世界中の企業がメタバース開発に注力し、新たなビジネスチャンス・市場の獲得を目指してしのぎを削っています。
なかでもGAFAMに代表される巨大テック企業は、Meta社を筆頭に100億ドル規模でメタバース開発に取り組んでいます。
一方、Googleのメタバース領域に対する開発・投資状況は、Meta社などに比べて取り上げられていません。
本記事では、Googleのメタバース領域に対する取り組みや開発状況などを解説します。また、GAFAM各社のメタバースへの取り組みもまとめました。
メタバースに関する世界のトレンドを把握したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
「メタバース」の定義は企業によってさまざま
一口に「メタバース」と言っても、定義は企業やそのサービスによってさまざまです。
- VRヘッドセットを使った没入型コンテンツ
- スマホで気軽に操作できる3Dアプリやバーチャル店舗
- 「あつまれどうぶつの森」のような自由に作り込めるゲーム体験
- アバターで参加できるメタバース会議
- 正確な3Dモデルシミュレーションを用いた産業用メタバース
メタバースと聞くと、「VRヘッドセットを用いて臨場感のあるゲームができる」というイメージが先行するかもしれません。
しかし、メタバースにもさまざまな形を定義できることは押さえておきましょう。
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そもそもメタバースとは仮想空間のこと
そもそもメタバース(Metaverse)とは、「Meta(超越)」と「Universe(世界)」を組み合わせた造語です。メタバースを一言で言うと「3次元の仮想空間」です。
インターネット上に構築された仮想空間にアバターで参加し、他者とコミュニケーションを取ることなどができるSNSの新たなサービスの1つといえます。仮想空間を提供するサービスを総称するキーワードとして、「メタバース」という言葉を使うことも。
メタバースの事業展開は多岐に渡り、2023年2月時点ではゲームやエンターテインメント領域が中心で、ブロックチェーンやNFTと絡めて経済活動を行うものもあります。
ゲーム以外にも、生活に密着したビジネス領域への展開も着々と進められており、メタバースは少しずつ利用シーンを広げている状況と言えるでしょう。
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メタバースにVR・ARをどう取り入れるかが鍵を握る
メタバースはインターネット上に作られた仮想空間で、コミュニケーションやコンテンツを楽しめる「場所・世界・空間」です。一方、VRやARはいわゆる「技術」の総称。
そもそもVR(Virtual Reality)とは「仮想現実」のことで、ヘッドセットなどを装着して、仮想空間の中で没入型の体験ができます。AR(Augmented Reality)とは「拡張現実」のことで、スマホなどの画面上に現実空間と3DCGなどを組み合わせて表示させる技術です。
メタバースの体験自体に、VRヘッドセットなどの特別な機器は必要ありません。しかし、VRやARなどの技術をいかに取り込み、より特別なコンテンツ体験を提供できるかが差別化の鍵を握っているのです。
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GAFAMのメタバースへの取り組み方や投資の状況
GAFAMにおけるメタバースへの取り組みに関して、それぞれ見ていきましょう。
Googleは、メタバースに関する具体的なビジネス展開が言及されていません。しかしGoogleは、かねてからスマートグラス(Glass Enterprise Edition)の開発を強化しています。
2020年6月には、スマートグラスを手がけるカナダのスタートアップ「North」を買収。Googleにおいて、AR事業への注力が伺えます。
また、Googleマップを活用したナビゲーション・位置情報システム、オフラインビジネスに圧倒的な強みがあります。
リアルタイム画像認識を取り入れた「Googleレンズ」とスマートグラスを組み合わせ、現実世界に3DCGを投影して道案内などができる世界が実現する日が訪れるかもしれません。
Apple
Appleもメタバースに関して具体的なビジネス展開は言及していませんが、MRヘッドセットの開発を進めている旨の報道がなされています。
Metaが2022年10月に発売したMeta Quest Proよりも薄くて軽い作りで、水平120度の視野角、ディスプレイにはソニーの有機ELディスプレイが使用されるようです。
ヘッドセットには12台以上のカメラとセンサーが搭載され、操作性や快適性の追求を図るなどの仕様が盛り込まれ、2023年秋頃に発売が予定されています。
Apple製品・アプリとの連携は当然想定されているものの、メタバースやVRなどの仮想空間にはあまり注力しないようです。iPhoneやAirPodsといった既存のデバイスとの拡張性により、よりリッチなコンテンツ体験の提供に主眼を置いていると言えるでしょう。
