「富士通=国内のPC需要を支えるIT企業」というイメージの方が多いのではないでしょうか。しかし、近年ではDXを含むデジタル領域への事業展開に舵を切り、IT企業からDX企業を目指すためのサービスや事業展開に力を入れています。その1つがメタバースです。

本記事では、富士通が手掛けるメタバースに関連する特徴的な事例を3つ紹介します。従来型のIT企業としてのビジネス基盤はそのままに、デジタル領域で成長を目指す富士通の取り組みをまとめました。

メタバースに関する国内企業の動向をウォッチしている方や、大企業のメタバースに関する取り組みに興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。

富士通を含む10社でオープンメタバースの構築に向けた合意を締結

富士通は2023年2月、株式会社ジェーシービーなど合計10社とオープンメタバース構築に向けた基本合意書を締結しました。内容としては、デジタルツイン社会を目指し、メタバースの産業利用を推し進めるというもの。

今回の基本合意は、JP GAMES株式会社の代表で、デジタル庁Web3.0アドバイザーを務める田畑端氏が提唱する「ゲームの力で日本をアップデートする」というコンセプトに基づいています。

オープンメタバース基盤の名称(仮)は「リュウグウコク」で、後述する「ジャパン・メタバース経済圏」の創出が大きな狙いです。

本合意を締結した10社と、各社の役割などは下表のとおりです。

企業役割
株式会社ジェーシービーMMP/ID認証領域での機能・ノウハウの提供、加盟店のデジタルツイン構築
株式会社みずほフィナンシャルグループMMP/決済領域での機能・ノウハウの提供、メタバースコインの提供、地域DX協業
株式会社三井住友フィナンシャルグループゲーミフィケーション推進、PWK開発支援、クリエイターエコノミー構築
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループMMP機能構築支援(認証/決済/データ等)、Web3型メタバース金融機能提供、海外展開支援
株式会社りそなホールディングス未来のライフスタイル、および次世代のID認証・決済領域における共同研究
損害保険ジャパン株式会社メタバースを含むWeb3時代に向けたリスク分析および保険開発
凸版印刷株式会社メタバースプラットフォーム「MiraVerse®」・アバター生成管理基盤「AVATECT®」相互運用、文化コンテンツ取扱いノウハウ・表現技術の提供
富士通株式会社デジタルデータ権利管理などWeb3関連技術の提供
三菱商事株式会社メタバース基盤の海外展開、経済圏を広げるグローバルパートナー
TBT Lab株式会社ゲーミフィケーションの機能・ノウハウの提供、PWKおよびMMPの提供

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『ジャパン・メタバース経済圏』の目的はプラットフォーム同士の連携など

合意書締結の目的は、「ジャパン・メタバース経済圏」と呼ばれる、プラットフォーム内のメタバースの連携や、異なるメタバース・プラットフォーム間の相互運用を実現することです。

企業や自治体などによる、メタバース等の仮想領域を活用したDX需要が高まる一方で、異なるプラットフォーム間を自由に往来できないことが問題視されています。

そこで「リュウグウコク(仮)」というメタバース基盤を国内企業で連携して構築し、安心・安全に利用できるオープンな基盤の実現を目指すというものです。

異なるプラットフォーム間で相互運用が可能になることで、新たな社会インフラとして国内企業の情報発信やマーケティング、働き方改革といった企業DXを実現可能にする狙いがあります。さらに、消費者のEX(エクスペリエンス・トランスフォーメーション)の実現も視野に、国内を代表する金融機関や大手企業が合意書を締結しました。

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DXとEXを推進する3つのソリューション

合意書締結によって実現したいDX及びEXを推進するためのソリューションは、大きく分けて以下の3つです。

  1. AUTO LEARNING AVATER(ALA)
  2. PEGASUS WORLD KIT(PWK)
  3. MULTI MAGIC PASSPORT(MMP)

AUTO LEARNING AVATER(ALA)

ALAは、リュウグウコク(仮)におけるデジタルツインを実現するための技術です。

リュウグウコク(仮)では、アバターの行動をAIが自動学習し、ヘルスケアや趣味といったパーソナライズされた情報提供を行います。

ユーザーは自身の行動を自動学習したアバターを通じて、有益な情報を取得できるように。ほかにも、各メタバース空間でパーソナル情報を活用した体験ができるようになるというものです。

