新規事業を立ち上げた場合、先行きの見えない中で成果を上げなければなりません。このときに指針となる評価基準を設けていないと、暗中模索しながら新規事業にコストを費やさなければならず、事業の成功率がぐっと低くなってしまいます。

事前に新規事業の評価方法を理解しておけば、素早くPDCAを回しつつ新規事業をより良いものに改善していけるはず。本記事では、新規事業の成功に欠かせない「新規事業評価」について、概要から分かりやすく解説します。

新規事業の評価とは?

新規事業の評価とはどのようなものなのか、以下の3点からご紹介します。

  • 上手くいくか分からないからこそ「評価」が重要
  • 専用の指標を用いた評価でPDCAを回す
  • 早急なPMFのためには事業の評価が大切

それぞれ詳しく見ていきましょう。

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上手くいくか分からないからこそ「評価」が重要

新規事業の立ち上げにおいて最も気になる点は「この事業が上手くいくのか」という懸念や不安です。新規事業に携わるステークホルダーの全員が気にかけるポイントですが、そもそも何をもって上手くいった、成功した、と捉えるのかが大切。

新規事業を通して自社が得たい結果は何なのかが明確になっていないと、「どのメリットを重視すればよいのか」が分からなくなってしまうでしょう。新規事業で利益を上げれば成功なのか、既存事業とのシナジー効果が生まれれば成功なのか、というように自社にとって最も重要なメリットを定義しておくことが大切です。

このように新規事業における成功の定義は難しく、事前に新規事業計画書で描いた予想どおりに進めば成功、というわけではありません。

また、事業を推進する中で、大幅にサービスを変更したり、業務フローが変わったりすることも少なくないため、これらの変化を場当たり的に起こしていては、その変化が「改善」なのか「改悪」なのかも分かりにくくなるでしょう。

適切な改善を積み重ね、新規事業によって本当に得るべき成果を手に入れるために、新規事業の評価は非常に重要です。後述する新規事業の評価方法を用いて、自身で新規事業の評価を下せるようになっておくと良いでしょう。

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専用の指標を用いた評価でPDCAを回す

新規事業を立ち上げる際、多くの担当者はステークホルダーとの折衝や新規事業に関する未消化のタスクに追われることになります。多くの業務を同時進行で進めなければならない上、新規事業が持つ投資的な特性も手伝って、日々の業務による成果や事業の改善点が見えにくくなっていくでしょう。

しかし、新規事業そのものの成果を定期的に測定できないままでは、その事業で資金を回収するまでの期間が長引いたり、かけたコストに対する適切な成長が得られなかったりといったデメリットにつながる恐れも。

新規事業をスタートした後の忙しいタイミングで新規事業の評価制度を用意するのは至難の業です。なるべく事業を始める前に評価制度を敷いておき、忙しいなかでも定期的に事業をチェックできるような体制を整えておきましょう。

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早急なPMFのためには事業の評価が大切

新規事業が市場に参入し、顧客に受け入れられている状態のことをPMF(プロダクト・マーケット・フィット)と呼びますが、新規事業の立ち上げからしばらくの間はこのPMFを目指して尽力することになります。

先述したように、新規事業の評価を適切なタイミングで行わなければ、PMFが難しくなったり、PMFまでの期間が長引いたりする恐れがあるため、あらかじめ評価軸を定めておき、PMFに向けた調整を進めつつ改善に取り組むことが大切です。

PMFを目指すためには、その前段階として設定されるPSF(プロブレム・ソリューション・フィット)に達しているか否か、という点も重要。解決すべき課題は何なのか、その課題に対して最適な解決策を提示できているか、という考え方を指します。

PSFが実現した上で、PMFによって事業として成立した状態を維持・発展させていくことが求められますが、こうしたメタ的な視点で事業を捉え、評価を下して改善させていかなければ、PMFまでの道のりは非常に遠いものとなってしまうでしょう。

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新規事業の評価方法にはどのようなものがある?

