メタバース開発には、ゲームやエンターテインメントなどの対消費者向けと、産業向けの大きく2種類に分けられます。
産業用のメタバース開発に関して、現在とくに注目を集めているのが、アメリカの大手半導体メーカーである「NVIDIA(エヌビディア)」です。
エヌビディアが開発したメタバースプラットフォーム「Omniverse(オムニバース)」は、現実世界を忠実に再現したデジタルツインにより、世界中の企業が活用しています。
本記事では、エヌビディアが手がけるOmniverseの詳細や、企業における活用事例などを解説。
エヌビディアと提携している国内企業も紹介しているので、本記事を通じ、エヌビディアの開発する産業用メタバースの実態を把握し、知識をアップデートさせましょう。
大手半導体メーカー「エヌビディア」がメタバースに注力
アメリカの大手半導体メーカーである「エヌビディア」は、GPU(画像処理などをおこなうプロセッサ)のメーカーという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
同社が手がけるGPU性能は世界的にも優れており、人工知能アルゴリズムの訓練に関する市場のほぼ100%を、エヌビディアのGPUが占めていると言われています。
人工知能研究では大量の画像・音声データを高速で処理して機械学習するため、高性能なGPUが欠かせません。機械学習の先には自動運転システムの開発も視野にあり、トヨタをはじめとする、世界中の自動車メーカーがエヌビディアと提携を済ませています。
今後のさらなる技術革新を支える屋台骨として、高性能な半導体・GPUの需要が高まっており、エヌビディアの存在感が強まっている状況です。
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高度なハード技術と最先端ソフトウェアを併せ持つ
ゲーミング事業や人工知能の機械学習などで活用される高性能なGPUは、高度なハード技術として世界から認められています。
エヌビディアは、2019年にメタバース開発プラットフォームである「Omniverse(オムニバース)」の提供を開始しました。
Omniverseではアーティストなどの個人・コンシューマーから、メタバースで構築した仮想世界でAIをトレーニングさせる企業に至るまで、幅広いニーズに対応しています。
Omniverseの開発は、自社で培った高性能なGPUなどのハード技術があるからこそ。
エヌビディアは、メタバースの世界を支えるハード機能で業界を牽引するリーディングカンパニーなのです。
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エヌビディアが誇るメタバース開発アプリ「Omniverse」とは
エヌビディアが開発したメタバースプラットフォーム「Omniverse」は、2019年にコンセプトが発表され、2021年から、ベータ版としてさまざまな企業が使い始めています。
現在は個人(クリエイター)によるコンテンツ制作以上に、AIの研究・開発や、産業プロセスをデジタルツイン上でシミュレーションする用途が多くを占めています。
Omniverseは、UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンや、Blenderなどの3DCGアニメーションツールとシームレスに接続可能。
仮想世界の構築・開発を容易に行うことができ、現実世界では難しいシミュレーションをOmniverse上で再現できるのです。
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産業分野のAIシミュレーションとして期待されている
Omniverseは、企業の生産ライン設計などをデジタルツインで忠実に再現し、仮想シミュレーションを行えます。
大規模かつ複雑なシミュレーションほど、現実世界で実践するのは容易ではありません。たとえば、自動運転の機械学習はOmniverse上で盛んに行われており、気候条件や自動車同士の複雑なシミュレーションを安全に学習させることができます。
このように、Omniverseは産業向けに広く活用されているのが特徴的です。
「メタバース=SNSやイベントなどの一般消費者向けコンテンツ」と捉えられがちです。しかし、PDCAサイクルをメタバース空間で完結させて、産業を効率化させる取り組みが進められている点にも注目しておきましょう。
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Omniverseのおもな特徴を3つ紹介
メタバース開発プラットフォームのOmniverseには、大きく分けて3つの特徴があります。
- Omniverse Nucleus
- NVIDIA PhysX
- NVIDIA CloudXR
Omniverse Nucleus
「Omniverse Nucleus(オムニバース ニュークリアス)」とは、異なるアプリケーションで開発されたデータを同期させるためのデータベースのような機能です。
従来型の協業作業では、データを適切な形式でエクスポートした後、インポートして作業を継続しなければならず、煩雑さを拭いきれませんでした。
Nucleusは、メタバースの開発状態を保存し、開発者間で扱うアプリケーションを連動させるための仲介役として機能しています。
またUSD(Universal Scene Description)という、ピクサーが開発した3Dシーンを記述するためのフォーマットを用いることで、アプリケーション間の協業作業を容易にしています。
OmniverseはNucleusとUSDを用い、複数のアプリケーションを同期させ、効率的な編集を可能にしているのです。
NVIDIA PhysX
「NVIDIA PhysX」とは、スマートフォンからハイエンドなGPUまで、幅広いデバイスをサポートする、高性能なリアルタイムシミュレーションを提供する物理エンジンです。
Omniverseでは、現実世界の構成要素を仮想世界で完全に再現できるよう、光線のひとつひとつに至るまで、リアルタイムかつ忠実にトレースします。その際に用いられるのが、PhysXです。
光の当たり具合を描写する技術は「レイ・トレーシング(Ray Tracing)」と呼ばれています。光源から出ている光の量や方向を把握し、水面や物体の表面などで生じる光の反射などをシミュレーションし、よりリアルな映像を作り出す技術です。
レイトレーシング技術の根底にあるのがPhysXで、エヌビディアの独自技術により、メタバース空間に現実世界を忠実に再現しています。
