企業の成功に欠かせないのが新規事業の立ち上げです。既に事業を軌道に乗せていたとしても、企業は新規事業を立ち上げて成功させることが求められます。
既存事業とのシナジー創出やさらなる売上の増加など、様々なメリットが得られる新規事業の立ち上げですが、成功させるにはどのようなポイントに気を付ければよいのでしょうか。
本記事では、例えば新規事業にはどのような種類があるのか、事例から学べる成功のコツはあるのか、といった点も踏まえて新規事業の創出について解説します。
新規事業とは?
新規事業とは、企業が事業を新たに立ち上げることや、立ち上げた事業そのものを指します。具体的な定義も含めて、まずは概要を見ていきましょう。
新規事業の定義
新規事業を定義するためには、まず事業を構成する要素について理解しなければなりません。事業には、核となる「サービス」と、そのサービスが位置する「市場」が存在します。
例えば街のパン屋がパンを売るのは既存事業ですが、パンを作るキットをオンライン販売する場合は「サービス」がパンからキットに変わり、「市場」が街からオンライン上に変わっているため、新規事業と言えるでしょう。
このように、扱うサービスや市場が新しいものは新規事業と捉えられ、これまでとは異なるオペレーションを確立したり、新規顧客を獲得したりする必要があります。
逆に言えば、新規事業を立ち上げられれば、既存事業だけでは得られなかった顧客や市場が獲得でき、経営の多角化が成功するのです。
新規事業が必要な理由と背景
新規事業の立ち上げは企業にとって必要不可欠。必要とされる背景には、先述した「経営の多角化」が密接に関わっています。ここで先ほどのパン屋の例をもう一度見てみましょう。
街のパン屋が事業を継続するには、サービス(パン)と市場(街の顧客)が安定して両立していなければなりません。パンを作る設備がなくなればサービスは作れず、街の人口が減少すれば市場は成立しないでしょう。
事業や企業の存続において、これらのリスクとどう向き合うか、という視点は非常に大切です。しかし、リスクの中には自社の企業努力だけではどうにもできない問題も多いのが実情。
人口の変動はもちろん、顧客のニーズが移り変わったり、業種によっては法律が改正されたりすることでも、事業に様々な影響が生じます。とくに近年は社会情勢の不安定化やニーズの多様化が叫ばれるようになり、業態を問わず様々な変革を迫られることも。
このように、自社では対応できないリスクと対峙したときにどうするのか、という問題は多くの経営者を悩ませています。
そこで大切になるのが「経営の多角化」です。言い換えれば事業の一極化を防ぎ、一つの事業でリスクが高まったとしても、他の事業で収益を安定させたり、既存事業とのシナジー効果を創出したりして、経営を盤石なものにしようとする試みと言えます。
先述したように、新規事業を立ち上げるということは、新たなサービスや市場を獲得するということ。売上の増加だけではなく、今後起こりうるリスクの低減という意味でも、新規事業の創出は多くの企業にとって喫緊の課題となっているのです。
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新規事業を立ち上げるメリット
新規事業を立ち上げるメリットは多岐にわたりますが、例えば以下のようなものが挙げられます。
・売上の増加
・経営上のリスクヘッジ
・既存事業とのシナジー創出
それぞれ詳しく見ていきましょう。
売上の増加
新規事業を立ち上げるにあたって最も重要なのが売上の増加です。収益が生まれる事業を複数持っていれば、それだけ売上は増加し、企業は財政的に安定します。新規事業を立ち上げる理由として、売上の増加は最も重視されるポイントでしょう。
望んだとおりに売上を増加させ、利益を生み出すには、事前の事業計画や経営計画が必要不可欠。事業の立ち上げにかかるコストはもちろん、事業を継続するために必要なランニングコスト、許認可が必要な場合はそれらの費用も踏まえて綿密な計画を立てなければなりません。
また、費用だけでなく売上の予測も重要です。市場規模や顧客のニーズ、自社が打ち出すサービスの強み、マーケティング方法、オペレーションの設計なども考慮しつつ、見込める売上を正確に予測しましょう。
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様々な数値やデータを扱う必要があるため、新規事業の計画を立てる際には専門家の力を借りるのも一つの手段ですが、自力で新規事業の計画を立てたい方は以下の記事も参考にしてみることをおすすめします。
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経営上のリスクヘッジ
先述したように、新規事業の立ち上げは経営上のリスクヘッジという意味合いも含んでいます。保有している事業が一つだけだと、その事業に大きな影響を与える事象が起こった際に、経営そのものが危うくなってしまうでしょう。
