新たなビジネスアイデアを形にする「新規事業開発」には、失敗がつきもの。そもそも新規事業開発にはどのような業務が発生するのか、事業開発を成功させるために必要なスキルはなんなのでしょうか。
本記事では、新規事業開発で扱う4つの業務と5つのスキルなどを紹介します。
記事の後半では、新規事業開発で用いられるフレームワークもまとめました。社内で事業開発部門に携わる方やスタートアップで新規事業立ち上げを検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。
新規事業開発とはゼロベースで新しいビジネスを始めること
新規事業開発とは、文字通り「新しい事業を開発すること」です。しかしビジネスの現場においては、まったく新しい事業をゼロから立ち上げる場合もあれば、既存事業のターゲットをずらすなどして横展開・事業拡大する場合も指すこともあります。
企業によって事業開発の意味するところはまちまちですが、「収益化に至っていない事業未満のタネを改善して収益化(=事業化)させる」ことは共通します。
そのため「新規」事業開発を定義するなら、ゼロベースで新しいビジネスを始めることといえるでしょう。
事業開発と事業企画の違い
事業開発と似た仕事内容で、事業企画があります。これらの違いは「注力するフェーズ」です。
- 事業開発:ゼロベースで新しいビジネスを始める企画と立ち上げに注力(ゼロから1を生み出す)
- 事業企画:立ち上がった企画を1から10に発展させることに注力(ビジネスモデルをつくりあげるフェーズ)
既に立ち上がった事業を拡大させることを事業開発と呼ぶケースもあるため、広義の意味で、事業開発は事業企画も含むといえるでしょう。
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事業開発は3つのフェーズにわけられる
ビジネス全体で統一的な定義があるとはいえない事業開発は、大きく3つのフェーズにわけると理解しやすいでしょう。
- ゼロから1を生み出すフェーズ
- 1から10を生み出すフェーズ
- 10から100を生み出すフェーズ
ゼロから1を生み出すフェーズ
事業開発の初期段階は、何も形になっていない「ジャストアイデア」がスタート地点。消費者のニーズが急速に変化・多様化するなか、「とりあえずサービスを作ってターゲットの反応をみてみる」という施策もあります。
顧客の課題を定義し、その課題を解決できるサービスやプロダクトのセットを発見するのがゼロから1を生み出すフェーズです。
最初のフェーズで発見できた「事業のタネ」を、次のフェーズで修正します。
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1から10を生み出すフェーズ
ゼロから1を生み出すフェーズで見つかった「事業のタネ」を芽吹かせる作業が、事業開発の次なるフェーズです。
サービスやプロダクトを作っている過程で見つかる機能性、販路、売上などの不足分を補填し、完成に近づけます。
ゼロから1で発見した実現可能な企画を軸に、ビジネスモデルとして事業化に近づけるのが1から10を生み出すフェーズといえるでしょう。
ビジネスモデルをつくりあげたら、最後のフェーズで事業を拡大させます。
10から100を生み出すフェーズ
1から10を生み出すフェーズで構築したビジネスモデルを拡大させるのが、事業開発の最終フェーズです。
サービスやプロダクトは売上の目処も立っており、収益化まであと一歩といったところ。新規顧客を獲得するための営業や各種マーケティング施策を実施し、事業規模を拡大させます。
このフェーズになると、キャッシュフローの管理以外にも、事業を担当する人材の配置や育成にも配慮する必要があるでしょう。
1から10を生み出すフェーズで芽吹いたビジネスモデルを育て上げるのが、事業開発における10から100を生み出すフェーズです。
事業開発で扱う4つの仕事内容
事業開発(Buisiness Development)は通称「Biz Dev(ビズデブ)」と呼ばれています。Biz Devに関する著名な記事である『Doing Biz Dev』には、以下の4つがBiz Devの仕事内容だと述べられています。
- 成長を実現する【Make Growth Happen】
- 市場をテストする【Test the Market】
- 顧客のために伝道する【Evangelize for the Customers】
- ネットワークを構築する【Build the Network】
成長を実現する【Make Growth Happen】
1つ目が「成長を実現する」ことです。記事の中では、以下のように述べられています。
『結果を残すスタートアップは積極的な成長目標を掲げ、優秀な事業開発担当は、チームが毎週の数字を達成するために必要なことは何でも行動に移します。自ら外回りをして顧客に売り込んだり、マーケティング施策を取り入れたりなど、社内において複数の役割を果たすべきなのです』
