新規事業開発に対する積極的な支援を行っている企業のひとつとして、ソニーが挙げられます。ソニーでは「SSAP」と呼ばれる新規事業開発の伴走支援を行うプログラムがあり、これまで多くの事業開発を手がけました。
本記事では、SSAPの詳細や今まで立ち上げた事業を5つ厳選して紹介し、新規事業開発に関する課題などもまとめました。
新規事業開発に携わる方や、スタートアップとして事業開発の立ち上げ支援を希望している方などは、本記事で紹介するSSAPの活動を参考にしてみてはいかがでしょうか。
SSAP(ソニースタートアップアクセラレーションプログラム)とは?
SSAPとは、アイデア創出から事業化までをワンストップで支援するプログラムです。スタートアップの育成と事業運営を支えるソニー社内のプログラムとして、2014年にスタート。
当初は社内ベンチャーとしてプログラム展開していたものが、2018年から社外向けにサービスの提供を開始しました。スタートアップに限らず、大企業の新規事業開発まで、クリエイターのビジョンを実現し、よりよい社会の実現を目指す取り組みを推進しています。
【特徴】ソニーのプロフェッショナルが伴走し、総合的に事業開発を支援
SSAPは部分的な開発支援ではなく、アイデアの創出から事業化まで、時間軸に沿ってすべてのフェーズを「一気通貫」でサポートする体制が整っています。ソニーが今まで培ってきた事業化までのプロセスやノウハウは、社外と共有できるよう標準化。
まだアイデアすら定まっていない段階や、スタートしたものの途中で行き詰まっているなど、事業者の状況に合わせて総合的に事業開発を支援します。
そしてSSAPは、事業者と「共創」して事業開発を進める伴走型支援を徹底。分野別に支援を担当するアクセラレーターが、プロフェッショナルとして悩みを共有しながら事業化をサポートします。
さらに、事業化のプロセスが持続的な仕組みとして残るよう、事業者が継続的に事業開発できる仕組み化まで支援しているのが、SSAPの大きな特徴です。
【実績】SSAPでは17の新規事業を立ち上げ
SSAPでは、2014年の発足から2021年2月時点で、社内外であわせて17の新規事業立ち上げを支援しています。2022年11月末時点におけるサービスの提供実績としては、ソニーグループ以外の事業者に対して合計271件、業種別実績は22業種におよびます。
スタートアップに限らず、大手企業や教育機関といった幅広いサービスの提供実績があり、事業化に至った、または社外へのサービス提供を行った業種・業界は以下のとおりです。
- エレクトロニクス
- ヘルスケア
- 教育
- ドローン
- ファッション
- 不動産
- 医療機器
- 素材・繊維
これらは一例ですが、SSAPは、多くの業界・産業における新規事業開発支援に携わっているのです。
SSAPで立ち上げた事例を5つ紹介
ここでは、実際にSSAPが支援して事業化に至った事例を5つ紹介します。
- 骨伝導技術によって生み出された子ども向け歯ブラシ「Possi」
- スマートロック「Qrio Lock(キュリオロック)」
- ウェアラブル冷温デバイス「REON POCKET」
- 簡単にプログラミングを楽しめるIoTブロック「MESH」
- マグネットで着脱できるキャットウォール「猫壁(にゃんぺき)」
骨伝導技術によって生み出された子ども向け歯ブラシ「Possi(ポッシ)」
京セラが開発した子ども向けの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi」は、骨伝導技術を活用し、ブラシが歯に当たっている間だけ本人に音楽が聞こえる仕組みを取り入れています。
小さい子どもは歯ブラシの時間を嫌がる傾向にあることから、嫌がる歯磨きの時間を楽しい時間に変えるという新たな価値を提供しました。本案件は、SSAPにおける社外向けの事業化案件として第一号とされています。
SSAPの支援が入って以降、京セラの担当者を含めたアイデアソンを実施し、仮説検証やフィードバックを高速で回し、消費者へのヒアリングと修正を繰り返し続けました。
SSAPの支援を通じて事業開発に長けた人材の育成にもつながり、総合的な支援に成功した事例と言えるでしょう。
スマートロック「Qrio Lock(キュリオロック)」
「Qrio Lock」は、自宅の鍵をスマートフォンで操作できるスマートロックです。取り付けは工事不要、対応するドアの種類も豊富で、合鍵を発行して家族や知人にも手軽に共有できます。
