デザイン思考はビジネスシーンにおけるイノベーティブな発想に役立ちます。しかし、一見するとよく似た「アート思考」との違いがわからないために、上手く学習が進められないケースも少なくありません。
そこで本記事では、デザイン思考とアート思考の概要やそれぞれのメリット・デメリット、活用事例などを解説していきます。
結論からいうと、両者はまったく異なるアプローチと性質を備えているため、適切に切り替えられるようにきちんと把握しておきましょう。
デザイン思考・アート思考とは?どうやってビジネスに活用するの?
ここではまず、デザイン思考・アート思考の概要に加えて、それぞれのメリット・デメリットも解説します。
両者の違いを明確にし、ビジネスシーンで適切に使い分けていきましょう。
デザイン思考:ユーザー視点のフレームワーク
デザイン思考とは、ユーザー目線から課題・ニーズを深掘りする思考法を指しています。
一見するとアート分野におけるノウハウを連想しがちですが、ビジネスシーンでの「デザイン思考」はあくまでも特定のサービスを創造する手法なのです。
たとえば、「商品の使い方を図解で分かりやすく説明する」「商品の注意点を赤字や太字で目立たせる」などの工夫はデザイン思考によるもの。
アーティストが作品を作る際のプロセスをビジネスに流用していることから、独創性に富んだアイデアを生み出せる可能性があり、近年は幅広い領域で導入されています。
▼関連記事▼
デザイン思考(デザインシンキング)とは?おすすめフレームワークと活用事例も解説
デザイン思考のメリット
デザイン思考のメリットは、以下の3つがあげられます。
- ユーザー目線で課題に向き合える
- 多種多様な考えを取り入れられる
- 既存のビジネスモデルをブラッシュアップできる
市場への価値提供につながる商品・サービスを開発するには、なによりも「ユーザーの悩み」を把握しなければなりません。
無論、企業の内輪だけでどれだけ考えても、主観的な視点からは抜け出せませんが、デザイン思考ならば常にユーザー目線で課題に向き合い、効果的且つ再現性の高い商品開発が進められます。
また、課題解決においてノウハウが不足していても、デザイン思考の観点からさまざまな意見を取り入れれば、早い段階でソリューションに到達するでしょう。
加えて、デザイン思考は新たなサービスの創造だけでなく、既存のビジネスモデル改善にも役立ちます。
そのため、トレンドの移り変わりがとても早いVUCA時代であっても、こまめにデザイン思考を実践することで、自社の取組みを常にアップデートし続けられるのです。
デザイン思考のデメリット
デザイン思考はメリットだけでなく、以下のようなデメリットも存在します。
- ありきたりな発想しなかできないこともある
- 結果重視になりすぎてしまう可能性がある
- ゼロベースの創造に向いていない
デザイン思考は独創的なアイデアの創出につながる一方で、あまりユーザー目線に偏り過ぎると、ありきたりな発想に留まってしまうデメリットがあります。
そのため、ユーザー目線の中に「ほどよい主観・好み」も組み込めるバランス感覚も重要であり、デザイン思考を導入したからといって必ずしも成功するとは限らないといえるでしょう。
さらに、ユーザーの課題解決意識が強過ぎると結果主義に陥ってしまい、プロセスを軽視したことでいいアイデアに結びつかないケースもあります。
加えて、デザイン思考は「ユーザーニーズが根源」にあることから、未開拓領域におけるゼロベースからの企画立案に向いていない点にも注意してください。
アート思考:自分起点でサービスを創出するフレームワーク
アート思考とは、ユーザーを含む第三者の悩みは考慮せず、ひたすらに自分の表現したいことを再現する思考です。
たとえば、一般人が思いつかないような作品を生み出し続け、自分の個性・センスだけで人々を虜にしているようなアーティストは、アート思考を無意識かつフルに活用しているといえるでしょう。
そして、ビジネスシーンにおけるアート思考は、そんなアーティスティックな考え方を、ビジネスモデルやサービス開発に取り入れる手法であり、前例のない独創的なアイデアの創出に活かされています。
アート思考のメリット
アート思考のメリットは、以下の通りです。
- 他にはない独創的なサービスや商品を生み出せる
- 既存の考え方に依存しない議論が行える
- 個人の考え方を尊重するようになる
