新規事業立ち上げにはエネルギーが必要で、なかでも、収益化までにかかる資金の工面がネックです。せっかくのアイデアも形にならなければ意味がないものの、新規事業への投資リターンが見合うか判断できかねる場合も多いでしょう。
そこで活用したいのが、国や自治体から支給される助成金・補助金です。本記事では、中小企業・小規模事業者の方が申請できる助成金をまとめました。
助成金申請の注意点なども解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
新規事業立ち上げに活用できる助成金とは
そもそも助成金(補助金)とは、国や地方自治体が実施している制度で、企業や個人事業主を対象に返済不要の資金を提供するものです。制度の趣旨によって対象となる業種や支給額が異なり、一般的に、経費を支払った後に支給される「後払い方式」が採用されています。
支給金額の上限として多いのが「支払い金額の1/2までとし、上限は100万円まで」といったものです。このように、経費として計上した全額が支給対象にならないことは覚えておきましょう。
各助成金には当然条件があり、必要書類などを提出した上、審査に通らなければ支給されません。さらに、助成金には応募期間が定められています。
本記事で紹介する助成金も支給条件や対象者などが異なるため、支給を申請する予定の方は、予め条件を確認しておきましょう。
助成金と補助金の違いとは
助成金に似た言葉で補助金があります。厳密に両者の違いがあるわけではありませんが、以下の使い分けをすることが多い傾向です。
助成金 | 補助金 | |
目的 | 人材雇用や研究開発といった特定の目的に対する給付 | 事業そのものに対する給付 |
審査 | 条件を満たせば必ず支給されるものの、不正受給すると罰則を受けることも | 採択される必要があり、給付目的以外に使用すると罰則を受けることも |
どちらも返済の必要がない支援であることに変わりありませんが、目的や審査基準に違いがあります。補助金のほうが利用の難易度が高い分、種類や支給額は多いなどのメリットがあります。
実情として両者を厳密に区別して使われることはほぼなく、助成金・補助金を同じ意味で使うケースが大半です。
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助成金や補助金を支給する機関について
さまざまな機関が助成金の支給・採択していますが、一部商工会議所などで実施する制度があるものの、国または地方自治体主導で運用される助成金が大半です。
国が主導する助成金の多くが、経済産業省または厚生労働省管轄で管理されています。
- 経済産業省:経済活動の推進に寄与する制度運用の主体で、外局機関である中小企業庁が助成金を管理しているものも
- 厚生労働省:国民の生活を保証し、向上させるための機関で、医療や福祉を中心に人材開発や雇用環境整備を目的とした助成金も
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新規事業立ち上げに助成金を活用することのメリット3選
新規事業立ち上げに助成金を活用することで得られるメリットは、大きく分けて以下の3つです。
- 返済不要で資金計画が立てやすい
- 時代の流れが把握できる
- 事業計画の精度が上がり、より実現しやすい計画になる
返済不要で資金計画が立てやすい
「資金調達=融資」というイメージをもつ方も多いかもしれませんが、助成金なら返済不要。つまり、資金計画が立てやすいというメリットがあります。
融資の場合は返済しなければならないため、確実に収益化できるとはいえない新規事業立ち上げにおいては負担も大きいことでしょう。
もちろん、支払った経費が全額対象になるわけではありませんし、後払い方式なため支給されるまでは立て替える必要があります。その点を踏まえても、助成金はリスクの低い資金調達手法として活用しない手はないでしょう。
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時代の流れが把握できる
助成金や補助金は、特定の課題解決が目的で制度設計されます。つまり、助成金の目的や条件などをリサーチすることで、国や自治体が目指す姿をイメージできるのです。
たとえば「JAPANブランド育成支援事業」は、海外展開を視野に入れた事業に対する補助金です。国が注力して解決していきたい課題を理解しておくことで、自社ビジネスの方向性を考える際の参考にもなるでしょう。
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事業計画の精度が上がり、より実現しやすい計画になる
助成金の審査は細かく、申請書類も多岐に渡ります。事業計画書や資金計画書の作成は必須です。そのため、助成金の支給・申請をきっかけに、新規事業立ち上げの事業計画に関する精度を高められるというメリットもあります。
助成金を申請する際、実現可能性の低い事業計画を提出するわけにもいきません。助成金の支給は、リスクを抑えて新規事業の立ち上げにチャレンジできるチャンスです。
