を元に集計している時価総額ランキングです。時価総額は、各企業の株式時価に基づいて算定されており、企業の実質的な価値を示す指標となります。
このランキングを元に分析すると、以下が特徴として見えてきます。
- 地域的な分布
- アジアの国々(特に中国、日本、台湾、香港、大韓民国)がリストに多く名を連ねており、その経済的な影響力と船舶運送における主要な地位を示しています。
- ヨーロッパの企業もランキング上位に位置しており、ドイツやデンマークなどが特に目立ちます。
- 一方で、アメリカの企業はランキングの下位に位置しているものが多いことがわかります。
- トップ企業の特徴
- Hapag-Lloyd AG、A. P. Moller Maersk A/S、COSCO SHIPPING Holdings Co Ltd がトップ3を形成しており、それぞれが異なる国を拠点としています。これにより、海運業界のリーダーシップは地域的に多様であることが示されます。
- 企業のサイズの分散性
- トップ企業は非常に大きな時価総額を持っており、ランキングが下がるにつれて時価総額は減少しています。この分布は、業界内での企業規模の大きな格差を示している可能性があります。
- 国ごとの特徴
- 中国: COSCO関連の企業が複数リストに含まれており、中国の海運業界の影響力を強調しています。
- 日本: 複数の日本の企業がランキング内に位置しており、日本の海運業界も健在であることが示されています。
- その他の地域性
- バミューダに登記されている企業が複数あります。これは、バミューダがタックスヘイブンとしての地位を持っているため、多くの海運関連企業がそこに法人を置く傾向があることを示しています。
以上の特徴を基に、このリストは世界の海運業界の動向や主要なプレイヤー、地域的な影響力を示していると言えるでしょう。
以下は、ランキングトップ5にランクインしている企業です。
1位:Hapag-Lloyd AG(ドイツ)
ドイツを本拠地とする大手コンテナ輸送会社。世界中の主要港にサービスを提供している。
グローバルでの強固なネットワークとサービス範囲。一貫した業績と効率的な運営。
2位:A. P. Moller Maersk A/S(デンマーク)
世界最大級の船舶運用会社。一連の物流サービスも提供している。
圧倒的な規模とブランドの信頼性。多様なサービスと包括的な物流ソリューション。
3位:COSCO SHIPPING Holdings Co Ltd(中国)
中国最大の船舶運用会社。世界中で広範なサービスを提供。
中国の経済成長とともに拡大してきた実績。世界各地での強固なネットワーク。
4位:日本郵船(日本)
日本を代表する大手船舶運用会社。多様な船舶を運営し、さまざまな貨物を扱っている。
安定した運営と長い歴史。高品質なサービスと技術の革新。
5位:商船三井(日本)
世界中での輸送サービスを提供する日本の伝統的な企業。さまざまなタイプの船舶を運営している。
信頼性の高いサービスと広範なネットワーク。継続的な技術革新と業界への貢献。
これらの企業は、それぞれの地域での長い歴史、強固なネットワーク、技術革新、高品質なサービスによって、ランキング上位に位置しています。
【世界の外航海運会社ランキング:時価総額TOP100リスト】
※対象となる外航海運会社として「上場企業」かつ「外航海運業を展開している企業」
※対象決算期はデータ入手が可能な直近決算期を採用
※時価総額は記事執筆時点(2023年7月26日)の株価および為替レートで算出
ランキング | 企業名 | 所在国 | 決算期 (決算期) | 時価総額(億円) |
1 | Hapag-Lloyd AG | ドイツ | 2022/12 | 50,724 |
2 | A. P. Moller Maersk A/S | デンマーク | 2022/12 | 45,306 |
3 | COSCO SHIPPING Holdings Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 30,531 |
4 | 日本郵船 | 日本 | 2023/03 | 17,432 |
5 | 商船三井 | 日本 | 2023/03 | 13,442 |
6 | Orient Overseas (International) Ltd | 香港 | 2022/12 | 13,389 |
7 | COSCO SHIPPING Energy Transportation Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 12,743 |
8 | 川崎汽船 | 日本 | 2023/03 | 10,500 |
9 | HMM | 大韓民国 | 2022/12 | 9,854 |
10 | China Merchants Energy Shipping Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 9,831 |
11 | MISC Bhd | マレーシア | 2022/12 | 9,553 |
12 | Evergreen Marine Corp. (Taiwan) Ltd. | 台湾 | 2022/12 | 9,237 |
