デザイン思考は、デザイナーやクリエイターが業務で活用する思考法です。近年ビジネスで活用される機会が増え、注目が高まっています。

一方、デザイン思考の基本的な考え方やビジネスとの関連性がよくわからず、重要度は理解しつつも疑問に感じている人もいるでしょう。

そこで今回は、

  • デザイン思考の考え方
  • 注目されている理由
  • ビジネスでの活用事例

について詳しく解説していきます。

現在、デザイン思考の習得を目指している方は、ぜひ参考にしてください。

デザイン思考(デザインシンキング)とは?なぜ注目されているの?

まずは、デザイン思考の考え方と注目されている理由について見ていきましょう。

ビジネスシーンで活かす上でも重要なポイントとなるため、しっかり把握してください。

デザイン考案のプロセスをビジネスに活かす考え方

デザイン思考とは、デザイナーが用いているプロセスを構造化した思考法です。

ビジネスにおいては、過去になかった課題や未知の問題の解決を図るために用いられており、ユーザー視点で商品・サービスへの本質的なニーズを発見するのに役立ちます。

参考までに、よく似た名称で「アート思考」というものがありますが、こちらは明確に異なる思考法です。

混同してしまうと学習を阻害するリスクがあるため、後で詳しく確認しましょう。

2つのビジネスシーンで役立つ

デザイン思考は、DX推進やサービスの設計に役立つことで注目されており、近年は加速度的に活用の場が広がっています。

ここではどのように役立つのかを具体的にチェックしていきましょう。

DX推進と相性が良い

DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略称です。AIやIoTなどのデジタル技術を活用し人々の生活をより良いものに変革することを指しており、ユーザー目線に立って創造するデザイン思考と高い親和性を持っています。

また、DXの対象はビジネスシーンに限りません。たとえば写真のデータを世界中の人がオンライン上でシェアできる状態にすることも、DX推進に当てはまるため、その領域は非常に広範囲といえるでしょう。

そして、経済産業省は、DX推進に「ユーザー起点でデザイン思考を活用し、UX(ユーザーエクスペリエンス)を設計し、要求としてまとめあげる人材」が求められるとしています。

そのため、デザイン思考はDX推進において必要なプロセスといっても過言ではないのです。

引用:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~ | 経済産業省

サービスの設計に活用できる

サービスの設計では「サービスデザイン」という方法論が用いられます。

具体的に、サービスデザインは、すべてのビジネスにおける顧客体験や価値を意味しており、顧客が商品・サービスに興味を抱いてから利用するまでの流れの設計、あるいは実現に向けた仕組みづくりをイメージすると良いでしょう。

すなわち、ビジネス全体のデザインと言い換えることも可能であり、実現するにはユーザー視点に立てるデザイン思考が必要となるのです

アート思考とは違う考え方

アート思考とデザイン思考は似ているため混同しがちですが、結論として両者は大きく異なる思考法です。

たとえば、デザイン思考はユーザーの立場で物事を考える思考法であり、すでにある商品・サービスの発展のために用いられています。

一方、アート思考は自己のアイデアが起点となる思考法。何かをもとにするのではなく、ゼロから自由な発想で考えます。

したがって、デザイン思考はユーザーや顧客の視点で考えるのに対し、アート思考は商品・サービスを生み出す側の立場で考えていくという違いがあるのです。

名前は似ていますが、適したシーン自体が異なるため、適切に使い分けられるようにしましょう。

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デザイン思考の5つのプロセス

デザイン思考は、以下5つの流れで活用されます。

  1. 共感/Empathize
  2. 定義/Define
  3. 概念化/Ideate
  4. 試作/Prototype
  5. テスト/Test

とても重要なプロセスなので、詳しく見ていきましょう。

①共感/Empathize

デザイン思考でまずやるべきことは、ユーザーが共感しているものを理解することです。

インタビューしたりアンケートを取ったりすることで「ユーザーが商品・サービスに何を求めているのか」「課題と捉えていることは何か」を見つけ出していきます。

この時、「なぜこのような回答をしたのか?」というユーザーの本音を分析し深掘りすることが重要です。

②定義/Define

①共感で得た情報をもとに、ユーザーのニーズを定義していくプロセスとなり、ユーザーが本当に実現したいことや、潜在的に求めていることは何なのかを深掘りしていきます。

またユーザー自身が認識していることだけでなく、言語化できていない・自覚していない想いも分析することが重要です。

ユーザーのニーズを定義することで、目指していく方向性やコンセプトを策定しやすくなります。

③概念化/Ideate

概念化の段階ではチーム内でのブレインストーミング*を通し、「ユーザーニーズを解決するにはどうすれば良いか」を考えていきます。

*複数人が自由に意見交換する会議手法

ちなみに、概念化でのポイントは、質より量を意識し制限を求めず多くの案を出すこと。そのため、アイデアを出しにくい雰囲気にならないよう、すべて肯定的に受けとめましょう。

