日本のメガベンチャー企業を代表するDeNA。ご承知のとおり、誰もが知るプロ野球球団を保有するほどの大企業に成長しました。
そんなDeNAですが、4年間で40を超える新規事業を立ち上げているのをご存じでしょうか。これら新規事業を生み出した秘訣は、DeNA流リーンインキュベーションという仕組みで、社員が新規事業にチャレンジしやすい環境を整えているからです。
また、DeNAは「(新規)事業立案コース」という2年後に大学卒業予定者や中途採用候補者を対象として事業立案の募集も行っており、ユニークな事業提案が集まっています。
加えて、ベンチャー投資部門を持ち、外部のモバイル・インターネット関連のイノベーションを促進できるサービスを提供する企業(スタートアップ)への出資も行っているのです。
そこで、当記事ではDeNAの新規事業の立ち上げ方と理念、事業立案コース、事業撤退のタイミングまでを探ってみました。
DeNAにとって新規事業とは?
そもそもDeNAにとって新規事業とはどのような位置づけなのか?を公式ブログサイトでの社員の方々の感想や新規事業の実績から探ってみました。
DeNAにとって、新規事業とは正に企業としての将来性と捉えているようです。以下の2022年4月〜9月期(2Q累計)のDeNAの業績からも計れます。
<売上>
・売上高:712億円 ・営業利益:70億7600万円(47%減) |
<売上内訳>
・ゲーム事業売上:327億円(16%減) ・ライブストリーミング事業売上:195億円(17%増) ・スポーツ事業売上:158億円(67%増) |
ゲームストリーミング事業は、社内で新規事業を立ち上げて事業化したもので、そこから生まれたライブストリーミングアプリ「SHOWROOM」や配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」の売上です。好きなゲームにアバターを表示して実況をゲーム参加者に配信できるというアプリになります。
また、スポーツ事業は新型コロナウイルスによるプロ野球の動員制限がなくなったことから「横浜DeNAベイスターズ」の観客数が前年比2.4倍に増加したことが売上増加に起因したのです。
2017年3月期(4Q通期)の業績では、売上1438億600万円で、そのうち1014億2700万円と70%近くをゲーム事業が占めていたことと比較すると、現在のゲーム事業の売上は、46%程度となっています。
ゲーム開発・販売が主力事業のDeNAにとって、スポーツ事業も新規事業だったことからすると、新規事業が大きな収入の柱になっている形です。
正に新規事業が同社の業績を支えていると言ってもよいでしょう。
▼関連記事▼
新規事業はなぜ必要?おすすめな理由や新しい事業の見つけ方について
”売れる”新規ビジネスを生み出す!新規事業の考え方やフレームワークを解説
DeNAの新規事業の立ち上げ方
メガベンチャー企業が社内で新規事業を募集することは珍しくありません。しかし、永久ベンチャーを掲げるDeNAの新規事業の立ち上げ方は他社にはない、独特のアプローチがあるようです。
常に社内で新規事業を募集している
DeNAには、サービスインキュベーション事業部(リーンインキュベーション)という、新規事業立ち上げの専門部署があります。DeNAの社員はドメイン内で、同部署に新規事業の提案ができるよう常に開かれているようです。
DeNAのブログや口コミをみていると、新規事業に果敢にチャレンジされる社員の方が多く、提案の仕方や苦労話、失敗から学んだことなど以下のような興味深いものが多くみられました。
・プロダクトを通じて深いニーズ、熱狂的なニーズを掘り当て、対象となる方を大いに幸せにすることが事業目的。 ・初期投資は3ヶ月チャレンジできるギリギリの金額で始めるが、小さく始めるのは、失敗を恐れずに何度も挑戦を続けるため。 ・新規事業の成功率を高めるためには、できるだけ少人数で小さく立ち上げる方が良い。失敗も成功も重ねてきたからこそ分かること。 ・永久ベンチャーを掲げているだけあり、新しい事業を作っていくことが常に求められる環境のため、アグレッシブな刺激を受ける。 ・若い人、前向き志向で成長ポテンシャルがある人、新卒でもマネージャーになることができる。 ・誰が言ったかではなく、何を言ったかが重視される。実力主義なので、とてもやりがいがある。 ・ハードスキルよりも「考え方」「学ぶ姿勢」が重視される。(2022年度新卒者研修) |
▼関連記事▼
社内ベンチャーはなぜ必要?成功のポイントとメリット・デメリットを解説
