NECソリューションイノベータ(以下、NEC)は、日本のメタバース普及を支援する有力企業として名を連ねています。
メタバースに必須の技術である、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)を蓄積し事業化している他、メタバースのインフラ技術としても、Web3.0に対応するためにも必要な顔認証技術では世界1位のシェアを誇ります。
しかし、メタバースに参入し独自に仮想空間を作成している企業が目白押しの昨今、NEC独自のメタバース空間をリリースしていないのは何故なのか、疑問に思う人もいるかもしれません。
そこで、当記事ではNECのメタバース事業とはどのようなものか、VR、ARソリューションを活用した事業例や業種別活用例について紹介します。
メタバースを事業に活用することを検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
NECソリューションイノベータ基本情報 | |
会社名 | NECソリューションイノベータ株式会社 |
設立年月日 | 1975年9月9日 |
代表者 | 代表取締役 執行役員社長 石井 力 |
本社所在地 | 東京都江東区新木場一丁目18番7号 |
事業内容 | システムインテグレーション事業・サービス事業・基盤ソフトウェア開発事業・機器販売 |
株主 | 日本電気株式会社(100%) |
NECのメタバース事業とは?
NECのメタバース事業は、世界の人々の「Well-being」(心身ともに満たされた状態)を目指して推進されています。メタバースの運営者というよりも、運営者を支援するソリューションを提供するベンダーとしての役割が大きいと言えるでしょう。
同社はテクノロジー企業として培った、さまざまなソリューションと豊富なリソースを保有しながらも、新技術への研究開発には手を抜きません。
例えば、顔認証技術。NECの生体認証技術を複数組み合わせる「マルチモーダル生体認証」です。顔認証に虹彩認証を組み合わせることで認証精度が上がり、100億人を個別に特定できると言います。
非中央集権型のWeb3.0が導入されはじめている昨今、メタバースではセキュリティや組織の垣根を越えてサービスをつなげる「コネクト」の分野でも必須の技術と言えるでしょう。
その他、メタバース関連では、
- 遠隔コミュニケーション支援事業
- AR・リアルタイム遠隔業務ソリューション支援事業
- VR・ARソリューション導入支援事業
- VRを活用した防災訓練の支援ソリューション事業
- 企業教育・研修VR・ARソリューション事業
を推進しています。
それぞれの事業や導入事例などを見ていきましょう。
▼関連記事▼
メタバースに参入した日本企業の業種別一覧!ブームの背景や将来性も解説
メタバースを教育にどう活用できる?注目されている理由や導入事例を解説
NECのメタバース 遠隔コミュニケーション支援事業
従来、現場に出向いて行っていた監査・立会い・見学などを、現場や自宅にいながら実施できるサービスです。
このサービスのシステム名は「NEC リモート現場マネジメント 360」としています。このシステムのメリットは、以下のとおりです。
- 移動時間・移動経費の削減
- アポイントの調整負担が解消
- 現場作業のへの負担軽減
- 確認・監査記録の漏れ防止
- 技術者不足への対策(移動時間削減)
- 感染症リスクの回避
<カメラ映像の仕様>
閲覧者はカメラを360°動かして、思い通りの視点で現場を閲覧できます。
複数の人が同時に閲覧する場合、それぞれが好きな視点で閲覧可能です。
<業種別利用イメージ例>
360°自由にカメラワークさせて閲覧できるため、細かな問題にも気づきやすくなります。また、会議などで複数の閲覧者で相談しながら閲覧することも可能です。
画像はリアルタイムに閲覧できるため、建設業で設計図と違った工程を早い段階で発見したり、小売業でも商品の配置の問題などを常に発見できます。
工場見学や小売業で顧客が商品をさまざまな角度から高画質で閲覧することも可能です。そのためメタバースと組み合わせて、より具体的な商品のPRや販売につなげることにも応用できる可能性があります。
NECのメタバース AR・リアルタイム遠隔業務ソリューション支援事業
NECのAR(Augmented Reality)技術を活用し設備保全や点検作業、生産ラインなどの現場業務の課題解決を支援します。支援者や熟練者が現場に赴かなくても、現場作業者の作業効率や正確性を向上可能な仕組みです。
現場作業者はスマートグラスを着用することで、支援者と対象物の画像を同じ視点で共有して指示やアドバイスを受けながら作業を進めることができます。支援者はモバイル端末を利用することで作業者が直面している対象物の画像を閲覧しながら音声で指示できるのです。
つまり、一人の熟練支援者が、経験の浅い複数の作業者を支援することができます。AR・リアルタイム遠隔業務支援システムは、医療分野などでも活用されることが期待されているのです。
このシステムは現状「B to B」ですが、コストが合えばメタバースで、様々な技術の取得教育、スポーツ・芸術などの習い事にも応用できる可能性があるでしょう。
