KDDIの新規事業への取り組み方は、オープンイノベーションに基づいたものと言われます。

オープンイノベーションが注目され20年以上の歴史がありますが、現在のオープンイノベーションは「3.0」まで進化したものです。しかし、大企業でオープンイノベーションを導入して成功している例は数多くはありません。

  • KDDIの新規事業の取り組みが成功していると評価されるのは何故なのか?
  • KDDIのやり方と他社のやり方ではどこが違うのか?

と疑問を持たれる方も少なくありません。

そこで、当記事ではKDDIの新規事業への取り組み方、出資先スタートアップの事例、M&Aまで至った事例について解説していますので、参考にしていただけましたら幸いです。

KDDIの「KDDI∞Labo」とは?

KDDIの「KDDI∞Labo」とは、スタートアップのビジネスアイデアやテクノロジーと大企業のアセット(有用な資源)を連携させてイノベーション創出に取り組む事業共創プラットフォームのことです。

簡単に言うと、スタートアップのビジネスモデル、テクノロジーと大企業の資金、既存技術を結びつけ、新規事業を創出することに「ムゲンに取り組む」プラットフォームになります。

その取り組み方や事例について、具体的に見ていきましょう。

KDDIの新規事業への取り組み方

不確実性が増す現代において、オープンイノベーションによる自前主義からの脱却を図って新規事業を創出することを目指す大企業が増えています。しかし、その試みから生まれた新規事業の殆どが難航していると言われています。

このような状況の中、KDDIは20種の新規事業を成功させていると見られていますが、その取り組み方の違いはどこにあるのかを見てみましょう。

KDDIがスタートアップを支援する目的

KDDIは事業創造本部を立ち上げ、2011年から今日までに約2,000社のスタートアップとの協業を検討、うち200社に出資してきたとのことです。そして、現時点でそのうち20社を関連会社化(M&A)し、新規事業に取り組んでいると言われています。

ここまでしてスタートアップに拘ってきたのは、以下の理由があるようです。

  • 基本的にKDDIの社員にアイデアはない
  • そのため社内ベンチャーや社内企画は一切やらない
  • 新規事業のアイデアは外に求めた方が見つけやすい

これらの理由から、スタートアップにアイデアを求め、育み、支援を積極的に行っているとKDDIは断言しています。

スタートアップと出会う方法

とはいえ、有力なスタートアップと出会うことは容易ではないと考えられますが、KDDIはどのように発掘しているのでしょうか。

KDDIは先入観を持たずフラットに、オールジャンルでたくさんのスタートアップに会うことを実践しているようです。

一見効率が悪いようですが、大企業目線を排した目線でないと、本当に世の中を変えるようなインパクトを与えるスタートアップを見逃してしまうとKDDIは捉えています。

「選球眼」や「固定概念」を持たず、できるだけ多くのスタートアップに会うというのが、基本的なスタンスということです。

KDDIのこれらのスタンスからみて、すべてのスタートアップ企業にチャンスがあるとみて良いでしょう。

0→1(ゼロイチ)の新規事業はやらない

KDDIが社内ベンチャー制度や社内企画はやらない、「ままごと」みたいなことをやる必要はないと断言しているのは何故なのか。

通信会社のサラリーパーソンの新規事業アイデアと起業家が身銭を切ってマーケティングして「この領域でいける」と思って立ち上げた会社のアイデアでは質が違うと捉えているようです。覚悟やリスク、成功率の高さも違うと言います。

KDDIは、これまでの大企業や金融系ベンチャーキャピタルとは、スタートアップに対する捉え方が、全く違うと言えるでしょう。

スタートアップへの投資判断基準

KDDIが投資判断をする際、ある起業家から初めて聞くアイデアや技術を1回目はスルーし、別の起業家から同じものが出てきたら、その領域を徹底的に情報収集するようです。

同じ領域の技術やアイデアを複数の起業家が取り組んでいるということは、何かあると捉えると言います。

そのうえで、最終的には経営者の人となり、会社の相性を計って「この人と一緒にやっていけるか」という視点で判断するとのことです。

昭和の時代に活躍した創業経営者やバンカーのようで、とてもアナログな投資判断基準であることに驚かされますが、確かに事業は人が行うもので基本に徹しているとも言えます。

次に、KDDIが投資したスタートアップとどのような付き合い方をしているのかを見てみましょう。

KDDIのスタートアップと新規事業の共創スタンス

基本的にKDDIは新規事業について、投資したスタートアップと共創していくスタンスを取っていると言います。

どのようなスタンスで取り組んでいるのかを具体的に見てみましょう。

投資先スタートアップが「やってほしいこと」をやり続ける

KDDIの担当者が、スタートアップの経営者に惚れ込んで投資を決めたので、その担当者が日々コミュニケーションをとり、組織的には応援することに尽力するということです。

