凸版印刷は2022年4月、現実空間を正確に取り込み、ビジネス利用を想定したメタバースプラットフォーム『Mira Verse(ミラバース)』をローンチしました。

キャラクターを用いたアニメのような世界観ではなく、現実の色味や質感を忠実に再現し、真正性を追求している点がMira Verseの大きな特徴の1つです。

そんな凸版印刷は、かねてからバーチャル空間におけるコミュニケーションサービスの開発を手がけており、歴史を紐解くと30年ほど前からビジネス展開しています。

本記事では、Mira Verseに備わる3つの特徴だけでなく、凸版印刷が手がけるメタバース関連事業を徹底解説

自社でメタバース関連事業の開発に着手する予定の方などは、凸版印刷の事例をぜひ参考にしてみてください。

凸版印刷株式会社の会社概要

商号(会社名)凸版印刷株式会社
創業1900年(明治33年)
代表取締役麿 秀晴
事業内容情報コミュニケーション事業
生活・産業事業
エレクトロニクス事業
(印刷テクノロジーがベース)
資本金1,049億円
連結従業員数54,336名
連結売上高1兆5,475億円
※数値は2022年3月末時点

凸版印刷株式会社は創業から120年を経過する老舗企業で、印刷テクノロジーをベースに、社会のあらゆる課題解決を目指しています。

事業領域おもなサービス内容
情報コミュニケーション事業セキュリティシステムの提供、コンテンツマーケティング、BPO関連など
生活・産業事業パッケージ関連、建装材関連、高機能・エネルギー関連など
エレクトロニクス事業半導体関連、ディスプレイ関連など

世界でも最大規模の印刷会社として、自社の高い技術力をベースに多角的なビジネス展開を進めているのが特徴的です。

凸版印刷は『Mira Verse(ミラバース)』を2022年4月に提供開始

凸版印刷は、2022年4月にメタバースプラットフォーム『Mira Verse』の提供を開始しました。Mira Verse最大の特徴は、現実空間を仮想空間へ正確に取り込んでいる点です。

Mira Verseが想定する利用シーンは、商談や協調作業などのビジネスコミュニケーションです。

たとえば各種ショールームにおいて、さまざまな商品をMira Verse上で確認し、購買の意思決定をサポートできます。製造業においては、リアルタイムシミュレーションを使った協調作業も実現できるでしょう。

ほかにも、観光や教育、防災訓練など、ビジネスシーンに限らず、あらゆる機会においてMira Verseの利用が期待されます。

凸版印刷が培ってきた高精細な画像データ処理や、形状を正確にデジタル化する先端表現技術を活用して真正性を追求している点は、他のメタバースと一線を画す特徴といえるでしょう。

凸版印刷は1990年後半から3D仮想空間ビジネスに参入していた

凸版印刷は、「メタバース」という言葉が浸透する前から、3D仮想空間ビジネスに取り組む先進的な企業です。

1997年には、「バチカン・システィーナ礼拝堂」というVRコンテンツをリリース。翌年には「Worlds Chat/J3」と呼ばれる、3次元仮想空間を企業向けに提供しています。

凸版印刷はインターネットが普及し始めた頃から、「仮想空間ビジネスのはしり」ともいえるサービスを展開してきました。デジタル空間にまつわるテクノロジーの研究や開発を長きにわたって行っており、Mira Verseには、脈々と受け継がれた技術基盤が存在するのです。

MiraVerseの特徴3選

Mira Verseの特徴は、大きく分けて以下の3点です。

  • 現実空間を正確に再現した高い臨場感
  • ユーザーによる自在なワールド構築とデータ管理
  • アバター生成管理基盤「AVATECT(アバテクト)」と連携した安全なコミュニケーション

現実空間を正確に再現した高い臨場感

Mira Verseでは、建物や製品、自然など、ありとあらゆるものを自社の計測技術によって正確に3Dデータ化しています。4K・8Kの高精細・低遅延なオリジナルのレンダリングエンジンを組み合わせることによって、圧倒的にリアルで、臨場感あふれるメタバース空間を構築。

ビジネス活用にも対応できるリアルな品質を表現し、インテリアなどの風合いや色調も高度に再現しています。

「メタバースのビジネス活用」は、この先多くの企業で取り入れられ、利用シーンの幅も広がっていくことが想定されるでしょう。企業に対するメタバースの導入支援を視野に、凸版印刷ではコンサルティングからワールド(メタバース空間)構築、運用までをワンストップで提供します。