つまり、あらゆる方法に挑戦して事業の成長を実現させるのが事業開発の仕事なのです。
市場をテストする【Test the Market】
2つ目が「市場をテストする」です。記事の中では、以下のように述べられています。
『会社の設立当初は、チームメンバー全員が、商品やサービスが市場にマッチすることを目指して働いています。Biz Devは市場に向けたテストを行うことが重要です。このテストには、既存顧客に対する新たな試作のテストだけでなく、全く新しいセグメントの顧客に対するテストも含みます』
つまり、開発した商品やサービスを市場のニーズに適合させることも事業開発の仕事の1つといえます。
顧客のために伝道する【Evangelize for the Customers】
3つ目が「顧客のために伝道する」です。記事の中では、以下のように述べられています。
『製品及びエンジニアリングの議論において、チーム内の誰かが顧客の立場を尊重する必要があります。Biz Devは市場からのフィードバックに最も時間を費やすため、製品の将来の方向性を決めるチームに対して、顧客の要望を伝えて共感とコミュニケーションをとる力が必要なのです』
事業開発の担当者は、顧客の要望を汲み取り、チーム内に顧客の意見を伝えて円滑なコミュニケーションをとる役割も担います。
ネットワークを構築する【Build the Network】
4つ目が「ネットワークを構築する」です。記事の中では、以下のように述べられています。
『他の社員が製品作りに没頭している間、誰かが社外ネットワークの構築に時間を割く必要があります。このネットワークがあれば、競合の資金調達状況や提携関係を進めていることなどの情報を得られます。CEOがネットワーク構築の役割を担当していないなら、Biz Devの担当者がコネクションを作る役割を担うのです』
外部との人脈・パートナーを見つけることも、事業開発が担当する業務の1つとされています。
新規事業開発に求められる5つのスキル
ここでは、新規事業開発に求められる5つのスキルを紹介します。
- 情報収集スキル
- 論理的思考スキル
- コミュニケーションスキル
- プロジェクトマネジメントスキル
- プレゼンテーションスキル
企業によって事業開発の具体的な内容は異なるものの、「新たな価値を市場に提供する仕組みを作る」という点で共通しています。事業開発に求められるこれら5つのスキルを詳しくみていきましょう。
情報収集スキル
新規事業を成功させるには、幅広い情報を収集するスキルが必要不可欠です。
そもそも新規事業のスタートには「アイデア」が欠かせません。アイデアの着想は既存事業に関わる過程や、市場や顧客の購買行動の変化などを感じる過程などで生まれます。
この時点におけるアイデアは、いわば「仮説」状態。浮かんだアイデアを事業化する過程で必要なのが、情報収集スキルなのです。
- ターゲット・顧客のニーズ
- 現在の市場規模
- 将来の市場予測
- 競合の有無と動向
- 自社の持つ技術レベル
- 実現可能性
これら以外にも、仮説状態のアイデアを確度の高い企画まで磨けるような、さまざまなデータを集める必要があります。「アイデアを事業化できるか」という目的を達成させるためにどんな情報が必要か考えると、スムーズに情報収集できるでしょう。
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論理的思考スキル
新規事業開発では過去の経験や実績などにとらわれず、アイデアを形にしていく論理的思考スキルが求められます。
新規事業開発は、「顧客の課題」「解決策(アイデア)」の2つがあるなかで、根拠をもとに順序立ててプロダクトをつくりあげます。明確な答えが分からない状況で、収集したデータから仮説を立て、仮説検証を繰り返してプロダクトの完成を目指すのです。
論理的思考をする上では、「良質な問い」が重要とされています。問題解決の思考過程において「なぜ」を繰り返すことで、より本質的な洞察と仮説が導きだせるでしょう。
新規事業開発は他部門の協力も必須で、協力を仰ぐのも論理的な説明が必要不可欠です。
先入観などにとらわれず客観的に状況を捉え、論理的思考で課題解決に臨みましょう。
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コミュニケーションスキル
新規事業開発を成功させるには、コミュニケーションスキルも必須です。あらゆるビジネスに絶対の正解はありませんが、新規事業開発は暗闇の中を突き進むようなもの。アイデアのタネを事業化するには、事業開発担当の突破力・求心力が鍵を握るでしょう。
事業開発を進めるなかで、論理的思考スキルに基づいた説得力も重要です。しかし、成功するか不確実な事業開発を推し進めるには、ときに感情的な、人の心を揺さぶるような言葉も求められます。
