大日本印刷(DNP)は、日本におけるメタバースのリーディングカンパニーです。創業以来からの印刷事業を遥かに凌ぐ情報コミュニケーション事業主体の企業でもあります。売上構成比からみても、同社の実態が分かるでしょう。
印刷屋がどうして、メタバースをリードできているのか、技術の蓄積や新技術の研究開発はできているのかと疑問に感じる人もいるかもしれません。
そこで、当記事では大日本印刷(DNP)のメタバース事業の取り組み方、実例と実績、サービス内容などを具体的にご紹介します。
ご興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
大日本印刷 基本情報 | |
会社名 | 大日本印刷株式会社 (Dai Nippon Printing Co., Ltd.) |
設立年月日 | 1876(明治9)年10月9日 |
代表者 | 代表取締役社長 北島 義斉 |
本社所在地 | 東京都新宿区市谷加賀町一丁目1番1号 |
売上構成比 | 情報コミュニケーション51.9%、生産・産業28.7%、エレクトロニクス15.7%、飲料3.7% |
URL | https://www.dnp.co.jp/ |
大日本印刷(DNP)のメタバース事業とは?
大日本印刷のメタバース事業は、創業以来の印刷事業を通じて全国のさまざまな企業との接点を背景にして取り組まれています。具体的に見てみましょう。
事業戦略
- 地方のさまざまな社会課題を解決する新しい経済圏を生み出す
- 「印刷技術と情報技術」を生かしながら、地域創生の新規事業に進出する
- リアルとバーチャルを融合した地域共創型の空間(メタバース)を開発し独自に仮想世界を提供、BtoBフレームの範囲で地域の人々とノウハウを共有する
社会貢献
印刷技術と情報技術を生かしながら地域の創生に役に立つ
事業実績
2021年3月23日、「XR(eXtended Reality)コミュニケーション事業」(メタバース事業)を開始
- 地域共創型(地方創生)の空間「パラレルシティ」を開発・リリース
- 「ブルボンメタバース」を支援
- メタバース「バーチャルミュージアム」をリリース
- メタバースで海外スマートシティ開発事業を推進
- メタバースを活用した小学校の国際交流を実施
- メタバース街開発 新幹線開業の嬉野温泉駅をリリース
- メタバース構築サービス「PARALLEL SITE」をリリース
これらDNPの事業実績について、それぞれ見ていきましょう。
大日本印刷がメタバースで地方創生事業
大日本印刷(DNP)は、「地域共創型XRまちづくりPARALLEL CITY(パラレルシティ)」構想の具体的な仮想空間として、「リアルとバーチャルを融合」した地域共創型の空間「パラレルシティ」を開発。メタバース事業を本格的にスタートしました。
パラレルシティの特徴は、「ミラーワールド」です。つまり、リアル世界とバーチャル空間が鏡写しのようにシームレスに繋ぐコンセプトに、次の理由から主眼が置かれています。
- あくまで地域(地方)創生につなげるのがパラレルシティ構想
- イベントなどリアルの場の価値を拡張するためのミラーワールドが原点
- リアルの場が持つ価値を無限に創出できる
- リアルとデジタルが融合したコミュニケーションの可能性を模索できる
- 自治体や事業者が複数のイベントを並行して開催できるようにする
- オウンドメディアのXR版を目指す
パラレルシティ第一弾『渋谷区立宮下公園』
第一弾の宮下公園を訪問してみると、訪問した時間に合わせ夜の背景になっています。スターバックスがあり、渋谷の夜景が一望できます。
DNPがこだわっている「ミラーワールド」のとおり、他社のメタバース空間と比べて建造物や樹木などのオブジェは大変リアルに感じます。また、BGMも心地よい癒し系の音楽です。
京都館 PLUS X
宮下公園では、各種イベントを開催できます。そのなかで、2023年3月17日にオープンした『京都館 PLUS X』。
映画「湯道」とコラボしたイベントや京都らしい「伝統産業の日」というイベントが開催されています。
「ショールーム」が3カ所設置されており、芸妓さんが案内をしてくれます。中に入って動画をクリックすると、
映画「湯道」のプロモーションビデオが表示されます。
壁面には、「湯道」のTwitterポスターが貼られており、クリックするとツイッターにジャンプするリンクになっています。その他、同様のFacebook、Instagramのポスターも貼られていました。
その他、マンガミュージアムなど数々の京都観光スポットに関する案内看板や
イベントステージ、
京都の伝統工芸品店ブースが複数に設営されています。
各ブースには、伝統工芸職人さんが解説する工芸品づくりに関する動画が設定されており、どのような作り方をしているのかなど分かりやすく解説されています。
その他、かつて宮下公園で開催されたイベントは以下のとおりです。
Bloom Your Flower
一年中観賞できる夜桜「Bloom Your Flowe」です。
