ビジネスや起業、システム開発について調べていて「リーンスタートアップ」という言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。

リーンスタートアップとは、新しいビジネスを効率的に創出するためのマネジメント手法です。グーグルやアップルなど世界のトップ企業の発祥地であるアメリカ・シリコンバレー発の手法で、これまで数多くの企業が取り入れてきました。

この記事では、「MVP」「アジャイル」「ピボット」といった関連ワードの意味を含め、リーンスタートアップの基礎知識や実践のポイントを解説します。

リーンスタートアップとは?

リーンスタートアップという言葉は、英語の形容詞「リーン(lean)」と名詞「スタートアップ(startup)」の2つの単語で構成されています。

リーンとは、直訳すると「痩せ型の」「脂身のない」という意味で、ビジネスにおいて「無駄のない」と意訳されます。

スタートアップとは、新しいアイデアとイノベーションで短期間に革新的な価値を創出すること。

では具体的にリーンスタートアップとはどのような手法なのか解説していきます。

試作品のリリースから始める効率的なマネジメント手法

リーンスタートアップとは「試作品の提供から始めることで、開発に掛けるコストと時間を最小限にし、改善を繰り返して製品やサービスを効率的に成長させていく」手法です。

次の特徴をもってリーンスタートアップを定義できます。

  • 低コスト
  • 迅速さ
  • 顧客の反応を計測
  • 改善や方針転換を伴う
  • サイクルを何度も繰り返す
  • 無駄がない

提唱者であるアメリカの起業家エリック・リース氏は「トヨタ生産方式」を参考に、2008年に自身の起業体験を「リーンスタートアップ」として紹介。徹底的に無駄を排除するトヨタ生産方式の思想をビジネスに取り入れ、効率的なマネジメント手法を広く浸透させました。

基本的な3つのステップ

リーンスタートアップは、3つの基本ステップ「構築」「計測」「学習」で構成されます。

PDCAサイクルと本質的には同義ですが、リーンスタートアップでは「MVP」「ピボット」といった概念が特徴です。

3つのステップをすばやく回して試行錯誤することで、事業の成功率が向上します。

1.構築:アイデアを製品化

リーンスタートアップにおける最初のステップは「構築」です。アイデアをもとに仮説を立てて製品化します。

構築の段階では、なるべく無駄をなくし不完全でもいいからコストと時間を掛けずに試作品を開発することが重要です。

2.計測:製品に対する顧客の反応を確認

次のステップは「計測」です。開発した試作品に対する顧客の反応を確認します。

具体的には、早期の段階で新しい製品やサービスを取り入れる傾向のあるアーリーアダプター(初期採用者)と呼ばれる人々に試作品を提供し、利用してもらって反応を計測します。

重要なのは、試作品に盛り込む機能を最小限にすること。さまざまな機能を一度に盛り込むと、正しい反応を見極められず、コストや時間の無駄につながります。

3.学習:顧客の反応からアイデアを見直す

最後のステップは「学習」です。計測結果に基づき、試作品の改善や今後の方向性について学びます。

計測結果はすべて試作品の改善に活かせるため、仮に顧客の反応が思わしくなくても問題はありません。どうしてもうまくいかない場合にはできるだけ早い段階でアイデアの見直しを図るなど、学習を重ねることで再構築、方向転換、早期撤退の判断に役立ちます。

「MVP」「ピボット」とは?リーンスタートアップの最重要ワードを解説

「MVP」と「ピボット」は、どちらもリーンスタートアップにおける重要な概念です。

「MVP」は最小限の機能を持つ試作品のこと

リーンスタートアップは、初めから完全な製品を目指すのではなく、MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる実用最小限の機能を持つ試作品から開発を始めます。

新規開発において、顧客に受け入れられるかどうかは事前に判断できません。まずはMVPを顧客に利用してもらい反応を確認する。そして改善を繰り返し、より確実に受け入れられる製品に成長させます。

MVPとは反対に、最初から機能や品質が完全な製品を提供しようとする場合には、資金効率が悪い、時間がかかる、ニーズの変化に適応できないなどのデメリットがあります。

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「ピボット」は顧客の反応を踏まえて大きく方針転換すること

ピボットとは、製品やサービスの改善だけではうまくいかない場合に行う戦略的な方針転換です。

ピボットの成功事例として、ミクシィ(mixi)が挙げられます。SNS事業の開始で広く知られるようになったものの、海外からFacebookやTwitterなどが日本に進出し、一時は存続の危機に直面。そこでピボットを行い、スマホゲーム市場で「モンスターストライク」を大ヒットさせました。

ステップを繰り返していると顧客から思うような反応が得られず、学習の段階で間違いに気付くことがあります。そこで必要になるのがピボットです。

リーンスタートアップで用いられるアジャイル開発とは?

