メガバンクのひとつであるみずほ銀行も、メタバースのビジネス活用に動き出しています。メタバースイベントへの出展を皮切りに、展示会の開催や国内大手企業と合意書の締結を交わすなど、メタバースの普及に向けた積極的な動きが見られるようになりました。

なかでも、みずほ銀行産業調査部から発表された2050年の産業構造に関する予測は、大胆ながら注目すべき内容です。

本記事では、みずほ銀行が見据えるメタバースの未来について徹底解説。メガバンクの動向やメタバースが普及する未来に興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。

みずほ銀行はメタバース・VRイベントに出展

みずほ銀行は、2022年7月に開催された「バーチャルマーケット2022 Summer」に将来的なメタバースビジネスを見据えて出展しました。同イベントは、株式会社HIKKYが主催する世界最大級のVRイベント。

メタバースの普及により、生活シーンの多くに新たな生活様式が生まれ、物理的制約が取り払われることによる社会や産業の在り方も変化する可能性があります。

今回のイベント出展を皮切りに、メタバースの特性を活かした新しい顧客体験やビジネスモデルの創造を求め、さまざまな取り組みや検討を重ねていくようです。

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イベント出展は「MIZUHO次世代金融推進プロジェクト」の一環

今回の「バーチャルマーケット2022 Summer」への出展は、みずほ銀行独自の取り組みである「MIZUHO次世代金融推進プロジェクト」の一環でした。

同プロジェクトは、社員が自発的にアイデアを出し、グループ内外とのつながりを通じて新たなビジネスの創出や生産性向上などを目指す取り組み。

みずほ銀行では2014年から社内での研修プログラムやワークショップを積極的に開催し、社内の変革を加速するきっかけになっているようです。プログラムなどへの参加者は延べ1,200名を超え、今回のイベント出展も社員からの声が端緒となっています。

ブースに出展した内容とこれからの展望

「バーチャルマーケット2022 Summer」に出展したブースは、建物の1階が銀行店舗をイメージした交流スペース、2階からはボルダリングが体験できるタワーという構成。

タワーの頂上まで登るには、途中で出題される金融クイズに正解しなければならないというもので、頂上に登るとメタバース空間「パラリアル大阪」の眺望を望める仕組みでした。

金融クイズとボルダリングを組み合わせたアトラクションの提供のほかに、みずほ銀行社員による座談会イベントを実施したようです。

また、建物1階の交流スペースは実店舗をイメージしており、資産形成や住宅ローン、相続などに関する個人向けのコンサルティングサービスなどが実施可能か検証した模様です。

実店舗で提供しているサービスがメタバース空間でも提供可能か、法人顧客向けの交流会といった新しい試みについても検証するため、今後の動向にも注目しておきましょう。

2022年11月にはみずほ銀行主催でメタバース展示会を開催

みずほ銀行は2022年11月、「M’s Salon メタバース展示会」を開催しました。

そもそもM’s Salonとは、みずほフィナンシャルグループのネットワークや金融サービス提供力などを活用し、イノベーション企業にノウハウやビジネス拡大のチャンスなどを提供する会員サービス。

M’s Salonのイベントをオンライン開催しているなか、オフラインに比べてイベントの臨場感や没入感に課題を感じたため、双方向のコミュニケーションを実現すべく、メタバースでの開催に至りました

「M’s Salon メタバース展示会」はみずほ銀行が主催するメタバースイベントで、DX(デジタルトランスフォーメーション)やSX(サステナビリティトランスフォーメーション)分野の企業がブースを出展しています。

なお、同展示会は、株式会社ジクウが提供するメタバースイベントプラットフォーム「ZIKU」が採用されています。

スタートアップ20社がメタバース上にブースを出展

「M’s Salon メタバース展示会」には、DXやSX分野のサービスや商品を提供しているスタートアップ20社がブースを出展。展示会には中堅・大企業の新規事業担当者などが合計約300名訪れ、盛況に終わりました。

出展企業からは、「オフラインよりも気楽に参加できてよかった」「ブースに訪問された方のログが残るのでアプローチもしやすい」といった声も。

双方向のコミュニケーションを実現できた以外にも、今後につながる出会いの機会を提供できたようです。

一般的なオンラインイベントでは、登壇者と来場者で個別具体的な話ができる機会を提供することが難しかったところ、メタバース開催により自由度が増し、体験価値も向上しました。

メタバースイベントの開催自体がまだ少なく、操作に慣れていない面があるものの、今後のイベント開催における選択肢としてメタバースが選ばれる機会も増えると予想されます。