ここからは、実際に新規事業の評価を行う際に利用される、2つの評価方法をご紹介します。それぞれに特徴があるため、ここで紹介する内容を参考にしつつ、ぜひ自社の新規事業評価にも活かしてみてください。

BMO法

BMO(Bruce Merrifield & Ohe)法とは、新規事業の草案が生まれた後に、「事業化や市場参入できるのか」を判断するための評価方法で、新規事業の立ち上げ前に実施されます。考案者であるブルース・メリフィールド氏と大江氏の名前からBMO法と名づけられました。

新規事業として打ち出した後に、その事業が成功する確率はどれくらいなのか、という不可視の可能性を定量的に判断できるようにした評価法で、多くの企業や起業家が利用しています。BMO法では以下の要素をもとに、新規事業を評価。

  • 事業の魅力度(60点満点)
  • 事業の自社への適合度(60点満点)

また、魅力度と適合度はさらに以下の要素に細分化されます。

<魅力度の内訳>

  • 売上・利益の可能性(10点満点)
  • 社会的状況(10点満点)
  • 事業が成長する可能性(10点満点)
  • 競合の競争状況(10点満点)
  • リスク分散度(10点満点)
  • 事業を再構築する可能性(10点満点)

<適合度の内訳>

  • 資金力(10点満点)
  • マーケティング力(10点満点)
  • 製造力(10点満点)
  • 技術力(10点満点)
  • 原材料の入手力(10点満点)
  • マネジメント支援(10点満点)

これらの要素ごとに自社や事業を細分化して評価し、新規事業が成功するか否かを予測します。BMO法では、「魅力度が35点~」「魅力度と適合度の合計が80点~」であれば、80%以上の確率で新規事業が成功する、と考えられているのです。

ぜひこちらを参考にしつつ、新規事業の評価を下してみましょう。

IRR法

 IRR(Internal Rate Return)法は、投資額を基準とした新規事業評価方法の一つ。内部収益率と訳され、新規事業に対して投資した額が、将来返ってくる額と比べてどれくらいの価値を持っているか、という観点で新規事業を評価する方法です。

詳しい計算方法は後述しますが、早く利益を獲得できる新規事業ほどIRRの数値は高くなります。新規事業の投資回収速度が早いことを意味し、投資家にとって優良案件であることをアピールしやすくなるでしょう。

また、どちらかと言えば投資家目線で新規事業を評価する方法で、一定の客観性や論理性を備えていると言えます。投資家から見れば、投資した資金を早く回収できるほどお金の価値が高いからです。

お金の価値を投資家目線で理解するためには、「未来のお金の価値を割り引く」という考え方を身につけなければなりません。例えば現在の100万円と1年後の110万円が持つ価値は等しい、と言われても、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。

しかし、お金を運用して増やすことを生業とする投資家にとって、手元にある100万円と1年後の110万円は等しい価値を持ちます。なぜなら、年間10%の収益率がある事業や案件に100万円を投資すれば、手元にある100万円を支払う以外は何もせず、1年後には110万円になって返ってくるためです。

言い換えれば、1年後の110万円と今の100万円の価値は等しく、むしろ重要なのは「1年という期間の中でどれだけのリターンが得られるか」という点や「何年で投資金額を回収し、利益に転換するのか」という点。期待できる利率やお金を増やすための期間のほうなのです。

このような投資家の目線に立ち、自社の新規事業に投資すれば「定めた期間の中でどれだけのリターンが得られるか」「何年で投資金額を回収し、利益に転換するのか」を提示できるのがIRR法と言えます。

また、IRRの計算式は非常に複雑で手作業で計算するのは困難ですが、Excelの関数には「IRR」が存在します。ここではExcelで簡単にIRRを算出する方法をご紹介しましょう。手順は以下のとおりです。

  1. 初期投資額をマイナス数値で記入
  2. 毎年のキャッシュフローを記入
  3. 下部のセルにIRR関数「=IRR()」を記入
  4. 「範囲」に初期投資額のマイナス値~最近のキャッシュフロー値まで選択
  5. 計算して出てきた数値がIRR値

まずは上図のようにデータを入力し、初期投資額をマイナス数値として記入し、それ以外のデータも埋めていきましょう。IRR関数を打ち込めば簡単にIRR値が導けます。比較用に作成したA事業とB事業でIRR値が異なるのは、「毎年の収益額が異なる」ためです。

このIRR値がマイナスになった場合は、その事業は採算が取りにくいことを示しており、反対に数値が高ければ採算がとりやすく、投資家にとって魅力的な事業と言えます。とはいえ、自社が資金を投入して事業を創出する場合も有効な指標となるでしょう。