過去開催されたイベント一覧
イベント開催日 | イベント名 |
2022.11.12 – 12.25 | DECORTÉ Purple Lightup 2022(イルミネーション鑑賞イベント) |
2022.7.15 – 9.04 | 松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLER(第2弾謎解きゲームイベント) |
2021.10.20 – 2022.3.31 | アルスくんとテクネちゃん パラレル・アートパーク(テレビ朝日の番組で紹介されたバーチャルアートミュージアム) |
2021.9.2 – 2021.2.28 | 松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK(謎解きゲームイベント) |
2021.7.7 – 10.31 | 山本奈衣瑠の絵画解説しちゃうぞ!(世界の名画34点を集めて山本氏の肉声で解説) |
以上のとおり、大日本印刷のパラレルシティは、オウンドメディアをメタバースとリンクして、イベントやアート、ゲームなど組み合わせ、より興味を引く仕立てとなっています。
また、それぞれのコンテンツをポスターや動画、SNSなどで、分かりやすくアピールしている点も特徴です。
まさに、オウンドメディアのXR版と言えるでしょう。
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大日本印刷のメタバース「ブルボンメタバース」を支援
大日本印刷(DNP)は、2022年10月3日〜31日の期間限定で提供された「ブルボンメタバース」の構築を支援しました。DNPの「XRコミュニケーション事業」の一環として、同社のXR(Extended Reality)の技術を活用して実施されています。
プルボンメタバースは同社のお菓子が持つ“楽しさ”と、ブルボン本社がある新潟県柏崎市の魅力を一体化した新たなコミュニティ空間として提供されました。
ブルボンは、この仮想空間で企業と生活者の安全・安心な対話型のコミュニケーションを実現することで、さらなるファンの獲得とファン同士のコミュニティの活性化につなげるとコメントしています。
DNPが構築支援した「ブルボンメタバース」の特徴は以下のとおりです。
- DNP独自の技術で、高精細で多くの利用者が体験できるユーザビリティの高い空間
- 高精細なメタバースをパソコンやスマートフォンのWebブラウザで体験できるよう最適化
- テキストチャットで会話、メタバースから「ブルボンオンラインショップ」リンクで商品を購入できる、
- 「お菓子の森エリア」「ブルボン本社ビルエリア」「イベントエリア」の3つで構成
- 利用者は自分のアバターで、各エリアを自由に移動できる
- ブルボンの歴史や商品の魅力をブルボンのキャラクターや動画等を通じて認知できる
- 複数設置されているクイズに答え、正解数に応じて入手するコインでカプセルトイが利用可能
- カプセルトイはブルボンの商品や「ブルボンオンラインショップ」で利用できるクーポンが得られる
ブルボンメタバースは、DNPが宮下公園のようなリアルな世界観だけではなく、ファンタジーな世界観にも対応できることを示した実績といえます。
大日本印刷のメタバース事業「バーチャルギャラリー」
大日本印刷(DNP)は2018年9月、アート作品を”手に取っているかのように”鑑賞できる「DNP Virtual Gallery(バーチャルギャラリー)」を開発しリリースしました。
さまざまな芸術作品や文化財のデジタルアーカイブ化が進んでいる近年、美術館や博物館ではそのデータを、より多くの方に美術・芸術鑑賞の機会を提供したいというニーズがあります。
バーチャルギャラリーの特長は以下のとおりです。
- 作品の色調や質感などを限りなく忠実に再現する高精細な複製印刷技術を活用
- 「VRによる鑑賞」と「複製作品の購入」を同時に実現
- VR空間で、作品を間近に鑑賞することが可能
- 高精細複製画も販売
- テンプレート化されたデザインにより、短期間・低コストで導入が可能
大日本印刷のメタバースで海外スマートシティ開発事業調査
大日本印刷(DNP)は2022年12月10日・11日、海外スマートシティ開発におけるメタバースサービスの導入可能性調査を実施しました。
本件、調査事業の内容は以下のとおりです。
- ホーチミン都市圏の居住者を対象に、メタバース上の多様なサービスの受容性や現地のニーズの把握を目的として、体験会とインタビューを実施
- スマートシティの居住者となり得る生活者が、アバターを使ってメタバースに参加、教育や交流等、複数のテーマのサービスを体験
- 体験後の行動様式の変化や意見を分析することで、各種サービスの提供の可能性を調査
DNPは調査結果を踏まえ、スマートシティの開発案件におけるメタバースを活用したサービスの本格展開に向けた検討を進めるとしています。
この調査は、どこまでも広がるメタバースの可能性を示している事象と言えるでしょう。