商品開発を行っていると、意外にも類似商品が多いことに気が付くケースがあります。そういった現象は既存の考え方から脱却し切れていない表れであり、もしリリースしてもすぐユーザーは飽きて真新しいものに移行していくでしょう。
しかし、自分の趣味嗜好や感情をベースに創造するアート思考ならば、これまでになかった視点からアイデアを生み出せるのです。
さらに、アート思考を全社的に導入すれば、個人の発想を重視する空気感が形成されるメリットもあり、集団意識に依存しない能動的な議論につながるでしょう。
アート思考のデメリット
アート思考のデメリットは以下の通りであり、こちらもメリットと同じく押さえておかなければなりません。
- 意見がまとまりにくい
- これまで培ってきた技術や知識が通用しないこともある
- 他者から共感されないケースもある
アート思考は、個人の発想を重視する手法となるため、集団で議論する際に意見がまとまりにくくなるデメリットがあります。
また、他者から共感が得られないことで、孤立してしまうリスクがある点にも注意しなければなりません。
デザイン思考とアート思考の違い
ここまで解説した内容から、デザイン思考とアート思考は以下のようにアプローチが大きく異なっています。
- デザイン思考:ユーザー視点に立ってアイデアを創造する
- アート思考:自分の中の思考と向き合う
具体的にWEBサイト制作を例にあげると、デザイン思考ならまずユーザーの希望を汲み取りレイアウトとコンテンツを構築するはずです。
一方、アート思考はクライアントから受注後に一旦自社で預かり、ユーザーニーズを考慮せずに個人的な発想にもとづいて制作に着手します。
両者の違いを理解すれば、それぞれの長所を上手く組み合わせられるようになるでしょう。
デザイン思考とアート思考のプロセス
ここからは、デザイン思考とアート思考のプロセスを確認していきましょう。
ビジネスシーンでスムーズに用いるには必須知識となるため、ぜひ参考にしてください。
デザイン思考のステップ5つ
デザイン思考は以下5つのプロセスによって構成されています。
- 共感/Empathize
- 定義/Define
- 概念化/Ideate
- 試作/Prototype
- テスト/Test
それぞれ詳しくチェックしましょう。
①共感/Empathize
まずはユーザーの視点に立ち、抱えている課題とニーズを調査します。そのためには、ユーザーの行動を観察するか、直接話を聞くのも効果的です。
ただし、ユーザーから本音を引き出せなければ意味がありません。したがって、できる限り自然体でいられる環境を作ってあげましょう。
②定義/Define
➀で得た情報をもとに判明したユーザーの課題を定義します。
「どんな課題を解決したいのか」「何を実現したいのか」というポイントからアプローチし、ユーザー自身が思いつかないような深層部まで深堀りしてみましょう。
③概念化/Ideate
ステップ③では、➁で顕在化した課題に対するアプローチを考えていきましょう。
しかし、ここであまり熟考しすぎるとアイデアが上手く出てこなくなるので、ブレインストーミングのようにとにかく思いついたことを発信してみてください。
④試作/Prototype
➂で創出されたアイデアをベースに、サービス・商品の試作品を作ります。ややボンヤリしていても、一旦形にしてみれば新たな着想が湧いてくるため、まずは頭の中のイメージを具現化することに専念しましょう。
⑤テスト/Test
➃で作った試作品を、実際にユーザーに使ってもらいましょう。リアルなフィードバックを参考にブラッシュアップを行い、製品の精度を上げていきます。
ここで注意したいのは、「この段階であればどれだけ失敗しても問題ない」ということ。上手くいかないケースを恐れず、あらゆるアイデアをぶつけて洗練させていってください。
アート思考のステップ5つ「アートイノベーションフレームワーク」
アート思考に関しては、凸版印刷と京都大学が考案した「アートイノベーションフレームワーク*」を活用すると効果的です。
*参照:凸版印刷と京都大学、アート思考による新手法開発で人財育成を支援 | 凸版印刷
アートイノベーションフレームワークとは、アーティストが作品を生み出すロジックをもとに、5つのステップに分けた手法。
アート思考をより効率的に進められるため、ぜひ参考にしてください。
発見
まずは、主観と好奇心にフォーカスして「自分が面白い」と思ったものを発見します。ただし、あくまでもユーザーの課題解決ではなく、自分の内側にある思考を追及しなければなりません。
調査
