新規事業を立ち上げて開発を進める際、進行の管理や進め方に関してさまざまなマネジメント手法が存在します。中でもリーンスタートアップやアジャイル開発は、うまく組み合わせることで効率的な事業開発を実現可能です。

しかし、両者の違いがよく分からない人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、下記について紹介します。

  • リーンスタートアップとアジャイル開発の違い
  • アジャイル開発のメリット・デメリット
  • 両者が新規事業に役立つ理由

これから新規事業の立ち上げに携わる人は、本記事の内容を参考にそれぞれの違いを明確に理解した上で、新規事業開発にうまく立ち回れるようにしましょう。

リーンスタートアップとは?

リーンスタートアップは、アメリカの起業家であるエリック・リース(Eric Ries)氏が生み出した手法論です。彼が起業に至るまでの過程をまとめている際、トヨタ生産方式に似ている部分があったことから名付けられました。

「リーン」には、「筋肉質」や「痩せた」などの意味があり、ビジネス向けに転じて「無駄がなく効率的」といった意味で用いられます。リーンスタートアップのプロセスは、下記のとおりです。

  1. 仮説構築
  2. 実験
  3. 学び
  4. 意思決定

仮説をもとに新規事業を小さく始めて成功するか否かを早期に見極め、結果が出そうにない場合は、製品を改良したり事業内容を変えたりして軌道を修正します。このように、リーンスタートアップは検証結果に基づいたフィードバックからスクラップ&ビルドを繰り返し、事業開発を推し進めるのが大きな特徴です。

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アジャイル開発とは仕様変更に強い開発手法

アジャイル開発は、ソフトウェア開発などで使用される開発手法の一つです。開発対象を機能単位に分解して、各機能について「イテレーション」と呼ばれる開発サイクルを回して製品・サービスの完成やプロジェクトの完遂を目指します。

アジャイル開発は、従来型の開発手法である「ウォーターフォール開発」のデメリットを改善するために生まれた手法です。

ウォーターフォール開発は、仕様や設計を綿密に定めてから開発を進めるため進捗を確認しやすいメリットがあります。その一方で、後工程になるほど手戻りのコストが大きく、開発期間が長引くというデメリットがありました。

そもそもアジャイル(agile)とは「機敏な、素早い」などを意味する言葉です。実装できた機能レベルで全体の良し悪しを検証でき、機能を追加した都度修正を行えるため、仕様変更に強い特徴があります。

アジャイル開発の基本的なプロセス

アジャイル開発は、大きく分けて2つのステップで構成されます。

  • リリース計画:いつまでにどの機能をリリースできるかというプロジェクトの全体像を管理・把握するための計画
  • イテレーション(反復):機能単位で構成される、「要件定義、設計、開発、テスト、運用」といった一連の開発工程・サイクル

アジャイル開発は「開発途中でも仕様変更を行うこと」を前提に進行させるという点が特徴的です。顧客のニーズに最大限応えるべく、柔軟に仕様を変更させられるような「あそび」を持たせています。

リリース計画の内容に沿って、機能単位でイテレーションを実行し、機能追加を繰り返して、プロジェクトの完成・実現を目指す開発手法なのです

代表的な3つの手法

アジャイル開発の手法における代表的な手法は、以下の3種類が挙げられます。

  • スクラム開発:プロジェクトの進捗・スケジュール管理を重視する手法
  • エクストリーム・プログラミング(XP):仕様などの変更への対応力を高めた手法
  • ユーザー機能駆動開発(FDD):機能ごとにチームを分け大規模開発にも対応しやすい手法

一言でアジャイル開発といっても、手法はさまざま。手法によって向いている状況や進め方も異なります。最適な手法を選び、開発プロジェクトをうまく進めましょう。

スクラム開発

スクラム開発は、チームが一丸となって開発を進めるフレームワークです。ラグビーのスクラム(肩を組んで相手チームとぶつかり合うフォーメーション)が語源とされています。

スクラム開発で定義するプロセスは、以下の6つです。

  1. デイリースクラム
  2. リリースプランニング
  3. スプリント計画
  4. スプリント
  5. スプリントレビュー
  6. 振り返り

毎朝チームで集まって作業内容を確認し、全体の開発計画から各イテレーションの進行もチームで決定。スプリントで開発を進め、レビューと振り返りまでのプロセスを何度も繰り返します。

スクラム開発を進めるにはチーム内のコミュニケーションが重要で、コミュニケーションが不足すると、追加した機能が動作しないなどの不具合が発生する可能性も。

短期集中で各機能を構築し、固定メンバーが一体となってプロジェクトを進行していく手法といえます

エクストリーム・プログラミング(XP)

