新規事業の創出やマーケテイング戦略の立案では様々な情報を分析します。特に顧客が抱えている課題・問題を把握することは事業・マーケティングの成功に不可欠です。
顧客が抱える課題・問題を把握する際に活用できるプロセスとして「CPF(Customer Problem Fit)」が挙げられます。CPFに沿って分析を進めることで顧客の課題・問題を詳細に把握可能です。
本記事ではこのCPFについて概要や活用の流れなどを詳しく解説していきます。CPFについて興味のある方、顧客の課題把握にCPFを活用したい方はぜひ最後までご覧ください。
CPF(Customer Problem Fit)とは
CPF(Customer Problem Fit)とは、顧客がどのような課題を抱えているか、また抱えている課題がどれくらい深いものか検証するプロセスです。商品・サービスを通じて顧客が抱える課題を解決していくことが顧客満足度の向上に繋がります。ただ顧客の課題は一律に判断できません。
ターゲットとなる顧客によって抱えている課題は様々です。顧客の課題を解決できる商品・サービスを展開するためにも、顧客が抱える課題の把握・分析は重要なプロセスになります。CPFをフェーズを通じて、顧客の課題を掴むことが事業成功を左右するといって良いでしょう。
CPFを活用する流れ
CPFを活用する際は下記の流れに沿って進めます。
①課題を抱えるペルソナを設定する
②エンパシーマップを作る
③カスタマージャーニーを設定する
④前提条件を整理する
⑤顧客が実際に課題を抱えているか検証する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
課題を抱えるペルソナを設定する
まずは課題を抱える顧客のペルソナを設定します。ペルソナとは実在の人物を仮定して設定する顧客像です。ターゲットよりも具体的な特徴を設定する点、ペルソナの特徴になります。年齢・性別・職業・住居などの基本情報はもちろんのこと、性格や価値観、行動パターンなど人物像を決定づける情報も設定します。
CPFにおけるペルソナ設定では「顧客がどのような課題を抱えているか」という観点から情報を整理していきます。たとえば「もっと楽に部屋の掃除をしたい」という課題を抱えているペルソナであれば、設定するべき人物像は主婦(主夫)や清掃業に従事する人になるでしょう。課題を抱えるペルソナを設定すれば提供する商品・サービスの内容もイメージしやすいです。
エンパシーマップを作る
ペルソナを設定したら、次にエンパシーマップを作成します。エンパシーマップとは顧客の行動・感情を整理してニーズを分析するフレームワークです。別名「共感マップ」とも呼ばれています。エンパシーマップを構成する要素は下記の6つです。
・Say and Do(言っていること、行動)
・See(見ているもの)
・Hear(聞いていること)
・Think and Feel(考えていること、感じていること)
・Pain(痛み、ストレス)
・Gain(得られるもの)
上記の項目をペルソナの視点から整理していきます。例えば「Pain」は人々の意思決定に大きな影響を及ぼす要素。日々の生活に溶け込んだ痛みやストレスに寄り添い、解消できるようなサービスがあれば顧客は気に入ってくれるでしょう。
新規事業を立ち上げる際はもちろん、より提供する顧客を増やしたり、サービスのラインナップを充実させたりと事業を展開させていくためにも、顧客の感情を把握するのは非常に重要です。今後の仮説検証にも有用な取り組みと言えるでしょう。
エンパシーマップを作成すれば、ペルソナ設定では網羅できなかった顧客感情まで把握できます。ペルソナをより具体化するためにもエンパシーマップの作成は必須と考えてください。
エンパシーマップを作成する際のコツとして、「多角的な視点からペルソナ感情を抽出する」ことが挙げられます。仕事やプライベート、趣味といった「今」の時間から考えたり、「過去」や「未来」の時間軸で考えたりすると、さらに広い幅で顧客の感情を把握できるでしょう。
例えば「今の仕事がキツい」というPainと同様に「今後のキャリアが不安だ」というPainも存在する場合、前者は現在軸のPainで、後者は未来軸のPainですが、加えて何らかの相関関係があるとも言えそうです。
未来への不安が無くなれば現在のPainも軽減できそうですし、一つのサービスで2つのPainが解消されるのであれば、より顧客は強く惹かれることが予想できます。いくつかの要素が組み合わさって強固な感情になっていることは少なくありません。
このように、顧客が抱く感情を多角的な視点で分析すると、どの感情が強いのか、なぜ強いのかが分かるのです。強い感情にアクセスする新規事業を立ち上げられれば、その事業は顧客への訴求力が強く、行動を促しやすいため、成功しやすいと言えるでしょう。
最初は言葉や情報として整理できなくても良いので、「なんとなくこんなことを思っているのでは?」という仮説を全て洗い出してみましょう。
カスタマージャーニーを設定する
エンパシーマップを作成したら、次にカスタマージャーニーの設定を行います。カスタマージャーニーとは顧客が商品・サービスを購入・利用するまでのプロセスを表すフレームワークです。
カスタマージャーニーの作成では下記の行動フェーズに沿って情報を整理します。
①認知:商品やサービスの広告を見る、情報を得る など
②情報の収集:商品・サービス情報をネットで検索する、SNSで評判を調べる など
③比較・検討:自社商品とその他の類似商品を比較して購入を検討する など
④購入:比較・検討を踏まえて実際に購入する など
⑤破棄・再購入:商品使用後に破棄する、再度購入・利用する など
エンパシーマップではペルソナが抱く感情を抽出しますが、カスタマージャーニーではペルソナの行動を具体的に設定します。抱える課題・ニーズ・感情を踏まえてペルソナがどのような行動をするか情報をまとめましょう。
「情報の収集」のフェーズでは、ペルソナが具体的にどの媒体・サービスを使って情報収集するかまで深堀りします。たとえばペルソナがSNSを使って情報収集すると想定した場合はSNSを使った自社商品・サービスの情報発信が不可欠です。