新規事業の規模が大きなものはトップダウンで決まる
これは、DeNAに限らず当たり前のことですが、事業規模が大きな新規事業はトップダウンで決めるということです。
DeNAは2014年からトップダウンでヘルスケア事業を立ち上げました。上の画像はその公式サイトのものになります。
また、2017年1月6日、日産自動車と自動運転車両の開発で協業するとDeNAは発表しました。以来、2018年3月5日、自動運転車を使った交通サービス「イージーライド」の実証実験を横浜市内で行い成功させています。
現在、社内から提案があった新規事業である「自動運転タクシー」の事業化、「クロネコヤマトとの協業」案件で事業化に向け、取り組んでいるとのことです。
このように、トップダウンでヘルスケアや自動運転事業に取り組むことは決めるものの、具体的な事業化案については、社内から提案されたものを取り上げ、社員に任せるというのがDeNA流といえます。
2年後の新卒予定者から募集する
DeNAでは、2年後の新卒予定者から新規事業立案をインターンシップの試みとして行っています。と言っても、DeNAの執行役員、事業責任者など社員の方々と共に、インターンシップの学生や中途採用候補者が立案する仕組みです。
2022年に行われた開催概要と応募方法の要点は後述します。
ベンチャー投資事業でも新規事業にアンテナを張っている
上の画像は、DeNAの投資先重点分野を表したものです。社内外を問わず、現在のDeNAが社内で行っている事業や開発案件とかなり重複しているようにも見えます。
投資先は、既に30社を超えており、事業業績をあげている企業もあるようです。
つまり、DeNAには事業推進において、社内も社外も同等に重視するというオープンイノベーションポリシーが根付いているのかもしれません。
投資先企業一覧など、詳しい情報は上記リンクからご参照ください。
▼関連記事▼
オープンイノベーションの定義と成功事例、促進税制について解説
DeNAの事業立案コースの募集内容と採用実績
2022年8月〜9月に開催されたDeNAの事業立案コースについて、具体的に見てみましょう。
DeNAの事業立案コースの募集内容
【開催骨子】不確実性が高まる現代において、正解のない道を切り拓いていく力はDeNAの根幹。事業推進/戦略立案、プロダクトマネージメント、組織マネージメント、マーケティング、分析、コミュニティマネージメント、渉外、経営企画などの領域にチャレンジし個性を磨く。
【日程と開催形態】
日程:8月~9月
日数:未定
開催形式:未定
参加報酬:未定
【エントリー受付期間と募集人員】
エントリー締め切り
▼一次締め切り:2022年5月2日
▼二次締め切り:2022年5月15日
【応募資格】
2024年4月入社可能な方(就業経験、年齢、卒業年に関わらず応募可)
【こんな方におすすめ】
- 自らの成長に貪欲で、リーダーとなって事業を創出、推進したい方
- 最高峰のサマーインターンで圧倒的な成長体験を味わいたい方
【面白がりを求む】
崖っぷちでも、ドツボにハマッても、勘弁してくれとこぼしながらも、どこか面白いと思ってしまう。
そんな面白がりが道を拓く。
君が面白がりなら、ここで始めてみないか。
これがDeNA流のいわゆるインターンシップやリーダー候補者の中途採用試験にあたるようです。審査員は、会長の南場氏をはじめ経営会議のメンバーが行うため、真剣勝負の場になっているようです。
DeNAの新規事業立案コースの採用実績
2022年度の事業立案コースの採用実績は未公開でしたが、過去のインターンシップで採用になった方の情報が複数にありましたので、一部をご紹介します。
1.【大見周平氏】「イラッとしたから入社?!」
DeNAの長期インターン「ネクストボード」を経て、外資コンサル会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの内定を蹴って同社に入社。入社後、いきなり韓国に赴任し「韓国ゲーム事業」に従事、個人間カーシェアリング事業「Anyca」の立ち上げ、6年目に「DeNAトラベル」の代表取締役も歴任。
就活生に「ロジカルシンキングは要らない」、「ワクワクしながら好きなことをやれば良い」と言い切る大見氏。
新規事業を立案から立ち上げまでこなして、経営者まで経験した若手のホープです。
詳しくは、「イラッとしたから” 東大法学部→マッキンゼーを蹴ってDeNAに新卒入社したシンプルな理由」をご覧ください。
2.【ディー・エヌ・エーの夏インターン(新規事業立案コース) 体験者(19卒)】