エクストリーム・プログラミング(Extreme Programming、以下XP)とは、変化に対応しやすい柔軟性のある開発手法です。

XPにおいては仕様や予定などの変更が起きることを前提に、以下5つの価値基準を重視すべきとしています。

  • コミュニケーション:チーム内に限らず、顧客とのコミュニケーションも重視
  • シンプル:最初の設計はシンプルに、必要に応じて都度修正
  • フィードバック:顧客からのフィードバックを通じ、必要な機能を明確化
  • 勇気:既に作成した機能を大幅に変更できる勇気
  • 尊重:互いの意見や姿勢の尊重、信頼関係の構築

顧客の要望に応じた機能追加を行いやすい柔軟性が特徴で、開発初期の計画よりも技術的な要素を重視します。XPは、変更が前提となるシステム開発などにおいてとくに有効な手法といえるでしょう

ユーザー機能駆動開発(FDD)

ユーザー機能駆動開発(Feature Driven Development、以下FDD)は、ユーザー目線で価値のある機能を中心にプロジェクトを遂行する開発手法です。

「顧客にとって価値のある機能」を一単位として、2週間程度の短いスパンで機能開発し、顧客に提供します。FDDでは、顧客が必要とする機能を重要度でまとめたフィチャーリストを作成。そのリストをもとに、プロジェクトが進行します。

FDDは必要な機能しか実装しないため、完成したプロダクトやサービスはシンプルになりやすい特徴も。また、開発する機能ごとでチームが独立させるため、機能が多い大規模プロジェクトにも対応可能です。

FDDはユーザーが本当に必要な機能を盛り込める分、無駄のないシンプルな開発ができます。

アジャイル開発における3つのメリット

アジャイル開発を使用するメリットは、大きく分けると以下の3点です。

  1. 開発スピードが速い
  2. 修正時の工数が少ない
  3. ユーザーの反応を還元しやすい

プロジェクトの性質や特徴によって、最適な開発手法も異なります。ソフトウェアや各種新規事業などの開発においては、アジャイル開発のメリット・デメリット双方を理解した上で、効率よく事業開発を進めましょう。

開発スピードが速い

アジャイル開発は、システム・プロジェクト全体ではなく、機能単位で「要件定義、設計、開発、テスト、運用」の工程を繰り返して開発を遂行します。1つずつ機能を追加して検証するため、開発スピードを上げられる点がメリットです。

従来の手法は、要件定義書や設計書などの書類を作成し、ドキュメント作成に膨大な時間がかかっていました。開発に関わる人数も多く、業務の一部を外注することもあり、コミュニケーションコストや時間的なロスが発生しやすい側面も。

一方、アジャイル開発では、短期集中型で機能の実装・追加を進めます。ドキュメント作成よりも「動くソフトウェア・完成」を目指すことが重視され、機能を追加した都度修正をかけることも可能です。

仕様変更などによる手戻り作業も少なく済み、高効率な開発や開発スピードの向上が見込めるでしょう。

修正時の工数が少ない

アジャイル開発では機能単位にスケジュールを区切って実装を進めるため、ユーザーのニーズを捉えきれていないなどの問題や不具合も細かく発生します。

一見するとデメリットのように見えますが、結果的に修正範囲は限定され、修正時の工数が少なく済むのです。

従来の開発手法では、設計段階で決定した細かな仕様書・計画書に従って開発を行うため、開発途中で仕様変更しにくい点が大きなデメリットでした。

アジャイル開発は、リリース計画において大まかな仕様や要求を決定するだけ。開発の途中で仕様や設計変更があることは折り込まれており、当初の仕様から変更があっても、工数を圧縮させられるのです。

ユーザーの反応を還元しやすい

アジャイル開発では、開発工程で複数回リリースとテストが行われ、その都度顧客やユーザーの反応を確認できます。さらなる改善点が見つかれば次回のイテレーションで反映させられるため、ユーザーの反応を還元しやすい点もメリットです。

従来の開発手法は、仕様書の記載内容を前提として開発が進行します。そのため、開発を終えてリリースした段階で初めてユーザーの反応を確認することになり、ニーズに応えきれないケースもありました。

一方、アジャイル開発は顧客と積極的なコミュニケーションを取りながら、反響や意見をプロジェクトや事業にその都度反映させられます。サービスを運用しながら改善できる点は、アジャイル開発の大きなメリットといえるでしょう。

アジャイル開発における2つのデメリット

アジャイル開発にもデメリットがあり、中でも以下の2点には注意が必要です。

  1. 開発の方向性がブレやすい
  2. スケジュールや進捗のコントロールが難しい

アジャイル開発は大まかな仕様や要求のみを決定して、短期間で柔軟に開発を繰り返します。その裏返しとして生じる上記のデメリットとうまく向き合い、開発を進めていきましょう。

開発の方向性がブレやすい

アジャイル開発は従来の開発手法と異なり、計画・設計の時点で細かな仕様が定まっていません。開発途中の不具合や仕様変更などに対して柔軟に対応できる点はメリットですが、開発途中で仕様変更などの機会が増えるほど、当初の計画に対して開発の方向性がブレやすくなります。

