最近メタバースを知って、医療業界ではどのようにメタバースが活用されるのかを気になっている医療関係者の人は多いでしょう。実際に論文を検索して読んでみると、さまざまな医療分野でメタバースが活用されているのが分かります。

そこで本記事では、メタバースの活用事例や課題、それらについて詳しく記載してある論文、メタバースに取り組んでいる学会を紹介します。

メタバースの医療活用が進むって本当?

メタバースとは現実世界とは異なる仮想空間のことです。メタバース上で自分に類似したアバターを介することで、あたかもそこに存在しているかのように人々がゲーム、買い物、コミュニケーションなどを楽しめるようになります。

そしてメタバースは今後、医療業界でも、治療・診断・手術などさまざまな場面で活用される見込みです。そこでメタバースが医療分野でどのように活用されるのか、また活用される要因を解説します。

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メタバース医療市場は2030年までに年平均30%成長すると予測される

ヘルスケア分野におけるメタバース市場は、2021年の68.5億ドルから2030年には721億ドルに成長(CAGR30%程度)すると予測されています。

市場規模が成長するとされる要因は、メタバースを活用すれば、より正確性の高い手術が行えること、人為的ミスや疲労が原因で起こる問題を排除できることが挙げられます。

実際にアメリカの大学ジョン・ホプキンス大学の外科医師は、ARスマートグラスを使い、患者のデータを参照しながら手術しました。このように高い正確性を求められる医療業界にとって、メタバースを活用するケースは今後増えるでしょう。

医療の質向上や地域格差解消が期待されている

手術前のシミュレーションにもメタバースは有効に使えます。手術の前にVR空間で手術計画を何度もシミュレーションをしたり、入念にトレーニングをしたりすれば失敗するリスクを減らせるでしょう。

またVR空間では世界各国の人が、リアルに近い空間で場所に縛られずに治療方針等のディスカッションができます。そのため遠方の人でも、技術や情報が行き渡りやすくなるので、地域格差の解消に繋がります。

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メタバース医療が抱える2つの課題

これまでメタバース医療の可能性について触れてきました。可能性が期待されるメタバース医療ですが、重大なリスクや注意点も存在します。これからメタバースを医療で活用するなら、リスクや注意点も把握しておきましょう。

安全性の確保

医療の現場では安全性を高めるためにチェックが何重にも行われているでしょう。しかしそのような医療現場でメタバースを活用するとなると、安全性のチェックはどのように行われるのでしょうか?

使い方を間違えるとミスに繋がるかもしれません。まだまだメタバースは新しい技術なので、起こりうる問題についてはしっかりと議論されるべきです。

またメタバースを利用するなら患者側のケアも必要になります。メタバースに馴染みがない人は「この手術方法で大丈夫なのだろうか……」と不安に思う人もでてくるでしょう。そのため患者さんにしっかりと安全性を伝えたうえでメタバースを活用するべきです。

サイバーセキュリティ対策

メタバースは、オンラインで使われていることから、サイバー攻撃などのリスクを伴います。しかも医療業界は、膨大な患者の個人情報や、機密性の高い医療情報を保管していることから、サイバー犯罪者の標的になるのも考えられます。

もし医療データが誰かの手によって改ざんされたら、致命的な被害につながる可能性があるでしょう。新しいテクノロジーを利用する際には、新しい個人情報保護のルールを定めるべきです。

情報の保護の対策としては、ブロックチェーンの技術によって、外部から改ざんされない仕組みを作ることが今後考えられます。

メタバース医療に関する医学論文5選

メタバース医療について詳しく知りたくて論文を探している人もいるかと思います。医学論文検索サイトPubmedで「metaverse」と検索すると、2020年までは2本しかヒットしませんでした。しかし2021年以降はメタバースに関する論文が爆発的に増えている状況です。

ヒットする論文の多くは「レビュー論文」で、さまざまな医療分野におけるメタバース活用の実態や全体像を知れます。そこで多くの論文のなかから、おすすめの論文を5つピックアップして紹介します。

CardioVerse: The cardiovascular medicine in the era of Metaverse

循環器学におけるメタバースの活用についての論文です。循環器学におけるメタバースの活用をカーディオバース(CardioVerse)といいます。カーディオバースを活用すると、以下のような効果があると論文では書かれています。

  • 遠方にいる人でも3D空間上で専門性の高いサービスが受けられる
  • 手術ロボットや手術ナビゲーションシステムの統合により、医療の質が上がる

またサービスを維持するために、セキュリティ性を高めるためのNFTの採用、最先端の技術に伴う費用といったメタバースを採用するための課題についても本論文では触れています。

