メタバースと聞くとどこか掴みどころがなく、Web業界やテック系企業など一部の業界だけが関係するものと思っていませんか。実は、メタバースは建築業界にも多大な影響を与える可能性があり、さまざまな活用事例も生まれています。

本記事では、建築業界においてメタバースが注目されている理由や活用事例を5つ紹介します。メタバースと建築の関係性を理解し、ご自身の事業領域に活かしましょう。

メタバースが建築業界に与える影響とは?注目されている3つの理由

建築業界においてメタバースが注目されている理由は、以下の3つが挙げられます。

  1. 仮想空間で空間設計ができる
  2. 作業工数やコスト削減につながる
  3. NFTを活用して土地を所有できる

メタバースと建築業界は親和性が高く、新たな事業創造や・ビジネスモデル構築が比較的しやすいというメリットがあります。建築業界にメタバースを取り入れる際の着眼点として、それぞれを理解しておきましょう。

なお、メタバースについてもっと詳しく知りたい方は、「【具体例つき】メタバースとは?メリット・デメリットもわかりやすく解説」をご覧ください。

仮想空間で空間設計ができる

建築業界においてメタバースが注目されている理由の1つ目は、仮想空間で空間設計ができることです。

今まで物理的・フィジカルな空間設計においては、外部環境の影響や関係各所との連携を踏まえて完璧な図面を作成し、絶対にミスをすることなく作り上げなければなりませんでした。

しかし、メタバースを活用すれば音楽や動画制作と同様、作りながら考えたり、作っている途中で設計を変更したりすることができます。

低スペックなマシンでも閲覧可能な造形を設計し、閲覧環境に配慮した空間設計が求められるものの、アイデアを手軽に具現化できる点は大きなメリットといえるでしょう。

ただ、仮想空間で空間設計ができると物理的な空間設計に比べて制約が少ないようにみえますが、描画負荷に対する配慮が欠かせない点には注意が必要です。

作業工数やコスト削減につながる

建築業界においてメタバースが注目されている理由の2つ目は、作業工数やコスト削減につながるためです。

例えば、メタバース上に原寸大の3D建築データを作成することで、さまざまな施工例を検討できます。その結果、計画段階で問題点を洗い出せるため、設計をやり直すなどの工数や、物理的な縮小モデル等の制作などを省略することも可能です。

また、メタバース空間に多拠点から同時接続することで、複数の業者を交えた設計会議などをメタバース上の建築物で行うこともできます。

そのほかにも、ハウスメーカーでは「メタバースおうち見学会」などの内覧会を企画したり、デザインレビューをしたりすることも。

制作過程の効率化はコスト削減につながるため、建築業界におけるメタバースの活用例は今後さらに増えていくでしょう。

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NFTを活用して土地を所有できる

建築業界においてメタバースが注目されている理由の3つ目は、NFTを活用して土地を所有できるためです。

NFTを一言で表すと「世界にひとつしかないこと」を、ブロックチェーン技術によって証明した画像や音楽データなどです。

物理世界において、土地の権利関係は「登記」によって明らかにされています。NFTを活用することで、電子データに対しても「一点もの」を証明できるため、メタバース上の土地を所有していることをブロックが、ブロックチェーン技術を活用して主張できます。

NFTはブロックチェーン技術を活用したデータ

NFTは「Non Fungible Token」の略称です。容易にコピーできるデジタルデータに対し、ブロックチェーン技術を用いて識別情報を付与して、唯一性や所有者を証明できるのが最大の特徴です。

ブロックチェーン技術は、取引履歴を一定時間ごとに数珠繋ぎで記録していく仕組みを採用しています。そのため、データの改ざん・書き換えが非常に難しく、取引の確からしさの証明が可能です。

最近では、画像やゲームアイテムをNFT化する際に活用されていることも。それぞれに対して唯一性や所有者を証明し、資産性を持たせることで、新たな経済圏が生まれています。

今後、NFTは業界の枠を超えて、広く活用されることが期待されています。

メタバースの建築業界の可能性とは?土地の使い方

メタバース空間における建築業界の可能性は有望でさまざまな活用方法が考えられます。例えば、メタバース空間における土地の使い方として、以下の5つが挙げられます。

  1. 自由に土地を活用できる
  2. 建築を楽しめる
  3. インテリアや住宅などさまざまな建築を実現できる
  4. 投資にもなる
  5. 賃貸営業ができる

メタバースはVRヘッドセットがあれば、より没入感のあるコンテンツを提供でき、オンラインでいつでもアクセス可能です。メタバース空間での建築の可能性を確認しましょう。

自由に土地を活用できる

メタバースでは、土地を所有することで自由に土地を活用できます。メタバースプラットフォームによって性質・楽しみ方は異なりますが、「土地」の概念があるメタバースの場合は、土地がないと建築物は建てられません。

土地の概念があるメタバースであれば、メタバースプラットフォーム内で流通する暗号資産(仮想通貨)で土地NFTを購入すると、その土地を自由に設計・開発するなどの活用ができます。