従来の手法であれば設計書通りに開発するため、開発の方向性は基本的にブレません。

しかし、アジャイル開発ではユーザーからのフィードバックや要望を取り入れようとするあまり、本来設定した仕様・要求が導き出せないまま開発が進行する可能性があります。また、その場しのぎな開発になる可能性も否定できません。

アジャイル開発を進める際は、追加要件や仕様変更などは必要最小限に留めるなどの認識を事前に共有し、できる限り当初の計画に沿って開発を進めましょう。

スケジュールや進捗のコントロールが難しい

アジャイル開発は、リリース計画でプロジェクト全体の目的や納期を決定し、搭載する機能にあわせてイテレーションを定めます。その結果、全体のスケジュールや進捗のコントロールが難しいというデメリットも。

従来の開発手法であれば、各工程のスケジュールが明確に定められているため、進捗の確認もしやすく、スケジュール管理は比較的容易です。

  • 柔軟性の中にも、対応できることとそうでないことを明確にする
  • 開発の難易度やチームのスキルに合わせたバッファを用意する

上記の対策などを講じることで、スケジュール管理にまつわるデメリットは十分カバーできます。経験豊富なマネージャーなどを配置して、無理のないスケジュールと業務量の調整が重要です。

リーンスタートアップとアジャイル開発の違いや関係性

プロジェクトや新規事業開発で使用される、リーンスタートアップとアジャイル開発。両者の違いや関係性を理解する上で重要なポイントは、以下の3点です。

  • 違いは目的や判断軸
  • 共通点はサイクルを小さく回すこと
  • スピード感のある開発では併用が吉

一見すると似ている手法のように見える両者に関して、どのような違いがあるのか、併用可能なのかなどを正しく理解し、プロジェクト開発にうまく取り入れましょう。

違いは目的や判断軸

リーンスタートアップとアジャイル開発の違いは、目的や判断軸に表れます。両者の目的をまとめると、下記のとおりです。

  • リーンスタートアップ:顧客や市場の開発
  • アジャイル開発:より優れた商品の開発

つまり、「どんな最終ゴールに向かって取り組むのか」を意識すると、両者の違いは明確になります。リーンスタートアップは、顧客からの意見を事業開発に取り入れ、スクラップ&ビルドを繰り返し、優れた商品を開発して新規顧客・市場開拓を目指します。

一方、アジャイル開発は機能単位で開発を進め、その都度フィードバックを得ることで、顧客が求めるより優れた商品の開発が目的です。

また、リーンスタートアップとアジャイル開発の違いは、判断軸にもあります。リーンスタートアップは「検証結果」を、アジャイル開発はプロジェクトの「進捗」を重視。

新規事業の開発を進める際は、事業の内容や目的に合わせて適切なマネジメント手法を選択しましょう。

共通点はサイクルを小さく回すこと

リーンスタートアップとアジャイル開発の共通点は、サイクルを小さく回す点です。検証・開発サイクルを小さく回すことにより、無駄を省いて目的を早期に達成しやすい上、大規模な修正などのリスクを回避しやすい特徴があります。

毎回の検証結果やイテレーションが進展する都度、顧客からフィードバックを受けられる点も共通しており、試行錯誤を重ねることで市場のニーズも明確化できる効果も。

サイクルを小さく回すことで、顧客との開発イメージの乖離を防ぐことができ、不確実なアイデアから効率良く開発を進められる点も共通しており、両者の相性はよいとされています。

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スピード感のある開発では併用が吉

リーンスタートアップとアジャイル開発は、目的や判断軸が異なるものの、開発にスピード感を求める場合には併用するとよいでしょう。

どのような新規事業であれ、顧客や市場のニーズを満たす事業を開発することに変わりはありません。その上で、最小限の機能を搭載したプロダクトや各イテレーションで追加された機能を基に、顧客のフィードバックを受けてニーズを確認できるのはとても効率的です。

無駄を省いて仮説検証を繰り返し、最終的なゴールに向けて開発を進められるスピード感は、新興企業・市場におけるサービス展開には必要不可欠

リーンスタートアップとアジャイル開発は相性がよいため、納期・スケジュール管理に十分注意した上で、スピード感のある開発を実現しましょう。

なお、リーンスタートアップの具体的な導入事例を知りたい方は「リーンスタートアップの成功事例7選|新規事業立ち上げのヒントを解説」をご覧ください。

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リーンスタートアップとアジャイル開発はどちらも新規事業で役立つ!

リーンスタートアップとアジャイル開発は一見すると似ていますが、目的や判断軸に違いがあります。

アジャイル開発にもいくつか手法があり、チーム内に限らず顧客・ユーザーとのコミュニケーションに重きを置く点が特徴的です。顧客の要望に対して柔軟に対応できる点もメリットとして挙げられますが、スケジュール管理の難しさには注意しましょう。

いずれも小さなサイクルを回して顧客からフィードバックを受け、無駄を省いて効率よく開発を進められる共通点があり、スピード感を求められる新規事業開発には併用がおすすめ。各手法の違いや特徴を理解し、効率よく事業開発を進めましょう。

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