NVIDIA CloudXR
「NVIDIA CloudXR」は、VRやARをクラウド化して、5GやWi-Fiネットワークで提供するシステムです。
エヌビディアが提供する専用アプリからAndroidやWindowsデバイスにストリーミングでき、あらゆるデバイスで、リモートサーバーからVR・AR体験を可能にします。
5Gネットワークの普及と、エヌビディアが誇る高性能GPUを動力にすることで、カクツキを最小限に抑えたデータをストリーミングできるようになりました。
従来型ヘッドセットのケーブルによる動作制限はなく、自由に動き回れる点も特徴的です。
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Omniverseを活用したエヌビディアのサービス事例
Omniverseを活用した、エヌビディアのサービス事例を2つ紹介します。
- 多国籍ビデオ会議で活躍するミーティングツール「Maxine」
- BMWの生産ラインを構築した仮想シミュレーター「Issac Sim」
多国籍ビデオ会議で活躍するミーティングツール「Maxine」
「Maxine(マキシン)」とは、ビデオ会議をサポートするツールです。
Maxineには、AIやARによって自身の話す言葉をリアルタイムで多言語翻訳できる以外に、話者の目線をトラッキングし、目線をカメラに自動で合わせる機能が搭載されています。
ほかにも、顔をトラッキングして表情を修正したり、音声補正したりする機能を実装。
さらに、自身の音声をAIで合成する取り組みも進められており、本人は知り得ないような内容の話を、AIを使って本人が話しているような音声コントロール技術も開発しています。
Maxineは実用段階に進んでおり、パートナー企業に提供してサービス開発が進められている状況です。
BMWの生産ラインを構築した仮想シミュレーター「Issac Sim」
「Issac Slim」は、Omniverseを基盤とする、生産ラインのシミュレーション・合成データ生成ツールです。
生産現場を忠実に再現した仮想環境で、AIロボットの開発やテストなどを可能にしています。
BMWは自社の生産ラインを「Issac Slim」によって再現し、仮想シミュレーションを実施。Omniverseの仮想空間内でAIが自動学習しながら動きを覚え、実働前に生産ラインの仮説検証ができるようになりました。
生産ラインの効率化を事前に仮説検証することで、実働開始の時点で高い生産性を発揮できます。
BMWに限らず、Omniverseを利用したテストは、今後さまざまな企業で導入されるでしょう。
メタバースと連携する日本企業
エヌビディアは、日本企業ともパートナー提携し、Omniverseの積極的な活用を推進しています。本章では、以下の3社におけるエヌビディアのサービスに関する取り扱いをまとめました。
- 伊藤忠テクノソリューションズ
- NTTPC
- SB C&S
伊藤忠テクノソリューションズ
「伊藤忠テクノソリューションズ(略称CTC)」は、1972年に設立されたIT通信系の大手企業です。おもな事業内容は以下のとおりです。
- コンピュータ・ネットワークシステムの販売や保守
- ソフトウェア受託開発
- 情報処理サービス
- 科学・工学系情報サービス
CTCは、エヌビディアの販売パートナーとして、国内の多業種・他部門へエヌビディア製品の導入を支援しています。インフラ構築からシステムの保守管理まで、AI活用やDX支援を一気通貫で対応。
ほかにも、Omniverseを活用した産業用メタバースに関するウェビナーを開催し、DXの推進や3Dデータの活用方法を紹介する活動を積極的に行っています。
NTTPC
「NTTPC」は、1985年に設立されたNTTドコモのグループ会社です。主力事業はネットワーク管理で、具体的には以下の課題解決に取り組んでいます。
- 中堅・中小企業のリモートワーク導入
- セキュリティ対策
- 業務環境のDX化
- 通信・運用コスト削減
NTTPCは、2022年3月にエヌビディアとパートナーシップを結び、Omniverseの提供を開始しました。
なかでも、3Dの建築モデルに関する技術の1つである「BIM(Building Information Modeling)」を用いた建築業務のIT化を推進する「ペーパレススタジオジャパン」とOmniverseの活用を推進。
Omniverseによる建築業界向け3Dデザインの普及に注力しています。
SB C&S
「SB C&S」は、2014年に設立されたソフトバンクのグループ会社です。ソフトバンクグループのシステムインテグレーターかつ、モバイルアクセサリー販売も手がけています。
法人向けには、グループが抱える販売ネットワークを通じ、クラウドやAIを含めた最新テクノロジーを活用した解決策を提供。
SB C&Sは、2021年11月にOmniverseの取り扱いを開始しています。
SB C&Sはエヌビディアの国内正規代理店という特徴を活かし、「AIエンゲージメント・橋渡し役」に努めています。国内のAI利活用を促進するとともに、最適なAIサービス提供会社を提案することで、双方のニーズを満たしているのです。
SB C&Sが協業しているAIサービス提供会社は50社を超え、AI分野を中心にソリューションの提案をしています。
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エヌビディアのメタバース技術が産業革命を起こす未来も遠くない
エヌビディアはGPUの製造会社・大手半導体メーカーという側面だけではなく、産業用メタバースを牽引する第一人者として、業界をリードしています。
Omniverseの活用は、現時点で一部の大企業が中心となっており、プラットフォームの認知度はまだまだ低いと言えるでしょう。
しかし、Omniverseが提供する現実世界を忠実に再現した仮想空間は、AIの機械学習や生産ラインの事前PDCAなど、現実世界では困難なシミュレーションなどを可能にします。
5Gが普及し、一般消費者向けにメタバースが普及する未来も想定されますが、エヌビディアのメタバース技術が、新たな産業革命を起こす未来もそう遠くないでしょう。
日本企業もエヌビディアとパートナー提携し、Omniverseの普及に努めています。本記事を踏まえ、産業用メタバースの未来についてキャッチアップしておきましょう。
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