大規模言語モデル(LLM)を活用したアプリケーションの開発が進む中、検索拡張生成(RAG)のパフォーマンスを最大限に引き出すことが、より関連性の高いテキスト応答と効率的なデータ処理の鍵となっています。この記事では、RAGの基本から応用に至るまでの技術を、実際の製品開発での経験とともに紹介し、あなたのLLMアプリケーションを次のレベルへと導くための洞察を提供します。

RAGとは何か?:LLMアプリにおける基本概念

大規模言語モデル(LLM)の進化に伴い、ビジネスアプリケーションにおけるその活用が注目されています。特に、検索拡張生成(RAG)は、LLMの能力を最大限に引き出す重要な技術です。RAGは、LLMがトレーニングデータに含まれない外部データをテキスト生成プロセスに統合することを可能にします。これにより、生成されるテキストの関連性が高まり、誤った情報(ハルシネーション)の問題が軽減されます。

RAGの基本的なアイデアはシンプルです。最も関連性の高いテキストチャンクを見つけ出し、それをLLMへのプロンプトに組み込むことで、LLMが参照テキストを利用して応答を生成できるようにするのです。しかし、実際には、高品質なRAGパイプラインを構築することは容易ではありません。特に、製品レベルでの実装には、多くの課題が伴います。

このセクションでは、RAGとその基本的な概念について理解を深め、LLMアプリケーションにおけるその重要性を探ります。RAGがどのように機能し、LLMの応答品質を向上させるかを知ることで、より効果的なアプリケーション開発への道が開かれます。

基本的なRAGプロセス:インデックス作成、検索、生成

RAGプロセスは、インデックス作成、検索、生成の3つのステップから成り立っています。このプロセスを理解することは、LLMアプリケーションの開発において非常に重要です。まず、インデックス作成では、LLMが知っておくべきデータを収集し、それを小さなテキストチャンクに分割します。これらのチャンクは、後の検索プロセスで容易に利用できるように、ベクトル表現に変換されます。

次に、検索プロセスでは、ユーザーがLLMにクエリを送信した際に、そのクエリを直接LLMに送るのではなく、インデックスから追加情報を付加します。ユーザーのオリジナルクエリを同じ埋め込みモデルでエンコードし、データベース内の最も類似したテキストチャンクを検索します。

最後に、生成プロセスでは、検索されたテキストチャンクをユーザーのオリジナルクエリを含むプロンプトに組み込み、LLMが提供された情報をもとに回答を生成します。この基本的なプロンプトにより、LLMは与えられた情報のみに基づいて質問に回答します。

この基本的なRAGプロセスを理解することで、LLMアプリケーションの開発者は、より関連性の高い応答を生成し、ユーザー体験を向上させることができます。また、このプロセスは、多くのライブラリで組み合わされており、カスタムGPTやアシスタント機能にも統合されています。

検索前の技術:インデックスデータの質を高める

RAGプロセスの成功は、インデックス作成段階でのデータの質に大きく依存します。この段階での「ゴミ入ればゴミ出し」の原則は、RAGにおいても同様に適用されます。インデックスデータの質を高めるためには、特定のタスクに関連しないテキストやドキュメントを取り除くことが重要です。また、エンドユーザーが使用するであろう形式にインデックスデータを再フォーマットし、効率的かつターゲットを絞った検索のためにドキュメントにメタデータを追加することも有効です。

例えば、数学の問題を検索する際、異なる概念の問題でも意味的に類似している場合があります。このような場合、概念やレベルに関するメタデータを付加し、正しい概念を検索する前にチェックすることが有効です。また、文章を分割する際に情報が失われることがあります。例えば、記事の初めの文でエンティティを名前で紹介し、後の文では代名詞のみで参照する場合、実際のエンティティ名を含まない分割チャンクは意味を失い、ベクトル検索で見つけられなくなる可能性があります。このような場合、代名詞を実際の名前に置き換えることで、分割チャンクの意味的重要性を向上させることができます。

検索中の技術:効果的な検索方法と埋め込みモデルの選択

検索プロセスでは、クエリを準備した後、さらに検索結果を改善するための技術があります。多くの人がベクトル類似性検索に固執する傾向がありますが、代替検索方法を検討することも重要です。ベクトル類似性検索はほとんどの場合において関連するドキュメントを見つけることができますが、一部のケースやデータ構造では、全文検索、構造化クエリ、グラフベースの検索、またはハイブリッド検索方法を使用する方が適切な場合があります。