みずほグループを含む10社でオープンメタバースの構築に向けた合意を締結

みずほフィナンシャルグループは2023年2月、株式会社ジェーシービーなど合計10社と、デジタルツイン社会を目指すためのオープンメタバース構築に向けた基本合意書を締結しました。

本合意は、JP GAMES株式会社の代表で、デジタル庁Web3.0アドバイザーを務める田畑端氏が提唱する「ゲームの力で日本をアップデートする」というコンセプトに基づくもの。

オープンメタバース基盤の名称(仮)は「リュウグウコク」で、後述する「ジャパン・メタバース経済圏」の創出が大きな狙いです。

本合意を締結した10社と、各社の役割などは下表のとおりです。

企業役割
株式会社ジェーシービーMMP/ID認証領域での機能・ノウハウの提供、加盟店のデジタルツイン構築
株式会社みずほフィナンシャルグループMMP/決済領域での機能・ノウハウの提供、メタバースコインの提供、地域DX協業
株式会社三井住友フィナンシャルグループゲーミフィケーション推進、PWK開発支援、クリエイターエコノミー構築
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループMMP機能構築支援(認証/決済/データ等)、Web3型メタバース金融機能提供、海外展開支援
株式会社りそなホールディングス未来のライフスタイル、および次世代のID認証・決済領域における共同研究
損害保険ジャパン株式会社メタバースを含むWeb3時代に向けたリスク分析および保険開発
凸版印刷株式会社メタバースプラットフォーム「MiraVerse®」・アバター生成管理基盤「AVATECT®」相互運用、文化コンテンツ取扱いノウハウ・表現技術の提供
富士通株式会社デジタルデータ権利管理などWeb3関連技術の提供
三菱商事株式会社メタバース基盤の海外展開、経済圏を広げるグローバルパートナー
TBT Lab株式会社ゲーミフィケーションの機能・ノウハウの提供、PWKおよびMMPの提供

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合意書締結の背景や目的はプラットフォーム同士の連携や相互運用のため

合意書締結の背景には、「ジャパン・メタバース経済圏」と呼ばれる、異なるメタバースサービス間・プラットフォーム間の相互運用によって形成されるエコシステムの実現があります。

企業や自治体などによる、メタバース等の仮想領域を活用したDX需要が高まる一方で、異なるプラットフォーム間を自由に往来できないことが問題視されています。

そこで「リュウグウコク(仮)」というメタバース基盤を企業が連携して構築し、安心・安全に利用できるオープンな基盤の実現を目指すというものです。

新たな基盤を構築することで、社会インフラとして国内企業の情報発信やマーケティング、働き方改革といった企業DXを実現可能にする狙いがあります。さらに、消費者のEX(エクスペリエンス・トランスフォーメーション)の実現も視野に、国内を代表する金融機関や大手企業が合意書を締結しました。

DXとEXを推進する3つのソリューション

合意書締結によって公表されたDX及びEXを推進するためのソリューションには、大きく分けて以下の3つがあります。

  1. AUTO LEARNING AVATER(ALA)
  2. PEGASUS WORLD KIT(PWK)
  3. MULTI MAGIC PASSPORT(MMP)

AUTO LEARNING AVATER(ALA)

ALAは、リュウグウコク(仮)におけるデジタルツインを実現するための技術です。

リュウグウコク(仮)では、アバターの行動をAIが自動学習し、ヘルスケアや趣味といったパーソナリティ・パーソナライズされた情報提供・収集を行います。

ユーザーは自身の行動を自動学習したアバターを通じて、有益な情報を取得できるように。ほかにも、各メタバース空間でパーソナル情報を用いた体験ができるようになるというものです。

PEGASUS WORLD KIT(PWK)

PWKは、JP GAMESが開発したメタバース構築フレームワークの略称です。PWKの開発にはゲームエンジンの「Unreal Engine」が用いられ、ゲーム機能やコミュニケーション機能だけでなく、ショッピングや決済機能などを選択して組み込めます。

リュウグウコク(仮)を開発する上で基盤となるプラットフォームで、越境IDシステムと越境通貨を利用することで、異なるメタバース空間の行き来を可能にしています。

拡張性の高いフレームワークで、ゲームイベントを作成できる「RPGエディター」や、写真からメタバースを簡単に作れる「RIV Technology」といった機能も。

PWKは事業者同士が異なるサービスを組み合わせて自由にプラットフォームを構築できるため、ジャパン・メタバース経済圏を実現する重要なソリューションといえるでしょう。

MULTI MAGIC PASSPORT(MMP)

MMPは、ユーザーがリュウグウコク(仮)を自由に行き来するための決済機能付き身分証明証です。MMPにはID認証や決済手段だけでなく、NFTやアバターが装着する各種アイテム類などが登録できます。