KDDI側がスタートアップを管理するというスタンスではなく、スタートアップ側からKDDIにやってほしいことの要望を承りサポートするというスタンスだと言います。

つまり、スタートアップファーストを徹底しているのです。例えば、「人脈を紹介してほしい」「技術をテストする場所はないか」「あのメディアを使いたい」「ノウハウを知りたい」などの要望に愚直に応えると言います。

独立独歩で起業したスタートアップでは足りないものだらけで、なかなか手に入らない最高の経営環境と言えるのではないでしょうか。

スタートアップを見守るフェーズが重要

KDDIが出資したスタートアップは、ファンドから投資した先だけで120社以上あります。その半分以上は「置いているだけ」とのことです。

積極的に支援してほしいと言われれば支援するが、言われない限りは「見守る」というスタンスをとっていると言います。これらの「見守り案件」を大変重要と捉えているようです。

例えば業績が上がらない場合、「やる」「やらない」という判断だけではなく、何もしない「見守る」というフェーズがあってよい。その事業が、時代の変化と共に急速にニーズが高まることもあると捉えていると言います。

新規事業からの撤退基準

KDDIが投資したスタートアップと共創で取り組んだ新規事業から撤退する場合の基準はどのようなものでしょうか。

その答えは、「特に基準はない」とのことです。

ただ、「しゃかりきにやり過ぎない」「事業にはタイミングや時代の要請がある」と捉え、「見守り」のフェーズを経たうえで最終的に判断すると言います。

これらのKDDIのスタンスはこれまでの大企業のものとはかけ離れており、スタートアップにとっては、大変やりやすいのではないでしょうか。

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KDDIの新規事業(事業創造本部)と他事業部との関係

大企業の視点を徹底して排除しているKDDIの事業創造本部。社内の他事業部との関係はどのようなものかを見てみましょう。

他事業部は巻き込めない自己努力・自己完結型

KDDIの事業創造本部と社内の他事業部の関係は次のようなものです。

他事業部は、各々の時間軸で周辺案件に取り組んでおり、案件を持って行っても「検討済み」「規模が小さい」ということになる。そのため、「他事業部との壁も壊すな」と考えているとのことです。

また、仮に他事業部と隣接した新規事業をやる場合でも、自分たちで一から体制を作って事業化、協業をやり込むことを徹底しているといいます。

むしろ、他事業部からその新規事業を一緒にやりたいと申し入れがあるまで自己努力、自己完結型で臨んだ方が大きな案件に成長しやすいと捉えているようです。

まずは、スモールヒットを目指す

これは、リーンスタートアップの基本的な考え方。つまり、いきなりコストをかけずに試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に捉えて顧客満足度の高い製品・サービスを開発し、ヒット商品を目指すというものです。

KDDIの事業創造本部は、スタートアップを成功に導きやすい考え方を実践していることがうかがえます。

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CVCなどチームメンバーはやりたいことやステージで決める

KDDIの事業創造本部には、Web3事業推進室やLX戦略部といった専門部署があります。そのなかでチームを編成するときは、まずチームスタッフが「やりたいこと」を大切にしてスタッフを決めているとのことです。

つまり、専門性の高いスタートアップ案件が多いことに、スタッフの「やりたいこと」という専門性で多様性に対応していることになります。

例えば、BtoBのデジタルトランスフォーメーションという案件では事業会社で経験豊富なスタッフを中心にチームを構成し、メタバースやWeb3といった新しい案件では経験よりも発想を重要視し新卒を中心にチーム構成しているとのことです。

これらの施策は、均質のチーム、価値観が同じようなチームでやると「変化に気づけなくなる」ことを防ぐためと言います。

以上のとおり、KDDIの事業創造本部そのものがベンチャー意識が高い組織であると言えるでしょう。

KDDIのオープンイノベーションへの取り組み方

ここでは、KDDIの事業創造本部のオープンイノベーションに関する考え方や取り組み方を見てみましょう。

アップデートし続ける姿勢が必要

過去10年以上の取り組みの中身として、3年サイクルで作った型を壊して、また作るということを繰り返してきたと言います。これは、スタートアップファーストで対応した結果できたサイクルだそうです。

つまり、KDDI側をフレキシブルにアップデートし続ける姿勢を大切にしていると言えます。KDDIの事業創造本部は、大企業にあっても唯一オープンイノベーションを重要視していることがうかがえます。

M&Aに至るのは100分の1

KDDIの事業創造本部は、0→1をスタートアップに求め、1→10や10→100はKDDIがやるということを明確に示しています。スタートアップ側もこのことを十分理解したうえで、事業に取り組んでいる訳です。