  • エイベックス
  • GUCCI
  • adidas

上記企業はメタバース上の土地を保有しています。まだ具体的な活用方法は発表されていないものの、テナントなどを建てて事業展開する事例として、今後注目を集めるでしょう。

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建築を楽しめる

メタバース内で土地を所有することで、自由に建築を楽しめます。当然ながら、メタバース空間で建築する建築物には、建築基準法などの法律の適用はありません。

本来ならば建築不可能な構造であっても、メタバース上なら建築可能。ご自身の持つアイデアを引き出し、自由に表現する場としても活用できます。

現に建築家として活躍されている方も「メタバース上のコンテンツ制作にまつわる建築家」という新たなビジネス展開につながる可能性は十分あります。

上記のように、大企業がメタバースの土地を購入して開発を手がける機会が生まれており、メタバースの土地を開発できる人材が求められる機会も増えるでしょう。そうした需要を満たす「メタバース建築家」を目指して、建築を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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インテリアや住宅などさまざまな建築を実現できる

メタバースの土地を開発するにあたり、プラットフォームで求められる技術が異なるため一概にはいえませんが、ご自身の想像から生まれる建築物は基本的に全て実現可能です。

  • お気に入りのインテリアに囲まれた理想の部屋
  • 現に住んでいる部屋を忠実に再現した部屋
  • リアルな街並み・風景
  • 音楽フェス会場
  • リアル店舗を模したバーチャル店舗

上記は一例ですが、現にメタバース空間で再現されている建築物も存在します。中でも「Cluster」は国内でも有名なメタバースプラットフォームで、ワールドと呼ばれるサービスを利用して、さまざまな仮想世界が構築されています。

また、仮想空間に現実世界の建築物を建築することで、リアルを模倣したそっくりそのままの世界を疑似現実(デジタルツイン)として表現することも可能です。

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投資にもなる

メタバース上の土地は、投資対象として価値を持つこともあります。

メタバースプラットフォームの中でも特に人気なものが「Decentraland(ディセントラランド)」「The Sandbox(ザサンドボックス)」です。これらのプラットフォームは、NFTやメタバースへの注目度が高くなり始めた2021年後半から開発がスタートしています。

2022年9月時点の土地1区画あたりの最低購入価格は、ディセントラランドが約36万円、ザサンドボックスが約21万円でした。これらはNFTとして売買されており、当時の暗号資産価格レートにもよりますが、1区画数百万円で取引されることも。

プラットフォームのいわゆる「中心部」に位置する土地は高騰する傾向にあるものの、メタバース内の土地は、いわば「時価」取引です。先行者優位として、メタバース内の土地に投資するという楽しみ方もあると覚えておきましょう。

賃貸営業ができる

現物の不動産賃貸業同様にメタバース上の建築物を貸し出して賃貸営業することも可能です。

  • レンタル会議室として時間貸し
  • イベントスペースとして一日レンタル
  • メタバースマンションを建設して家賃収入を得る

上記は一例ですが、通信速度のさらなる改善やVRヘッドセットが普及することで、メタバース空間のビジネス利用はより一般化すると予想されます。「メタバース会議」として、自宅にいながら指定の時間にメタバース空間に入室し、会議をする機会も増えるでしょう。

このように会議スペースを提供したり、メタバースライブ用のイベント会場を構築しアーティストへ貸し出しをしたりすることも可能です。

リアルビジネスをメタバースに持ち込めるのであれば、メタバース空間においてさまざまなビジネスを展開できるチャンスがあるでしょう。

建築に興味のある方におすすめ!土地を扱うメタバース

メタバースにおける土地の使い方を5つ紹介し、建築業界におけるメタバース活用の可能性を把握できたのではないでしょうか。

本章では建築に興味のある方におすすめしたい、土地を扱うメタバースを5つ紹介します。

  1. VRChat
  2. NeosVR
  3. comony
  4. Earth2
  5. UPLAND

各メタバースプラットフォームの特徴を踏まえ、興味のあるプラットフォームがあればぜひメタバース空間の開発を楽しみましょう。

土地が無料!VRChat

VRChatは、アメリカで開発されたソーシャルVRチャットツールです。VRChat上の土地は無料で使用でき、自分のお好きなように、自由に建築を楽しめるのが最大の特徴。

VRChat上には25,000以上のコミュニティが形成されており、自身が建築した建物にユーザーが訪問することも。VRヘッドセットなしでも楽しめる設計のため、メタバース空間で建築を気軽に楽しみたい方にはおすすめです。

共同作業ができる!NeosVR

NeosVRも、VRChatに近いサービスを提供するプラットフォーム。チェコの「Solirax社」が開発しているもので、「他のユーザーと共同作業ができる」という最大の特徴があります。

「なんでもできる」という自由度の高さがNeosVRの人気の理由で、他のプラットフォームでは外部ツールを使わなければできないような作業もアプリ内で完結するといわれています。