こちらは、新規事業立案コースを受けた方の体験記から引用しています。その要点は、以下のとおりです。
- ITに苦手意識があったが、これからの時代は必要と考えDeNAの新規事業立案コースに挑戦した。
- 選考のフローは、
1.エントリー選考(設問に答える)
2.一次面接(グループ面接)
3.グループ選考
4.1dayジョブ(7時間でテーマをこなす)
5.最終面接
※1は就活イベントに参加すると免除 - 最終面接にパスすると4日間のインターンシップ(ITを使った新規事業の立案)に取り組む
- 新規事業立案作業が完了すると4日目に審査員にプレゼンする
- 報酬10万円がもらえた。
- 審査員:DeNA会長、社長、元ミクシィ代表
詳しくは、「【19卒】ディー・エヌ・エーの夏インターン体験記(文系/新規事業立案コース) No.1036」を参照してください。
以上のとおり、DeNAは新卒予定者にも新規事業の立案を求め、審査員は会長、社長が必ず務めるほど、新規事業に拘りがあることがうかがえます。
DeNAが新規事業から撤退する条件とタイミング
新規事業をトップダウン、社内募集、新規事業立案コース、ベンチャー投資とあらゆる手段で開拓しているDeNA。しかし、当たり前ですが不採算事業に関しては、撤退しています。
ここでは、DeNAが立ち上げた事業から撤退する条件やタイミングについて、探ってみました。
具体的に見てみましょう。
新規事業から撤退する条件
DeNAのサービスインキュベーション事業部は、2015〜2018年の3年間で24事業を立ち上げ、そのうち19事業を撤退した実績があります。
そもそも、リーンインキュベーションという方針は先述したとおり、限られた予算内でシンプルなニーズに仮説をたて、検証に必要なプロダクトを開発し検証を繰り返す方式だと言われています。
つまり、事業化に向け予算をかける以上は事業と捉え製品化することで、客観的に評価できるようにして、社内にかかわらず社外にも評価を求めた結果で最終判断するということです。
このアプローチは社員の経験値としても大変有効で、失敗をノウハウに変換することもできます。
これを税務的な観点で見た場合、よくある研究費と開発費の違いで、研究費は全額損金算入できますが、開発費は資産性があることから全額損金には参入できません。ただ、どこまでが研究費でどこからが開発費かは主観的にも客観的にも曖昧な点が残ります。
しかし、当初から事業と捉え、短期間で製品化し検証したところ事業化は不可能と判断して事業を閉じれば全額損金算入できます。この点は大いに学ぶところがあるでしょう。
▼関連記事▼
新規事業の評価とは?基準や指標、実際の評価手順を分かりやすく解説
新規事業から撤退するタイミング
DeNAの新規事業にかける予算は、第一段階は以下の条件と言われています。
- チームメンバー数:1~3名
- 予算:1,000万円(開発開始からリリースまでの予算)
- 開発期間:3~4ヵ月
これを初期バジェットとして捉えているようです。この予算の中には、人件費の他に地代家賃や販管費(直接、間接費)も含まれていると言われます。
もし、社員1人で立ち上げたとしても、上半期から立ち上げたのであれば本決算期内には予算を使い果たしてしまう規模です。
このように、DeNAが数々の社内の新規事業に投資し事業化を進めるか撤退するかを即決できるのは、3〜4ヶ月で製品化し客観的評価を含め判断できること、撤退する場合には全額損金算入できるからです。
DeNAは上場企業のため四半期ごとに決算をしていますが、特にキャッシュフローが重要なスタートアップ企業には、大変参考になるでしょう。
▼関連記事▼
新規事業にかかる費用とは?コスト内訳や資金調達の方法を紹介
まとめ
DeNAの新規事業をテーマに、同社の取り組み方と社員の方々はもちろん、インターンシップで参加された方々の経験や体験談を基に解説しました。
やはり、DeNAは同社のポリシーである「永久にベンチャー企業」を体現しているメガベンチャーと言えるでしょう。
弊社Reinforz, Inc (リインフォース株式会社)では、メガベンチャー企業様にかかわらずスタートアップ企業様の分析と財務戦略から大手企業とのマッチングまでアドバイスを得意としています。
既に起業されている方はもちろん、これから起業をお考えの方は、お気軽にご相談ください。
▼関連記事▼
KDDIの新規事業への取り組み方 | 出資先スタートアップの事例に基づき解説
パナソニックが手がける新規事業の事例7選|スタートアップとの共同事業も解説