PEGASUS WORLD KIT(PWK)

PWKは、JP GAMESが開発したメタバース構築フレームワークの略称です。PWKの開発にはゲームエンジンの「Unreal Engine」が用いられ、ゲーム機能やコミュニケーション機能だけでなく、ショッピングや決済機能などを選択して自由に組み込めます。

リュウグウコク(仮)を開発する上で基盤となるツールで、越境IDシステムと越境通貨を利用することで、異なるメタバース空間の行き来を可能にしています。

PWKは拡張性の高いフレームワークで、ゲームイベントを作成できる「RPGエディター」や、写真からメタバースを簡単に作れる「RIV Technology」といった機能も。

PWKは事業者同士が異なるサービスを組み合わせて自由にプラットフォームを構築できるため、ジャパン・メタバース経済圏を実現する重要なソリューションの1つです。

MULTI MAGIC PASSPORT(MMP)

MMPは、ユーザーがリュウグウコク(仮)を自由に行き来するための決済機能付き身分証明証です。MMPにはID認証や決済手段だけでなく、NFTやアバターが装着する各種アイテム類などが登録できます。

現状のメタバースにおいて、AからBという異なるプラットフォームにアイテム類は持ち運べません。そのため、特定のメタバースプラットフォームでしかアイテムを利用できないという側面がありました。

MMPが実装されれば、ユーザーが仮想世界で過ごす際に必要なあらゆる情報の登録・持ち運びが可能になるのです。

これらの情報は現実世界と仮想世界における本人確認などにも役立ち、現実世界の利便性向上にも活用されることが期待されます。

富士通の新事業ブランド「Fujitsu Uvance」内でもメタバースを有効活用

富士通は2021年10月、ビジネスの確実な成長と持続可能な未来の実現を目指し、新事業ブランド「Fujitsu Uvance(フジツウユーバンス)」を策定しました。DX企業への変革における取り組みの一環で、以下7つの重点分野を定めています。

  • Sustainable Manufacturing(循環型でトレーサブルなものづくり)
  • Consumer Experience(多様な体験を届ける決済・小売・流通)
  • Healthy Living(ウェルビーイングな暮らしをサポート)
  • Trusted Society(安心安全でレジリエントな社会づくり)
  • Digital Shifts(データドリブン・働き方改革)
  • Business Applications(クラウドインテグレーション・アプリケーション)
  • Hybrid IT(クラウド・セキュリティ)

富士通では、サステナビリティ・トランスフォーメーションを加速させるために、テクノロジーと業種ナレッジを組み合わせ、クロスインダストリーで社会課題を解決するという構想を掲げています。

メタバースをコミュニケーションプラットフォームとして採用

Fujitsu Uvanceでは「Trusted Society」領域において、メタバースを活用し、官民を巻き込んだオープンイノベーションを実現しています。

「MVP」と呼ばれる、おもに新規事業の開発で用いられる開発手法をメタバースで行い、社内外問わず多様な意見をもとにTrusted Societyの実現を目指すようです。

メタバースをコミュニケーションプラットフォームとして採用することで、新しい情報発信のスタイルや働き方を構築し、国内外を問わず連携できる場を創出する狙いがあります。

また、オンサイト環境と比べて、バーチャル環境のほうが準備期間や工数を短縮できるというメリットもあるようです。

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メタバースにおけるデジタルデータ権利管理に関する共同プロジェクトを開始

富士通は2022年8月、株式会社ジェーシービー、JP GAMES株式会社の2社と、メタバースにおけるデジタルデータ権利管理に関する共同プロジェクトを開始しました。

メタバースやゲーム世界におけるデジタルデータの安全な流通・販売に向けた取り組みで、8月23日から1年間実施されるようです。

今回の共同プロジェクトで検証するモデルは、JCB、JP GAMESが共同で提供するメタバースプラットフォームに、富士通独自のデジタル署名技術を組み合わせるというもの。

目的はデジタルデータの権利関係を簡易的に明確化させること

共同プロジェクトの目的は、デジタルデータの権利関係について、より簡易的に明確化し、だれもが安心安全に活用できる新たなビジネスモデルを構築することです。

分散型の次世代インターネットであるWeb3.0において、複製が簡単におこなえるデジタルデータに権利関係を持たせたNFTの活用が見込まれています。現状、NFTは投資・投機目的の利用が注目されていることや、一定の法律が存在しないことから、利用ハードルに一定の高さがあると言わざるを得ません。