Facebook(Meta)
Meta(旧Facebook)は、2021年10月に社名変更し、メタバース領域への本格参入が最も顕著な企業。2021・2022年において、メタバース開発に充てられた投資額は100億ドルを超え、市場の開拓及びシェア獲得に乗り出しています。
メタバースプラットフォーム「Horizon Workrooms」「Horizon Worlds」や、VRヘッドセット「Meta Quest」など、積極的な開発を進めています。
SNS広告による収益依存体質から脱却するため、新たなビジネスの柱としてメタバースに注力しているのがMeta社の取り組みです。
メタバースがどこまで発展するかは、Metaの取り組み次第と言っても過言ではないでしょう。
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Amazon
AmazonはECプラットフォームとして盤石な地位を獲得している以外にも、AWSで世界のインターネット技術の基盤を支えています。
2021年12月には、Metaが戦略的クラウドプロバイダーとしてAWSを選定し、連携を強化するという発表もありました。
この提携により、Metaが取り組む研究開発の規模と範囲は拡大され、開発の加速が期待されます。
Amazonが新たにメタバース領域にビジネス展開するというものではなく、自社の強みであるサーバー・ネットワーク領域で存在感を示していくようです。
Microsoft
MicrosoftはMetaと同様に、メタバース領域への積極的な取り組みを進める企業です。
同社は、コミュニケーションツール「Teams」をメタバースに展開した「Mesh for Microsoft Teams」や、MRデバイス「Hololens」を開発。
ほかにも、メタバース空間で製品の設計から開発までを実行できる「産業用メタバース」への取り組みにも力を入れています。
Microsoftの場合、どちらかというとビジネスシーンでのメタバース活用に注力している点が特徴的です。Teamsは月間アクティブユーザー数が2億5,000万人を超えており、これらのユーザーがメタバース活用の起爆剤になることが期待されます。
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Googleのメタバースへの特徴的な取り組み
Googleは、AR技術を活用した独自のメタバース展開に力を入れています。なかでも、以下の3点が特徴的です。
- スマートグラス企業の「North」を約195億円で買収
- Googleはリアルビジネスとの強い結びつきに優位性がある
- GoogleはSNSでのビジネス展開に弱いという側面も
スマートグラス企業の「North」を約195億円で買収
Googleは2020年6月に、カナダのスタートアップ企業「North」を1億8000万ドル(当時のレートで約195億円)で買収しました。
North社は一般的なメガネに近しいデザインのスマートグラス開発に強みがあり、一般消費者向けのスマートグラス開発を続けていたGoogleにとって、追い風となります。
従来開発をしていたGoogle GlassはtoB向けにシフトしており、今回の買収により、toC向けのスマートグラス開発が期待されます。
Googleはリアルビジネスとの強い結びつきに優位性がある
Googleは検索エンジンとして圧倒的なシェアを誇り、Googleマップなどを活用したリアルビジネスと強く結びついている点が特徴的です。
Googleとしては、AR技術(Google Glass)を活用して、リアル世界にデジタル情報を付加するのが現実的であり、優位性があると考えられます。
このタイミングで新たにメタバースプラットフォーム開発に乗り出しても、圧倒的な先行者利益を獲得するのは難しいでしょう。
その点、既存ビジネスの優位性をフル活用し、スマートフォンを置き換える次世代プラットフォームの開発に舵を切るのがGoogleの戦略といえます。
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GoogleはSNSでのビジネス展開に弱いという側面も
Googleは、「Google+」をはじめとするSNSプラットフォームの開発を何度も手がけていますが、思うような結果が出ていません。
メタバースは仮想空間でのコミュニケーションに重きを置くため、SNSでのビジネス展開に弱いGoogleは、メタバースプラットフォームの開発に消極的な可能性もあります。
Web1.0の一方向コミュニケーションから、SNSに代表されるWeb2.0の双方向コミュニケーションに。さらに、Web3.0の分散型インターネット時代に突入し、SNSから独自の仮想空間でコミュニケーションを楽しむ未来は想像に難くありません。
Googleは、こうしたユーザー体験の変遷に対し、どのように対応するかが鍵を握ります。
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Googleマップがメタバースビジネスの勝機になる?
