インターネット動画配信の普及やAR・VRなどの技術進歩により、放送業界を取り巻く環境は大きく変化しています。最近では各放送局のメタバース参入も珍しくなくなりました。

今後もメタバースを活用したテレビ番組は増えていくでしょう。日本で唯一の公共放送であるNHKもAR・VRコンテンツに注力したり、メタバースを活用して番組を制作したりと事業を進展させています。

この記事では、NHKのメタバース事業について解説します。これまでに放送されたメタバース番組も紹介するので、機会があればぜひ番組を楽しんでください。

NHKの概要

NHKの長い歴史は、今からおよそ100年前にさかのぼります。1926年に前身となる社団法人日本放送協会が発足し、戦後の1950年に放送法に基づく特殊法人としてあらためて日本放送協会が設立されました。NHKの概要は下記のとおりです。

正式名称日本放送協会
略称NHK
会長稲葉 延雄(いなば のぶお)
設立1950年(昭和25年)6月1日 ※放送法に基づく日本放送協会の設立日
放送局所在地東京・渋谷と全国の道府県庁所在地などに計54局
海外総支局等全世界に計29の取材拠点
職員数1万343人(2022年度)
事業内容・国内放送・放送と受信の進歩発達に必要な調査研究・国際放送・その他、放送法に定められた業務

特殊法人として他の放送局とは一線を画していますが、NHKが行う公共放送は政府の業務を代行しているわけではありません。

税金でもなく広告収入でもなく、受信料を財源としている点がNHKの特徴です。そのため特定の利益や視聴率に左右されず、自主的かつ自律的にニュースや番組を制作しています。

NHKのメタバース事業例

NHKのメタバース関連事業として表立っている取り組みが「NHK VR/AR」と「Vertual NHK」の2つです。NHK内部の研究機関であるNHK放送技術研究所では、新しい視聴スタイルの実現に向けて積極的に研究が行われています。

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ポータルサイトの運営「NHK VR/AR」

NHKは2017年にVRコンテンツを掲載するポータルサイト「NHK VR」を設立しました。​​コンセプトにあるのが、ニュースや番組は「見る・聞く」から「体感」へ。

NHK VR/ARでは、パソコンやスマートフォンで360°動画のコンテンツが気軽に楽しめるのが特徴です。高画質の動画を再生しながら画面の右上にある十字ボタンを動かすと、その場で360°の景色を見渡せます。

例えば、APEC(アジア太平洋経済協力)会議の舞台を取材した動画から、コロナ禍で3年ぶりの開催となった長崎ランタンフェスティバルの動画まで、NHK独自の​​豊富なコンテンツが魅力です。

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バーチャル空間のプラットフォーム「Virtual NHK」

Virtual NHKとはバーチャル空間上で番組やイベントが制作できる独自のプラットフォームで、2020年から本格的な運用が始まりました。

出演者はCGで制作されたバーチャル空間にアバターで参加します。そしてカメラマンがゲームパッドを使ってバーチャル空間内のカメラを操作し、撮影が行われる仕組みです。

引用:NHK放送技術研究所|Virtual NHK

メタバースを活用したNHK番組5選

Virtual NHKは開発以降、多くの番組で活用されています。これまでに放送されたメタバースを活用した番組を5つ紹介します。

  • 沼にハマってきいてみた ヌマーソニック2020〜尊きバーチャル学園祭〜
  • ハートネットTV ひきこもりVR親子対談
  • 未来王2030
  • クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972
  • プロジェクトエイリアン

それぞれが異なるコンセプトのもとメタバース空間のメリットが生かされており、今後の可能性を感じられる番組ばかりです。

ヌマーソニック ~尊きバーチャル学園祭~

Virtual NHKが開発されるきっかけになったのが、2020年10月に放送された「沼にハマってきいてみた ヌマーソニック2020〜尊きバーチャル学園祭〜」です。

大学の学園祭とコラボレーション企画を進めていた時にコロナ禍が始まり、学園祭自体の開催が不透明に。それでも企画を取り下げるのではなく、何らかの形で実現できないかと考えた結果がVRの活用でした。

VRの利点を生かして全国から多くの学生をリモートで集め、メタバース空間でフェスを楽しみました。

ハートネットTV ひきこもりVR親子対談

2020年11月に初めて放送されたNHK「ハートネットTVひきこもりVR親子対談」は、悩める親子がメタバース空間に集合し意見交換する番組です。

ゲストとして精神科医の斎藤環さんとジャーナリストの池上正樹さんが参加しました。番組の内容は、自分の思いを親には言えない当事者と、ひきこもりの子どもの気持ちが分からない親が、動物や魚のアバターと化して対談するというもの。

普段なら真正面からぶつかって話せないことも、メタバース空間で同じ立場の違う親子が交わることで生まれた自由な発言が印象に残ります。

未来王2030

2021年2月に第1弾が放送されたNHK「未来王2030」は、不確かな未来を生きるために必要な情報をクイズで学ぶエンターテインメント番組です。その後、2021年11月には第2弾、2022年12月には第3弾が放送されました。

第3弾では予選を勝ち抜いた若者約6組12人が、メタバース空間に作られた近未来の渋谷の街にアバターとして集結。地球の未来を担う未来王の座をかけてクイズ大会に挑戦しました。

クイズで扱うのは、お金・環境・ジェンダーといった内容を中心に。遠い世界のことのように感じるシリアスな社会課題を、クイズの切り口とVRを駆使したゲーム演出で、気づけば自分ごとにさせている演出が特徴です。

クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972

沖縄が本土復帰してから50年となる節目の2022年5月に放送されたのが、NHK「クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972」です。