つまり、スタートアップにとっては、M&Aが目先の目標になります。そんななかで、事業創造本部が過去10年以上取り組んだ結果、約2000社のスタートアップを検討してM&Aに至ったのは、20社

「失敗を恐れないオープンイノベーション」とよく言われますが、それらの失敗で多産多死の中から真の成功が生まれてくるという捉え方をしているようです。実績からも、1の成功に対し、99の失敗がないとM&Aは起きないことを示しています。

しかし、KDDIで新規事業の立ち上げを試みた場合、本体事業部が取り上げる20種類の新規事業が誕生していたかどうかを考えると、事業創造本部の貢献性は計り知れないものがあるのではないでしょうか。

不況時こそ、オープンイノベーションを止めない

M&Aについて、PMI(Post Merger Integration:ポスト・マージャー・インテグレーション)は、「取り込まない」「外で育む」とKDDIの事業創造本部は考えているようです。

つまり、スタートアップの長所は高成長なところで、これを低成長の大企業に取り込むとポテンシャルを削ぎ落してしまうことがあると事業創造本部は考えています。

むしろ、高成長の会社を低成長の会社がサポートすることに徹して、「口を出さない」「やり方を押し付けない」ことが全てだと捉えているようです。

ただ、M&AをするとKDDI本体と連結決算会計になるため「CFOを送り込む」こと、「情報セキュリティ」と「ファイナンス」はKDDIのやり方を取り入れてもらうことは必須と言います。ただし、これら以外は「口を出さない」、スタートアップのやり方を尊重するというスタンスです。

日本企業は不況になると、新規から止めてしまいますが、KDDIの事業創造本部は「不況の時こそ次をやっておかないと、守り一辺倒になってしまう」と捉えていると言います。

KDDIの事業創造本部は、大企業の中にあって、経営そのものを常に考えている頼もしい存在と言えるでしょう。

KDDIでM&Aに至ったスタートアップの事例

KDDIがスタートアップをM&Aに及んだ企業をいくつかご紹介します。

株式会社Loco Partners

会員制宿泊サービス「Relux」を運営する
KDDIは、2017年2月末日、株式の過半数を取得する

株式会社ソラコム

IoT通信プラットフォーム「SORACOM」を提供するIoT領域のリーディングカンパニー
KDDIは、2017年8月下旬に子会社化

Momentum株式会社

インターネット広告におけるアドフラウド(不正広告)を検出・排除するネットワーク向けアドフラウドソリューション「BlackHeron」やブランド保護を行うブランドセーフティソリューション「BlackSwan」を提供する
KDDI傘下のSyn.ホールディングスが2017年7月に連結子会社化

株式会社イーオンホールディングス

英語・日本語・中国語教育及び留学支援の各分野でサービスを提供
KDDIは、2018年1月22日、発行済み全株式を取得

株式会社ティアフォー

オープンソースの自動運転ソフトウェア (OS)「Autoware」を開発し、日本で初めて一般公道における遠隔制御型自動運転システムの実験を実施し、無人運転(レベル4)の自動運転に成功
KDDIは、2018年3月、業務資本提携契約を締結

JapanTaxi株式会社

全国7万台のタクシーと900万ダウンロードのタクシー配車アプリ「JapanTaxi」を提供
KDDIは、2020年3月、資本業務提携契約を締結

株式会社エアロネクスト

産業用ドローンの機体設計構造技術の研究開発および、特許ポートフォリオ開発・ライセンスビジネスを行う
KDDIスマートドローン株式会社と業務提携契約を締結すると共に、KDDI Open Innovation Fond3号より出資を受ける

以上、KDDI及び関連会社がM&A及び出資に及んだ事例を一部ご紹介しましたが、M&Aに至っていないものの、KDDI Open Innovation Fondから出資しているケースは多数あります。

ぜひ、参考にしてください。

まとめ

KDDIの新規事業への取り組み方について、事業創造本部の実績を基に解説しました。

大企業の取り組み方とは思えないほど門戸を開き、フレキシブルで革新的な対応をしていることに驚かれた方が少なくないのではないでしょうか。

スタートアップ企業にとっては、資金調達のみならず、大企業の既存技術その他経営資源を自社の経営に活用できるチャンスがあります。

弊社Reinforz, Inc (リインフォース株式会社)は、オープンイノベーションの成功例、失敗例を客観的に評価し、お客様にお伝えして成功に導けるようアドバイスをしております。

スタートアップ企業を経営されておられる方は勿論、これから立ち上げようとされておられる方は、お気軽にご相談いただけましたら幸いです。

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