米国政府は、NvidiaのAIチップ「H20」について、中国への輸出に対して新たに無期限のライセンス義務を課す措置を講じた。対象となるH20は、現行規制下で中国に輸出可能な最先端チップであり、スーパーコンピューター用途やAIスタートアップ「DeepSeek」による高性能モデル訓練への活用が問題視されていた。
これによりNvidiaは、2026年度第1四半期に55億ドルの関連費用を計上する見込みで、株価も時間外で約6%下落した。背景には、CEOジェンスン・ファン氏による米国内でのAIチップ製造計画発表や、政権高官との非公式接触が重なるタイミングも含まれており、今後の対中戦略および国内製造回帰の動向が注目される。
米国がH20に無期限の輸出制限 Nvidiaの55億ドル損失見込みと株価下落の波紋

米国政府は、NvidiaのH20チップについて中国への輸出にライセンス制限を課す決定を下した。この措置は、H20が中国のスーパーコンピューターやAIスタートアップ「DeepSeek」による先進モデル「R1」への利用に繋がる可能性があるという懸念に基づいている。
結果として、Nvidiaは2026年度第1四半期に関連費用として55億ドルを計上するとし、発表後の時間外取引で株価は約6%下落した。H20は、現行規制下で中国向けに出荷可能な最高性能のAIチップであり、その制限はNvidiaの中国事業に対して直接的な打撃を与える。
さらに注目されるのは、今回の規制が突如として通告された点にある。提出書類によれば、この措置には期限が定められておらず、「無期限」の性質を持つとされることから、Nvidiaの戦略修正を余儀なくされる構図が浮かび上がる。株式市場の反応は敏感であり、先端半導体の地政学的リスクが改めて顕在化した形となった。この制裁は単なる対中輸出管理にとどまらず、米国がAI関連技術の主導権をめぐって取る選択肢の一端といえる。
米国内製造発表と政治的駆け引き ファンCEOの動向に関心集まる
今回の輸出規制発表と時を同じくして、NvidiaはAIチップの一部を米国内で製造する計画を明かした。発表によれば、今後4年間で数億ドルを投じて国内における製造能力を拡充する方針である。しかし、内容は抽象的で、専門家からは「詳細が乏しい」との指摘も上がっている。この計画のタイミングと発表方法は、米政府との交渉における一種の“示し”である可能性が指摘されている。
特に注目を集めたのは、NPRの報道によって明らかになった、CEOジェンスン・ファン氏とトランプ前大統領との非公式な接触である。フロリダ州のマー・ア・ラゴで行われた夕食会の場において、ファン氏がH20に関する規制緩和を求める代償として、米国内のAIインフラへの投資を約束した可能性があると報じられた。この一連の流れは、企業による政策誘導、あるいは政策への適応の柔軟性を浮き彫りにするものであり、Nvidiaの対米戦略の巧妙さを物語っている。
DeepSeekのR1モデルが引き金に 中国AIの進化と規制強化の因果関係
米国の規制強化の背景には、中国のAI技術の進展、とりわけDeepSeekによる「R1」モデルの存在があるとされる。このR1は2025年1月に米国市場で発表され、先進的な推論能力を備えたことから業界に大きな衝撃を与えた。複数の米政府関係者は、NvidiaのH20がこのモデルの訓練に使用されたとみており、安全保障上の懸念を根拠に輸出管理の強化を訴えていた。
この動きは、単にNvidia1社に対する制裁措置というより、広範なAI技術に対する抑制の一環と見るべきである。先端AIの開発が国家間競争の中心となる中で、H20のような高度な半導体が戦略的資産として認識されている現実がある。仮にDeepSeekがNvidia製チップを用いてR1を訓練したとすれば、今後の中国発のAI技術全般に対する規制も強化される余地が生じる。米中間の技術摩擦が新たな段階に突入したとの見方も拭えない。
Source: TechCrunch