④試作/Prototype

チーム内で出したアイデアをもとに、試作品を作っていきます。一度形にすることが目的であるため、時間やコストをかけたりクオリティを求めたりする必要はありません。

試作品を作ることで、今まで気づけなかった視点や問題点を見つけられます。

⑤テスト/Test

試作品でテストを重ね、ブラッシュアップしていく段階です。

最初に定義したユーザーのニーズは正しかったのか、ユーザーの課題解決につながっているかなどを検証し改善していくことで、商品・サービスのクオリティを高めていきます。

ユーザーテストを繰り返すことで、より顧客満足度の高い商品・サービスになっていくでしょう。

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デザイン思考を活用する3つのメリット

ビジネスでデザイン思考を活用する主なメリットは、以下の3つです。

  • 革新的なアイデアを生み出せる
  • チーム内のコミュニケーションが促進される
  • 多様性に富んだ環境が構築できる

デザイン思考をフル活用できるよう、順番に見ていきましょう。

革新的なアイデアを生み出せる

デザイン思考は従来の思考法とは異なるため、革新的なアイデアを生み出せる可能性が高まります。

これまではユーザーが求めるものをそのまま提供する「顧客第一主義」が主流でしたが、デザイン思考は、ユーザー視点でアイデアを出す思考法です。

ユーザー目線に立つことで、サービスの提供側からは見えなかったアイデアを創出できるため、今までにない革新的なアイデアを生み出せる可能性を高められるでしょう。

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チーム内のコミュニケーションが促進される

メンバー全体でのアイデア出しや試作を重ねることで、コミュニケーションが活性化するメリットもあります。

また、上下関係を問わず発言すればコミュニケーションの機会が増加し、メンバー全員の貢献意識も高まるでしょう。

多様性に富んだ環境が構築できる

デザイン思考によって、多様性に富んだ環境が構築されやすくなります。

アイデア出しでのさまざまな意見を受け入れることで、発言・発想の自由度が高まっていくためです。

加えて、デザイン思考では、自分の考えと異なる意見も肯定的に受け入れていく姿勢が求められます。したがって、デザイン思考を継続するほど、多様な考えに対する柔軟性が養われていくのです。

デザイン思考を利用する2つのデメリット

デザイン思考の活用には、以下のデメリットもあります。

  1. そもそもユーザーが存在しない領域には不向き
  2. 発想力がないと成果がでにくい

メリットと同じく重要なので、1つずつ確認していきましょう。

そもそもユーザーが存在しない領域には不向き

デザイン思考は、既存ユーザー自体が存在せず、明確な課題が見出せない状態でのアイデア出しには向いていません。

そもそも、ユーザー目線で課題解決を図る思考法となるため、ゼロベースで新しい商品・サービスを生み出すことには活用できないのです。

もし、ほとんど認知されていないブルーオーシャンの領域にチャレンジするなら、アート思考を用いた方が良いでしょう。

発想力がないと成果がでにくい

デザイン思考においては、画期的なアイデアと多角的な思考が大切です

そのため、視野が広いメンバーがいないと、ありきたりなアイデアしか生み出せず成果に結びつきにくいでしょう。

また、メンバーをまとめるリーダーがデザイン思考を理解していないと、課題の本質を見抜けないばかりか、ありきたりな結論に終始してしまうため、より成果を出すことが難しくなります。

デザイン思考と組み合わせられる5つのフレームワーク

デザイン思考はそのまま活用するより、以下5つのフレームワークのいずれかと組み合わせるとさらなる効果が期待できます。

  1. 事業環境マップ
  2. SWOT分析
  3. ビジネスモデルキャンパス
  4. 共感マップ
  5. バリュープロポジションキャンバス

ここから詳しく解説するため、ぜひ参考にしてください。

事業環境マップ

事業環境マップは、外部環境を把握しビジネスモデルを再構築する際に活用されます。

自社商品・サービスの外部環境を把握できることから、デザイン思考との組み合わせが有効なフレームワークです。

そして、事業環境マップでは、ビジネスにとって重要な以下4つを外部環境として分析します。

  1. 市場(規模や成長性)
  2. 業界(競合他社・業界の推移)
  3. トレンド(今後のトレンド)
  4. マクロ経済(経済を変動させる要素)

たとえば、競合他社がより優れた商品・サービスを提供したり顧客ニーズが変わったりすると、それまで順調だったとしても先行きが怪しくなってしまいます。

また、事業環境マップはデザイン思考でプロダクトを捉えたり、リリース後の外部環境の変化を分析することにも活用可能です。外部環境の変化を正確に把握し、デザイン思考で改善につなげることで、より安定した事業が構築できるでしょう。

SWOT分析

SWOT分析は、企業の戦略策定や経営資源の最適化などのために用いられるフレームワークであり、自社の外部・内部環境を以下4つの要素から考えていきます。

  1. 強み(Strength):自社の商品・サービスが得意とするところ
  2. 課題(Weakness):自社の商品・サービスが苦手とするところ
  3. 機会(Opportunity):社会や市場の変化といったプラスに働く外部要因
  4. 外的脅威(Threat):社会や市場の変化といったマイナスに働く外部要因

