近年、アパレル業界において「メタバース店」「バーチャル店舗」「メタバースEC」といった言葉を耳にするようになりました。背景には、テクノロジーの導入が加速している状況があります。
アパレル業界の中でもいち早くメタバース事業に取り組んできたのが、セレクトショップのビームス(BEAMS)です。2020年12月に初めてメタバース店を出店した後もさまざま取り組みを続け、その戦略は常に注目を集めています。
この記事では、ビームスのメタバース戦略について具体例とともに詳しく解説します。メタバースECについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ビームスの会社概要
ビームス(BEAMS)は日本のセレクトショップかつオリジナルブランドとして、創業当時から独自の立ち位置を築いてきました。
国内においては現在3つの組織から成り立ち、株式会社ビームスがショップの経営やオリジナル商品の製造、インポート商品を含む販売をしています。株式会社ビームスの概要を下記の表にまとめました。
持株会社 | 株式会社ビームスホールディングス |
事業会社 | 株式会社ビームス |
代表取締役社長 | 設楽 洋(したら よう) |
所在地 | 本社:東京都渋谷区海外オフィス:ロンドン、パリ、ミラノ、ニューヨーク |
設立 | 1982年5月(創業1976年2月) |
従業員 | 1,812人(2022年2月) |
事業内容 | 紳士服、婦人服、バッグ、靴、雑貨等の販売 |
メタバース事業は、商品開発やマーケティング、宣伝販促に関する企画制作を事業とする、株式会社ビームスクリエイティブが取り組んでいます。
2020年からメタバースへ参入
ビームスは2020年に初めてメタバース店を出店したのをきっかけに、メタバースへ本格参入しました。
世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」を主催する株式会社HIKKY(ヒッキー)から話をもらい、興味を持ったのが始まりです。
ビームスにとってメタバース店の存在は将来への投資的な意味合いも大きいとのこと。株式会社HIKKYとは業務提携して、ともにメタバース事業に取り組んでいます。
メタバース店のコンセプトにあるのが「バーチャル世界であってもビームス店舗の1つである」という考え方です。実際にビームス1号店の原宿店を基に、メタバース店のデザインが仕上がりました。
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世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」に参加
バーチャルマーケットは、株式会社HIKKYが主催するメタバース空間で開催されるVRイベントです。出店者と来場者は、メタバース上でバーチャル商品やリアル商品を売買します。
2018年にスタートして以降、個人サークルをはじめ多数の有名企業が出店。2021年には「バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数」としてギネス世界記録に認定されました。
世界中から100万人以上が来場して話題を呼ぶなど、期間中は入場無料で24時間アクセスできるため、会場は昼夜を問わず多くの人でにぎわいます。
ビームスのメタバース取り組み事例
ビームスは2020年から2022年までに計5回バーチャルマーケットに出店し、毎回の新たな試みが注目を集めています。
ビームスが戦略的にどうメタバースに取り組んでいるのか、具体的に見ていきましょう。
ももいろクローバーZの専用アバターを作成
ビームスは、2020年12月に開催された「バーチャルマーケット5」に初めてメタバース店を出店しました。ユーザーに楽しんでもらおうと考えたのが、ももいろクローバーZのメンバー専用アバターを作成した企画です。
1回目の出店はコロナ禍で行動制限が強くかかっていた時期でした。アイドルとファンは互いに直接会えないもどかしさを抱えており、企画はユーザーのニーズと見事に合致しました。
お忍びでメタバース店にやってきたももクロメンバーと居合わせた客が交流を楽しむなど、メタバース空間ならではのイベントは好評でした。バーチャルでもリアルでも、人が人を引き寄せることで物が売れるという本質は変わらないと言えるでしょう。
有料コラボアバターを販売
2021年8月に開催された「バーチャルマーケット6」で、ビームスは2回目のメタバース店を出店しました。
1回目の出店で得た経験と知見のもと、物品販売の売り上げ増を目指したビームスは、ここでしか手に入らない限定要素の強い有料コラボアバターを用意しました。
具体的には、子どもに人気のアニメ「PUI PUIモルカー」とのコラボ商品を中心に、アバターやフィギュアを販売。
このPUI PUIモルカーのアバターは予想以上の売れ行きを記録し、バーチャル商品の大きな可能性を印象付けました。
リアルファッションを再現したアバターの販売
3回目の出店は、2021年12月に開催された「バーチャルマーケット2021」ここで初めての試みとして、リアルファッションをそのまま再現したビームスのオリジナルアバターを販売しました。
メタバース店の中央に展示されたアバターに触れると公式オンラインショップにアクセスできる。そして、アバターが着用しているアイテムを実際に購入できるというものでした。
前回のPUI PUIモルカーほどは販売が振るわなかったものの、リアルとバーチャルがクロスオーバーする新たなショッピングの楽しさを伝えるには十分でした。
こうした体験の場をユーザーに提供できるのは、実店舗を持つビームスならではの強みでもあります。
VR交流イベントを開催
4回目の出店となった2022年8月の「バーチャルマーケット2022 Summer」で、ビームスは初のVR交流イベントを開催しました。
アバターファッション界で人気のVRイベント「Real Clothes Rally」とのタイアップ企画で、約100名の参加者がそれぞれ自慢のファッションに身を包み集結しました。
イベントにはビームスのスタッフも参加し、リアルとバーチャルの境界を超えたファッショントークが盛大に繰り広げられました。
