国内におけるメタバース関連事業について、新興企業を中心に新規参入が目立ち始めています。メタバース市場は今後の成長が期待視されていますが、市場全体としてはまだまだ発展途上。
そんな有望市場の一つであるメタバースに関して、パナソニックがメタバース事業に本格参入しました。本記事では、なぜパナソニックがメタバース市場に参入を決意したのか、パナソニックが手がける主力製品について徹底解説します。
パナソニックのような大企業が、どのようにメタバースを活用しているのかを理解することで、自社におけるメタバース関連事業創出のヒントになるのではないでしょうか。
本記事を通して、パナソニックが考えるメタバース戦略を知り、メタバース活用の参考にしましょう。
パナソニックホールディングス株式会社の会社概要
商号(会社名) | パナソニック ホールディングス株式会社Panasonic Holdings Corporation |
創業 | 1918年12月15日 |
設立 | 1935年12月15日 |
代表取締役 | 楠見 雄規 |
事業内容 | 家電や住宅設備、製造・物流現場の機器やシステム等 |
資本金 | 2,590億円 |
従業員数 | 243,540名 |
売上高 | 6兆6,988億円 |
パナソニックホールディングスは創業から103年を迎え、従業員数は24万人超、売上高は約6兆7,000億円に迫る大企業です。おもな事業内容は、下記の通りです。
家電 | 生活家電、空調家電、キッチン家電、調理家電、AV機器やカメラ、美容・健康家電、パソコンなどの製造や開発・販売 |
住宅設備 | 太陽光発電・蓄電システム、照明器具、水まわり、給湯・暖房、空調・換気等の住宅設備の製造や開発・販売、リフォーム事業 |
製造・物流現場の機器やシステム | 顔認証、業務効率化、クラウド、健康、自動化、省エネ・環境配慮、セキュリティ、テレワーク、AI、DX等の領域における法人向け製品・ソリューションの提供 |
パナソニックは家電製品の製造等で培った豊富な技術を核に、住宅設備事業や法人向けサービスを展開しています。
パナソニック子会社「Shiftall」の3大メタバース新製品
パナソニックの100%子会社である「株式会社Shiftall(シフトール)」から、2022年1月、VRヘッドセット「MeganeX(メガーヌエックス)」などのメタバース向け製品3種類が発表されました。
製品名 | MeganeX(メガーヌエックス) | mutalk(ミュートーク) | Pebble Feel(ペブルフィール) |
製品の用途 | VRヘッドセット | メタバース対応音漏れ防止機能付きマイク | ウェアラブル冷温デバイス |
重量 | 約250g | 約180g | 約60g |
対応プラットフォーム | StreamVR対応のVRアプリケーション | Windows、iOS、iPadOS、Android | Windows、iOS、iPadOS、Android |
接続方式 | DisplayPort Alternate Mode on USB-C またはDisplayPort + USB2.0 | Bluetooth v4.2 BR/EDR(HSP、HFP1.7) | Bluetooth v5.0 Low Energy |
販売予定価格 | 10万円未満 | 税込19,900円 | 2万円前後 |
販売予定時期 | 2022年内 | 2022年9月2日予約受付開始同年11〜12月発送開始予定 | 2022年春 |
いずれの製品も2022年内に販売が予定されています。なお、同じく電化製品を扱う企業であるソニーのメタバース関連事業について知りたい方は、「ソニーが手がけるメタバース関連事業|人の心を動かす独自の技術開発とは」をご覧ください。
メガネ型VRセット「MeganeX」
製品名 | MeganeX(メガーヌエックス) |
製品の用途 | VRヘッドセット |
重量 | 約250g |
対応プラットフォーム | StreamVR対応のVRアプリケーション |
接続方式 | DisplayPort Alternate Mode on USB-C またはDisplayPort + USB2.0 |
販売予定価格 | 10万円未満 |
販売予定時期 | 2022年内 |
メガネ型VRヘッドセット「MeganeX(メガーヌエックス)」が初お目見えしたのは、2020年に開催された展示会。パナソニックが参考出展していた5KのVRグラスをもとに、Shiftallが2年を費やして製作しました。MeganeXの特徴は大きく3点挙げられます。
- 5KのVRグラスを製品化
- 重さは従来品の約半分
- 視覚の度数調整が可能