ビジネス利用を前提に、現実空間を正確に再現した高い臨場感のあるメタバース空間が、Mira Verseの大きな特徴です。

ユーザーによる自在なワールド構築とデータ管理

Mira Verseは再現性に優れたリアルな空間を提供するだけでなく、ユーザーサイドによるワールド構築とデータ管理が可能です。設計図やアイデアに基づき、試作品や実在しないモノ、空間を含めたさまざまな状況をMira Verseに構築できます。

自在なワールド構築の具体例としては、以下が挙げられます。

  • 住宅設備や自動車の内装など、あらゆる製品のプロモーションやシミュレーション
  • 技能訓練や行動訓練といったさまざまなトレーニング
  • 新規顧客獲得や既存ユーザーのエンゲージメントを強化するためのコミュニケーションツール

また、Mira Verseで活用される情報は、高いセキュリティ性を確保したクラウド上で一元管理。情報漏洩などのリスク対策は万全で、ビジネス用途の活用を前提とした対策がとられています。

アバター生成管理基盤「AVATECT(アバテクト)」と連携した安全なコミュニケーション

Mira Verse内で自身の分身となるアバターについては、自社で提供する「AVATECT(アバテクト)」と呼ばれるアバター生成管理基盤と連携し、セキュリティ強化を図っています。

アバターのなりすましや不正利用に対応するため、AVATECTによってアバターの真正性を証明できる機能を開発。2022年2月から試験提供が開始されています。

AVATECTでは、アバター本体の管理や本人認証のほかに、NFTや電子透かしを付与して、プライバシーや著作権を保護する機能も実装。

自社独自の基盤を構築して機能を充実させ、メタバース空間における安心・安全なコミュニケーションの実現を目指します。AVATECTを通じ、用途に合わせた最適なセキュリティ環境の構築が叶えられるでしょう。

凸版印刷が手がけるメタバース関連事業の開発状況

凸版印刷は2022年4月に「Mira Verse」の提供を開始しました。実際には、その前後で複数のメタバース関連事業のリリースや、新機能を開発しています。

本記事では、その中でも以下4つのリリース等を紹介します。

  • メタバースモール『メタパ』の提供
  • メタバース上の美術館「Mira Verse ミュージアム」の開発
  • Mira Verse Coreを提供開始
  • DeNAと実証実験を実施

メタバースモール『メタパ』を提供開始【2021年12月】

メタパ』は、リアルとバーチャルを融合した新しい買い物体験を提供するモバイルアプリ。2021年12月にローンチされ、単一のブランドや企業のバーチャルストアではなく、モール型(ショッピングモール形式)のユーザー体験を構築しているのが特徴です。

メタパ上で友人や家族などと合流し、それぞれのアバターでバーチャル店舗を回ったりショッピングしたりできます。

メタパを立ち上げるきっかけになったのは、コロナウイルスの蔓延です。行動制限がかかるなか、リアル店舗での買い物ができず、オンラインショップの需要は急増しました。

しかし、オンラインではリアルな買い物体験ができず、店員や知人とのコミュニケーションに欠けるというデメリットが。そこで、リアルとオンラインをつなぐメタバース空間のショッピング体験として、メタパが誕生したのです。

モール型の採用により、店舗を出店する側のコストも比較的抑えられ、短期間の出店を可能にした点も大きなメリットといえるでしょう。

メタバース上の美術館「MiraVerse ミュージアム」を開発【2022年6月】

Mira Verseの提供開始から2ヶ月が経過した2022年6月には、メタバース上の美術館である「Mira Verse ミュージアム」を開発しました。

Mira Verseの「リアル世界の忠実な再現」という強みを最大限に活かして、作品の色や質感の再現を追求。さらに、「作品がガラスケースで覆われていない」「作品の裏面を見られる」などのメタバース空間ならではの特徴も盛り込まれています。

アバターを介した友人や学芸員とのコミュニケーションも可能で、従来の美術館にはない、作品の新たな鑑賞体験を提供しています。

Mira Verse ミュージアムには、広重美術館をメタバース上に構築した「Mira Verse ミュージアム 広重」が公開中。メタバース上であれば名作を一堂に展示でき、多言語での紹介も可能です。

Mira Verse ミュージアムなら、リアルの美術館では実現が難しい機能や要望などを、新たな鑑賞体験として満たしてくれるでしょう。

新機能「MiraVerse Core」を提供開始【2022年10月】

2022年10月には、新機能である「Mira Verse Core」を提供しています。

Mira Verse Coreは、Webサイト上で企業の商品や空間を3Dデータで再現し、自由な視点・自由な組み合わせでバーチャル体験を提供できる機能です。

Webサイトで高精細なバーチャル体験が提供できるため、利用者の購入意思決定などを強力にサポート可能となりました。スマホやタブレットにも対応したため、幅広い利用者に提供可能となり、商品の販売機会を最大化できるでしょう。