QrioLockを装着することで、ドアに近づくだけでハンズフリー解錠できたり、鍵の閉め忘れを防止したりしてくれます。鍵交換や穴あけの必要もないため、賃貸住宅でも取り付け可能です。
QrioLockを手がけるのは「Qrio株式会社」で、もともとマーケティング能力に長けていたものの、製品づくりの経験がなかったとのこと。そのためSSAPからエンジニアや専門家を派遣したところ、アイデアがたくさん出た結果、QrioLockが誕生しています。
ウェアラブル冷温デバイス「REON POCKET」
「REON POCKET」は、本体接触部分の体表面を直接冷やしたり温めたりできるウェアラブル冷温デバイス。専用ネックバンドを使うことで、背中(首の後方部分)に装着できます。
2019年4月にSSAPからの支援を受けてプロジェクトが発足され、アクセラレーターからクラウドファンディングにおける価格設定の考え方や、製品の見せ方を享受。同年7月のクラウドファンディングでは、6日間で目標額の6600万円を達成しました。
REON POCKETはソニー内の事業化事例で、エンジニアチームが発案したアイデアでした。不足していたマーケティングに関するサポートをSSAPから受けて、翌年7月には一般販売が開始されました。
プロジェクトの立ち上げから一般販売開始まで、約1年半というスピード感。SSAPのサポート力が際立つ事例でした。
簡単にプログラミングを楽しめるIoTブロック「MESH」
「MESH」は、特別な知識がなくてもプログラミングが体験できるIoTブロックです。人感センサー、スイッチなどの役割を持ったブロックを組み合わせることでプログラミングを楽しむことができ、全国各地の教育現場でも取り入れられています。
MESHのプロトタイプができたのは2012年。そこから2年後の2014年5月、アメリカの展覧会に出展し、MESHのコンセプトが固まりつつありました。翌年1月にはアメリカのクラウドファンディングサイトへの挑戦が決まり、同年7月に一般販売が開始されています。
製品化にあたって、SSAPから広報や知財、法務や品質管理など、幅広いサポートを受けました。一般販売開始後も、ワークショップなどで感じた顧客のインサイトから、MESHのさらなる改良がなされています。
新規事業開発という「世の中の課題解決」を実践形式で学べるのが、SSAPの真骨頂といえます。
マグネットで着脱できるキャットウォール「猫壁(にゃんぺき)」
「猫壁」は壁パネルを設置するだけで、自宅の壁面を愛猫のための空間に拡張できるマグネット着脱式のキャットウォールです。愛猫の性格や身体能力に合わせ、創意工夫を凝らして愛猫が楽しめる空間を作れる点が最大の魅力。
猫壁は株式会社LIXILがBtoCビジネスを切り開くトライアル実践として、SSAPの支援をもとに開発が進められました。
2019年7月からプロジェクトが発足し、商品企画段階で60件以上のユーザーインタビューを重ねてニーズを検証。翌年12月からクラウドファンディングを行い、2021年9月に発売開始されました。
SSAPは猫壁の公式Webサイト制作も支援しており、事業開発支援の幅広さが伺えます。
新規事業開発に関する5つの課題
新規事業開発に関してSSAPが携わった事例を紹介しましたが、ここでは各企業が共通して抱える5つの課題をまとめました。
- 事業の作り方がわからない
- 有能な人材が埋もれている
- 市場規模の小さい事業を扱い慣れていない
- 精神論で開発にチャレンジする風潮
- 新規事業を既存事業の規模感まで発展できない
事業の作り方がわからない
新規事業開発に関して、そもそもプロセスが不明瞭で「何をしたらいいのかわからない」ことが課題として挙げられます。
市場にないもの、または自身のアイデアをゼロから形にして事業化させるプロセスは、当然ながら学校では学びません。企業で経験する機会もほとんどないでしょう。
「事業づくり=起業」のようなもので、起業にはリスクがつきものです。事業開発に関する体系的なノウハウがまとまっていない点も、事業開発を難しくさせる要因のひとつと言えるでしょう。
有能な人材が埋もれている
事業の作り方がわからない以外にも、有能な人材が社内に埋もれている可能性も挙げられます。柔軟な発想力でアイデア出しに長けた人材がいたとしても、アイデアを実現するきっかけがなければ事業化には至りません。
Qrio Lockの開発経緯も、社長自身がマーケティング能力に長けていたものの、製品づくりの経験はありませんでした。