MeganeXは2022年春に発売を予定していましたが、新型コロナウイルスの蔓延や半導体不足の影響を受けて、2022年内の発売予定となりました。
5KのVRグラスを製品化
MeganeXは、パナソニックが開発していた5KのVRグラスをShiftallが引き継ぐ形で、メガネ型VRヘッドセットとして製品化されました。
Shiftallは、Iot製品を含むさまざまな家電製品やガジェット類の企画開発を得意としており、メタバース関連製品の開発も既に行っている企業です。
製品化までにスピード感が求められるメタバース関連製品に関して、パナソニックとの共同開発で、メタバース用のVRグラス製作がスタートしました。
MeganeXは、VRチャットに毎日4時間以上滞在するヘビーユーザーがかけても疲れないという点を重視しています。その結果、軽さや装着性に優れたメガネ型VRヘッドセットが誕生しました。
重さは従来品の約半分
MeganeXの重量は約250gで、代表的なVRヘッドセットである「Oculus Quest 2」の重量503gに比べて、およそ半分の重量しかありません。
MeganeXの軽量化が実現した最も大きな理由は、バッテリーを本体に搭載せずPCから電源を供給する仕様だからです。
Oculus Quest 2の場合は、スタンドアロンでバッテリーを内蔵しています。スタンドアロンであれば装着時にケーブルが邪魔にならず、その点は評価できますが、VRヘッドセットを使用するシーンの多くがPCをつないでいます。
MeganeXはバッテリーを本体から取り除いた分の軽さを優先し、メタバースのヘビーユーザーからの要望として多くの声が寄せられた「軽さ」にフォーカスして製造されました。
視覚の度数調整が可能
MeganeXは、視覚の度数調整が可能な点も特徴的です。MeganeX本体裏側のレバーを左右に動かすと、左右それぞれで視度調整ができ、近視のユーザーでもめがねなしで高精細な画像を見られます。
具体的にどの程度の視力まで対応可能なのかについて、公式からの発表はありません。
しかし、視力0.1程度という近視の方がプロトタイプを試した場合でもメガネなしで画像を十分見られました。使用感に個人差はあるものの、メタバースの世界を快適に楽しめるでしょう。
なお、プロトタイプを試したユーザーから、視野角の狭さを気にする声が上がっています。視野角については調整中の段階であり、機能として追加発表・改善されることに期待しましょう。
ミュート機能付きマイク「mutalk」
製品名 | mutalk(ミュートーク) |
製品の用途 | メタバース対応音漏れ防止機能付きマイク |
重量 | 約180g |
対応プラットフォーム | Windows、iOS、iPadOS、Android |
接続方式 | Bluetooth v4.2 BR/EDR(HSP、HFP1.7) |
販売予定価格 | 税込19,900円 |
販売予定時期 | 2022年9月2日予約受付開始同年11〜12月発送開始予定 |
mutalk(ミュートーク)は、メタバース対応音漏れ防止機能付きマイクで、自身が発する声を周りに聞こえにくくする特徴があります。メタバースやオンラインゲームでヒートアップし、ついつい大声になってしまう場合に備え、mutatkが開発されました。
専用のバンドで固定すると両手は自由になり、バンドを外せば話したい時だけ口に当てる使い方もできます。静かなオフィスやオープンなスペースで電話会議をするなどのシーンにおいても、内容を聞かれるリスクを軽減できるでしょう。
mutalkは2022年9月2日に予約受付を開始し、2022年11月から12月に発送開始予定です。
小型エアコン「Pebble Feel」
製品名 | Pebble Feel(ペブルフィール) |
製品の用途 | ウェアラブル冷温デバイス |
重量 | 約60g |
対応プラットフォーム | Windows、iOS、iPadOS、Android |
接続方式 | Bluetooth v5.0 Low Energy |
販売予定価格 | 2万円前後 |
販売予定時期 | 2022年春 |
Pebble Feel(ペブルフィール)は、VR空間の環境を体感する手のひらサイズのウェアラブル冷温デバイスです。視覚や聴覚だけでなく、メタバース空間と連動して気温を体感することで、触覚から没入感をさらに高める仕組みを考案しました。
Pebble Feel専用のホルダーを使って本体が首元に直接触れるように装着すると、メタバースのコンテンツに応じて冷温感が素早く切り替わります。
Pebble Feel本体にバッテリーは搭載されておらず、モバイルバッテリーから電源を供給することで、バッテリー切れによって没入感が損なわれないよう配慮しているようです。