助成金を活用することで、実現しやすい事業計画を立案できるという副次的効果も得られるでしょう。
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新規事業立ち上げに助成金を活用することのデメリット2選
助成金の活用はメリットだけでなく、もちろんデメリットもあります。とくに以下の2点は助成金活用のハードルになりうるため、事前に覚えておきましょう。
- 手続きが複雑
- 受給までに時間がかかる
手続きが複雑
助成金・補助金は種類や目的に応じた資料制作が必須で、申請時だけでなく実績の報告時にも別途手続きするのが大半です。その都度さまざまな書類を準備しなければならないため、手続きが複雑という点は大きなデメリットといえるでしょう。
同じ制度でも年度が変わることで様式が改訂されたり、要件が変更されたりすることもあります。そのため、助成金に関する最新情報をリサーチ・把握しておくのも重要です。
受給までに時間がかかる
助成金は申請してすぐに受給できるものではありません。申請時の書類等提出のほかにも実施後の報告を経て、実施機関が支給決定します。そのため、申請から受給までに1年以上かかるケースも。
受給までの期間は自社で資金を準備する必要があるため、受給までのスケジュール管理・資金繰りは徹底しましょう。
必ず採択されるとは限りませんし、書類の提出期間を過ぎたら申請も無効になってしまいます。助成金をアテにしすぎた計画にも注意が必要です。
新規事業立ち上げに活用できる助成金・補助金6選
ここからは、新規事業立ち上げに活用できる助成金・補助金を6つ紹介します。
- ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
- 小規模事業者持続化補助金
- IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
- 事業再構築補助金
- 事業承継補助金(事業承継・引継ぎ補助金)
- JAPANブランド育成支援事業
これらはいずれも国が主導し、中小企業を対象にした助成金です。自治体主導の助成金ではありませんので、地方の事業者の方でも該当すれば申請できます。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
ものづくり補助金は、新事業へのチャレンジ、生産ラインの改善などを支援します。
- 一般型
- グローバル展開型
- ビジネスモデル構築型
応募の枠は上記3タイプに分かれ、支給上限額が異なります。定期的に募集されており、都度条件や金額が変わるため、詳細は下記のリンクからご確認ください。
対象者 | 付加価値額の年率3%以上向上などを実現する事業計画を策定し実施する中小企業・小規模事業者など |
目的 | 革新的なサービス開発、試作品開発、生産性プロセスの改善に必要な設備投資等を支援 |
補助率 | 2分の1〜3分の2 |
支給上限額 | 一般型:1,250万円グローバル展開型:3,000万円ビジネスモデル構築型:1億円 |
公式サイト | https://seido-navi.mirasapo-plus.go.jp/supports/2184 |
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、販路開拓や生産性向上等のための取り組みに対して交付される補助金です。対象となる経費は比較的幅広く、補助対象となり得る事例は以下のとおりです。
- 新たな販促用チラシの作成・送付
- 新商品の開発
- Webサイトでの広告
- 店舗改装
- ネット販売システムの構築
創業して間もない企業であれば該当する可能性も高いため、申請時期を確認の上、利用を検討してみてはいかがでしょうか。
対象者 | 常時使用する従業員の数が5人以下の小規模事業者など |
目的 | 策定した経営計画に基づく販路開拓等(生産性向上)のための取り組みを支援 |
補助率 | 3分の2 |
支給上限額 | 50万円 |
公式サイト | https://jizokukahojokin.info/ |
IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者が自社の課題解決のために導入するITツールの一部を補助し、業務効率化を支援するものです。該当する経費は以下のとおりです。
- ソフトウェア購入費
- クラウド利用料
- 導入関連費
- ハードウェア購入費
導入するパッケージによってA類型・B類型と分かれています。
対象者 | 一定の条件を満たす中小企業、小規模事業者 |
目的 | 自社の課題やニーズに合ったITツールの導入を支援 |
補助率 | 2分の1 |
支給上限額 | A類型:30万円〜150万円未満B類型:150万円〜450万円 |
公式サイト | https://www.it-hojo.jp/ |
事業再構築補助金