13 | Quinenco SA | チリ | 2022/12 | 7,331 |
14 | Hyundai Glovis Co Ltd | 大韓民国 | 2022/12 | 7,319 |
15 | SITC International Holdings Co Ltd | 香港 | 2022/12 | 7,230 |
16 | Yang Ming Marine Transport Corp. | 台湾 | 2022/12 | 7,145 |
17 | Cosco Shipping Development Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 6,492 |
18 | Wan Hai Lines Ltd. | 台湾 | 2022/12 | 6,172 |
19 | Compania Sud Americana de Vapores SA | チリ | 2022/12 | 4,943 |
20 | Frontline Plc | キプロス | 2022/12 | 4,375 |
21 | Matson Inc | アメリカ | 2022/12 | 4,202 |
22 | Euronav NV | ベルギー | 2022/12 | 3,996 |
23 | Wallenius Wilhelmsen ASA | ノルウェー | 2022/12 | 3,815 |
24 | Golar LNG Ltd | バミューダ | 2022/12 | 3,412 |
25 | Atlas Corp | イギリス | 2022/12 | 3,346 |
26 | PT Transcoal Pacific Tbk | インドネシア | 2022/12 | 3,336 |
27 | Scorpio Tankers Inc | モナコ | 2022/12 | 3,011 |
28 | PanOcean Co Ltd | 大韓民国 | 2022/12 | 2,769 |
29 | COSCO SHIPPING Specialized Carriers Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 2,626 |
30 | DFDS A/S | デンマーク | 2022/12 | 2,607 |
31 | TORM PLC | イギリス | 2022/12 | 2,529 |
32 | Pacific Basin Shipping Ltd | 香港 | 2022/12 | 2,156 |
33 | Dampskibsselskabet NORDEN A/S | デンマーク | 2022/12 | 2,074 |
34 | DHT Holdings Inc | バミューダ | 2022/12 | 1,890 |
35 | BW LPG Ltd | シンガポール | 2022/12 | 1,793 |
36 | Great Eastern Shipping Co Ltd | インド | 2023/03 | 1,790 |
37 | Danaos Corp | ギリシャ | 2022/12 | 1,743 |
38 | Teekay Tankers Ltd | バミューダ | 2022/12 | 1,688 |
39 | Wilh. Wilhelmsen Holding ASA | ノルウェー | 2022/12 | 1,610 |
40 | SFL Corp Ltd | バミューダ | 2022/12 | 1,572 |
41 | U-Ming Marine Transport Corp. | 台湾 | 2022/12 | 1,563 |
42 | Costamare Inc | モナコ | 2022/12 | 1,545 |
43 | Wisdom Marine Lines Co., Limited | 台湾 | 2022/12 | 1,481 |
44 | Sociedad Matriz SAAM SA | チリ | 2022/12 | 1,458 |
45 | Dorian LPG Ltd | アメリカ | 2023/03 | 1,385 |
46 | Navigator Holdings Ltd | イギリス | 2022/12 | 1,317 |
47 | Sinopec Kantons Holdings Ltd | 香港 | 2022/12 | 1,244 |
48 | Nordic American Tankers Ltd | バミューダ | 2022/12 | 1,067 |
49 | Gemadept Corp | ベトナム | 2022/12 | 973 |
50 | 飯野海運 | 日本 | 2023/03 | 964 |
51 | Global Ship Lease Inc | イギリス | 2022/12 | 954 |
52 | Exmar NV | ベルギー | 2022/12 | 936 |
53 | Odfjell SE | ノルウェー | 2022/12 | 933 |