そこで今回の共同プロジェクトにより、デジタルデータの権利関係を簡易的に明確化できないか検証します。

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共同プロジェクトで検討する4つの事象

共同プロジェクトでは、大きく分けて以下の4点を検討するようです。

  1. メタバースなどで発行されたデジタルデータに対し、デジタル署名を発行・検証可能とする「デジタル登記所」に関するビジネスモデル
  2. 本人確認および決済機能を連携し、取引で発生しうる不利益からユーザーを保護する技術
  3. 富士通独自のデジタル署名技術を用いた、誰でも安心安全に利用できる機能の実装
  4. 既存のNFT市場などとの接続を可能とする相互運用性の確保

なお、今回のモデルはJCBがビジネスモデル特許として出願し終えています。

共同プロジェクトを運営するJP GAMES、JCB、富士通の役割

今回の共同プロジェクトにおいて、協業する3社の役割は以下のとおりです。

  • JCB:国際ブランドの運営で培ったソリューションなどを活用し、保有する決済基盤やID認証基盤に基づいた決済機能・トラスト情報の提供、取引の信頼性確保に関する新たなサービスモデルの提供
  • JP GAMES:先述のメタバース構築フレームワーク「PEGASUS WORLD KIT」で構築するマルチバース、およびリアルとバーチャル間を行き来するユーザーの情報を持ち運ぶパスポートをJCBと共同で開発
  • 富士通:デジタルデータの権利情報を明確にするデジタル署名技術「ハッシュチェーン型集約署名」、ID認証基盤やサービスと連携して本人確認を効率化する技術の提供

各社が持つ技術特性を持ち寄り、新たなビジネスモデルの創出を目指しています。

共同プロジェクトが目指す今後の展望

今回の共同プロジェクトで検討するモデルは、JP GAMESが開発中のコンソールゲームにも活用予定とのこと。

メタバースにおけるデジタルデータの権利関係だけでなく、取引やデジタルデータそのものの信頼性担保、公証性・監査性の付加にも活かせるでしょう。将来的には、多くの個人や企業がデジタルデータを安心安全に扱える社会の実現が期待されます。

メタバースの原型は富士通Habitat(ハビタット)にあった?

富士通Habitat(ハビタット)は、1990年にリリースされた2Dのアバターを通じて仮想世界でほかのプレイヤーと交流したり、アバターを着飾ったりできるゲーム・チャットサービスです。

当時はテキストでチャットをするのも珍しい時代でしたが、富士通Habitatには「オンライン上で特段の目的もなく自由に活動する」メタバースの世界が存在していました。

実際、国内でメタバースが最初に注目を集めたのは、2007年にサービスを開始した「Second Life(セカンドライフ)」。そこからさらに15年以上が経過し、旧FacebookがMetaに社名変更したことなどをきっかけに、再度メタバースの波がきているのです。

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メタバースは実は息の長い概念・構想

メタバースは突如として現れた概念のように感じますが、ルーツを遡ると、1990年にリリースされた富士通Habitatにメタバースのエッセンスが取り入れられています。

当時は技術的にも開発に限界があったものの、近年では5Gも普及し、目まぐるしいスピードで技術革新が進んでいます。

世界におけるメタバースの市場規模は2020年に476.9億ドルに達し、2028年には8289.5億ドルまで拡大する見込みです。

メタバースは過去何十年にもわたって構想されてきた息の長い取り組みで、市場が成長する兆しもようやく見えてくるのではないでしょうか。

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富士通の高い技術力でメタバースがさらに普及するか今後に期待

IT企業からDX企業への変革を進める富士通。2023年2月に発表された合計10社によるオープンメタバース構想は、実現すれば国内のメタバース活用が急速に進むことが期待されます。

また、持続可能な社会を実現するための取り組みとしてFujitsu Uvanceを策定し、新たなコミュニケーションツールとしてメタバースを活用する動きも特徴的でした。

JCB・JP GAMESとの取り組みも、各社の叡智を結集しWeb3.0時代の新たなビジネスモデルを創出するもので、プロジェクトの進展に注目が集まります。

富士通が保有する高い技術力を活かし、安心安全にメタバース空間を楽しめる日がくることに期待しましょう。

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