メタバースを利用した先端技術の活用で、どのように医療業界が変わるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
アステラス製薬は、複合現実(MR)・クロスリアリティ(XR)・3次元仮想空間(メタバース)を活用し、本業の医薬品だけに留まらず医療シーン全体での価値を提供します。
AI(人工知能)などのデジタル技術を活用したうえで「人」しか行えない発想などを尊重しつつ、デジタル技術と人の得意な分野を互いに補完し、情報提供の強化を図ることが狙いです。
本記事では、アステラス製薬におけるメタバース事業や他の企業事例も含めて解説します。メタバースを活用した医療への取り組みについて知りたい場合は、ぜひご一読ください。
アステラス製薬のメタバース事業とは
メタバースは「メタ」と「ユニバース」を組み合わせた造語であり、インターネット上で展開される3次元の仮想空間や「その仮想空間を使用したサービス」を表します。
そして、アステラス製薬は、複合現実(MR)・クロスリアリティ(XR)・3次元仮想空間(メタバース)を新たな双方向コミュニケーションツールとして活用し、医薬品の情報提供・収集活動や講演会でも運用を目指しているのです。
実際のところ、新型コロナ感染症の流行により、医師同士や製薬・医療会社との直接的なコミュニケーションは希薄となりました。したがって、シンポジウムなどで経験した情報を仮想空間上で即共有することは、今後の発展をより加速させるでしょう。
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デジタルコミュニケーション部をローンチ
アステラス製薬は、2022年4月よりデジタル機能を集約したデジタルコミュニケーション部を新設しました。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を経営計画2021達成の要とし、的確かつスムーズな情報提供体制を目的として、営業本部の下にデジタルコミュニケーション部を設置。
アステラス製薬のDXは、医療医薬品の研究からライフサイクルマネジメントまでの一連の流れを効率化し、Rx+®事業(医療シーン全体において、さまざまな方法で患者へ「価値」を届ける事を目指している事業)にも力を入れていることから、コミュニケーション支援に特化したデジタルコミュニケーション部と組み合わせることで、大きなシナジーが期待できるでしょう。
アステラス製薬がメタバースを活用する目的
アステラス製薬はメタバースを活用し、リアルでの対面が困難な場合における、患者や医療従事者、製薬会社らとの双方向のコミュニケーション手法を検討しています。
実際に、メタバースを活用した講演会や研究会では、参加者が自身のアバターを操作してWebシンポジウムに参加が可能です。
各種資料の確認はもちろん、拍手などのリアクションを示せるため、現実の会場にいるような臨場感を味わえるでしょう。また、会場参加者とオンライン参加者の自由なコミュニケーションを実現することで、リアルとリモートを組み合わせた新しいハイブリッドワークが実現します。
従来のオンライン講演会と比較し、よりインタラクティブな雰囲気が得られることから、「緊張感を持って挑める」という高評価も少なくありません。
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アステラス製薬の3大メタバース関連プロジェクト
アステラス製薬は、メタバースを活用した3つのプロジェクトに取り組んでいます。
- デジタルホールプロジェクト
- HICARIプロジェクト
- アステラス オンラインMR
医療×メタバースの今後をいち早くキャッチするためにも、ぜひ参考にしてください。
医師向けメタバース講演会「デジタルホールプロジェクト」
デジタルホールプロジェクトは、メタバースを活用したアステラス製薬からの新規情報提供チャネルであり、大きく2つのフェーズに分かれています。
- フェーズ1:仮想空間で講演会や研究会を行い、医療従事者同士や製薬・医療会社との双方向コミュニケーション支援を目指す。
- フェーズ2:リアルとバーチャルの融合として、会場参加者とオンライン参加者との自由なコミュニケーションを実現予定。会場はつくば研究センターをイメージし、立体的な仮想空間上に参加者はアバターで出席。
上記は従来のWebシンポジウムでは難しかった「臨場感」の実現に成功し、まさに現実さながらのコミュニケーションを創出できるのです。
参考までに、参加者はGoogle ChromeやMicrosoft Edge などからエントリーが可能であり、同接数は最大約200人。2022年1月よりフェーズ1のパイロット版が開始されており、定量評価として全体満足度約80%、リピート意向約90%とデジタル空間の特性を活かした高い評価を得ています。
対応ブラウザの拡張や機能拡充などの課題点はあるものの、今後の開発が期待できるといえるでしょう。
MRを活用する「HICARIプロジェクト」
HICARIプロジェクトでは、日本マイクロソフト社と連携して複合現実(MR)の活用を推進します。
具体的には、自覚症状がなく口頭だけではイメージがつきにくい疾患を、模型・2次元コンテンツ・3Dビューなどの3Dコンテンツを用いて解説。そうすることで、患者に疑似体験や没入感を与え、疾患に対する関心を向上させられるのです。
実際に、2019年度でMicrosoft HoloLens*、2021年度ではMicrosoft HoloLens2を使用したコンセプト実証(PoC)を実施し、定量評価による「疾患理解に対する項目」で約85%患者の興味関心が上昇したと評価されています。
*Microsoft HoloLensとは、日本マイクロソフト社がMicrosoft Azureを通じて提供する、リアルに表現した骨や臓器の映像・画像のデータを投影し操作できるMR活用ノウハウの共有、技術支援等を行うコンテンツの総称です。
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アステラス オンラインMR
アステラスオンラインMRは、アステラス製薬の製品に関する以下のような情報を医療従事者が収集できるオンラインサービスです。
- 固形がん領域