SWOT分析を用いれば、サービスの内外要因をプラス・マイナスに分けて把握できる上に、将来的なリスクも見つけられるでしょう。

もちろん、デザイン思考を組み合わせれば、よりユーザーニーズを深掘りした分析が可能となるため、ぜひ試してみてください。

ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスは、以下9つの構成要素から、事業構造を設計図のような状態に整理していきます。

  1. パートナー:連携するサプライヤーや代理店
  2. 主要活動:事業の主要活動
  3. リソース:事業で強みとなる設備やネットワークなど
  4. 価値提案:顧客に提供する価値
  5. 顧客との関係:顧客との接点や関係維持の方法
  6. チャネル:顧客に届けるためのルート
  7. 顧客セグメント:対象の顧客集団の属性
  8. コスト構造:広告費や人件費などの経費
  9. 収益の流れ:課金の流れや支払い方法などの収益構造

ビジネスモデルキャンバスを用いれば、自社ビジネスの優位性や弱点などを洗い出し、ビジネスモデルの強化につなげることが可能です。

また、既存ビジネスの改善のために使われるケースが多いため、デザイン思考と組み合わせればさらに効果を発揮するでしょう。

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共感マップ

共感マップは、ユーザー視点で感情や行動を整理しニーズを把握するフレームワークであり、以下の視点に基づいて、ユーザーの本質を深掘りしていきます。

  • 考えていること
  • 感じていること
  • 見ているもの
  • 言っていること・行動
  • 聞いていること

上記は、デザイン思考のプロセスと共通するため、当然相性は抜群。それぞれ具体的に書き出し、ひとつの図にまとめていきましょう。

バリュープロポジションキャンバス

バリュープロポーションは、顧客ニーズが高く競合他社が提供できていない価値を指しており、日本語で「価値提案」という意味があります。

そして、バリュープロポーションを活用し、顧客ニーズと自社が提供すべき価値を定義するフレームワークが「バリュープロポジションキャンバス」です。

具体的に、バリュープロポジションキャンバスでは以下の3W1Hを明文化します。

  • Who:誰の
  • When:どんなシーンでの
  • What:どんな課題を
  • How:どのように解決するのか?

上記の要素から他社にない独自価値を見つける上で、デザイン思考の自由な発想とアイデアが役立つのです。

参考までに、アイデアが決まり試作するフェーズでデザイン思考を導入すると、より効果的に活用できるでしょう。

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デザイン思考の3つの活用事例

デザイン思考を活用した商品・サービスには、以下3つの事例があります。

  1. Apple「iPhone」
  2. ダイソン社「コードレスクリーナー」
  3. 任天堂社「Wii」

自社と親和性の高い成功例を見つけて、デザイン思考をより効果的に活用してみてください。

Apple「iPhone」

世界中で使用されているスマートフォンのiPhoneは、デザイン思考を活用した代表的な事例

iPhoneの発売当初はガラケーの優位性が高く、iPhone自体に携帯としての機能はほとんどありませんでした。そのため、今でこそ信じられませんが、iPhoneは売れないと思われていたのです。

しかし、ユーザーの潜在的欲求が満たされるアプリマーケット・開発の仕組みを導入したことで、世界的な大ヒットを記録。

iPhone以前の国内メーカーは、市場からニーズを分析し、忠実に機能実装していたところ、iPhoneは「ユーザーをつなぐインターフェースはこうあるべき」と潜在的ニーズを定義し、具現化に成功しました

ダイソン社「コードレスクリーナー」

ダイソン社が販売している「コードレスクリーナー」は、デザイン思考を用いたことで圧倒的なシェアにつながった商品です。

たとえば、従来のコードレスクリーナーは、吸引力が弱い・電池持ちが悪いといった欠点がありました。

しかし、ダイソンは「吸引力が弱い」という改善不可だった問題を解決したのです。

ただし、ダイソンが評価されているのは、画期的なソリューションを提示したことだけでなく、「すぐ掃除できるよう手元に置きたい」という潜在ニーズもしっかり汲み取ったポイント。

所有欲をくすぐる生活感のないデザインも功を奏し、値段以上の価値を感じる掃除機を作り上げました。

任天堂社「Wii」

Wii」が発売される以前のゲーム業界は、ゲームに夢中になるあまり親子関係が希薄となり、コミュニケーションが減ることが問題視されていました。

そのため、任天堂社では「家族で楽しめるゲーム」というコンセプトのもと、新たなモデル開発に着手。

デザイン思考を効果的に活かした結果、老若男女問わず使いやすいリモコン型のコントローラーと、コンパクトな機体が魅力の「Wii」が誕生しました。

デザイン思考を活用すれば効率的にサービスを設計できる

デザイン思考を活用することで、今までにない新しいサービスの設計に活かせます。

他社にない強みをもった価値を提供できれば、新たな顧客の獲得はもちろん、企業ブランドの向上につなげられるでしょう。
また、デザイン思考によって、iPhoneのように世界的なヒットを記録した事例もあるため、企画・サービス開発に取り組んでいる方は、ぜひ導入してみてください。

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