本論文についてさらに詳しく知りたい方は、「CardioVerse: The cardiovascular medicine in the era of Metaverse」をぜひご覧ください。

Metaverse and Virtual Health Care in Ophthalmology: Opportunities and Challenges

眼科学におけるメタバース活用の可能性や課題を考察している論文です。本論文では以下のようなことが論じられています。

  • VR・ARによって患者に視覚異常を気づかせやすくなる
  • 医療関係者向けの手術、検眼のトレーニングシミュレーターの有用性
  • AR・VR技術によって視覚診断がしやすくなる
  • AR・VR技術によって治療がしやすくなる

VR・ARは患者の病気の進行や視覚異常に気づかせたり、臨床検査を受けるべき状況にあることを知らせたりするのに効果的とされています。コロナ禍により外出が制限されている状況で、患者が臨床検査を受けるかどうかの判断ができるのは、効果的でしょう。

医療関係者向けには、EyeSiシミュレータ(VR Magic)、MicroVisTouch(Immersive Touch)などのトレーニングシミュレータが本論文では紹介されています。治療分野ではVRシミュレーターやヘッドアップ手術の使われ方が紹介されています。

本論文についてさらに詳しく知りたい方は、「Metaverse and Virtual Health Care in Ophthalmology: Opportunities and Challenges」をぜひご覧ください。

Educational applications of metaverse: possibilities and limitations

メタバースを医学教育に活用した際の可能性や限界を解説している論文です。この論文ではメタバースを4つのタイプに分類して、それぞれのタイプでの活用方法を解説しています。4つのタイプとは、拡張現実、ライフログ、ミラーワールド、バーチャルリアリティのことを指します。

  • 拡張現実では、人体内部を調べられる拡張現実Tシャツを活用
  • ライフログでは、蓄積された生体情報を医療分野で活用するサービスの導入
  • ミラーワールドでは、ゲームを通じて科学研究に貢献できるプラットフォームの開発
  • バーチャルリアリティなら、アバターサービスの「Zepeto」やプラットフォームの「Roblox」の活用

これらに加えて、プライバシーの侵害や罪の意識の希薄化など、メタバースのリスクにも本論文は触れています。

本論文についてさらに詳しく知りたい方は、「Educational applications of metaverse: possibilities and limitations」をぜひご覧ください。

Gastroenterology in the Metaverse: The dawn of a new era?

消化器科におけるメタバース活用や将来性を解説している論文です。本論文では以下のようなことが論じられています。

  • 高度な内視鏡機器を用いてメタバース上で、仮想の患者に対して手術の練習ができる
  • 上級医がメタバース上で治療にあたる
  • メタバース上で専門家同士がアバターを介して手術の手順を議論
  • VRヘッドセットやメタバースグローブの活用

近年ではメタバース上の内視鏡トレーニングにより、医師の経験値が上がり、手術時間の短縮化や手術の合併症の発生率を低くしているのが臨床研究によって明らかになりました。

世界には消化器系の医師や内視鏡機器の不足が深刻な後進国があり、それを補うためにメタバース上で上級医が治療にあたることも可能となるそうです。

また内視鏡手術に使われるVRヘッドセットやメタバースグローブの有用性と問題点についても本論文では論じられています。

本論文についてさらに詳しく知りたい方は、「Gastroenterology in the Metaverse: The dawn of a new era?」をぜひご覧ください。

VRにおける身体変容と精神疾患治療の動向

VRを活用した身体変容の研究事例を紹介している日本の論文です。VR空間で別の人間に変容することで自身の感情や認識、行動が変わる現象についての研究が進んでいることが紹介されています。

以下のように自分とは別人のアバターを使うと、そのアバターの属性に近くなるといった研究事例が本論文に掲載されています。

  • 白人が黒人のアバターを使うことで黒人への差別が少なくなる
  • 子供のアバターを使うことで態度が幼くなる

本論文についてさらに詳しく知りたい方は、「VRにおける身体変容と精神疾患治療の動向」をぜひご覧ください。

メタバース医療の最新知見が得られる学会・研究会3選

メタバース医療の最新知見を得るには、学会や研究会に参加してみるのも有効な手です。研究者や医師でなくても誰でも気軽に入会・参加できます。最新知見を得られる学会や研究会を3つピックアップして紹介します。

