メタバース事業への参入は、各メーカーによるデバイス開発やビックテック企業の事業展開が注目されがちです。しかし、各メーカーに限らず、通信事業を展開する各企業も、メタバース事業に参入して新規事業を展開しています。

本記事では、通信事業会社の中でもキャリアのシェアNo1を誇るNTTドコモのメタバース関連サービスを徹底解説。次世代通信規格である5Gに向けた同社の戦略や、通信事業他社との比較を交えながら、ドコモのメタバース活用事例を分かりやすく紹介します。

通信事業との相性も良さそうなメタバース関連事業に関して、ドコモがどのように事業展開していくのかを理解することで、自社事業の参考になるのではないでしょうか。

本記事を通じて、ドコモのメタバース関連サービスを理解し、メタバース活用の参考にしましょう。

NTTドコモの会社概要

商号(会社名)株式会社NTTドコモNTT DOCOMO, INC.
創業1968年(昭和43年)7月
設立1991年8月
代表取締役井伊 基之(いい もとゆき)
事業内容通信事業、スマートライフ事業、その他の事業
従業員数8,847名(グループ:46,506名)(2022年3月末時点)
売上高約4兆7,000億円(2021年)

NTTドコモは1968年7月に日本電信電話公社としてサービスを開始し、1991年8月にエヌ・ティ・ティ・移動通信企画(株)として設立されました。

設立から30年が経過し、約4兆7,000億円もの売上高を誇る大企業にまで成長。NTTドコモのおもな事業内容は、下記のとおりです。

通信事業携帯電話サービス(5Gサービス、LTEサービス、FOMAサービス)、光ブロードバンドサービス、各サービスの端末機器販売など
スマートライフ事業動画配信・音楽配信、金融・決済サービス、ショッピングサービス、生活関連サービスなど
その他の事業補償サービス、法人IoT、システム開発・販売・保守受託など

NTTドコモは携帯電話サービスを軸に、動画配信やショッピング等のエンターテイメント系のコンテンツを拡充させるなどの事業展開をしています。

また、対個人向けサービスに限らず、法人向けのIoTサービスの提供にも力を入れています。

NTTドコモが実用化したメタバース関連のサービス

NTTドコモは、すでに下記のメタバース関連サービスを実用化しています。

  • 音楽コンテンツが豊富な「XR World」
  • AR技術を使った「XR City」
  • 14もの視点でライブを楽しめる「Matrix Stream」
  • BtoB向けサービス「NTT XR Space APP」

同社は、NTTグループにおけるXR分野の取組強化に向けて、「NTT XR(Extendes Reality)」という新ブランドを立ち上げました。いずれのメタバース関連サービスもNTT XR主導で開発等を進め、ノウハウの蓄積などに努めています。

NTTドコモは各サービスにおいて、リアルとバーチャルをシームレスにつなぎ、リアルの限界を超えて共感し合える世界の構築を目指しているのです。

音楽コンテンツが豊富な「XR World」

NTTドコモのマルチデバイス型メタバース「XR World」は、2022年3月31日から提供が開始されました。一部のコンテンツを除いて無料で利用できます。

同サービスの特徴は下記のとおりです。

  • 専用の機器がなくてもスマホ・タブレット・パソコンから参加可能
  • 人気アーティストのライブ映像や専用ワールドを続々公開
  • オープンメタバース構想に基づくメタバースステーションとの相互連携を進行中

音楽などのエンタメコンテンツや、スポーツ、教育、観光といった幅広いジャンルのコンテンツを楽しめるXR Worldの特徴を見ていきましょう。

webブラウザから誰でも参加可能

XR Worldが持つ特徴の1つ目が、「webブラウザから誰でも参加可能」な点です。専用のアプリをダウンロードする必要がないため、お手持ちのスマホやタブレット、パソコンのwebブラウザから、簡単にアクセスできます。

国内で人気のメタバースプラットフォーム「cluster」の場合は、専用アプリのダウンロードが必要です。VRヘッドセットなしでメタバース空間を楽しめるものの、アプリのダウンロードや各種初期設定をしなければなりません。

その点、XR Worldは利用ハードルが一段と低く設計されており、大きなメリットといえるでしょう。

webブラウザからでもアクセスを可能にできた背景には、HIKKY社との業務提携により、VRコンテンツ開発エンジン「Vket Cloud(ブイケットクラウド)」の利用があります。

人気アーティストのライブや専用ワールドも

XR Worldが持つ特徴の2つ目が、「人気アーティストのライブや専用ワールド」を随時開発している点です。NTTドコモは、複数のパートナーと協業し、音楽ジャンルのコンテンツ提供を軸にXR Worldの充実を図っています。

  • 「リスアニ!LIVE 2022」に出演した藍井エイル氏など全18組のライブ映像
  • 森口博子氏の専用ワールド
  • タワーレコードのレーベルに所属するアーティストの楽曲を楽しめるワールド
  • 三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE 今市隆二氏の専用ワールド