さらに、Mira Verse Core専用の管理サイトで3Dデータを一元管理できるため、ディスプレイ変更時のコスト削減などにも貢献します。

Mira Verse Coreの本格提供に先がけて、株式会社LIXILの玄関ドア・窓の3Dシミュレーション「TOSTEM Digital Simulation」で採用されています。

DeNAとメタバース空間におけるアバターの真正性に関する実証実験を実施【2022年11月】

凸版印刷は、自社で開発したアバター生成管理基盤である「AVATECT(アバテクト)」の公開実証実験を、DeNAが開催するメタバースイベントで実施しました。

2022年11月に開催された「Mobage 3D Park」のプレオープンにおいて、アバターの流出や改ざんなど、メタバースビジネスにおける課題抽出やAVATECTの有用性を検証。

イベントの参加者に対し、あらかじめダウンロードしたアバターのAVATECTへの登録を依頼。電子透かしによる真正性情報をアバターに付与して、アバターの流出や改ざんを抑止できたかなどを検証しました。

真正性が付与されたアバターを持っているユーザーは、確認コードを交換してアバターの真正性情報を確かめられる仕組みになっています。

実証実験の成果は定かではありませんが、メタバース空間特有の課題に対するアプローチには今後も期待しましょう。

3Dアバター自動生成サービス「メタクローンアバター」を開発

凸版印刷では、写真を1枚アップロードし、約1分で簡単に3Dアバターを生成できる「メタクローンアバター」を開発しました。

  • ビジネス用途のリアルなアバター
  • 安価かつ短時間で生成
  • 社員全員分のアバターを同時生成

これらの要望に応えたのがメタクローンアバターで、バーチャルショールームでの案内やバーチャルオフィスへの出勤など、さまざまなビジネス用途に対応可能です。

3Dアバターの出力形式も複数から選択でき、多様なプラットフォームにも対応している点も大きな特徴といえます。

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凸版印刷のCMシリーズの舞台もメタバース

凸版印刷が2022年10月から放映しているテレビCMの舞台もメタバースです。

俳優の大泉洋さん・成田凌さんが出演するCMシリーズ『すべてを突破する。TOPPA!!!TOPPAN メタバース篇』では、アバターと化した両者がコミカルな掛け合いを披露。

「凸版印刷=印刷会社」というイメージを払拭し、さまざまな領域の課題解決に取り組む会社の姿を知ってもらう狙いがあるとのこと。

CM内では、両者がMira Verseについて紹介する内容となっています。

凸版印刷がメタバースビジネスで想定する市場と今後の展望

凸版印刷は、Mira VerseやAVATECTなどのメタバースビジネスに力を入れ、現実とバーチャルのシームレスな連携による新たなコミュニケーションの場を構築しようとしています。

誰もが参加しやすく、安心・安全で持続可能な社会の実現を視野に、さまざまなサービス開発に着手し、拡大が見込まれるメタバース市場のシェア獲得を目指しているのです。

凸版印刷の目指す精密なメタバース世界は、いわば現実社会のデジタルツイン。豊かな表現やコミュニケーション機能を活かし、現実の社会問題をメタバース空間でシミュレーションできる未来もそう遠くはないでしょう。

同社では、メタバースを起点にしたエコシステムの形成や国際標準化を目指し、2025年度までに、メタバース関連事業で100億円の売上を目指しています

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凸版印刷が手がけるビジネス向けメタバースの浸透に期待!

凸版印刷が手がけるメタバースは、ビジネス向けの展開を明確に打ち出しています。

自社で長年培った技術やノウハウを活かし、リアル世界を忠実に再現した「Mira Verse」は、ユーザーの購買意思決定を強力に後押しするツールになりうるでしょう。

サービス開発以後も、美術館への展開やスマホ・タブレットでも閲覧可能になり、ユーザーの利用機会は今後増える可能性も高く、さらなる機能開発も期待できます。

凸版印刷のメタバースビジネスは、満を持して展開されたともいえるため、同社のビジネスモデルをトレースするのは難しいかもしれません。しかし、同社が提供するサービスを有効活用してメタバース空間でビジネス展開する事例は、今後増えるものと予想されます。

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