空港・旅客サービスを提供する国内最大手のひとつであるANA。同社は2023年1月現在、新たな旅行体験の提供を視野に、メタバースプラットフォームを開発しています。
ANAが手がけるメタバースの名称は『ANA GranWhale』。ANAグループの顧客基盤やブランドをもとに、リアルとバーチャルをつないだ新しいライフスタイルの提供にチャレンジしています。
本記事では、ANAが手がけるメタバースプラットフォームであるANA GranWhaleの概要や、提供されるサービス内容などをまとめました。
新たにメタバースビジネスを検討している方は、自社ビジネスへの応用などの参考にしてみてください。
ANAホールディングス株式会社の会社概要
商号(会社名) | ANAホールディングス株式会社 ANA HOLDINGS INC. |
設立 | 1952年12月27日 持株会社制へ移行に伴い2013年4月1日に全日本空輸株式会社からANAホールディングス株式会社へ商号変更 |
代表取締役 | 芝田 浩二 |
事業内容 | グループの経営戦略策定、経営管理等 |
資本金 | 4,676億円 |
従業員数 | 200名(連結従業員数42,196名) |
売上高 | 1兆203億円(2021年度) |
ANAグループは、持株会社であるANAホールディングス株式会社が経営資源配分を行い、グループ全体の企業価値向上を目指しています。おもな事業内容は、以下のとおりです。
- 航空事業
- 航空関連事業
- 旅行事業
- 商社事業
ANAは航空事業を中心に、国内外の航空ネットワークや顧客基盤を活用したさまざまな事業を展開しています。
『ANA GranWhale』はANA NEO株式会社が手がけている
『ANA GranWhale』は、新しい旅の体験価値を創造するために考案されたメタバースプラットフォームです。「ANA NEO株式会社」は、ANA GranWhaleの開発・運営を担うために、2020年に設立されました。
航空会社の収益は、天変地異やパンデミックなどに大きく左右されます。突発的に発生する外的要因により、旅客数や収益が減るという航空ビジネスのデメリットを補うため、旅を軸としたメタバースの構築がスタートしたのです。
ANA NEO株式会社の会社概要
商号(会社名) | ANA NEO株式会社 |
設立 | 2020年8月7日 |
代表取締役 | 冨田 光欧 |
事業内容 | メタバース関連事業および関連製品等の研究、開発、販売 インターネット関連事業等 |
資本金 | 8,735万円 |
公式サイト | https://www.ana-neo.com/ |
ANA GranWhaleの総合プロデューサーを務めるのは、JP GAMES株式会社代表取締役の田畑端氏。田畑氏は前職のスクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXV』のディレクターとして活躍しています。
航空会社とゲーム会社はいずれも「個人の体験」にフォーカスするもの。両社がタッグを組み、バーチャル旅行のプロジェクトが立ちあがろうとしているのです。
ANA GranWhaleが提供する3つのサービス
ANA GranWhaleが提供を予定しているサービスは、大きく分けて以下の3点です。
- 旅のテーマパーク『Skyパーク』
- バーチャルショッピング空間『Skyモール』
- 未来の街『Skyビレッジ』
旅のテーマパーク『Skyパーク』
『Skyパーク』は、3D CGによって描かれた世界のさまざまな都市や絶景スポットを舞台にした、旅のテーマパークがモチーフ。誰もが気軽に楽しめる、新たな旅行体験が提供される予定です。
旅の好みを「のんびり」「弾丸」などと設定し、自宅にいながら、最大8人でバーチャル旅行を楽しめる仕様などを開発しています。
さらに、バーチャルの旅行体験に合わせてリアルの旅行を提案し、予約までをワンストップでおこなえる予定です。
自宅にいながら、世界中だけでなく地域の観光地にも訪問できる旅行体験を提供し、地域活性化につなげる狙いもあります。
バーチャルショッピング空間『Skyモール』
『Skyモール』は、空港でのショッピングやエンターテイメントをイメージしたバーチャルショッピング空間がモチーフ。家族や友人などとともに、Skyモール内を歩いて買い物やイベントなどを楽しめる仕様になる予定です。
ANAグループの強みである航空ビジネスを活かし、世界中から選りすぐられた商品を購入できる越境ECも実現予定。
Skyモールを通じた偶然の出会いや利便性の提供に限らず、地域創生や地産外商(地元で生産等された商品を、地元の外で販売する取り組み)を促進させる狙いがあります。
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未来の街『Skyビレッジ』
『Skyビレッジ』は、バーチャル世界におけるスマートシティで、未来の街をイメージした空間を目指すものです。