上記ワールド等はすでにオープンしており、今後もさらなるコンテンツの拡充を予定しています。

メタバース・ステーションとの連携も進行中

XR Worldが持つ特徴の3つ目が、「メタバース・ステーションとの連携も進行中」である点です。

記事執筆時点において、各社が独自に提供するメタバースをつなぐ「オープンメタバース構想」が進んでいます。XR Worldも同構想に賛同する形で、メタバース・ステーション「Virtual Akiba World」との相互連携を進める旨の発表が2022年3月にありました。

Virtual Akiba Worldは、山手線31番目の駅として登場した、世界初の「メタバース・ステーション」です。同サービスは、リアルの秋葉原駅や駅周辺エリアを再現しながら、バーチャル空間ならではのコンテンツを提供しています。

XR Worldは、Virtual Akiba Worldとの連携を通じ、今後の利用者数の増加、メタバース事業の普及、ひいてはXRを中心とした多種多様な産業への貢献を目指しています。

AR技術を使ったアプリ「XR City」

XR City」は、デジタルと現実世界が融合した新しい世界を体験できる新感覚街遊びアプリです。同アプリはNTT XRが提供する、AR(Augmented Reality:拡張現実)技術を用いており、2022年7月から商用化されて本格展開が始まりました。

XR Cityは専用アプリをダウンロードしてスマホをかざすと、その場所にあったARコンテンツが表示されるサービスです。

AR技術を用いてSNS映えするコンテンツが撮影できるフィルターや、リアル脱出ゲームで人気の「SCRAP社」とコラボレーションした謎解きコンテンツなどを体験できます。

XR Cityは、平面認識やマーカー認識といった、特定の場所に依存しないAR技術にも対応しており、屋内・屋外を問わずさまざまな場所でARコンテンツの提供を可能にしています。

14もの視点でライブを楽しめる「Matrix Stream」

Matrix Stream」は、バーチャルアイドルなどの音楽アイドルによるVRライブなどに使われる次世代型VRプラットフォームです。同サービスは専用機器を使った鑑賞だけに限らず、スマホやパソコンからも視聴できます。

Matrix Streamでは、14種類のカメラワーク・アングルで撮影された映像の中から、アングルを自由に切り替えながら、自分の見たいカメラワークで音楽ライブを楽しめます。

同サービスは、2020年3月21日に開催されたVRライブを機に、提供が始まりました。

  • リアルタイムVRストリーミング
  • ファンコミュニケーション
  • MECビジュアライゼーション

上記等の機能を盛り込み、アジアをはじめ、全世界のバーチャルアーティストとファンをつなげるサービスを展開する予定です。

BtoB向けサービス「NTT XR Space APP」

NTT XR Space APP」は、仮想空間でのイベント開催やショールーム展開を支援するBtoB向けのサービスです。

同サービスを利用することで、仮想の3D空間を活用した商材展示会などを開催できます。そのため、いつ、どこからでも、リアルに近い体験を通じた商品のアピールが可能です。

3D空間のデザインは、イベントごとにカスタマイズ可能。また、作成された各イベントへの参加は、スマホやパソコンから参加できるだけでなく、VRヘッドセットでの参加もできます。

3D空間のイベントスペース作成がおもな利用用途になっていますが、今後、バーチャルオフィスなどの幅広い用途で活用されることが期待できるでしょう。

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ドコモショップもメタバースへ移行する予定

アプリ開発などによりメタバース事業を展開しているドコモですが、リアル店舗の「ドコモショップ」を、2025年度までに約700店減らす見通しを立てています。

実店舗の統廃合を進めつつ、メタバースの普及を見据えたオンライン接客へのシフトチェンジを進めているようです。メタバースが世間に普及した未来を想像すると、自社の新規事業をメタバース上で始める可能性も視野に入ります。

メタバースはビジネスチャンスの宝庫?活用事例やメリット・デメリットを紹介では、メタバースでビジネスを始めることのメリット・デメリットを詳しくまとめています。メタバース事業の立ち上げを検討している方は、併せてご覧ください。

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ドコモ以外のキャリアも?他社のメタバース事業を比較

記事執筆時点において、ドコモに限らず、通信事業の大手キャリア各社がメタバース事業を積極的に展開している状況です。

  • KDDI
  • ソフトバンク
  • 楽天モバイル

上記各携帯会社において、既存の各種メタバース関連プラットフォームへ多額の投資を行ったり、既存事業と掛け合わせた独自コンテンツの提供をしたりしています。

通信事業各社がメタバース事業に見出す勝ち筋を把握し、自社ビジネスの参考にしましょう。

KDDI

KDDIは、ARとVRを含めたXR領域に関して、2016年頃から投資をしており、計10件以上の投資実績があります。メタバースプラットフォーム「cluster」に対しては、2018年、2020年の2度出資。KDDI事業創造本部副本部長の中馬和彦氏は、cluster社の社外取締役に就いています。