例えば、テキストデータに非常に意味的に類似したチャンクが多く含まれている場合や、非特定の一般的なテキストが多い場合、正確なキーワードマッチングで検索する方が有効です。また、異なる埋め込みモデルをテストし、使用することも重要です。多くのフレームワークやベクトルデータベースにはデフォルトの埋め込みオプションがありますが、異なる埋め込みモデルは異なる意味情報を捉え、異なるタスクに適している可能性があります。特定の指示に基づいてデータを埋め込むことを可能にするInstructor Embeddingなどのモデルが有用です。また、MTEBリーダーボードなどのテキスト埋め込みモデルのベンチマークを参照することも有効ですが、リーダーボードでの高ランクが特定のタスクに最適であるとは限らないため、モデルをテストすることが重要です。

検索後の技術:取得したチャンクの再評価と情報圧縮

データベースから関連するテキストチャンクを取得した後、生成品質を向上させるためには、さらなる技術が必要です。特に、特定のチャンクに関連するタスクの場合、再ランキングやスコアリングといった技術が一般的に使用されます。ベクトル類似性検索で高いスコアを得たとしても、それが常に最も関連性の高いものであるとは限りません。第二ラウンドの再ランキングやスコアリングを行い、実際に回答の生成に役立つテキストチャンクを選び出すことが重要です。再ランキングやスコアリングには、LLMを使用してドキュメントの関連性をランク付けする方法や、キーワード頻度やメタデータマッチングなどの他の方法を使用することができます。

一方、複数のチャンクに関連するタスクの場合、例えば要約や比較など、情報圧縮という後処理を行うことが効果的です。まず、各チャンクから要点を要約、言い換え、抽出し、その集約された、凝縮された情報をLLMに渡して最終的な回答を生成します。この情報圧縮により、ノイズやコンテキストの長さを減らし、より精度の高い応答を得ることができます。

品質とレイテンシーのバランス:効率的なRAGパイプラインの構築

RAGプロセスにおいて、生成品質とレイテンシーのバランスを取ることは、特に実用的なアプリケーションにおいて重要です。ユーザーは、多段階のRAGプロセスが完了するのを待つ時間がない場合が多いため、レイテンシーの改善が求められます。この問題に対処するための一つの方法は、一部のステップでより小さく、高速なモデルを使用することです。すべてのステップで最も強力な(そしてしばしば最も遅い)モデルを使用する必要はありません。たとえば、簡単なクエリの書き換え、仮説文書の生成、テキストチャンクの要約などには、より高速なモデル(例えば7Bや13Bのローカルモデル)を使用することができます。

また、中間ステップを並列で実行することも、レイテンシーを改善する有効な手段です。すべてのステップを順番に実行する必要はなく、ハイブリッド検索や複数のチャンクの要約など、いくつかの中間ステップを並列で実行することが可能です。これを実現するには、RAGフレームワークを大幅に修正するか、独自のRAGパイプラインを作成する必要がありますが、最終的な出力までの時間を大幅に短縮することができます。

まとめ

本記事では、大規模言語モデル(LLM)アプリケーションにおける検索拡張生成(RAG)のパフォーマンスを向上させるための重要な技術と戦略について詳しく探求しました。RAGの基本概念から始まり、基本的なプロセス(インデックス作成、検索、生成)を理解し、その後、検索前、検索中、検索後の各段階での技術的な改善方法を深く掘り下げました。

まず、インデックスデータの質を高めることの重要性を強調し、次に効果的な検索方法と埋め込みモデルの選択について説明しました。さらに、取得したチャンクの再評価と情報圧縮の技術を紹介し、最後に、品質とレイテンシーのバランスを取るための戦略について考察しました。

これらの洞察は、LLMアプリケーション開発者がより関連性の高い応答を生成し、ユーザー体験を向上させるための実践的なガイドとなるでしょう。RAGプロセスの各段階での改善は、アプリケーションの全体的なパフォーマンスを高め、最終的にはより効率的で効果的な製品を生み出すことに貢献します。

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