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新規事業の評価軸となる5つの観点

新規事業の評価方法以外にも、自社で調査し、新規事業の参考にできる観点がいくつか存在します。ここでは以下の5つの観点について紹介しましょう。

  1. ニーズ(市場)の有無や状況
  2. 顧客の心理的ハードル
  3. 事業の実現可能性
  4. 自社のリソースとリターンのバランス
  5. 既存事業とのシナジー効果の有無

ニーズ(市場)の有無や状況

新規事業によっては、市場が小さく新規性の高い分野に参入したり、市場がまだ存在しない分野に取り組んだりすることも少なくありません。こうした場合は特に市場の調査が重要です。

既に市場がある場合は、市場調査に加えて競合調査や自社のポジショニング戦略などを考えなければならず、いずれの場合であっても新規事業が身を置くことになる市場については入念な調査と深い理解が求められます。

市場を俯瞰し、どのポジションであれば優位性を確保できるのか分析したり、市場がない場合はどのような顧客が市場に存在しうるのか仮説を立てたりして、新規事業戦略を立てる用意をしましょう。

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顧客の心理的ハードル

提供するサービスによっては特に重要ですが、新規のサービスに対して顧客が抱く心理的なハードルをどのようにクリアするのか、という点についても考慮しておくとよいでしょう。

新規顧客の獲得に向けた戦略を立てるためにも、まずは顧客がどのような心理的ハードルを抱えているのか分析し、ハードルのクリアに向けた施策をいくつか検討してみることをおすすめします。「イノベーター」や「アーリーアダプター」を上手く取り込めれば、市場における存在感はぐっと高まるでしょう。

事業の実現可能性

新規事業の案を幅出しする時点では考えなくてもよいことですが、実際に煮詰めていく段階では、新規事業の実現可能性にも目を向けなければなりません。その事業がいくら有用で、実現すれば大きなリターンがあるものだとしても、実現できなければ仮説は仮説のままで終わってしまいます。

特に、規模の大きな新規事業をを検討している場合は、いきなり完璧なサービスをローンチするのではなく、必要最小限の機能だけを備えた縮小版のサービスを打ち出して様子を見てみるのが良いでしょう。

こうした縮小版のサービスをMVP(Minimum Viable Product)と呼び、実用最小限の製品と訳されます。投資家や社内の予算も集めやすくなり、実際に市場へ参入することで得られる知見が財産になるでしょう

後述するリソースとリターンのバランスも含め、新規事業の実現可能性も踏まえて検討してみることをおすすめします。

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自社のリソースとリターンのバランス

新規事業を打ち出す際には、自社のリソースとリターンのバランスも加味して検討しなければなりません。リターンが大きいからと言って全てのリソースを注ぎ込んでしまっては博打的な経営になってしまいますし、背負うリスクが大きすぎると、新規事業が失敗したときに倒産へ追い込まれる可能性もあります。

まずは自社のリソースを基準として実現可能な新規事業の規模を決定し、その規模を超える新規事業を打ち出すのであれば、資金調達に向けた戦略を練りましょう。リソースの準備も踏まえ、新規事業の創出に取り組むことが大切です。

既存事業とのシナジー効果の有無

新規事業を創出するメリットの一つに、既存事業とのシナジー効果が生まれることが挙げられます。シナジー効果が生まれれば、新規事業と既存事業の間で経営資源の好循環が生まれ、複利的な効果が得られるでしょう。

例えば既存事業で得たノウハウをもとに新規事業を立ち上げた結果、新規事業で手に入れたノウハウによって既存事業のサービス品質が向上し、顧客満足度が高まる、というような好循環が予想されます。

このような循環が期待できそうか否か、という観点でも新規事業を検討してみると、より自社に適した事業が見つかったり、新規事業を大きな視点で評価できたりするでしょう。

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適切な評価で新規事業を成功へ導く

新規事業の評価は、見えない数値を可視化し、暗闇の中に一筋の光を見出すことと同義。新規事業の成否を握る重要な要素と言えます。

本記事で紹介した新規事業の評価方法を実際に活用したり、事業を評価する観点を参考にしたりして、ぜひ新規事業を成功へと導いてくださいね。

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