大日本印刷、メタバースを活用した小学校の国際交流を実施
大日本印刷(DNP)は株式会社steAmと協同で、メタバース空間を活用し日本とカンボジアをつないで国際交流と学び合いの可能性を探る目的で実証実験を行いました。
この実証実験では、DNP開発の「京都館 PLUS X」を活用し、カンボジアのプノンペン日本人学校と徳島県上板町立高志小学校をつないで以下の内容で実施したものです。
- 徳島県上板町立高志小学校6年生の児童18名とカンボジアプノンペン日本人学校生の児童4名が参加
- 実施日:2023年2月22日、同3月6日の2日
- 初日:双方でメタバース空間「京都館PLUS X」内の実証空間に接続
- 京都市より「京都館PLUS X」や京都について紹介
- 両国の児童がそれぞれ10分程度、手作りのポスターを使って日本語で地元を紹介
- 2日目:ボイスチャット機能を活用して、お互いのプレゼンテーションに関する質問や感想などで交流
この体験で子供達は、アバター同士の距離次第で声が聞こえる、または聞こえないなどの臨場感や離れている距離感が身近に感じられた、アバターでは会話しやすいという感想を残しています。
大日本印刷、メタバース街開発 新幹線開業の嬉野温泉駅
大日本印刷(DNP)は、メタバースによる「街の再開発」を全国に広げることに取り組んでいます。
その一環として、西九州新幹線(武雄温泉―長崎)の開業に合わせ、嬉野温泉駅(佐賀県嬉野市)周辺を再現したメタバース空間「デジタルモール嬉野」を2022年9月下旬に開設しました。
上の画像は、駅の正面玄関です。
駅前の案内看板を見ると、コインを集めて「ガチャ」をすると、周辺観光地のカードやクイズに正解するとコインをGETできるなどゲーム性があります。
このように仮想空間のベースは、嬉野温泉駅を再現していますが、現実には存在しない以下のものを追加しています。
- 駅前のデジタルサイネージ
- コイン獲得ゲームとガチャで周辺観光地のカードが見られる
- 嬉野市内のスタジオで撮影・配信するライブコマース映像
- 観光案内所を起点に酒蔵や旅館などに「ワープ」
ランニングオペレーションとしてDNPはPR動画の配信による集客を担っています。これまでに嬉野温泉観光協会の公式サイトとメタバース内のデジタルサイネージに配信された動画コンテンツは以下のとおりです。
- 温泉や名産の陶器作り体験動画
- 「うれしの茶」の茶畑などを紹介する動画
- 2day trip in 嬉野動画
またDNPは観光案内所のLINEアカウントも開設して対応しているのです。このデジタルモール嬉野構想には周辺の飲食店など170店舗が参画しており、街の再開発事業と言えるでしょう。
大日本印刷のメタバース構築サービス「PARALLEL SITE」
大日本印刷(DNP)では、XRコミュニケーション事業としてメタバース構築サービス「PARALLEL SITE」を提供しています。
場所が持つ価値を拡張、より進化させることを目的に、リアルと並列(パラレル)したXR空間を構築するシステムとしています。
xRコミュニケーション事業の領域は以下のとおりです。
①自治体をはじめ、住民・企業と共創しながらまちを創り上げていく、共創型XRまちづくり事業
②東京アニメセンターやバーチャル図書館等、生活者とのコミュニケーション接点強化のためのXR事業
③従来のビジネスの形に合わせた企業のマーケティング領域におけるXR事業
XRコミュニケーション事業のポイントは3つ
- 安心・安全な地域共創型のXR空間
- 表現の拡張や良質なコンテンツ発信による新しい文化価値の創造
- 新しいコミュニケーションや経済活動の創出
「PARALLEL SITE」とは
上の図のとおり、DNPはリアルな都市空間をバーチャルに再現。リアルとバーチャル空間がパラレル(並列)に連動して、イベントや企画により地域や施設が持つ価値の拡張を目指すとしています。
「PARALLEL SITE」は、誰もがいつでも簡単に、かつ安全・安心に楽しめる空間の構築に必要な機能を備えたXRロケーションシステムのことです。
上の図のように、「PARALLEL SITE」はメタバース内で不特定多数、特定多数にかかわらず、例えば以下のようなイベントを簡単に構築できるといいます。
- スポーツ観戦
- 展示会(EXPO)
- コンサート
- 屋外美術展
- 協同作業
- 商品即売会
このように、実際の場所とバーチャルをつないで拡張することで、さらに深い体験が提供できるとしています。
まとめ
日本国内のメタバースをけん引する、大日本印刷(DNP)のメタバース事業の取り組みと実績について解説しました。
やはり、同社はメタバースのリーディングカンパニーとして実証実験をかかさず実施して、確実にノウハウを積み上げている印象です。
同社の事業システムは自治体関係者の方々にかかわらず、一般の企業でも導入を検討される価値があるシステムと言えるのではないでしょうか。
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