事業再構築補助金は2021年に新設された補助金で、新型コロナウイルスによる影響で売上が下がった企業の支援が目的です。中小企業だけでなく、さらに規模の大きい中堅企業も申請可能という点が特徴的。
「新製品等の開発で新たな市場に進出する」「メイン事業を転換する」などの思い切った事業再構築が対象で、補助金額は申請する枠と企業規模によって異なります。
対象者 | 中堅企業、中小企業、小規模事業者、個人事業主 |
目的 | ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するための事業再構築を支援 |
補助率 | 2分の1〜4分の3 |
支給上限額 | 100万円〜1億5,000万円※枠及び条件によって異なります |
公式サイト | https://jigyou-saikouchiku.go.jp/ |
事業承継補助金(事業承継・引継ぎ補助金)
事業承継補助金は、中小企業や小規模事業者が事業承継やM&Aにより経営革新などを行う場合に、必要な経費の一部を補助します。
- 経営革新事業
- 専門家活用事業
- 廃業・再チャレンジ事業
上記3つのいずれかに該当する事業に挑戦する際は、要件を確認の上、申請してみてはいかがでしょうか。
対象者 | 経営革新やM&Aにより経営資源を他者から引継ぐ中小企業、小規模事業者 |
目的 | 事業承継やM&Aがきっかけの経営革新・経営資源の引継ぎ等の支援 |
補助率 | 3分の2 |
支給上限額 | 経営革新事業、専門家活用事業:600万円廃業・再チャレンジ事業:150万円 |
公式サイト | https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2022/220331shoukei.html |
JAPANブランド育成支援事業
JAPANブランド育成支援事業は、海外展開やそれを見据えた全国展開のために、新商品・サービスの開発・改良などにかかる経費の一部を補助します。地域経済の活性化及び地域中小企業の振興が目的の補助金です。補助対象の経費は以下のとおりです。
- 通訳・翻訳料
- 広報・マーケティング調査費
- 展示会等出展費
- 設計・デザイン費
上記のほかにも幅広い経費が対象となっています。海外での販路開拓を目指すなら、一度要件を確認しておきましょう。
対象者 | 海外展開を目指す中小企業者等 |
目的 | 世界に通用するブランドの確立などを支援 |
補助率 | 3分の2※条件によっては2分の1 |
支給上限額 | 500万円 |
公式サイト | https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/chiiki/japan_brand/ |
助成金や補助金を申請する際の注意点3選
新規事業立ち上げに伴って助成金や補助金を申請する際は、以下3つの注意点をあらかじめおさえておきましょう。
- 必ず採択されるとは限らない
- 支払いは基本的に後払い
- 受付期間を把握する
必ず採択されるとは限らない
補助金は必ず採択されるとは限らないため、資金繰りをアテにしすぎるのは注意が必要です。助成金に関しても、申請期間に漏れなく書類を提出しないと、受け付けられない可能性もあります。
補助金にも当然予算があり、募集が殺到すれば採択される確率は下がります。採択の鍵を握るのは「事業計画書」です。補助金の目的に沿った内容で、具体的かつ実現可能性の高い計画を提案するのがポイントになるでしょう。
申請すれば必ず支援を受けられるわけではありませんので注意しましょう。
支払いは基本的に後払い
助成金や補助金の申請が採択されたとしても、実際の支給までには時間がかかります。事業計画に基づき各種施策を実行し、その結果を報告してようやく支給額が決定します。
支払いを受ける前に、資金がショートしないようにするのも重要です。助成金や補助金が支払われるまでのスケジュールを把握し、無理のない資金計画を立てておきましょう。
受付期間を把握する
助成金や補助金は受付期間が限られています。受付期間を正確に把握し、限られた期間内に必要書類を提出できるよう手配しておきましょう。
助成金によっては年に1度しか募集しないものもあり、翌年度も継続される保証はありません。新規事業立ち上げが決まり次第、該当しそうな助成金の情報はこまめに確認しておきましょう。
適切に助成金を申請して新規事業に有効活用!
助成金や補助金は返済の必要がなく、リスクを抑えた資金調達として有効です。新規事業立ち上げは収益化できる確証がないため、助成金の活用は必要不可欠といえるでしょう。
中小企業向けの助成金は複数あり、年に数回募集しているものも。申請すれば必ず採択されるわけではありませんし、後払いで充当される点は注意が必要です。しかし、資金不足に陥りがちな新規事業立ち上げには、助成金を有効活用しない手はないでしょう。
こまめに助成金や補助金の情報収集に努め、新規事業立ち上げを成功に導きましょう。
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