- 血液がん領域
- 関節リウマチ領域
- スペシャリティケア領域(整形/腎/泌尿器/糖尿病/循環器/消化器など)
上記の4領域6製品(疾患領域担当制)で情報提供・収集を開始しており、担当MR数は合計15名、エリア担当MRとは別に製品ごとに配置し、より専門性の高い情報を配信しています。
無論、従来のWebサービスよりタイムリーなコミュニケーションが取れるため、医療業界の情報伝達スピードをさらに加速させていくでしょう。
アステラス製薬のメタバース事業の展望
アステラス製薬は「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの『価値』に変える」という展望のもと、DXを単なる業務の効率化だけではなく、患者の価値に重きをおいて推進しています。
コロナ禍を経て、場所や時間に縛られないオンラインコミュニケーションへの移行が加速しました。しかし、対面やり取りと比較して、双方向性における課題が浮き彫りとなり、一つのソリューションとしてメタバースが活用されています。
そして、最新情報のシームレスな伝達と、正確性の高いコミュニケーションが求められる医療業界において、アステラス製薬が取り組むプロジェクトは大変有用といえるでしょう。
将来的により幅広い領域へ展開する期待が持てるので、アステラス製薬の動向を小まめにチェックしておくのがおすすめです。
医療業界のメタバース活用事例5選
医療業界における他のメタバース活用事例では、下記の5つが挙げられます。
- イマクリエイト:VRワクチン注射シミュレーター
- メディカロイド:国産手術支援ロボット「hinotori」
- comatsuna:メンタルサポートドクター
- 順天堂大学×IBM:医療サービス「バーチャルホスピタル」
- mediVR:リハビリサポートサービス「mediVRカグラ」
それぞれ詳しく見ていきましょう。
イマクリエイト:VRワクチン注射シミュレーター
イマクリエイト社は、VRを活用した医療従事者向けの注射シミュレーターを開発しました。
VR注射シミュレーターは、筋肉注射の手順を効率的に学べるVRコンテンツであり、VRに表示される内容を見ながら手を動かすだけで、筋肉注射の手順を感覚的に学べます。
そのため、コロナウィルス感染拡大の影響で十分な実技練習が行えなくても、とても再現度が高い環境でトレーニングできるのです。
メディカロイド:国産手術支援ロボット「hinotori」
メディカロイドは、初の国産品である手術支援ロボットhinotoriを開発しました。
hinotoriは、4本のアームで手術器具や内視鏡を操作できるロボットであり、フルハイビジョン3Dの高精細画像を見ながら、遠隔操作が可能です。また、専用の手術室などを必要としないため、操作スペースを確保しやすい点も大きな魅力といえるでしょう。
さらに、4本のアームは人間より可動域が広く、手ブレも発生しない圧倒的な正確性も備えています。したがって、医師の負担軽減だけでなく、手術時間短縮による患者のリスク軽減にも貢献するのです。
すでに一部診療科目ではhinotoriの保険診療が開始されており、今後の開発・導入にも期待が持てます。
comatsuna:メンタルサポートドクター
comatsuna社は、メタバースを活用し法人向けにメンタルサポート支援サービスを開発しました。昨今、社員のメンタル不調の形も多様化しており、医療機関だけでは解決できないケースも少なくありません。
しかし、アバターで対話するメンタルサポートドクターは「対面しない安心感」や「匿名性」が得られるため、医療機関が引き出せないような症状・気持ち・ストレスが聞き取れます。
また、企業に情報共有される点に抵抗を感じている患者でも、匿名性が担保されることで話しやすくなるでしょう。社員の潜在的な不安・不満をいち早く検出し、離職防止に役立てることが可能です。
順天堂大学×IBM:医療サービス「バーチャルホスピタル」
順天堂大学とIBM(日本アイ・ビー・エム株式会社)は、メタバースを活用し、新しい医療サービス「メディカル・メタバース共同研究講座」の構築・運用の取り組みを開始しました。
同研究講座では、順天堂バーチャルホスピタルを構築しており、来院する前に仮想空間上で実際の病院を知ることや治療などの体験できる機能を開発しています。
患者側は事前に疑似体験することで、疾患や治療に対する不安を軽減し、理解を深める効果が期待されています。対して、医療従事者側は、予約や問診などの実際の業務をバーチャルで代替えすることにより、負担を軽減できるでしょう。
今後はアバターを用いた交流の場も構想しており、外出困難な入院患者でも家族・友人と手軽にコミュニケーションできるようになるかもしれません。
mediVR:リハビリサポートサービス「mediVRカグラ」
mediVR社は、ケガや病気による後遺症で、行動に不安を抱える患者へ向け、仮想空間上でリハビリテーションをサポートするmediVRカグラを開発しました。
mediVRカグラは、狙った位置に手を伸ばす動作を繰り返すことで、姿勢バランスや空間認知処理機能を鍛えられるリハビリテーション用医療機器です。
【mediVRカグラのコンテンツ】
- 水平ゲーム
- 落下ゲーム
- 水戸黄門ゲーム
- 野菜ゲーム
- 果物ゲーム
上記の通り、基礎疾患を問わず幅広いリハビリテーションに応用が可能。実際に、歩行機能・運動失調症状、上肢機能、認知機能障害といった症状の改善報告が挙げられており、将来的にもより多くの医療機関で導入される可能性があります。
まとめ
本記事では、アステラス製薬が取り組むメタバース事業の概要や、今後の展望も解説しました。
アステラス製薬は、以下3つのメタバースプロジェクトに取り組んでおり、最先端技術を駆使した業務効率化だけでなく、患者の負担軽減や新たな価値を提供する発展に貢献しています。
- デジタルホールプロジェクト
- HICARIプロジェクト
- オンラインMR
また、医療業界におけるメタバースは、今後もコミュニケーション支援・リハビリテーション支援・手術サポート・教育支援とさらに拡充される見込みです。方向性次第では新たなビジネスに繋がるため、ぜひ本記事を参考に細かく動向をチェックしておきましょう。
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