54 | Navios Maritime Partners LP | モナコ | 2022/12 | 919 |
55 | NSユナイテッド海運 | 日本 | 2023/03 | 863 |
56 | Eimpskipafelag Islands | アイスランド | 2022/12 | 854 |
57 | Avance Gas Holding Ltd | バミューダ | 2022/12 | 836 |
58 | Attica Holdings SA | ギリシャ | 2022/12 | 788 |
59 | Teekay Corp | バミューダ | 2022/12 | 780 |
60 | Regional Container Lines PCL | タイ | 2022/12 | 765 |
61 | Genco Shipping & Trading Ltd | アメリカ | 2022/12 | 756 |
62 | The Shipping Corp of India Ltd | インド | 2023/03 | 752 |
63 | Tsakos Energy Navigation Ltd | ギリシャ | 2022/12 | 690 |
64 | Ardmore Shipping Corp | バミューダ | 2022/12 | 666 |
65 | d’Amico International Shipping SA | ルクセンブルク | 2022/12 | 660 |
66 | Prima Marine PCL | タイ | 2022/12 | 637 |
67 | Korea Line Corp | 大韓民国 | 2022/12 | 628 |
68 | Heung-A Shipping Co Ltd | 大韓民国 | 2022/12 | 583 |
69 | Chang Jiang Shipping Group Phoenix Co Ltd | 中国 | 2022/12 | 575 |
70 | Eagle Bulk Shipping Inc | アメリカ | 2022/12 | 573 |
71 | Hong Kong ChaoShang Group Ltd | 香港 | 2023/03 | 554 |
72 | PT Samudera Indonesia Tbk | インドネシア | 2022/12 | 550 |
73 | Precious Shipping PCL | タイ | 2022/12 | 548 |
74 | Diana Shipping Inc | ギリシャ | 2022/12 | 521 |
75 | Taiwan Navigation Co., Ltd. | 台湾 | 2022/12 | 508 |
76 | Safe Bulkers Inc | モナコ | 2022/12 | 487 |
77 | Sincere Navigation Corporation | 台湾 | 2022/12 | 477 |
78 | Samudera Shipping Line Ltd | シンガポール | 2022/12 | 474 |
79 | BW Epic Kosan Ltd | シンガポール | 2022/12 | 447 |
80 | Thoresen Thai Agencies PCL | タイ | 2022/12 | 447 |
81 | Seacor Marine Holdings Inc | アメリカ | 2022/12 | 421 |
82 | Viking Line Abp | フィンランド | 2022/12 | 416 |
83 | Overseas Shipholding Group Inc | アメリカ | 2022/12 | 412 |
84 | Capital Product Partners LP | ギリシャ | 2022/12 | 411 |
85 | Transimex Corp | ベトナム | 2022/12 | 367 |
86 | Steamships Trading Co Ltd | パプアニューギニア | 2022/12 | 358 |
87 | Grupo Empresas Navieras SA | チリ | 2022/12 | 354 |
88 | 乾汽船 | 日本 | 2023/03 | 332 |
89 | Chinese Maritime Transport Ltd. | 台湾 | 2022/12 | 323 |
90 | Shih Wei Navigation Co., Ltd. | 台湾 | 2022/12 | 319 |
91 | First Steamship Co., Ltd. | 台湾 | 2022/12 | 308 |
92 | PT Humpuss Intermoda Transportasi Tbk | インドネシア | 2022/12 | 299 |
93 | 日本コンセプト | 日本 | 2022/12 | 270 |
94 | KNOT Offshore Partners LP | イギリス | 2022/12 | 258 |
95 | Hoegh LNG Holdings Ltd | ノルウェー | 2022/12 | 236 |