歴史資料や取材を元に、本土復帰時の沖縄の街をメタバースに再現。全国から7人の若者が集まり、時空旅行を体験するという番組です。最新技術を駆使したメタバース旅行を引率するのは、沖縄出身のガレッジセール・ゴリさん。

アメリカ統治下の沖縄の様子から本土復帰の歴史的瞬間までが再現され、​​70〜80代で本土復帰当時を知る方もアバターで登場。アバターを介して交流することで、説教くさくならず、言葉が響いたと若者に好評でした。

プロジェクトエイリアン

2022年9月に放送されたNHK「プロジェクトエイリアン」は、異なる背景や価値観を持った一般の若者4人がメタバース空間で交流を深めていくドキュメンタリー番組です。

特徴として、参加者はエイリアンアバターに身を包み、お互いの外見や属性などを隠して交流します。今回の参加者は以下の4人でした。

  • 無職で実家暮らしの男性
  • マイノリティのために活動している在日韓国人の女性
  • 荒んだ家庭環境で育ったがホストの男性
  • 彼女の両親から結婚を反対されているトランスジェンダーの男性

価値観や考え方の異なる他人とどうすれば分かり合えるのか。現実世界では交わることがなかった参加者が少しずつお互いの素性を知っていく中で、共感しあったり、認め合ったりする姿が描かれました。

メタバース番組の特徴

メタバースを活用した番組制作の特徴として、次のようなメリットがあります。

  • 距離を超えられる
  • 心理的ハードルが下がる
  • 時空を超えられる
  • 違いを認め合える

実際に、NHKのメタバース番組はメタバースの可能性を強く感じさせられるものばかりです。

距離を超えられる

メタバースを活用した番組制作の特徴として、距離を超えられるという点があります。これによって、番組の参加者は場所を問わず撮影に参加することが可能です。

例えば「沼にハマってきいてみた」のヌマーソニックは、リモートで参加できるというメタバースのメリットを生かして、毎年全国から学生を集めてフェスを開催しています。

メタバースを活用することで、番組制作者をはじめ出演者や参加者が離れていても同じ空間でコミュニケーションを楽しめます。

心理的ハードルが下がる

メタバースを活用すると、心理的なハードルを下げられるメリットがあります。コミュニケーションにおいて物理的な接触を必要としないため、変な目で見られたり批判されたりといった心配がいりません。

具体例として「ハートネットTVひきこもりVR親子対談」では、アバターを介したコミュニケーションを取ることで本音が引き出されやすかったと言えるでしょう。

アバターとして参加できれば、より多くの人が声を上げやすくなるだけでなく、センシティブな話をするハードルも下がります。

時空を超えられる

メタバース番組の特徴として、時間や空間を超えられる点が挙げられます。メタバース空間であれば過去も未来もバーチャルコンテンツで再現できるため、時空を超えた体験が可能です。

実際に「クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972」で参加者たちは時空旅行に出掛けました。メタバースであれば制限のない空間を作り上げることが可能です。同時にオンライン環境があればいつでもどこでも参加でき、簡単に時空を超えられます。

違いを認め合える

メタバースの活用によって、違いを認め合えることもメリットの1つです。他人とのコミュニケーションにおいて、見た目や肩書など無意識のうちに先入観を持っている人も少なくありません。

「プロジェクトエイリアン」で参加者がエイリアンのアバターに身を包んで交流を深めたように、違いを超えていく過程で役に立つのがアバターです。メタバースやAR・VR技術は、今や社会問題に対して有効なツールになり得るとされています。

放送業界の動向は?メタバース活用事例

常に最新技術を採用し続けている放送業界では、近年メタバースへ参入の動きも加速しているといえるでしょう。NHKのほかにテレビ朝日やテレビ東京においても、メタバース番組を通じてユニークな価値を提供しています。

テレビ朝日|新世界 メタバースTV!!

テレビ朝日では2022年10月から毎週日曜日に「新世界メタバースTV!!」を放送しています。​​

舞台は、仮想空間cluster上のテレビ朝日オリジナルメタバース空間「光と星のメタバース六本木」MCの声優・関智一とぺこぱの3人が事業責任者としてメタバース・VTuber・オリジナルゲームなどを開発する声優トークバラエティです。

前身となる番組は2021年から放送開始しており、放送時間は当初の30分から1時間へ拡大しました。時代のトレンドを押さえた最先端エンタメが楽しめる番組です。

テレビ東京・吉本興業|メタバースプラネット

テレビ東京でも2022年10月から毎週火曜日の深夜に「メタバースプラネット」を放送しています。

番組のMCには絶大な人気を誇るチョコレートプラネットを起用。吉本興業が独自にリリースしたメタバース空間「月面劇場」を舞台に、メタバースならではのバラエティ企画に挑戦する番組です。

「メタバース」で未来の笑いを創り出そうという企画で、本当の意味でバラエティ界の未来になれるか否かと注目されています。

今後も拡大するNHKのメタバース事業に注目

メタバースは番組制作においても、多くの可能性が見いだされています。NHKのメタバース事業からも分かるように、AR・VR技術は放送業界にとって非常に貴重なツールです。

今では主力メディアがテレビからインターネットへ変わりつつあり、オンデマンド配信が当たり前の時代です。各放送局はメタバースを活用することで、視聴者に体験型の新たな価値を提供しようと動きを加速させています。

NHKではすでにメタバースを活用した番組制作の実績があり、今後ますます多くの番組が放送されていくでしょう。NHKをはじめ、今後も放送業界のメタバース事業から目が離せません。

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