NECのメタバース VR・ARソリューション導入支援事業
NECのVR(Virtual Reality)・ARソリューション導入支援は、メタバースを導入したい企業向けに、以下の手順で行われています。
- お問い合わせフォームより申し込み
- NECの営業がアポイントをとった上で来社し課題などをヒアリング
- NECが業務分析を行ったうえでVR・ARソリューションの導入による改善提案を提出
- 見積提出と受発注
NECでは、様々な産業にメタバース導入を推奨しているため、充実したサポート体制に加え、運用支援をアウトソースすることも可能としています。
NECのメタバース VRを活用した防災訓練の支援ソリューション事業
NECのVRを活用した防災訓練では、災害発生時の周囲の状況については、ヘッドマウントディスプレイを使用するため、没入型の体験をしながら学べます。
例えば、消防隊員や専門家のノウハウをベースに、日常で体験することが難しい災害現場を、火災発生時における建物内の煙の影響をリアルに体感可能です。リアルに体感したうえで避難行動を訓練しますので、印象にも残り易く訓練の成果が期待できます。
このソリューション名は「NEC VR現場体感分析ソリューション」で、その特徴は以下のとおりです。
- VRであっても、現場と同じ状況で取り組めるリアルな現場再現が可能
- センサーで得られたビッグデータを解析することで、問題点やノウハウの定量的な可視化・分析が行える
- 教育効果向上・作業効率向上や導入効果が期待できる
- ヘッドマウントディスプレイは簡易版を選べるなどコストパフォーマンスが良い
NECのメタバース 企業教育・研修VR・ARソリューション事業
NECの企業教育・研修VR・ARソリューションは、さまざまな産業・分野における以下の項目に活用できます。
- トレーニングや安全衛生教育
- VRを活用した体感学習による教育・研修の効率化
- 新規プロジェクトのチームワーク訓練
- 未熟練労働者の指導や現場支援など
NECがこの分野で提供できる具体的なソリューションは、先述の「NEC 遠隔業務支援サービス」「AR・リアルタイム遠隔業務ソリューション」に加え、以下のソリューションがあります。
NEC VR現場を具現化した体感分析ソリューション
バーチャルリアリティ(VR)技術とモーションセンサー技術を組み合わせ、仮想空間に現場を具現化して研修や検証を行うことで、次のメリットがあります。
- 危険認知や安全遵守教育、設計検証などの品質向上や効率化が計れる
- 安全性やコスト、シーンの再現性などVRの特長をいかした最適化が可能
高所作業などの労働災害防止・安全衛生教育や訓練
さまざまな産業の現場をVRで再現し、その再現した仮想環境で体験型VRトレーニングを通して、危険認知や事故追体験など現場で再現できない場面の類似体験が可能です。
VRを活用した現場作業員の安全衛生教育を実施することで、事故防止に次のように役立てられます。
- 高所作業の危険性の認知と安全帯の使用を徹底するための訓練
- 電気事故・漏電事故発生時の訓練
- 製造業、建設業、物流業などの労働災害防止のための教育
- 未熟練労働者の安全衛生教育の実施
- 地震・火災などの不測事故対応訓練
組み立てや制作作業などの研修・教育
VRを活用した体感学習により、以下のメリットが期待できます。
- 製造現場や建設現場などの構造が複雑な組み立て作業や、実施頻度が少ない不慣れな作業に慣れることができる
- 事前に熟練者の動きをVRに表示・確認することもできるので、熟練者の目線や手順を体験できる
- トレーニングセンターが遠方にある場合、トレーニングセンターをVR化し、現場やオフィスにいながら研修を受けることができる
新規プロジェクトのチームワーク訓練
新規プロジェクトチームを立ち上げた場合のチームワーク訓練の他、作業工程や作業内容の共有もできます。また、VRで実施したトレーニングを、センサーで得られたビッグデータとして解析することで、以下の問題点やノウハウの可視化に活用できます。
- 作業員ごとの行動パターン比較により、ヒヤリハットを可視化
- 未熟練労働者と熟練労働者の作業効率の違いを、数値やグラフで可視化
- 正しいルールに沿った行動ができているか評価・検証
- 作業中の迷いや冷静さなどを可視化・分析
各種ツールを使用した問題点やノウハウの定量的な可視化・分析
VRで実施したトレーニングを、センサーで取得したビッグデータとして解析することで、問題点やノウハウにおいて、次のように可視化できます。
- 作業員ごとの行動パターン比較により、ヒヤリハットを可視化
- 未熟練労働者と熟練労働者の作業効率の違いを、数値やグラフで可視化
- 正しいルールに沿った行動ができているか評価・検証
- 作業中の迷いや冷静さなどを可視化・分析
NECのメタバースソリューション業種別活用例
ここでは、NECのメタバースソリューションがどのように活用されているのか、業種別に見てみましょう。
製造業
〇現地監査業務
現場設備・機械の保守・点検作業や、作業者の作業工程、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)等の確認を遠隔地から次のように実施できます。
