働く時間も場所も、受ける仕事の量や内容もすべて自由に決められるフリーランス。事業が軌道に乗りさえすれば、会社員時代よりもストレスは少なく、やりがいは大きい…そんな働き方が実現できると思います。
しかしそれは「事業が軌道に乗っている」からこそ手に入れることができるものであって、独立したばかりはもちろん、その後も「なかなか契約が取れない」「今の売上では生活も苦しい」という状況が続けば、頭の中は常に「いかに売上をあげるか」ということでいっぱいとなり、収入だけでなく、精神面でも“苦しい”毎日が続くこととなってしまいます。
もちろんそうした状況から脱するためには、さまざまな工夫をして「案件を獲得する」ことが一番ですが、常に「今月の収入は…」「仕事を確保しなくては…」といった心配が尽きない&精神的に不安定な状況では、本来の力を発揮できなくなる可能性も。また、心配事や不安が長く続くと、自己肯定感が低くなり、すべてのことをネガティブに考える「クセ」がつき、簡単には抜け出すことができない負のスパイラルに入り込んでしまう恐れもあります。
そこで今回は、「売上の呪縛」から抜け出すための考え方や行動、ポイントをいくつかまとめてご紹介します。新規案件獲得につながるノウハウ…ではありませんが、心に余裕を持ち、自己肯定感が高まれば、態度にも言葉にも自信が溢れ、それが良い結果を生む可能性もあります。ぜひ参考にしてみてください。
毎月、そして一生に必要なお金を「見える化」してみよう
収入が安定しておらず「今の売上では生活できないかも」「このまま事業をやっていけるのだろうか」と不安ならば、まず、自分の年齢や養うべき家族、これからのライフイベントなどをすべて考慮した「生涯のコスト」を算出してみましょう。
当然、家賃や光熱費、通信料など、毎月、最低限確保しなければならない金額くらいは自分でも把握していると思いますが、例えば「2人の子どもを大学まで進学させるには、どのくらいの貯蓄が必要?」「40歳からの独立、あとどのくらいのお金があれば老後も安泰?」といったところまでしっかりと把握しているという人は少ないのではないでしょうか。しかし、こうした「一生にかかるお金」の全体像が見えないと、「今の状態でいいのだろうか」といった不安や、「もっと売上を獲得しなければ」と焦りを生む大きな原因にもなります。自分が望む生活、一生を過ごすための「最低限の金額」は把握しておくべきでしょう。
現在Webコンサルタントとして活動を続けるAさんは、40歳を機に勤めていたIT系企業から独立・開業。もちろん、独立直後は収入が激減する可能性もあるため、それなりの貯蓄も用意してのスタートでしたが、「やはり最初は売上を確保するにはどうしたらいいか、そればかりを考え、常に焦っていた」といいます。そのため、前月より少しでも売上が下がるとこのままで大丈夫かと不安になり、売上が上がっても、もっと稼がないといけないとさらに焦るという、「完全に売上に捕らわれている状態だった」と振り返ります。
そこで、彼は仕事で知り合ったファイナンシャルプランナー(FP)を頼り、家族構成、子どもたちの教育計画、家賃や光熱費といった生活に必要な出費や事業維持にかかる費用なども全て換算したうえで、「自分の人生に最低限必要な金額」を算出してもらうことに。そして現在の生活を維持しつつ、その金額を確保するためには、65歳までの毎月・毎年どのくらいの売上を計上すればいいのか、その目安となる金額も算出してもらいました。
「その結果、それまでの貯蓄も合わせれば、必死に新規案件確保や売上アップのために奔走しなくても、家族4人、現在の水準の生活を送ることができるのだと気づくことが出来ました。また、毎月、このくらいは売上を計上しようという明確な“目標額”が見えてきたことで、売上が少し下がった月があっても、必要以上に焦ることもなくなりましたね」
フリーランスは会社員時代と違い、定期的な報酬額アップや賞与のような特別報酬が出ることもありません。そのため「毎月、会社員時代よりも高額の売上を計上しないといけない」と焦ってしまう気持ちも理解できます。とはいえ、目的も目安もないままの焦りは空回りを引き起こすことになりがち。それを防ぐためにも、一度、人生に必要なコストをしっかりと「見える化」したうえで、毎月の売上目標額を設定してみてはいかがでしょうか。
「避けることのできない支出」は本業につながる“副業”で補う