チュートリアルで基本操作を学び、日本人コミュニティが作成した「ワールド」でNeosVRのノウハウを吸収すれば、あとは直感的に操作が可能です。

建築特化型!comony

ビジネス向けVR空間共有プラットフォームである「comony」は、すべての建築ファンに向けて開発されたプラットフォームです。

  • 実在する建築
  • 有名建築家の空間
  • 隠れた名作とも呼ばれる建築物
  • いつかは行ってみたい憧れの建築

さまざまな建築物を、誰でも気軽に訪れられる世界として実現し、他のメタバースプラットフォームでは追求していない、「リアル」な建築物の世界を楽しめます。

建築ファンに限らず、クリエイターや建築を学びたい方などにも触れてほしいプラットフォームです。

海外で人気沸騰中!Earth2

Earth2は、バーチャル上で現実世界の土地売買ができるメタバースプラットフォーム。海外で人気を博しており、バーチャル空間に作られた「第2の地球」を再現した仮想世界が舞台です。

ユーザーは100平方メートルに区切られた世界中の土地を購入でき、ゲーム内で現実世界同様の不動産投資が行えます。現時点では土地売買や転売のみできますが、実装が進めば購入した土地の上に建物の建設などができる見込みです。

土地の購入は暗号資産取引所の口座開設手続きなども不要で、アカウント作成とクレジットカードなどの登録で完結します。興味のある方は、気になる土地を探すところから始めましょう。

2018年リリース!UPLAND

UPLANDは、メタバース上に存在する現実世界における住所と同じ仮想の不動産を法定通貨やゲーム内通貨「UPXトークン」で売買できるNFTゲームです。

仮想の不動産はNFTとして唯一性が担保され、NFTの価格はUPXトークンの需要と供給により左右されます。購入した土地は売却でき、UPXトークンは米ドルに出金できます。

UPLANDは2018年にリリースされ、メタバースにおける資産を現金化できる数少ないゲーム。今後、独自のバーチャルビジネスを運営し、さまざまなNFTを販売することも予定されています。

メタバースを建築業界で活用している企業・機関

土地を扱うメタバースがいくつかある中で、メタバースを建築業界で活用する企業や機関も登場しています。

  • 株式会社Synamon
  • 国土交通省九州地方整備局
  • 株式会社tenshabi

本章で紹介するこれらの企業・機関の取り組みから、建築業界の視点からメタバースを考える場合にどこに着目すべきかを確認しましょう。

株式会社Synamon

株式会社Synamon(シナモン)は、高品質なメタバース体験の構築サポート等に取り組む企業です。同社は2021年12月、総合建設会社の株式会社奥村組と「メタバース技術研究所」を設立しました。

同研究所の設立を通して、バーチャル上でモックアップ(建築物等の模型)を再現し、工事の検討精度向上や設計・施工工数の削減を目指します。さらにバーチャル空間上で関係者の合意形成をおこなうことで、スムーズな実験計画を進める狙いも。

VRを使ったバーチャル上のシミュレーション技術向上は、人的工数も削減でき、労働人口が減少の一途をたどる日本において大きな助けとなるでしょう。

国土交通省九州地方整備局

国土交通省九州地方整備局は2018年から、インフラ分野における整備後の姿をメタバースとして構築するプロジェクトを進めています。

2021年12月には、実在する河川(福岡県吉富町:山国川)において、整備後の姿をメタバース空間上に構築し、住民との合意形成を実施しました。

今回、メタバース空間上にインフラ整備後の河川を設計できるようになったため、きわめてリアルな3Dモデルを低コストで作成可能に。そのため、パースや模型を作成し、アナログな手法で説明・検証せざるを得なかった問題点は解消されました。

同様の事例が他の機関でも見られる機会は、今後さらに増えていくでしょう。

株式会社tenshabi

2022年5月、株式会社tenshabiはメタバース建築事業「METANAVI建築」を開始しました。同事業開始により、メタバース空間「Decentraland」内における企業のオフィス、ショールームなどのメタバース建築事業に力を入れると発表しています。

今後、メタバース開発が盛んになり、多くの企業や店舗がメタバース空間に活動拠点を置くと予想されます。その結果、メタバース建築の需要が増大すると見込まれることから、同社は本事業をスタートさせました。

「バーチャル建築」という事業展開は、建築業界における今後のトレンドとして注目を集める可能性があります。

メタバースは建築業界でも注目されている

すでにメタバース空間における土地の売買は、NFTを活用して行われています。バーチャルオフィスやレンタルスペースを構築して収益化させることも可能で、企業や店舗向けオフィス、ショールームなどのバーチャル建築に力を入れる企業も。

メタバースを模型制作などに活用することで、工数やコスト削減につながります。また、労働人口が減少する日本において、メタバースが建築業界における業務フロー改善や新たな事業創造に大きく貢献する可能性も示唆されています。

メタバースは建築業界でも注目される技術であり今後、建築業界におけるさらなるメタバース活用事例が生み出されるでしょう。

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