- 360°カメラで空間全体を撮影、機械の狭い場所や棚の高い箇所もマウス操作で視点を変えて高画質で閲覧可能
- 録画した動画で後日再チェックでき、確認漏れを防止
〇工場視察・見学
製造メーカーの新規サプライヤーの工場視察や、物流倉庫の現場視察を遠隔地へ移動することなく次のとおり実施できます。
- 顧客を招待して、工場内の様子や材料の保管状態を高画質環境で確認
- 現地への移動負担を軽減
建設業
建設現場や保守点検の現場の作業員はスマートグラスを通して次のことが可能です。
- 現場をハンズフリーで見ながら、見ている画像を支援者や熟練者、管理者にリアルタイムで送れる
- 遠隔地の支援者や熟練者は、作業員のスマートグラスに音声・画像・メッセージを送ることができる
- 作業員のスマートグラスに描き込んで指示することも可能
物流業
物流現場ではピッキング作業員がスマートグラスを使用することで、次のことができます。
- 遠隔地にいる支援者や熟練者のサポートを受けてピッキングをおこなえる
- 新人作業員や、パート、アルバイトのピッキングミスの防止対策になる
- 作業員はピッキング作業をしながら指示を受けられる
いずれの業種でも、人材不足を補ったり、人材への実技教育が可能となります。またこれらから得られる画像資産をメタバースに活用して、臨場感のある動画により効果的な求人活動やPR活動を行えることも想定できます。
NECがメタバース事業で向かう方向
NECは、メタバース市場で最先端を走る企業ですが、今後どのような戦略と事業展開を考えているのでしょうか。
2023年3月23日に総務相主催の「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会(第8回)」での提出資料で述べられた内容から考察してみました。
DE&Iへの取り組みとメタバース・アバターへの期待
NECでは、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)への取り組みにおいて、経営/事業における成長戦略そのものと定義づけています。そして、次のとおりに述べられています。
「国籍、年齢、宗教、性別、性的指向・性自認、障がいの有無に関わらず、ビジネス成長に向けて持てる力を最大限発揮できる職場環境を築く」
そして、「ダイバーシティ・インクルージョン」ではなく、「インクルージョン・ダイバーシティ」とし、インクルージョンが発揮されて初めてダイバーシティーに価値があるとの考えを示しています。
つまり、企業内のすべての従業員が尊重され、個々が能力を発揮して活躍できる(インクルージョン)があってこそ、多様性社会(ダイバーシティ)が実現するということです。
メタバースとデジタルツイン
このテーマでは、価値あるメタバースを実現するには、デジタルツインとの融合が必須であると説いています。
つまり、仮想空間であるメタバース内で新たなビジネス活動などの試みが行われる際には、フィードバックやIoTセンシング(センサー計測)などのシミュレーション(デジタルツイン)が欠かせないということです。
インターネットは、Web3.0即ち分散型のウェブに世代交代しようとしています。つまり、これまでのWeb2.0では、Googleなど大手企業が中央集権的に独占してきたインターネットマーケット。
今後Web3.0では分散型になるため、デジタルツインの機能がより重要になると指摘しているのです。
リアルとバーチャルの連動とメタバースの展望「Well-being」
最も興味深いのが、メタバースの展望です。NECはここで、リアルとバーチャルの主従の逆転が起きる可能性について、言及しています。
現在、対面機会を補完するツールの登場で「2D」と「3D」が混在した時代とし、将来をバーチャルがあることを前提としたリアルの設計「xD」と定義。そして、情報伝達手段としてより適切な手段であるバーチャルがリアルを取り込むかを予測しているのです。
ただ今後について、
- リアルとバーチャルの連動を支えるためには、より安全で確実な本人確認技術が必要
- オンラインで働けるワークプレイスを誰でも働けるものに構築できるか
- 身体的なハンディキャップの克服に寄与できるか、リアルとバーチャルの境界をなくせるか
- AIによるスキルや知識のサポートが効果的にできるか
を展望と同時に課題としているようにも捉えられます。
まとめ
NECのメタバース事業への取り組みと現状、今後の方針について解説しました。現在、起きている大転換期には様々なビジネスチャンスがあるかもしれません。
例えば、NECのメタバース関連のソリューションを標準化してBtoCに応用できれば、学習塾や音楽教室関連その他個人で経営される小規模事業者にも活用したいというニーズを掘り起こせる可能性もあります。
また、中小企業でもメタバースへの参入の機会は日を追うごとに高まっていますので、当記事を参考にぜひ、検討してみましょう。
▼関連記事▼
メタバースはビジネスチャンスの宝庫?活用事例やメリット・デメリットを紹介
xR メタバース(クロスリアリティメタバース) | VR・AR・MR・SR メタバースとの違いはあるの?