大手不動産企業である住友不動産は業界大手としてはじめて、新築分譲マンションの販売をメタバース上でスタートさせました。

「メタバース=エンターテインメント系の娯楽」というイメージの方が多いかもしれませんが、各業界でメタバースをビジネス利用するケースが増えています。

本記事では、不動産業界にメタバースを導入することによる業界の変化やメリットを徹底解説。不動産業界以外の住宅業界におけるメタバース活用事例もまとめました。

不動産・住宅業界に従事する方などは、今後の不動産業界がどのように変わっていくかを理解するための参考にしてみてください。

住友不動産はメタバースで新築分譲マンションを販売開始

住友不動産は2022年9月、「メタマンションギャラリー」という名称で、新築分譲マンションを販売開始しました。

メタマンションギャラリーでは、住友不動産が手がける約80物件のうち、約20件を扱う予定となっています。アバターを介して購入の相談や内見ができ、営業担当による無料のセミナーなども予定しているようです。

株式会社不動産経済研究所の調査によると、2022年における住友不動産の新築分譲マンションの発売戸数は3,109戸で、業界第4位に位置しています(2021年は2,211戸で第6位)。

不動産業界大手の住友不動産がメタバースのビジネス活用に舵を切ったことで、今後の業績にどのような影響を及ぼすのか注目しておきましょう。

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サービスの提供開始は2022年9月30日

メタマンションギャラリーは2022年9月30日に提供が開始され、2023年3月中旬時点で19の物件を閲覧できます。なお、CGの建物模型は準備中で、すべての機能が使える状況に至るにはもうしばらく時間がかかるようです。

2020年以後、新型コロナウイルス蔓延に伴い非対面のニーズが拡大。また、契約書類の電子化が進んだこともあり、不動産の販売手法が多様化しているという背景も。

メタバースの内見であれば、未完成の物件も閲覧可能なだけでなく、現地に向かう必要がないというメリットもあります。

しかしアバターを介した契約の場合、本人確認に困難な状況が発生する可能性は否めず、今後の運用体制も注視していく必要があるでしょう。

スマホアプリで利用可能

メタマンションギャラリーは、VRヘッドセットなどは不要で、スマホアプリをインストールすれば誰でも利用できます。

「メタパ」というモール型のバーチャルショップアプリを利用しており、アプリをインストールすると、メタマンションギャラリーだけでなく各業界のバーチャルショップも利用可能。

操作性は体感的に行えるため、扱いに困ることはないでしょう。

住友不動産のメタバースは凸版印刷の『メタパ』にオープン

住友不動産の新築分譲マンション販売は、凸版印刷が手がける「メタパ」を利用しています。

メタパをインストールすると、アバターのプロフィール設定を行い、訪れたいメタバースショップを選択します。「メタマンションギャラリー」を選択するとギャラリーにアクセスでき、地図にピン留めされた物件のなかから、気になる物件を選んで内見できる仕様です。

「シティテラス金町(東京都葛飾区)」のブログサイトには、同マンションのギャラリーを訪問した状況を紹介しています。興味のある方はこちらをご覧ください。

凸版印刷のメタパはモール型のバーチャルショップ

「メタパ」は、凸版印刷が2021年12月にローンチした、ショッピングモール形式のバーチャルショップアプリ。

メタパ上で友人や家族などと合流でき、それぞれのアバターでバーチャル店舗を回ったり、ショッピングしたりできます。

リアルとオンラインをつなぐメタバース空間のショッピング体験としてメタパが誕生し、テレアサショップやSoftBankショップなども出店しています。

モール型のバーチャルショップに出店することで、開発コストも比較的抑えられ、短期間の出店も可能である点は、住友不動産としても大きなメリットと言えるでしょう。

なお、凸版印刷におけるメタバース展開は、「凸版印刷が手がけるメタバース『Mira Verse』とは?3つの特徴などを解説」をご覧ください。

メタバースで分譲マンションを販売するメリット5選

メタバースで分譲マンションを販売することで得られるメリットは、大きく分けて以下の5つです。

  1. モデルルームに足を運ぶ必要がない
  2. 未完成・工事中の物件でも建具や眺望を確認できる
  3. 地方や海外などに住むユーザーの獲得も可能
  4. 遠方に住む家族とメタバース上で一緒に説明などを受けられる
  5. 購入時の不安を取り除ける