バーチャル上での医療・教育・行政などのサービス展開を予定しており、実現にはしばらく時間がかかる構想と言えるでしょう。
当面は、「Skyパーク」「Skyモール」の開発・ローンチが予定されています。両機能が充実し、メタバースの普及率が一定程度高まった段階の最終ゴールとして、Skyビレッジのオープンが想定されます。
ANA GranWhaleが提供したい3つの価値
旅を軸にしたメタバースであるANA GranWhaleが提供したい価値は、大きく分けて以下の3点です。
- リアルとバーチャルを行き来する旅行体験
- 地産外商による地域創生
- メタバース空間における雇用創出
リアルとバーチャルを行き来する旅行体験
リアルとバーチャルを行き来できる旅行体験の提供は、当然ながら今までにない体験です。
パンデミックにより行動が制限される場合や、身体が不自由な方でもバーチャルな旅行体験ができるのは、メリットが大きいでしょう。
Skyパーク内には、以下3つのエリアを展開する予定です。
- Vトリップ:観光スポットを再現
- プレミアムVトリップ:街全体を再現
- ストーリーツアー:ガイド付きのツアー
これらの旅行体験を楽しんだ後に、旅行のお土産を見られたり、リアルの旅行を予約できたりする体験は、今までになかった新たな価値提供として期待されます。
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地産外商による地域創生
地産外商とは、「地元で生産等された商品を、地元の外で販売する取り組み」のことです。
ANA GranWhaleでバーチャルな旅行体験ができると、なかなか日の目を浴びない地元の観光スポットさえも、メタバース世界で旅行できます。地域文化や景観をメタバース世界に再現することで、文化や伝統の継承にもつながるでしょう。
ANA GranWhaleで地元ならではのスポットをメタバース化して、旅や特産品を紹介できるようになれば、地域の盛り上がりに一役買うこともできるでしょう。
メタバース空間における雇用創出
ANA GranWhale内の各機能・サービスを運営していく上で、メタバース世界における接客などに対応できるスタッフ・人材の育成も必要不可欠です。
具体的には、フルリモートかつアバターによるサービス提供という今までにない雇用形態で、専門的な知識や機器を使った業務が想定されます。この点について、ANA NEOは人材大手のパソナグループと提携し、対策を練っています(詳細は後述)。
今までにない、新たなプラットフォームやサービスの提供には、雇用創出という波及的な効果も期待できるでしょう。
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ANA GranWhaleと協業が決まっている5つの企業や自治体
ANA NEOは、ANA GranWhaleを開発するにあたって、以下の協業・提携を実現しています。
- 新たな金融サービスの提供:三菱UFJ銀行
- 保険商品開発などの実証実験に関する合意:損保ジャパン
- ジョブ開発に向けた提携:パソナグループ
- デジタルツイン社会実現のための連携:京都市
- 多面的な魅力発信:北海道
新たな金融サービスの提供:三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行は、メタバース空間における金融機能および金融サービスの提供に向けた検証などをするため、2022年11月にANA NEOと協業する旨を発表しました。
メタバース空間における金融サービス提供に向けて、ANA GranWhaleを利用する旅行者に向けて、金融に関する情報発信等を行う予定です。
三菱UFJ銀行は、今回の協業による知見を踏まえ、Web3.0型のメタバース金融サービスの在り方を検証。その結果として、デジタル化するサービスをユーザーが安心して利用できる社会の実現に貢献したいと考えられます。
保険商品開発などの実証実験に関する合意:損保ジャパン
損保ジャパン(損害保険ジャパン株式会社)は、2022年5月、メタバースにおける保険商品開発や新サービスの可能性を検証するための実証実験の実施に関する基本合意書を締結。
メタバースにおける保険会社の実証実験は国内初で、デジタルツイン社会(リアル空間をもとに、仮想空間でリアル空間を再現)における安心で安全なライフスタイルの実現を目指す取り組みとして期待されます。
具体的には、ANA GranWhaleに損保ジャパンも参画し、保険・リスクマネジメントを中心とした市場性・事業性の検証を実施する予定です。
両社の関係性強化により、メタバース市場でのさらなる事業展開やビジネス共創も期待されます。
ジョブ開発に向けた提携:パソナグループ
株式会社パソナグループは、2022年9月、メタバース領域におけるジョブ開発に向けた提携契約を締結しました。
同契約は、メタバースにおける人材開発や雇用創造の新たな探求を通じ、日本企業の競争力向上を目指す狙いがあります。