現状のメタバースにおいて、AからBという異なるプラットフォームにアイテム類は持ち運べません。そのため、特定のメタバースプラットフォームでしかアイテムを利用できないという側面がありました。

MMPが実装されれば、ユーザーが仮想世界で過ごす際に必要なあらゆる情報の登録・持ち運びが可能になるのです。

これらの情報は現実世界と仮想世界における本人確認などにも役立ち、現実世界の利便性向上にも活用されることが期待されます。

みずほ銀行が考える2050年のメタバースの世界観【3つの特徴】

みずほ銀行産業調査部が2022年に発表した「みずほ産業調査 2050年の日本産業を考える〜ありたき姿の実現に向けた構造転換と産業融合〜」には、メタバースに限らず、さまざまな産業の構造変化を予測し、まとめています。

同報告書にまとめられたメタバースに関する産業構造の変化で、特筆すべき内容は以下の3点です。

  1. メタバースを使っていない人がマイノリティになる
  2. スマートグラスなどの誕生でスマホとPCの普及率は0%になる
  3. メタバースに対応した自動車の実現

メタバースを使っていない人がマイノリティになる

2050年には、「メタバースが一般生活に広く浸透し、使っていない人がマイノリティになる」と予測されています。

そもそも報告書におけるメタバースの定義は、「誰もが現実世界と同等(もしくはそれ以上)のコミュニケーションや経済活動を行うことができるオンライン上のバーチャル空間」です。

2023年3月時点における約27年後の世界に関する予測ですが、2050年にはZ世代(1990年代半ば以降に生まれた世代)が経済の中心。いわゆるデジタルネイティブ世代で、技術的なトレンドの変化に対して柔軟に対応できるという特徴があります。

経済の中心を担う世代が移行することで、メタバースへの順応・普及が広まるのではないかというのが、本予測の背景です。

報告書では衣服の購入を例に、以下の変化が起こると紹介しています。

  • リアルの服をリアルで購入するのはかなり限定的になる
  • ECサイトがメタバースに吸収され、ECでの購入機会は消滅する
  • リアルの服をメタバース内で購入するのが一般的になる
  • メタバースで着るための服をメタバースで購入するようになる

人口動態の変化による未来予測なら、メタバースの普及に現実味が湧く方もいるのではないでしょうか。

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スマートグラスなどの誕生でスマホとPCの普及率は0%になる

ほかにも、「メタバース関連端末の普及率推移予測」という項目では、スマホとPCの普及率は0%になると予測されています。

ガラケーからスマホに置き換わったように、スマートグラスやスマートコンタクトなどの上位互換端末の登場により、スマホやPCは利用されなくなるというものです。

2025年にはAppleからARグラスの発売が予定され、2040年頃にはスマートコンタクトが登場するとの予測も。

中長期的に利用端末は多様化し、より便利で没入感のある、小型で煩わしさもない端末が登場すると、スマホを使わなくなる世界が訪れるかもしれません。

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メタバースに対応した自動車の実現

最後に紹介したいのが、メタバースに対応した自動車が実現するというもの。

報告書では2040年頃を予定していますが、自動車の内部にディスプレイを張り巡らせ、埋め込み型のスピーカーやセンサーを介して車内がメタバース空間になるという未来です。

ユーザーは特段の端末を装着せず、車内空間で没入型の体験を味わえるようになるというもの。自動運転が実現した未来における車内での過ごし方のひとつに、メタバースで遊ぶという選択肢があるかもしれません。

空間づくりという意味では、自宅の部屋をメタバース空間にすることもできます。自動車よりも普及の始まりは遅いと見立てられている一方で、移動の必要性が低減することで,

2050年には自動車(7.5%)よりも高い普及率(10%)が実現すると予想されています。

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みずほ銀行のメタバースビジネスの今後に期待

VRイベントへの出展や展示会の主催など、メタバースを活用した取り組みを2022年夏から開始しているみずほ銀行。なかでも2023年2月に合意書を締結したジャパン・メタバース経済圏への取り組みは、国内のメタバースビジネスを発展させるきっかけになりそうです。

既存のメタバースプラットフォームを横断できるエコシステムが構築されると、アイテム類が持ち運べないなどのボトルネックは解消されます。リュウグウコク(仮)の今後の動向や開発状況に注目しておきましょう。

また、2050年の未来予測は一見すると突拍子もない内容に見えますが、今までの技術革新を振り返ると、本記事で紹介した未来が訪れても不思議ではありません。

どのような未来が訪れても柔軟に対応し、最新の技術を使いこなす姿勢が引き続き重要と言えます。みずほ銀行に限らず、各業界のメタバースビジネスの今後に期待しましょう。

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