後述しますが、SSAPが社外に向けたサービスを提供した背景には、こうした有能な人材を掘り起こすためのきっかけになることも想定されています。
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市場規模の小さい事業を扱い慣れていない
事業開発のアイデア出しに関して、市場規模が小さいことを理由に事業化されていない可能性は無視できません。
同じ時間を投入して50億円になる新規事業と、3億円に到達するかもわからない新規事業があれば、前者の事業開発を進めるケースが多いのではないでしょうか。
現時点で規模は小さいかもしれませんが、その後の市場変化やマーケティング施策次第で、市場規模が拡大する可能性もあります。市場規模の小さい事業は軽視される傾向にあり、せっかくのアイデアがないがしろにされている可能性は否定できません。
精神論で開発にチャレンジする風潮
新規事業開発には体系的なノウハウがないことから、「当たって砕けろ」「とりあえずやってみろ」といった精神論で事業開発を進めようとする風潮もあります。
このような風潮では、新規事業開発のハードルは一向に下がりません。マンパワーに頼るのではなく、テクノロジーを駆使して事業開発に取り組みやすい仕組みづくりが進むと、国内の事業開発スピードや競争力強化にもつながるでしょう。
新規事業を既存事業の規模感まで発展できない
最後に、立ち上げた新規事業を既存事業の規模まで発展させられないという課題も挙げられます。
立ち上がりは順調だったのにも関わらず、事業を担当する人材の育成や人員確保が間に合わず、軌道に乗り切れないというパターンが新規事業は往々にしてあります。
自社事業として「中長期的な成長を遂げるための支援・サポート体制」が整っていない点も、企業の体制として見直す必要があるでしょう。
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ソニーが新規事業開発の課題解決で取り組む3つのこと
新規事業開発に関して各社が共通して直面する課題に対し、ソニー(SSAP)は以下3点に注力して解決を試みています。
- 新規事業開発のフローと組織づくり
- 人材育成及び人材派遣
- 社外へのノウハウ展開
新規事業開発のフローと組織づくり
「事業の作り方がわからない」「有能な人材が埋もれている」という課題を解決するための取り組みとして、SSAPでは新規事業開発のフローを構築しています。
あらゆるサービス提供などには「マニュアル・仕組み」が存在し、仕組みがあれば初めてそのサービスに触れる人でも安心して作業に取り組めます。今までの作業者が学んだ知見やノウハウが残っていれば、同じ失敗は避けられるでしょう。
そのためSSAPでは、新規事業開発のフローと組織づくりを推進しているのです。
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人材育成及び人材派遣
SSAPでは、サービスを提供する企業に対して「アクセラレーター」を派遣し、社内の人材育成にも力を入れています。
支援した企業の新規事業開発が単発で終わらないよう、そして社内で事業開発のノウハウを蓄積して人材育成できるよう、仕組み化の支援を積極的に行っているのです。
社外へのノウハウ展開
SSAPでは、新規事業開発に対して国内全体の問題として改善を図るべきと捉え、自社で培った豊富な知見やノウハウを社外に展開しています。
その結果、より多くのアイデアを実現でき、ソニーとしてもアイデアを持つ人材・企業と協業する機会を持てるというメリットも生まれます。新規事業開発をきっかけにした関係性の構築と、将来的には互いの事業を広げていきたいという狙いもあるのです。
新規事業開発を通じて社会の課題解決に貢献しよう
アイデア創出から事業化までをワンストップで支援するプログラムであるSSAPは、社外へのサービス提供を開始してから17の新規事業を立ち上げました。
自社で培った経験やノウハウを社外に提供し、協業を通じて事業開発のノウハウを伝播させる取り組みには、大きな社会的意義があります。また、各企業の事業開発力向上やスタートアップの創出は、国内における市場の活性化や競争力強化にもつながります。
新規事業開発を進める方法がわからない方は、SSAPの支援を受けてみてはいかがでしょうか。本記事を参考に、さまざまな社会課題を解決する事業開発にチャレンジしましょう。
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