メタバースの文脈をゲームやエンターテインメントに限定すると、Googleが市場を獲得・独占するのはかなり難しいでしょう。
しかし、メタバースの文脈をゲームなどに限定せず、広義のメタバースを考えると、「Googleマップ」が新たなビジネスモデル構築につながる可能性を秘めています。
Googleマップは2005年2月にリリースされ、ストリートビューは2008年から提供が開始されています。位置情報や建物などに関する圧倒的なデータを蓄積し、ストリートビューは2007年まで画像を遡ることが可能。
現時点ではただの画像にすぎませんが、複数の画像や映像データを用い、3Dマッピングする技術が実装されれば、15年前の東京駅にタイムスリップすることもできます。
仮想空間に限らず、タイムトラベルできるユーザー体験の提供は、Googleにしかできないメタバースビジネスと言えるでしょう。
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Googleが開発中のARグラスでできる2つのこと
Googleは2012年にtoB向けのARグラスを開発しており、2022年7月には、最新のARグラスに関するパブリックテストの実施を発表しました。
新たに開発したARグラスのなかでも、大きく分けて2つの機能が注目を集めています。
- リアルタイム翻訳・文字起こし
- リアルタイムの道案内
リアルタイム翻訳・文字起こし
リアルタイム翻訳機能は、ARグラスに装着されたマイクが音声を拾い、翻訳された文字起こしをメガネ越しに字幕のように表示させるものです。ほかにも、メニューや看板などの文字情報を、リアルタイムで翻訳できます。
Google翻訳で培った技術と、Googleアシスタントに搭載されているリアルタイム翻訳機能を組み合わせ、ARグラス越しで目線上に表示できるようです。
リアルタイム翻訳が実現されれば、海外の方とのコミュニケーションもかなりスムーズに進められるでしょう。
リアルタイムの道案内
リアルタイムの道案内は、Googleマップを応用させた機能で、進行方向を視覚的に分かりやすくする矢印や案内を表示させるものです。
従来のGoogleマップでは、スマホを見ながら確認する煩わしさがあり、前方不注意などのリスクもあります。また、地図を読むのが苦手な方にとっては、マップの2D情報では迷ってしまうケースも。
ARグラスを装着すれば、安全に配慮した形で、より分かりやすい進行表示ができるようになるのです。
Googleが目指すメタバースの問題点
ARグラスを活用した、リアル世界に3DCG情報を付加するGoogleのメタバース戦略には、プライバシーの問題が避けて通れません。
Googleは過去にも一般消費者向けのARグラスを販売していたものの、カメラで常時撮影しているというプライバシーの問題から、それほど普及しなかったと言われています。
開発中のARグラスにもカメラは搭載されており、翻訳や道案内のために画像データなどを取り込む用途が想定され、通行人を許可なく撮影する懸念は残ります。
ARグラスの普及は、プライバシーの問題をいかに解決するかにかかっていると言えるでしょう。
ARを活用したGoogleのメタバース構築に期待
Googleは、メタバースのプラットフォーム開発などには取り組んでおらず、既存ビジネスを活かし、ARを取り込んだメタバース構築に注力しています。
開発中のARグラスは、2023年2月時点において、販売価格や時期は未定です。
リアルタイム翻訳や道案内は、日常生活をより便利に、安心して暮らせるツールとして重宝されるのは間違いないでしょう。
Googleマップで蓄積した膨大なデータを活用し、3Dマッピング技術を発展させてタイムトラベルする未来も期待できます。
ARを活用したGoogleのメタバースビジネスに今後も注目していきましょう。
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