やはりフリーランスとして活動する「=大変・不安」だと思われることが多い原因は、毎月の収入が安定していないという点に尽きるのではないでしょうか。たとえ今は毎月レギュラーで任されている仕事が確保され、ある程度まとまった額の売上があるという方でも、「取引先に大きなトラブルがあった」「社会情勢が大きく変わった」など、自分ではどうにもできない理由で、ある日急に売上が激減する可能性もあります。
また、そうした“予想外”の事態になっても、今回のコロナ禍のような全国レベルの非常事態でもない限りその分を誰かが補填してくれることはありません。自分の生活は自分で守っていくしかないのです。
もし、毎月の売上が急激に下がるような事態に陥った場合、やはり一番気になるのは、住宅ローンや家賃、通信費、光熱費など「毎月、必ず支払わなければならない金額をどこから捻出するか」というところにあると思います。もちろん、フリーランスをして活動をするなら、万が一のため、最低でも3カ月分くらいは貯蓄しておくべきですが、それでも「収入源の状態がいつまで続くのかわからない」「予想よりも長く続きそうだ」となれば、不安は一層大きく膨らんでいきます。
そうした不安を回避するため、今、フリーランスとしての活動の他に「副業」として派遣やアルバイトの仕事を兼務する人も増えています。
例えばフリーのIT系コンサルタントとして活躍する筆者の友人Bさんは、週2日勤務の派遣社員としてWebディレクションの仕事をしています。当初は、長く取引していた企業からの依頼が減り「落ち込んだ売上を一時的にでも補填することができれば…という気持ちだった」そうですが、実際に働き始めてみると、現場の最前線でWeb開発の最新情報に触れられること、そして、きちんと成果さえ出せば自分のスケジュールに合わせた勤務を認めてくれる居心地の良さもあり、もう4年以上も働き続けています。
週2日の勤務で得られる毎月の給与は交通費込みで12万円ほど。Bさんいわく「この約束された固定の収入だけでも毎月の住宅ローンと光熱費は十分に支払うことができる」ため、今では、こうした固定の支出には派遣での収入を優先的に当てるようにしているのだとか。
「そのおかげで、本業であるコンサルタントとしての収入が多少減ったとしても『今月の支払いはどうしよう…』と焦ることもなくなりました。フリーランスで活動する以上、月ごとに売上額に増減があるのは当然のこと。以前はこうした“変化”にも敏感になっていましたが、今は前年度同月の売上と比較するくらいで、あまり心配もしていません」
Bさんが派遣社員としての勤務を始めた翌年の春、新型コロナウイルスの感染が拡大。その影響でコンサルタントとして関わっていたプロジェクトもほぼ中止・中断となり、仕事の依頼がほとんどない時期が長く続きました。しかし派遣社員としての仕事は、リモートワーク中心に切り替わりつつも続いていたため、「コロナ禍においても、それまでと変わらず毎月12万円程度の収入が確保されていた」といいます。そのため本業であるコンサルタントとしての収入がほぼ0円という時にも、「ローンや光熱費のほとんどは給与で支払いできたので、不安や焦りを感じることもなかった」と振り返ります。
本業も忙しいのに副業なんて――という方もいるかもしれません。しかし、コロナ禍をきっかけに派遣社員やアルバイトにもリモートワークを推奨している企業は多く、Bさんも「コロナ前より時間の融通が効くようになり、本業との両立もしやすくなった」といいます。
またコンサルタントとして独立・活動できるほどの專門的な経験・スキルを持ち合わせている人材を確保できるのは、企業サイドから見ても非常に有意義なこと。依頼された業務を着実に遂行する中で信頼関係が生まれ、派遣社員から業務委託へと契約を変更、さらに幅広い案件を任せる…なんて可能性もあります。
現在、派遣社員として4年目を迎えたBさんも、有機雇用の通算契約期間の上限となる5年を機に「契約を業務委託に切り替え、今後は専門のコンサルタントとしての役割を含めて仕事を依頼したいと打診されている」といいます。本業に影響がでない範囲で安定した収入を確保することができ、さらにそれが新規顧客獲得にもつながる可能性があるのであれば、これほど有難いことはありませんよね。
「将来像が見えない」「打開策がわからない」時こそ多くの人と交流を!