またイベント参加者特典として、脱プラに向けて廃止された人気の肩掛けショッピングバッグをバーチャル商品として復刻。この取り組みには、ユーザーの反応も上々でした。
実店舗にVR体験会場を設置
ビームスは、2022年12月の「バーチャルマーケット2022 Winter」でもメタバース店を出店しました。5回目の出店で初めて、ビームス原宿店の店内にVR体験会場を設置しました。
メタバースをより身近に感じられる機会を提供するため、店舗内にゲーミングライフスタイル空間を作り上げました。これによって、VR機器を持っていない人でも初めてメタバース店を体験できました。
原宿店をバーチャルとリアルをつなぐ拠点にすることで、メタバースの新たな価値を提供するとともに、顧客とのエンゲージメントを高める効果もありました。
ビームスのメタバース戦略がうまくいく3つの特徴
ビームスのメタバース戦略には、3つの特徴があります。
- リアルな世界観の再現
- 企業とのコラボレーション
- バーチャル商品とリアル商品の連動
この特徴こそが、ビームスのメタバース事業が成功しているとされる理由です。
リアルな世界観を再現
ビームスはメタバース参入時から、バーチャルでありながら実店舗の象徴やイメージを踏襲するようにメタバース店を作り上げてきました。ビームスにとってメタバース空間とは、リアルの世界観と変わらない本質的な世界です。
ビームスのこだわりとして、メタバース店では毎回スタッフがVRゴーグルをつけながら、実店舗と変わらない接客をリアルタイムで行っています。これによってデジタルであっても温度を感じる接客が可能になります。
メタバース空間でのコミュニケーションをきっかけにユーザーが実店舗に足を運んでくれることもあり、リアルとバーチャルの相互送客も実現しています。
企業とのコラボレーション
メタバース事業に限らず、ビームスは企業と積極的にコラボレーションすることで有名です。ほかの企業との連携において、相手企業に価値提供しつつ自社らしさを存分に表現できるのは、ビームス独特の強みでもあります。
メタバース店でも、Netflixとコラボレーションして映画「浅草キッド」の世界観を再現したり、ホームセンターのカインズとコラボレーションしてゲーム体験できる空間を作り上げたりしてきました。
さまざまな枠組みを超えて異文化交流が生まれやすいこともメタバースの特徴です。ビームスは、メタバースにおいてもコラボレーションを盛んに行うことで、取り組みの幅を広げています。
バーチャル商品とリアル商品の連動
バーチャル商品とリアル商品を連動させることで、メタバース空間だけではなじみがないユーザーに対してリアルでの接点を与えられるメリットがあります。
ビームスはこれまでに2021年秋冬のルックを身にまとったオリジナルアバターを販売。メタバース上で公式オンラインショップにアクセスできるようにして、アバターが着用しているリアル商品を購入できるようにしました。
バーチャルとリアルを連動させていくことが、ユーザーとのコミュニケーションを充実させたり、エンゲージメントを高めたりすることにつながります。
メタバースECとは?市場は拡大傾向
メタバースECとは、ARやVR技術を活用したデジタルコマースの1種で、メタバースコマース(メタコマース)と呼ばれることもあります。
メタバースECは、単にオンラインショッピングを実現するための技術ではありません。商品の売買や人とのコミュニケーションなど総合的な「メタバース体験」を実現するためのサービスです。
メタバースECは比較的新しい考え方ですが、すでに大手の企業も参入しており将来性がある分野です。
メタバースECのメリット
メタバースECのメリットとして、具体的に次の3つが挙げられます。
- 新規顧客を獲得できる
- ブランディングに適している
- バーチャル商品を販売できる
メタバースECは、従来のオンラインショッピングに対して、人との交流といった付加価値を与えられると期待されています。
新規顧客を獲得できる
メタバースECは、新規顧客を獲得するために有効な手段です。メタバース空間に店舗を構えることで、従来リーチができなかった層を新たなターゲットにできるからです。
実際に市場を世界に広げたいと考えていても、コストなどを理由に商圏が限られてしまうこともあるでしょう。世界中の人が簡単に行き来できるメタバース上の店舗であれば、潜在的な顧客層を増やせるメリットがあります。
ブランディングに適している
メタバースECは現在主流のECサイトに比べて、自社の世界観をより表現できるメリットがあります。メタバース空間であれば、実店舗と同様にブランディングに適した空間設計が可能だからです。
実際にビームスもメタバースの空間設計をうまく利用して「バーチャル世界であってもビームス店舗の1つである」という自社のコンセプトをメタバース店で表現してきました。
また、実店舗では時間やコストがかかりすぎて諦めていたことも、メタバース空間であれば形にするハードルが低くなります。メタバースECはこうしたブランディングにおける選択肢を広げられます。
バーチャル商品を販売できる
メタバースECは、リアル商品だけでなくバーチャル商品も販売できるのが特徴です。メタバース市場が盛り上がるほど、アバターが身につけるアイテムをはじめバーチャル商品の需要も高まっていくでしょう。
メタバースECでは、1つの商品からリアルとバーチャル両方の製品を生み出せるコストメリットや、販売促進の相互作用が期待できます。バーチャル商品で効果的に取り扱いアイテムを増やしていけば、より多くの顧客獲得にもつながります。
ビームスがアパレル業界のメタバース参入を牽引する
メタバースにおけるアパレルショップの前例が少ない頃から、ビームスは独自の戦略でメタバース事業を展開してきました。ビームスに続くかたちで、今後はアパレル業界においてもメタバース参入の動きが活発になっていくでしょう。
メタバース空間は自由度が高いがゆえ、コンセプトや方向性を明確にして事業を展開していくことが重要です。ビームスのメタバース戦略を参考に、メタバース活用の可能性を考えていってください。
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