Pebble Feelの発表がなされたのは2022年1月で、発表当時の発売予定日は2022年春でした。本記事の執筆時点で公式から追加の情報は出ておらず、さらなる機能改善に向けた改良に期待しましょう。
なぜパナソニックがメタバースに?2つの理由を解説
長年にわたって取り組んだ各種家電の製造や開発によって得られた技術を軸に、さまざまな業界における法人向けサービスも展開するパナソニック。この章では、パナソニックがメタバース事業に本格参入した理由を2つ紹介します。
- バーチャル空間での物作りが進んでいる
- ガジェット類の開発に強い
パナソニックがメタバースに参入したこのような理由を知ることで、自社におけるメタバース事業創出の参考にしましょう。
バーチャル空間での物作りが進んでいる
パナソニックがメタバースに進出した理由の一つ目が、「バーチャル空間での物作りが進んでいる」からです。
「メタバース=ゲーム」の印象が強いかもしれません。しかし、ビジネスの場面では自動車の開発や建築、不動産、医療分野などの3Dデータを扱う業界において、VR技術の活用が進んでいます。
たとえば、車のデザインは、最近ではほとんどバーチャル空間(デジタルツイン)で作っている状況です。そのため、コンピュータでモデリングされた3DデータをVRグラスで見られる環境があれば、自宅でもスムーズに仕事を進められます。
パナソニックが開発するVRグラスは、既存の3Dデータを見るにあたって高い評価を集めており、バーチャル空間での物作りにおける需要をうまく取り込めると期待されています。
なお、他企業のメタバース事業や産業用メタバースについて知りたい方は、「日本と海外のメタバース企業一覧|参入の価値は十分あり?将来性も解説」をご覧ください。
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ガジェット類の開発に強い
パナソニックがメタバースに進出した理由の二つ目が、「ガジェット類の開発に強い」からです。パナソニックは2018年にShiftallを買収し、スピード感が求められるメタバース事業・製品開発を、Shiftall主導で推し進めました。
Shiftallは、メタバース向け製品の3種類が発表される以前からメタバース製品の開発に力を入れています。その一つが、モーション・トラッキングデバイスの「HaritoraX(ハリトラックス)」です。
HaritoraXは、専用の機器を太ももやふくらはぎなどに取り付けるだけで、装着者の動きをアバターにリアルタイムで反映できます。
Shiftallを買収したことで、メタバースをよりリアルに感じられる技術開発のノウハウが蓄積され、今後のさらなる開発が期待されます。
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パナソニックはメタバースジャパンにも参加
パナソニックは、国内のメタバースに関する業界団体の設立にも携わっています。2022年3月に発足された「一般社団法人メタバースジャパン」の理事として、パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社常務の山口有希子氏が加入しています。
世界的なトレンドとして急成長・急拡大が期待されるメタバース市場に関して、日本が持つ高い技術力やアニメなどの文化を活かせば、再び世界企業と渡り合える日がくるはずです。業界団体発足による、国内におけるメタバース事業の発展に期待しましょう。
なお、メタバース事業をサポートする団体について詳しく知りたい方は、「日本メタバース協会とは?設立メンバーを紹介|関連団体の一覧も」をご覧ください。
パナソニックはメタバース関連商品を続々と開発中!
パナソニックは、家電の製造・開発過程で培った高い技術力や、メタバース関連製品の開発に力を入れている企業の買収により、メタバース関連商品を続々と開発しています。
メタバース関連事業や関連商品の開発には、スピード感が必要不可欠です。子会社が先導して商品開発を推し進めることで、大企業に求められないフットワークの軽さを補填し、超軽量のVRヘッドセット開発を実現させました。
設計や組み込みなどの各種製造過程から販売まで、商品を形にするまでの工程をすべて内製して取り組む姿勢は、自社におけるメタバース事業創出の参考にできるでしょう。
メタバースユーザーの悩みに寄り添い、ユーザーの悩みが解決される商品を開発して世間に届ける…ものづくりの本質を愚直に遂行するパナソニックの商品づくりをヒントに、自社独自の商品開発を進めましょう。
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