アジャイル(agile)とは直訳すると「すばやい」「俊敏な」という意味で、構築の段階で使われるシステム開発方法です。

小さなサイクルで細かく実装とテストを繰り返すシステム開発方法

アジャイル開発とは、システム開発の分野で現在主流となっている手法のひとつで、計画から設計、開発、テストまでの開発工程を小さいサイクルで繰り返すのが特徴です。

アジャイル開発は、各機能の開発を優先度の高いものから順に進めていき、各機能の集合体としてシステムを形成する方法です。実装とテストを繰り返すことで、製品やサービスを提供するまでの時間を短縮できるだけでなく、品質に磨きをかけていけます。

一方で、最初の計画や設計を綿密に行い大きなサイクルで開発を進める方法が、従来のウォーターフォール開発です。アジャイル開発と異なり、開発プロジェクトの全工程が終了して初めて製品やサービスが顧客に提供されます。

仕様の変更や追加に対応しやすく相性がよい

途中変更が多いプロジェクトに向いているのがアジャイル開発です。仕様の変更や追加をあらかじめ想定しているため、構築段階で厳密な仕様決定の必要がなく、大枠を決めるだけで開発を進められます。

すでに作るべき機能が明確に決まっている場合には、ウォーターフォール開発が向いています。途中変更を想定していないため、リリース時にはすべての要求を満たすことが必要です。

アジャイル開発は仕様の変更や追加に強く、製品価値の最大化を可能にする開発方法です。

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リーンスタートアップのメリット3つ

リーンスタートアップにおける3つのメリットを解説します。

  • コストと時間を節約できる
  • VUCA時代に適応できる
  • 顧客ニーズをすばやく拾える

リーンスタートアップを取り入れることで、無駄がなく柔軟に開発を進めていけます。

コストと時間を節約できる

開発にかかるコストと時間を節約するために重要なのが、MVPの概念です。

MVPに盛り込む機能を最小限にすることで、開発の初期コストを抑えるだけでなく、顧客の反応による改善点を特定しやすいメリットがあります。その結果、製品やサービスのリリースまでの時間を短縮できます。

VUCA時代に適応できる

VUCA(ブーカ)とは、次の4つの単語の頭文字をとった造語で、昨今の変化が激しく先行きが不透明な社会情勢を意味する言葉として広く使われるようになりました。

V(Volatility:変動性)

U(Uncertainty:不確実性)

C(Complexity:複雑性)

A(Ambiguity:曖昧性)

リーンスタートアップは柔軟性が高くスピード感をもって進められるため、時代の変化に取り残されにくい手法です。

顧客ニーズをすばやく拾える

リーンスタートアップには、顧客の具体的なフィードバックがすばやく得られるメリットがあります。時間をかけずに製品やサービスをリリースすることで、早い段階から改善点の可視化や正確な顧客ニーズの把握が可能です。

新たな製品やサービスの成功は、顧客に受け入れられるかどうかで決まります。顧客のニーズをすばやく得ることで、顧客満足度や企業価値を高め、優位性をもって事業の拡大を図っていけます。