ほかにも、部署内や他部署との連携だけでなく、社外のパートナーや顧客とのコミュニケーションも必要不可欠です。とくに社外パートナーと提携するのであれば、交渉力も問われます。
広範囲な業務を担当する以上、その場面に応じたコミュニケーションスキルが必要です。
プロジェクトマネジメントスキル
新規事業開発を進める際、成功に向けてプロジェクト全体を円滑に推し進めるためのプロジェクトマネジメントスキルも必要です。
事業開発に直接携わるメンバーは少数の可能性があるものの、プロジェクト全体を通じて、社内外を問わずさまざまなメンバーと関わります。
しかも、事業開発におけるプロジェクトマネジメントは既存事業の進捗を管理するようなものでは不十分。誰もやったことのない業務もあり、作業者が業務する内容の線引きや業務設計などを全て俯瞰的に把握し、全体を調整していくスキルが求められます。
当初のスケジュールどおりに進まないことも多く、柔軟な対応力も必要です。事業計画全体の舵取りを担う事業開発担当において、プロジェクトマネジメントスキルはとても重要です。
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プレゼンテーションスキル
事業開発を進めるために重要なのが、プレゼンテーションスキルです。情報収集し、確度の高い企画が出来上がったとしても、プレゼンテーションスキルがなくては人の心を動かせません。
- 社内稟議を通す際の説明資料
- 社外パートナーへの説明資料
- 銀行への融資依頼
- 顧客への営業
事業開発を進める上で関係各所と折衝する機会も多く、口頭だけでなく、パッと見で理解できる資料とプレゼンテーションスキルも求められるのです。
論理的思考スキルを掛け合わせ、わかりやすいプレゼンテーション資料の制作を心がけましょう。
新規事業開発で用いられる3つのフレームワーク
最後に、新規事業開発で用いられる代表的なフレームワークを3つ紹介します。
- リーンスタートアップ
- PEST分析
- SWOT分析
リーンスタートアップ
リーンスタートアップとは、最低限の機能を搭載した製品やサービスの試作を短期間で制作し、顧客の反応を集めて、より満足できる商品等の開発を進めるマネジメント手法です。
「とりあえずサービスを作る」ことで顧客のニーズを把握でき、無駄を省いた商品開発を進められるというメリットがあります。
アイデア(仮説)に基づいたサービス提供から、改善を繰り返して完成を目指すリーンスタートアップは、新規事業開発にぴったりなフレームワークです。
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PEST分析
PEST分析とは、市場を取り巻く外部環境分析に用いられるフレームワークです。以下の頭文字をとって、各影響を分析します。
- Political(政治)
- Economical(経済)
- Society(社会)
- Technological(技術)
これらは自社の企業努力で変えられるものではありません。事業開発を目指す業界・市場を取り巻く4つの外部環境を理解することで、世の中の変化に波乗りして急成長することもできます。
長期的な成長・発展を目指すためにも、PEST分析を用いた外部環境の分析も重要です。
SWOT分析
SWOT分析は、自社の現状を把握するためのフレームワークです。2つの評価軸で構成される4つのマトリクスに対し、自社の現状を書き出します。
ポジティブな要因 | ネガティブな要因 | |
内部環境 | 強み(Strength) | 弱み(Weakness) |
外部環境 | 機会(Opportunity) | 脅威(Threat) |
たとえば、それぞれに該当する内容は以下のとおりです。
- 強み:高い技術力
- 弱み:慢性的な人材不足
- 機会:材料調達費を抑えられる流通経路を持っている
- 脅威:大手の新規参入が噂されている
自社の現状を分析することで、事業開発の方向性を決めるヒントが見つかりやすくなるでしょう。
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新規事業開発は企業によって取り扱う範囲が異なるため統一的な定義は難しいものの、「新たな価値を市場に提供する仕組みづくり」という点は共通しています。
ジャストアイデアから確度の高い企画・事業化のタネを探し、不足を補って収益化できる事業にする過程で、幅広いスキルが求められます。
新規事業開発にはビジネスパーソンとしての総合力の高さが問われる分、事業開発に成功した喜びややりがいも計り知れないものでしょう。
本記事を参考に、事業開発に求められるスキルの習得やフレームワークの理解などを進め、事業開発を成功に導きましょう。
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