また「比較・検討」のフェーズにおいては、ペルソナは自社商品と他社商品を比較するでしょう。他社商品にない強み・特徴をアピールできるかで、購入への意思決定も変化します。強み・特徴を分かりやすく伝えることも重要になりますね。
上記のフェーズを踏まえて複数の行動パターンを作成するのもおすすめです。同じペルソナであっても行動パターンはひとつではありません。実際の顧客も様々な行動パターンを日々選択しています。特定の行動パターンだけでなくさまざまなパターンを想定してエンパシーマップを作成しましょう。
前提条件を整理する
カスタマージャーニーを作成したら、ここまでに設定した前提条件を整理します。課題・問題の種類によっては複数の前提条件が出ることもあるでしょう。また「前提条件が本来解決するべき顧客の課題・問題からズレていないか」といった見直しも必要です。
場合によってはペルソナの再設定が必要になるケースもあります。特にペルソナ設定の段階では見えなかった顧客の特徴が、エンパシーマップの制作段階で分かることも。
たとえば「Think and Feel」の項目でペルソナが強い不安・孤独を感じていると想定した場合、ペルソナの特徴に「心配性」「寂しがり屋」「孤独」といった情報を加えることでペルソナ像がより明確になりますね。人間の行動・特性は感情が支配している面もあります。このためエンパシーマップから逆算したペルソナ把握も必要なのです。
ペルソナを新たに設定し直した後に、別の行動パターン・感情が見えてくることも。各項目を相関させて整理することで、顧客の深い理解に繋がります。時間・労力がかかる作業ですが、ここで妥協せずに情報を深堀すればCPFに至る可能性を高められるでしょう。
また客観的な視点を担保するためにも、複数の担当者間で前提条件の確認を実施してください。特定の担当者のみが前提条件をチェックしても、条件のズレや誤認、情報の過不足に気付けない可能性があります。数日~数週間ほどの期間を設け、ダブルチェック・トリプルチェックを行うのも良いでしょう。
顧客が実際に課題を抱えているか検証する
前提条件の整理が完了したら、最後に実在の顧客が抱えている課題を検証します。ここまで設定してきた課題・問題を実在の顧客が抱いているか確認しましょう。仮定した課題・問題を実在の顧客が抱いていないと、解決策を提供してもCPFには繋がりません。仮定と現実のギャップを確認しましょう。
確認の方法は市場調査がおすすめ。顧客に考え・意見を直接聞くアンケート調査やSNS上での情報収集などが挙げられます。顧客の意見を多く集めたい場合は、調査会社に依頼して大規模なアンケート調査を行うものおすすめです。
注意点として、ネット上で得られる個人の感想やメディアの情報といった間接的な情報は、信ぴょう性に不安が残ります。顧客から直接収集した生の声を踏まえ、仮定した課題・問題の整合性を確認しましょう。
【今さら聞けない】CPFの関連用語をおさらい
CPFの関連用語として下記の3つが挙げられます。
・PSF
・SPF
・PMF
それぞれ新規事業創出の段階でよく耳にする言葉ですが、正しく意味を理解している方は意外と少ないのが実情。改めておさらいする意味も含めて、詳しく見ていきましょう。
PSF
PSFとは「Problem Solution Fit」の略称で、顧客が抱える問題・課題を解決できる商品・サービスを提供している状態であり、その指標となる考え方です。顧客の課題・問題を把握した後に、本当に自社のサービスが顧客の問題・課題を解決できているのか検討する際に活用します。
顧客が抱える課題・問題を正しく認識していても、正しい解決策が提供できていなければ顧客満足度は高まらず、市場に受け入れてもらえません。PSFを指標として、改めて顧客の抱える問題や課題、またその解決策が正しいものとなっているか確認してみましょう。
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PSF(Problem Solution Fit)とは?PMFとの違いや進める手順を詳しく解説!
SPF
SPFとは「Solution Product Fit」の略称で、サービスの実現可能性を検証すること。顧客の課題や問題を解決できるアイディアが生まれても、それらが技術的・資金的に実現できなければ事業にはなりません。それが実現できる製品・サービスなのかを検証するのがSPFの段階です。
SPFのフェーズ位置としては、CPFとSPFの中間にあたります。実際に製品・サービスを開発する前の段階とイメージしてください。そのため、様々なラインナップを用意し、小さく、素早く、複数のパターンを開発してみるのが良いとされています。
開発できたサービスの中で、最も効果的かつコストパフォーマンス的に優れているものをメインに据え、本格的なローンチに向けて準備を進めましょう。
PMF
PMFとは「Product Market Fit」の略称で、自社商品・サービスを最適な市場に提供できている状態を指します。PMFの状態を達成することが、新規事業創出におけるひとまずのゴール。最適な市場に商品・サービスを提供すれば、売上を安定して伸ばせるでしょう。
PMFを達成した後は、この状態を維持することが次の課題です。顧客サポートや商品・サービスの改善などを通じて、顧客満足度を継続して高めることが重要と言えるでしょう。
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新規事業成功の要!プロダクトマーケットフィット(PMF)とは?
CPFを活用して顧客が抱える課題を検証・分析していこう!
CPFの概念を把握し、実際の事業開発に生かせれば、顧客が抱える課題や問題の内容、深さを本質的に捉えられます。
新規事業の展開やマーケティング戦略の策定において顧客の課題・問題の把握は不可欠。CPFによって顧客の課題・問題を検証すれば、ニーズを満たすサービス開発を進めやすいです。他のフレームワークと合わせてCPFのプロセスも取り入れていきましょう。
本記事の内容を参考に、CPFについて理解を深めていただけますと幸いです。
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