リーンスタートアップのデメリット3つ

リーンスタートアップにおける3つのデメリットを解説します。

  • 当初の目的からズレやすい
  • 堅実すぎて大きな成功につながらない
  • 時代遅れになりつつある

段階的な開発プロセスで効果を発揮するには難しさもあると言えるでしょう。

当初の目的からズレやすい

リーンスタートアップの特徴は小さなサイクルを繰り返すことですが、何度も試作品を開発して試しているうちに、当初の目的からズレやすい傾向があります。

時には、当初の開発方針から思い切った方針転換が必要になる場合もあります。試作品の開発自体が目的となってしまわないよう、明確なビジョンを持ち続けることが必要です。

堅実すぎて大きな成功につながらない

リーンスタートアップは堅実なマネジメント手法である一方、すぐには大きな成功につながらない側面があります。

特にスタートアップにおいては、細かな改善点に目を向けるよりもより大きな成果にこだわるべきだと考える人も多く、堅実さもデメリットになり得ると言えるでしょう。

時代遅れになりつつある

スマートフォンの普及によりSNSサービスのアクティブユーザーが増え、リーンスタートアップは時代遅れになりつつあるとの意見があります。

今では、SNSの投稿ひとつで製品やサービスの評判が一瞬のうちに拡散されるだけでなく、企業の価値まで評価されてしまう時代です。

完成品とは違い、試作品は製品やサービスの魅力を完全には伝えられません。試作品を使って顧客の反応を計測しているうちに、評判が下がるリスクも考えられます。

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リーンスタートアップを失敗させないための注意点3つ

リーンスタートアップにおける注意点は、次の3つです。

  • 独自の強みを意識する
  • 急ぎすぎない・堅実になりすぎない
  • リーンキャンバスを活用する

こうした注意点をおさえることで、リーンスタートアップの効果を発揮しやすくなります。

自社独自の強みを意識する

まず大切なのは独自の強みを意識することです。どのような製品やサービスも、魅力がなければ長期的な成長は期待できません。

リーンスタートアップでは、初期コストを抑えて試作品のリリースから始めるなど参入障壁が低い分、競合にコピーされるリスクがあります。

また顧客の反応に合わせすぎて当初の目的がズレ、リーンスタートアップ自体が目的にならないように、核となるビジョンや強みの明確化が必要です。

急ぎすぎない・堅実になりすぎない

リーンスタートアップでは、急ぎすぎないことも必要ですが、同時に堅実になりすぎても思うような効果が得られません。

たとえばスピードを意識するあまり、試作品だからといって貧弱な製品やサービスを顧客に提供してしまうと、一瞬にして価値を落とす危険性があります。

一方で、リーンスタートアップは堅実な手法ですが、プロセスに固執してしまうなど失敗を恐れていると、大きな成功につながりません。

リーンキャンバスを活用する

新規事業の開発においては、ターゲットや市場をはじめコストや利益など、あらかじめ仮説を立ててビジネスモデルを明確にすることが不可欠です。

リーンキャンバスとは、いわゆる事業計画書のようなもので、ビジネスモデルを可視化できるフレームワークです。

決められた9つの要素で情報を整理すると、やるべきことが明確になります。他にも製品やサービス開発の再現性、メンバー同士のコミュニケーションなどさまざまな目的で活用できます。

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リーンスタートアップの成功事例3社

リーンスタートアップの成功事例として、次の3社が挙げられます。

  • インスタグラム
  • ヤフー
  • 食べログ

どのような製品やサービスからスタートしてどのようにピボットを行ったか、各社の事例を紹介します。

インスタグラム

今や全世界にユーザーがいる「Instagram」ですが、当初は位置情報を共有するSNSサービス「Burbn」としてリリースされました。しかし、リリース直後はユーザーから期待していたほどの反応が得られませんでした。

そこでリーンスタートアップの構築、計測、学習のステップを繰り返し、写真の共有機能がユーザーの人気を得ていることに気がついたのです。そして写真投稿をメインにしたSNSサービスへと方針転換をしました。

写真投稿、コメント、いいねの機能にはじまり、その後もサイクルを繰り返しながら、ストーリーやショッピングといった追加機能を充実させるなど大成功をおさめています。

ヤフー

日本の大手インターネット会社「ヤフー」では、アプリ開発などにリーンスタートアップを導入しています。

ヤフーが開発したモバイルアプリ「僕の来た道」(現在はサービス終了)の始まりは、GPSから正確な位置情報を記録し続けるというアイデアでした。しかしユーザーの反応から方針転換をし、GPSではなく携帯基地局による大体の位置情報を記録する形でアプリが完成。

ヤフーが大切にしているのは、開発したアプリをできる限り早期に公開して利用してもらうこと。そしてユーザーからの声を集めて、アプリのブラッシュアップを繰り返す。ユーザーの意見を取り入れながらアプリを充実させていき、高い満足度につなげています。

食べログ

日本企業におけるリーンスタートアップの代表的事例と言われているのが、カカクコムグループが運営するグルメサイト「食べログ」です。

立ち上げ当初はグルメ本を頼りに手打ちのデータベースでサイトを作り、会員登録者数は100人にも満たない状態でスタート。次第にユーザーからの改善要望が届くようになり、フィードバックを頼りにサイトの改善を幾度となく繰り返してきました。

こうして常にユーザーの声に耳を傾けて構築、計測、学習を繰り返し、会員登録者数を劇的に増やして成長を続けています。

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まとめ

近年では顧客のニーズが多様化し、製品やサービスには常に変化が求められています。本記事で紹介したように、日本でもリーンスタートアップを取り入れ成功をおさめた企業は少なくありません。

リーンスタートアップは再現性が確立された事業の立ち上げに有効なマネジメント手法です。効果を発揮させるためにも、メリットとデメリットを十分理解した上で戦略的に取り入れるとよいでしょう。

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