「なかなか新規顧客が獲得できない」「思ったような売上を計上できない」となった時、多くの人が、収入が少ないことを気にかけ、「できる限りの支出を抑えて節約しよう」と考えるのではないかと思います。そのため友人・知人との交流を断る、外食や外出も極力控えているという人もいるのではないでしょうか。しかし、経営コンサルタントとして、多くのセミナーや講演活動を行なっているCさんは、「むしろそういう行き詰まった時こそ、多くの人と積極的に交流するべき!」だといいます。
フリーランスには先輩も同僚もいないため、「こういう時にはどうするべき?」と悩んだ時に経験からのアドバイスをくれる人も、思うような成果が出ずに落ち込んでいる時に同じ目線で話を聞いてくれる人もいません。そのため、一度気持ちが落ち込むとなかなか復活の機会がなく、焦りや不安が長く続く負のスパイラルに陥りやすくなります。またCさんをはじめ多くのフリーランスが「確実に案件を確保したいなら、人からの紹介にかなうものはない」と話すとおり、案件を確保したい・仕事の幅を広げたいと考えている時こそ、できる限り多くの人と接点を持ち、交流するようにすべきだといえるでしょう。
実際にCさんも独立直後は案件がなかなか確保できず、「自分で思いつく限りの営業方法を試したものの、あまり結果が出ずに完全に行き詰まっていた」ため、他の人の経験談も聞いてみたいとSNSで見つけたフリーランスが集まるコミュニティに参加。そこで「案件を獲得するためにも人との繋がりを広げたい、でも交流会などに積極的に参加できるほど、収入があるわけでもない」という現状の悩みを相談。
そこでSNSを活用し、普段行っているセミナーや講習会の内容を定期更新することを提案され、実践。記事を更新する度にコミュニティの参加者が拡散してくれるようにもなり、「記事を見て…と問い合わせが来るなど、新しい案件の獲得にもだいぶ役立った」と振り返ります。また、コミュニティでは「こんな依頼ができる人を探している」「求人サイトにこんな業務委託案件があった」といった直接仕事に結びつく情報も活発に発信されていることが多く、実際にCさんも掲載されていた募集案件に応募し、「今も継続してお付き合いが続いているクライアントもいる」のだとか。
「以前は、この人なら仕事を紹介してもらえるかも…と思う人がいたとしても、会いに行くための時間をなかなか捻出できなかったり、またちょっとセコい話になりますが、会って食事やお酒を…と相手に言われたら、断りにくいうえに、金銭的な負担も発生します。仕事がない・売上が少ないと悩む中で、そうした出費がかさむのも避けたいと思っていた」と振りかえったCさん。
しかしコミュニティに参加し、さまざまない人との交流・提案によって成功への道を掴むことができたからこそ、「こうした場面での支出を“負担”だと考えるのは間違っていると思う」と言います。もちろん「人脈を広げるため」という名目で、誘われるまま毎日のように食事や飲み会に参加する…というのは感心しませんが、不安や焦りに心が占領され、行き詰まってしまうようであれば、多くの人と会い、さまざまな意見を聞くことで解決へのヒントも見つかるはずです。
またコロナ禍を経て、今は直接会って顔を合わせることができなくても、オンライン上で意見交換や交流ができるよう、さまざまなシステム・サービスが登場、Cさんも「コロナ禍前に比べてコミュニティの仲間との交流もしやすくなった」と言います。実際、なかなか直接会うのも難しい遠方の方ともすぐに、簡単にコミュニケーションが取れる環境も整備され、抵抗なく利用している方も多くなっていますので、食事やお酒に付き合うといった金銭的な負担もグンと軽くなっているはずです。
・・・いかがでしょうか。
今回は「思ったように案件が確保できない」「このままで大丈夫だろうか」といったフリーランスならではの焦りや不安を軽くする、解消するためにぜひ取り入れたい取り組みやそのポイントをご紹介しました。これらは、即、案件確保や売上アップに直結するわけではありませんから、どうしても後回しにされてしまう内容かもしれません。でも、心がネガティブな感情に支配されると、日々の業務も「辛い」「苦しい」ものとなってしまいます。せっかく自分の能力・スキルを信じてフリーランスの道を選んだのですから、楽しく、やりがいのある毎日とするためにも、自分の心ともしっかり向き合い、「ゆとり」を作るためひと工夫を取り入れていきましょう。