96 | Grindrod Shipping Holdings Ltd | シンガポール | 2022/12 | 225 |
97 | StealthGas Inc | ギリシャ | 2022/12 | 218 |
98 | 明治海運 | 日本 | 2023/03 | 216 |
99 | KSS Line Ltd | 大韓民国 | 2022/12 | 212 |
100 | Shin Yang Group Bhd | マレーシア | 2022/06 | 212 |
出典:各社プレスリリースなど
世界の外航海運会社ランキングの有用性
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外航海運会社のランキングは、海運業界やその関連業界のステークホルダーにとって非常に有用である。以下はその有用性に関するいくつかの考察ポイントです。
- 投資判断の参考情報:ランキングは投資家にとって、各企業の相対的な業績や市場価値の指標となる。この情報は、企業の財務健全性や将来性を判断する上での重要な参考材料となる。
- 競合分析:企業にとって、自社のランキングやその変動は、業界内での競争状況や市場シェアを把握するためのツールとして役立つ。さらに、上位企業の戦略や取り組みを参考にすることで、自社の戦略の見直しや改善策の検討が可能となる。
- 業界のトレンド分析:ランキングの変動や新たな参入企業の動向は、業界全体のトレンドや市場の変化を示す指標となる。例えば、新興国の企業がランキング上位に名を連ねるようになった場合、その地域の経済成長や市場の拡大を示唆している可能性がある。
- ブランド価値の向上:ランキング上位の企業は、その実績をマーケティングや広告に活用することで、ブランドの認知度や信頼性を向上させることができる。
- パートナーシップの形成:ランキング情報は、提携や協力関係を模索する際の参考情報としても利用される。例えば、物流業者や製造業者は、適切な海運会社とのパートナーシップを形成するために、ランキング情報を基に選定を行うことが考えられる。
- リスク管理:ランキングは、特定の企業や業界全体の健全性や安定性に関する情報を提供する。これにより、業界のリスクを評価し、適切なリスク管理策を講じることができる。
- 政策・規制の参考情報:政府や関連機関は、ランキング情報を基に業界の健全性や競争状況を評価し、適切な政策や規制を策定するための参考情報として利用することができる。
以上のように、外航海運会社のランキングは多岐にわたるステークホルダーにとって有益な情報を提供するものと言えます。
世界の外航海運会社ランキング:変化を与える要素
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世界の外航海運会社ランキングに変化を与える要素は、以下の通りです。
経済の全体的な動向
世界経済の成長率や、主要な取引国の経済状況は、貨物の需要や供給に大きく影響します。例えば、経済の低迷や不況は輸出入の減少を引き起こし、それが直接的に海運の需要減少となることもあります。
燃料価格の変動
石油価格の変動は、運賃設定や運営コストに影響を及ぼします。特に燃料価格の急激な上昇は、運営コストの増加として海運会社の利益に影響を及ぼすことがある。
技術革新
新しい船舶技術や燃料節約技術、自動化技術の導入は、運営効率の向上やコスト削減に寄与します。これが競争力の向上に繋がることもある。
環境規制
国際的な環境規制や炭素排出削減の取り組みは、会社が取るべき戦略や投資先を変えることがあります。特に排ガス規制などは、新しい船舶や燃料の導入を必要とすることがある。
地政学的な要因
戦争、紛争、貿易摩擦などの地政学的要因は、特定の航路や地域における運航リスクや貨物の流れに影響を与える。
物流インフラの整備
新しい港の建設や、既存の港の拡充・近代化は、特定の地域との取引量や航路の選択に影響を与えることがあります。
顧客のニーズの変化
顧客の運送ニーズや期待が変わることによって、サービスの内容や質を見直す必要が出てきます。例えば、迅速な配送が求められる場合、より高速な船舶が必要となることがある。
競争状況
同業他社の戦略変更、新規参入、合併や買収など、業界内の動向は直接的にランキングに影響を及ぼします。
政策や規制の変更
各国の政策や規制、特に貿易に関するものは、輸出入の流れやコスト構造に影響を及ぼす可能性があります。
これらの要因は相互に関連し合いながら、外航海運会社の競争環境や市場状況を形成しています。そのため、ランキングに影響を与える要因を考える際には、これらの要因を総合的に評価する必要があります。
まとめ
2023年の外航海運会社ランキング時価総額TOP100を見ると、業界の激動の中でも一貫して高いパフォーマンスを維持している会社や、新たな技術や戦略で急速に成長を遂げている会社が見受けられました。また、環境規制や地政学的な要因にどのように対応するかが、今後の競争力を左右する重要なキーとなることが確認できます。
海運業界は今後も世界経済の動脈としての役割を担い続けるでしょう。その背景にある各会社の戦略や取り組みに注目しながら、今後の動向を見守りたいと思います。