ANA NEOとしては、ANA GranWhaleにおいて、ユーザーのサポートを担う人材の育成や、将来的にはメタバースにおける働き方の構築を視野に入れています。
パソナグループが抱える人材領域における豊富なノウハウを活用し、メタバース領域における人材活用や雇用創出の可能性を探求する取り組みが期待されます。
デジタルツイン社会実現のための連携:京都市
京都市は2022年4月、市の資源・資産を有効活用し、デジタルツイン社会の実現を目指すための連携協定を締結。
提携事項は以下のとおりです。
- 魅力発信:バーチャル上における多面的な京都の魅力の国内外への発信
- 地域経済の活性化:デジタル技術を活用した文化やアート産業の融合
- 観光振興:「市民生活との調和を最重要視した持続可能な観光都市」の実現
- 文化芸術振興等:京都が培った歴史や文化資源のデジタル化による再現や継承
自治体との連携に関する先進的な取り組みとして効果があると、さらなる提携数の増加やサービス拡充に拍車がかかると期待されます。
多面的な魅力発信:北海道
北海道は2022年11月、観光振興事業の一環として、ANA GranWhaleにおいて北海道を構築し、北海道の多面的な魅力を発信するための連携協定を結びました。
京都市に続き、観光地のメタバース化によるWeb3.0時代の新たな価値提供に期待が寄せられています。
札幌や函館はもちろん、稚内、知床、根室、トマムなどの北海道全域をメタバース空間内に構築予定。自然、食、文化といった多面的な魅力を発信します。
さらに、各地域のPR動画などの提供により、リアルとバーチャルを融合させたリッチな旅行体験を提供する予定です。また、京都同様、各地の景色や文化などをメタバース化して、景観や文化の保全にも力を入れるようです。
ANA NEO株式会社は三菱UFJ銀行と損保ジャパンの3社で基本合意を締結
ANA NEOは2022年11月、三菱UFJ銀行と損保ジャパンの3社で、ANA GranWhaleにおける新たな金融サービスの提供に向けた基本合意を締結しました。
3社の協業により、以下3点を中心に検証を実施する予定です。
- メタバース空間における金融機能・金融サービスの提供に向けたニーズ調査などの検証
- メタバース空間における各種データ分析などの検証
- 金融分野以外における新たなビジネス機会創出の検討
協業によって、ANA GranWhaleにおけるシームレスな金融サービスの在り方を検証し、リアル世界ともつながる新たなライフスタイルの提案を目指します。
今回の合意は、ANA GranWhaleの提供するサービスの一つである、「Skyビレッジ」の実現に向けた第一歩として今後の動向が期待されます。
ANA GranWhaleの2023年1月時点における開発状況
ANA GranWhaleの構想発表時(2021年5月)において、サービスのローンチ予定は2022年でしたが、2023年1月時点で開発が継続している状況です。
正式リリースに先立ち、コンテンツの動作検証等を目的としたクローズドβテストを、2回のグループに分けて予定しています。
第1グループは2022年11月28日から12月2日、12月21日から25日にかけて実施されました。第2グループの日程は現時点で決まっていません。
2022年10月24日に開催されたセミナーでANA NEO代表の冨田氏が登壇した際、「Skyパーク」及び「Skyモール」は2022年度中にリリースを予定している、との発言もあったそうです。
ANA GranWhaleは、スマートフォンアプリとしてリリースが予定されています。その後、VRヘッドセットの普及率が高まった頃合いを見て、より没入感のある、リッチな体験を味わえるサービスを展開する予定とのこと。
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『ANA GranWhale』が提供する新たな旅行体験に期待!
ANAが手がける旅を軸にしたメタバース「ANA GranWhale」は、2023年1月時点において、テスト版で一部機能が利用可能な状況です。
ANA GranWhaleは、「天変地異や世界的な恐慌などに左右されないビジネスモデルの構築」として、ゲーム会社とタッグを組んで実現を目指しています。こうしたメタバースビジネスへの取り組みは、企業の生存戦略として参考にできる点も多いでしょう。
自宅にいながら、バーチャル空間で旅行体験が可能に。さらに、各地のお土産・商品の購入や旅行の予約など、リアル世界とシームレスにつながるという新たなライフスタイルの浸透が期待されます。
地方創生や地産外商、メタバース化による文化の保全・継承など、ANA GranWhaleが提供する価値は多岐に渡ります。
Skyパーク及びSkyモールは2022年度中のリリースが予定されており、ANA GranWhaleの提供する新たな旅行体験に期待しましょう。
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