モデルルームに足を運ぶ必要がない

メタバース上で分譲マンションを購入できるようになると、モデルルームに足を運ぶ必要がなくなります。

不動産業界において、過去にもVRを使ってモデルルームを閲覧できました。しかし、アバターを介して閲覧するものではないため、閲覧「しか」できない状況でした。

メタバースなら、アバターによるさまざまな意思決定や行動に移すことができ、利便性が格段に向上しています。現地に赴いて内見する場合、営業担当者とのやりとりに気を遣う方もいるでしょう。メタバースであれば、好きな時間に好きなだけ、自由に内見できます

モデルルームに足を運ぶ必要がないのは、最も大きなメリットといえるでしょう。

未完成・工事中の物件でも建具や眺望を確認できる

現地に赴く従来型の内見では、完成した物件やモデルルームしか内見できません。メタバースで内見できるようになると、未完成や工事中の物件でも建具や眺望を確認できるようになります。

モデルルームの場合、住宅設備のオプションなどがすべて搭載されるなどしており、実際に住むイメージを持ちづらい側面もありました。メタバースなら購入する物件そのものを閲覧でき、購入時のイメージギャップを埋めることができます。

内見用のモデルルームを作る必要がなくなれば、その分建築コストを抑えられ、販売価格の抑制につながる可能性もあるでしょう。

地方や海外などに住むユーザーの獲得も可能

メタバースで内見できるなら、地方や海外などに住むユーザーの獲得も視野に入ります。内見は現地へ赴いて行うものが当たり前でしたが、どこからでも内見できるのであれば、顧客は世界中に住む人と言っても過言ではありません。

2023年3月時点において、メタマンションギャラリーで紹介されている物件は東京23区内及びその近郊に限られています。今後、全国のマンションがメタバースで内見できるようになれば、より多くのユーザー獲得も期待できるでしょう。

遠方に住む家族とメタバース上で一緒に説明などを受けられる

メタバースでマンションを販売できるようになると、遠方に住む家族とメタバース上で一緒に説明などを受けられるというメリットもあります。

不動産の購入は、人生において最も高額な買い物の1つです。状況によっては両親と一緒に説明を受けたり、両親のマンション購入に子どもが付き添ったりすることもあるでしょう。

現地に赴くのが難しいとしても、メタバースなら場所の制約は取り払われます。安心してマンションを購入する一助になる点もメタバースならではです。

購入時の不安を取り除ける

メタバースで内見できれば、購入時の不安を取り除けるというメリットも。

先ほど紹介したように、未完成や工事中の物件でも住宅設備や眺望を確認でき、「実際に住むマンション」を内見できます。メタバースなら特定の部屋タイプだけでなく、すべてのタイプを内見できるため、購入前の不安を取り除ける効果が期待できます。

数千万円という買い物をするにあたって、より具体的なイメージを持てるメタバースでの内見は、購入者のメリットが大きい仕組みといえるでしょう。

戸建住宅業界におけるメタバースの活用事例3選

新築分譲マンションにおけるメタバースの活用事例よりも先に、戸建住宅業界では、メタバースを活用した事例がいくつか登場しています。なかでも、以下の3つは先行的な事例として注目を集めています。

  1. 大和ハウスは2022年4月にメタバース住宅展示場を公開
  2. リビン・テクノロジーズは2022年8月にメタ住宅展示場をオープン
  3. ジブンハウスは2022年3月にバーチャルモデルハウスをリリース

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大和ハウスは2022年4月にメタバース住宅展示場を公開

大和ハウスでは、2022年4月からオンラインを活用した戸建住宅の販売強化策として、「メタバース住宅展示場」をスタートしました。

メタバース住宅展示場のオープンに伴い、Web限定の戸建住宅商品「Lifegenic(ライフジェニック)」に平屋を追加し、顧客への新たなアプローチを開始しています。

メタバース住宅展示場はスマホをはじめ、パソコンやタブレット端末からアクセスでき、アバターを介して展示場内を気軽に見学可能。壁紙や床、天井等の色や素材も自由に変更でき、理想のイメージを検討しやすくなっています。

さらに、最大6名で会話できるため、遠隔で説明を受けることもできるようです。メタバース住宅展示場のスタート当初は3つの戸建住宅商品を展開していましたが、今後はさらなるラインナップの拡充も予定されています。

リビン・テクノロジーズは2022年8月にメタ住宅展示場をオープン

不動産サービスの比較サイト『リビンマッチ』を運営するリビン・テクノロジーズ株式会社は、2022年8月、全国の住宅会社のVRモデルハウスを一堂に集めた「メタ住宅展示場」を開設。