日本VR医学会

日本VR医学会は2001年に発足した医学会。「VR医学」という名称ではありますが、「メタバース」も重要なキーワードとして含まれるようになっています。

年1回の学術大会に加えて、年4回バーチャルワークショップを開催しています。学術大会では以下のことも行われています。

  • 医学教育研修支援
  • 看護教育研修支援
  • 外科手術研修支援
  • リハビリテーションや福祉支援

ワークショップでは、VR・AR技術を活用した臨床技能トレーニングや、VR技術を用いた妊婦検診における保健指導の体験などが行われてきました。

日本VR医学会についてさらに詳しく知りたい方は、「日本VR医学会の公式サイト」をぜひご覧ください。

日本遠隔医療学会

日本遠隔医療学会は2005年に発足した医療学会です。遠隔医療の知見を集約、検討して医療・介護支援に貢献するための学会ですが、メタバース医療にも密接に関わっている学会です。

実際に今年の学術大会の挨拶では、「AR、VRなどのメタバースに関わるヒューマンインターフェース研究分野の先生もお迎えします。」との記載があります。

大会企画のシンポジウムにも、新たなテクノロジーの社会展開と遠隔医療の可能性としてメタバースに触れているプログラムがあります。

日本遠隔医療学会についてさらに詳しく知りたい方は、「日本遠隔医療学会の公式サイト」をぜひご覧ください。

医療XRメタバース研究会

医療XRメタバース研究会は、帝京大学冲永総合研究所Innovation LabとHoloeyesが主催する研究会です。2022年10月現在で、月に1回の頻度で開催しています。

Holoeyesは、臨床医療、医療教育のためのバーチャルリアリティソフトウェアを提供している会社です。

最新の研究会では、歯科業界におけるメタバースの取り組みや、メタバース上の病院建設などのテーマが扱われていました。

医療XRメタバース研究会についてさらに詳しく知りたい方は、「Holoeyesの公式サイト」をぜひご覧ください。

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メタバースの医療活用事例:臨床・教育・医療機器など

最後に代表的なメタバースの医療活用事例を紹介します。

順天堂バーチャルホスピタル

順天堂大学と日本IBMは、病院を模倣した仮想空間(順天堂バーチャルホスピタル)を設立し、患者体験の向上と疾病の改善などを検証する研究を始めました。

患者のメタバース上の体験を、現実の患者体験の満足度向上に繋げる狙いがあります。例えば医療サービスを受ける前にメタバース上で症状の事前情報を取得しておけば、医師からのサービスを受けやすくなり、結果満足度向上に繋がるケースもあるでしょう。

また遠方に住んでいる、身体的状況で外出しにくい人でも、メタバースを使えばアバターを用いた回遊などで日常的な情報交換が可能になります。

順天堂バーチャルホスピタルについてさらに詳しく知りたい方は、「順天堂の公式サイト」をぜひご覧ください。

Mediverse OCD

Mediverse OCDは、株式会社MAI JAPANと株式会社OCDが共同で展開する仮想空間です。Mediverse OCDでは各医療業界の専門家が1つの町を作りあげていて、世界中の人々が行き来可能です。

専門家や企業の展示やセミナーを見られて、最新情報の収集ができます。気軽に医療知識に触れられることで、病気や医療職のイメージを持ち、楽しく学べる空間になっています。

Mediverse OCDについてさらに詳しく知りたい方は、「OCDの公式サイト」をぜひご覧ください。

Holoeyes

Holoeyesは臨床医療、医療教育のためのバーチャルリアリティソフトウェアを提供している会社です。さきほど紹介した医療XRメタバース研究会を共催している会社でもあります。

メタバースでの代表的なサービスがHoloeyes VSです。Holoeyes VSでは複数のヘッドセットを被ったユーザー同士が、同じ3Dホログラムを見られるようになる技術です。

これにより手術時のデータの共有が円滑になります。Holoeyesはそのほかにも、医療教育用アプリやトレーニング・シミュレーションでメタバース医療に取り組んでいます。

Holoeyesについてさらに詳しく知りたい方は、「Holoeyesの公式サイト」をぜひご覧ください。

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まとめ

本記事では以下の内容を解説してきました。

  • メタバースの医療での活用方法やその事例
  • メタバース医療が抱える課題
  • 活用方法や事例、課題について詳しく解説している論文の紹介
  • 医療分野でメタバースに取り組んでいる学会の紹介

メタバースは医療分野のなかでも、循環器学や眼科学、消化器科といった分野で活用されています。医療の質の向上や地域格差の解消に繋がるため、これからメタバースの医療市場規模は伸びていくでしょう。

ただメタバースはオンライン上で使われるものなので、サイバー攻撃などの課題もあります。活用するなら課題面も頭にいれて、メタバースを活用するようにしましょう。

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