KDDIがメタバースへ取り組む大きなきっかけとなったのが、渋谷区公認のメタバース空間「バーチャル渋谷」の開発です。

KDDIは下記企業などとともに、業界団体「バーチャルシティコンソーシアム」を発足しました。

  • 東急
  • みずほリサーチ&テクノロジーズ
  • 渋谷未来デザイン

同団体での活動を通じ、メタバース事業のスムーズな事業展開に貢献しています。

KDDIのメタバース事業についてさらに詳しく知りたい方はKDDIメタバースを完全解説!バーチャル渋谷やアニメコラボの目的は?をご覧ください。

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ソフトバンク

ソフトバンクグループのVision Fond 2は2021年11月、韓国発のファッションメタバースプラットフォームである「Zepeto(ゼペット)」に170億円規模の出資をしました。

Zepetoは韓国の大手テック企業「Naver Corporation」の子会社で、Zepetoは世界で2.5億人以上のユーザーが利用しています。

Zepetoはアバター着せ替えアプリとして流行しており、オンラインでおしゃれを楽しむ若者に人気な点が特徴的です。とくにZ世代の女性ユーザーから支持されており、テック系のトレンドとは一見して離れたユーザー層を獲得しているのは大きな強みとなるでしょう。

そのほかにも、福岡ソフトバンクホークスの本拠地であるPayPayドームをバーチャル空間で再現した「バーチャルPayPayドーム」を提供しています。

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楽天モバイル

楽天モバイルは、ヴィッセル神戸と連携した5Gによる新しいスタジアム観戦体験の実証実験や、アパレルのバーチャル店舗展開などに向けた取り組みを行っています。

2022年7月に行われた実証実験では、ヴィッセル神戸の本拠地において、スタジアム内の5Gを活用したメタバースでの買い物体験を提供し、その有効性を検討しました。

そのほかにも、スタイリストがメタバース上のショップにアクセスして遠隔接客を行い、コーディネートのアドバイスをするなどの実証実験も実施しています。

東北楽天ゴールデンイーグルスや楽天ヴィッセル神戸といったスポーツチームを運営し、ECサイトに強みのある楽天。同社にとって、バーチャルとリアルを融合させた新たな感動体験の提供は、大きなビジネスチャンスといえます。

記事執筆時点で実用段階の事例があるわけではないため、具体的なサービスの提供に期待しましょう。

NTTドコモがメタバース事業に参入した2つの理由

NTTドコモがメタバース事業に参入した理由は、大きく以下の2点が挙げられます。

  • 5Gとの親和性が高い
  • HIKKY社と業務提携している

ドコモに限らず、通信事業各社もメタバース事業に積極的に参入しており、各キャリアにおけるメタバース事業の覇権争いは熾烈さを増しています。

スマートフォンが普及した現代において、その次の時代に向けて、キャリアシェアNo.1を誇るNTTドコモが描くメタバース時代の未来を、参入した理由から覗いてみましょう。

5Gとの親和性が高い

NTTドコモがメタバース事業に参入した理由の1つ目が、「5Gとの親和性が高い」からです。

メタバース空間では、アバターなどを用いて、双方向でリアルタイム性のあるコミュニケーションをとります。快適でストレスのないメタバース空間を維持するには、安定した大容量通信が必要不可欠です。

このように、VRやAR、MRなどのXR領域に関するコンテンツは、従来の2Dデータに比べてデータ量が多く、通信速度・容量のさらなる改善が求められます。

データの送受信にまつわる懸念・問題点を解消するには、次世代高速通信規格の5Gを活用した、長期的なサービス設計が重要です。

通信事業社として、5Gを普及させる使命感・必要性が高い上、今後の成長が期待されるメタバース事業との親和性の高さから、ドコモは急ピッチでXR領域の開発を進めています。

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HIKKY社と業務提携している

NTTドコモがメタバース事業に参入した理由の2つ目が、「HIKKY社と業務提携している」からです。

ドコモは2021年10月に、VRイベント「バーチャルマーケット」の主催などメタバースにおけるサービス基盤やノウハウを多く蓄積する「HIKKY(ヒッキー)社」と業務提携しました。そして同月、HIKKY社に対して65億円を出資したと発表しています。

ドコモが目指しているのは、XRが生活インフラとしてさまざまなシーンでシームレスに利用される世界の実現です。

本提携により、両者が培ってきた企業ブランドやサービス基盤、ノウハウ等を相互に有効活用することで、互いのサービスの普及や顧客増加が見込まれるでしょう。

ドコモのメタバース事業は今後さらに拡大予定!

NTTドコモは、XR分野の取組強化に向けた新ブランド「NTT XR」を立ち上げ、マルチデバイス型メタバース「XR World」や、AR・VR技術を使ったアプリ開発を進めています。

5G時代を見据え、業務提携したHIKKY社からメタバース分野のノウハウ提供を受けつつ、最大の強みである携帯キャリアに紐づくメタバース事業を次々と展開するNTTドコモ。

ドコモのメタバース事業は今後さらに拡大する予定です。同社の手がけるメタバース戦略を引き続きウォッチし、自社のメタバース事業立ち上げの参考にしましょう。

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