スマホやパソコンから専用のゴーグルなしに閲覧でき、実物を4Kデジタル撮影した超高画質の映像が用意されています。大手から中小工務店を扱っており、好きなときに、好きなだけ内見できるメリットがあります。

1社の複数モデルを同時に比較できるだけでなく、住まいの近くにはない工務店などのモデルハウスも閲覧でき、住まい選びの選択肢が大きく広がりました。

出展側はモデルハウスを建築するより安価に広告宣伝でき、ユーザーは大手以外の中小工務店のモデルハウスも内覧できる、win-winのビジネスモデルと言えます。

ジブンハウスは2022年3月にバーチャルモデルハウスをリリース

JIBUN HAUS.株式会社は2022年3月、仮想空間上で暮らしの疑似体験ができるバーチャルモデルハウスをリリースしました。

ゲームコントローラーを使って家の中や外を歩き回ったり、壁紙を変えて雰囲気を変えたりすることができ、仮想空間上のモデルハウス見学をよりリアルな体験に近づける狙いがあります。

今回のバーバルモデルハウスは、ゲーム開発エンジンの「Unreal Engine(アンリアル エンジン)」によって作成された3DCGモデル。自由に動き回って視点を操作できる点が、VRの360度のパノラマ視点とは異なります。

ゲーム感覚で、よりリアルな暮らしをイメージでき、実世界において本当に望む住まいづくりにつなげられると期待されています。

不動産業界にメタバースが浸透することによる3つの変化

不動産業界にメタバースが浸透することで起こりうる変化は、大きく分けて以下の3つです。

  1. 相談や内見から契約までをオンラインで完結できる
  2. 住宅設備のオプションなどを簡単に着せ替えして検討できる
  3. アバターで試しに住んでみる世界が訪れることも

相談や内見から契約までをオンラインで完結できる

メタバースが浸透することで、物件に関する相談や内見、契約に至るまでをオンラインで完結できるようになります。

現に住友不動産では、2022年9月からメタマンションギャラリーで新築分譲マンションの販売を開始しており、オンラインでマンションを購入できるようになりました。

2023年3月時点において、メタマンションギャラリー経由でマンションを購入したケースがあるか定かではありませんが、集客方法のひとつとして作用しているはずです。

住友不動産の事例を皮切りに、他社においてもメタバース活用の流れが生まれれば、一気に浸透する可能性もあるでしょう。

住宅設備のオプションなどを簡単に着せ替えして検討できる

メタバースが浸透することで、住宅設備のオプションなどを簡単に着せ替えして検討できるという変化も想定されます。

大和ハウスやジブンハウスの事例にもあるように、壁紙や床の色などを自由に変更して、メタバース上のモデルルームをよりリアルに検討できるようになりました。

従来の分譲マンションでは、モデルルームのフルオプション状態でしかイメージできず、見れても基礎工事の物件でした。

メタバースなら「未完成状態のマンションを購入する」という不安を払拭する効果も期待でき、マンション購入の満足度に関して、高い状態をキープできるでしょう。

アバターで試しに住んでみる世界が訪れることも

メタバースの機能がより充実した未来には、アバターで試しに住んでみる世界が訪れる可能性もあります。

服を試着する感覚で、アバターでマンションに試し住みすることで、日当たりや周囲の音などを確認できる日が訪れても不思議ではありません。

現時点では眺望や周囲の音などの環境は接客中しか確認できず、住んでみないとわからない難しさが残っています。

メタバースの機能が拡充することで、「仮想世界に一度住んでから購入を検討する」という世界が訪れるかもしれません。

住友不動産のメタバース進出による不動産業界の技術革新に期待

業界大手の住友不動産は、他社に先駆けて、新築分譲マンションをメタバースで販売する取り組みを2022年9月からスタートさせました。

マンションの内見をメタバースで行えるメリットは多く、いつ・どこでも・好きなだけ内見でき、郊外や海外在住の方でもアクセス可能です。

メタバースを活用した事例は戸建住宅業界ではいくつか先行しており、住友不動産を含めたこれらの企業の業績次第では、他社も追随する形をとるでしょう。

理想の住まいをイメージしやすく、購入時の不安を減らせるメタバース内見は、今後さらに機能が拡充されることも期待できます。

住友不動産に限らず、不動産業界の産業構造や新たな技術革新に期待しましょう。

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