次のステップでは、創出・発見したアイデアと類似しているものはないか調査しましょう。
歴史的に前例がないことはもちろん、ライバル企業や自社が過去に取り組んでいないことをしっかり確認してください。
開発
調査の結果、オリジナリティが確認できたのであれば、より独自性を高められる方法・方向性を検討・開発します。
創出
開発のプロセスで浮かんだアイデアをベースに試作品を作り、第三者へアウトプットしましょう。
この段階で身近な人物から少し意見を聞いて、自身が思い描いたものと対外的な印象が一致しているかもチェックしてみてください。
意味づけ
最後のプロセスでは、アウトプットした試作品に理由や意味を付けて、他者が理解できるように説明します。
ここでは、ユーザーからの評価を聴取・分析することも忘れないようにしましょう。
デザイン思考・アート思考の活用事例
ここからは、デザイン思考とアート思考の活用事例を解説します。
それぞれ2つずつピックアップしているので、自社と親和性の高いモデルを見つけてみてください。
デザイン思考の2つの事例
デザイン思考の活用事例は、スポティファイとPepsiCoを確認していきます。
いずれも各領域でたしかな成果を上げている企業なので、しっかり押さえておきましょう。
スポティファイ
音楽ストリーミングサービスで有名なスポティファイは、音楽リストの開発にデザイン思考を導入しました。
実際に、スポティファイの音楽リストはただ曲名を列挙するのではなく、「仕事が辛いとき」「泣きたい夜に聴く失恋ソング」「憂鬱な月曜日の朝に聴きたい曲」といった聴く人の心に寄り添った内容となっています。
PepsiCo
ペプシコーラでお馴染みの飲料水メーカー「PepsiCo」は、ユーザー参加型コンテンツにデザイン思考を用いています。
たとえば、ペプシオリジナル絵文字「Pepsimoji」や、ユーザーが複数のドリンクをミックスして作る「PEPSI SPIRE」などが代表的。
ユーザーが自由に絵文字などを作ることで新たなアイデアが生まれ、インタラクティブな関係性によってクリアなイメージ構築も実現しました。
アート思考の2つの事例
ここからは、アート思考の活用事例としてマツダ株式会社とNTTデータを解説します。
こちらもデザイン思考と合わせて押さえておきましょう。
マツダ株式会社
マツダ車のデザインである「魂動デザイン」は、自動車を単なる鉄の塊ではなく「命あるもの」という位置付けで造形*しています。
*参照:「マツダ株式会社公式サイト|マツダ|デザインフィロソフィー|デザイン」)
その背景には「ブランドの格を引き上げるにはデザインが鍵になる」という前田社長の考えが影響しており、およそ1年間にわたってアート思考を積み重ねた結果生み出されました。
魂動デザインがブランディングに寄与したことは言うまでもなく、まさにアート思考の代表的な成功モデルといえるでしょう。
NTTデータ
通信事業者のNTTデータは、以下2つの領域でアート思考を導入しました。
- 公共社会基盤分野でのプロジェクト
- 金融分野でのアプローチ
1つ目の公共社会基盤分野では、2020年1月〜3月に東京大学と「アート思考によるイノベーション創出手法に関する研究プロジェクト」を行い、「人口減少」「地域活性化「社会保障」といった社会問題の解決策としてアート思考の活用を提唱しました。
次に、金融分野ではアーティストを交えたワークショップを開催し、顧客イノベーションやアーティストの雇用増大につながる期待が持たれています。
デザイン思考とアート思考の違いを知って適切に使い分けよう
本記事では、デザイン思考とアート思考のメリット・デメリットや具体的なプロセス、それぞれの活用事例を解説してきました。
デザイン思考はユーザーの課題解決を重視する考え方である一方、アート思考のベースに第三者の概念はなく、ただひたむきに自分の表現したいことを具現化する手法となります。
すなわち、両者は視点やアプローチが明確に異なっており、両方の長所を活かすことでよりイノベーティブなサービス・商品の開発につながるのです。
もし興味のある方は、ぜひ本記事を参考にデザイン思考とアート思考のプロセスを進めてみてください。
▼関連記事▼
デザイン思考の本10選!初心者におすすめの書籍をランキング形式で解説!
デザイン思考研修のおすすめ会社10選!特徴・費用・研修スタイルを徹底解説
Human-Centered Design(人間中心設計):ビジネスパーソンが知るべき成功への鍵とデメリットへの対策