しかし、異なるサービスや市場で事業をもう一つ展開していれば、仮に片方の事業が傾いたとしても、もう一方の事業でカバーできる可能性があります。
パン屋の例のように、既存事業から離れたサービスや市場で事業を打ち出せられれば、仮に店舗がある街の人口が減少したとしても、オンライン販売するキットの売上で経営が成り立つかもしれません。
こうしたリスクヘッジの観点も踏まえ、新規事業の案を練ってみることをおすすめします。
既存事業とのシナジー創出
新規事業の立ち上げは、既存事業とのシナジー効果が期待できるのも大きなメリットです。事業間のシナジー効果とは、事業Aで得たノウハウや人材、設備、顧客などが事業Bにとっても好影響を与える状態、または得られる効果そのものを指します。
先ほどのパン屋の例で言えば、事業A(パン屋)で得たノウハウ(美味しいパンの作り方)を転用し、事業B(キットのオンライン販売)を立ち上げているのですが、これはシナジー効果が生まれているでしょう。
キットのオンライン販売を通して全国的に知名度が広がれば、「このキットを作ったパン屋のパンを食べてみたい」という顧客が店舗を訪れるかもしれませんし、双方の事業にとってメリットが循環する仕組みになっています。
このように相乗効果を生み出せるのが新規事業を立ち上げるメリットであり、これから新規事業を立ち上げる際には、ぜひ既存事業との間でシナジー効果を生み出せる事業はないか検討してみると良いでしょう。
新規事業を立ち上げるプロセスとは?
具体的に新規事業を立ち上げるには、以下のような手順が必要です。
- 新規事業の考案
- 事業計画の作成
- 市場・競合調査
- 資金調達
- メンバー確保とアサイン
- サービス開発とローンチ
- マーケティング施策の実行
- 新規事業の拡大
このように、新規事業の立ち上げには様々なステップがあり、大がかりなものであれば数年単位で仕込んでいくことも少なくありません。かかるコストや時間も少なくないため、それぞれのステップでやるべきことを決め、着実にこなしていく必要があります。
新規事業立ち上げから当面のゴールは、サービスが市場に受け入れられた状態である「PMF」を目指すこと。PMFについては以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてみましょう。
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中でも特筆すべきは資金調達のステップです。新規事業の立ち上げにかかる費用をどのように捻出するかは異なりますが、投資家や金融機関から投資や融資を受ける場合は、ステークホルダーが納得する事業計画やリターンの設定が求められます。
新規事業を立ち上げた直後は利益が出にくく、資金がショートする可能性も少なくありません。投資家や金融機関に相談する場合は、事前に立てた資金計画も踏まえ、ステークホルダーが魅力を感じるような事業に磨き上げていく必要があるでしょう。
さらに詳しく新規事業の資金調達方法を知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
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新規事業を成功させるポイント
ここからは、新規事業を成功させるために押さえておきたいポイントについて解説します。新規事業を成功させるためには、主に以下のポイントが重要です。
- スモールスタートできる
- 適任な責任者やメンバーがいる
- 事業の評価や仮説検証が素早い
それぞれ詳しく見ていきましょう。
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スモールスタートできる
新規事業を立ち上げる際には、なるべく少ないコストで立ち上げられるものを選びましょう。いきなり大規模な事業を立ち上げるのではなく、1~5人程度のメンバーで回せる規模の事業を立ち上げ、市場の動向やサービスの確度を検証するのが大切です。
失敗した際のリスクが少なく、今後スケールしていける事業なのか否かを判断する上でもスモールスタートできるに越したことはありません。サービスの機能やエリア、ラインナップなどを限定してローンチし、段階的に規模を広げていくイメージで事業を立ち上げましょう。
結果的に市場に適したサービスの形になることも多く、いきなり大規模なサービスを展開するよりも成功する確率が高くなると言えます。
適任な責任者やメンバーがいる
新規事業を立ち上げる際に重要なのが、責任者やメンバーの選任です。適切なメンバーでチームを作れれば、意欲的に動いて事業を成功へと導いてくれます。
しかし、新規事業の立ち上げにおいては、仕組みや業務が手さぐりになりやすく、メンバーにとっても暗中模索している気持ちになってしまうでしょう。こうした中でコンパスとなるのは事業の方向性やビジョン、企業内における新規事業の立ち位置などです。
こうした中でも目的を見失わずに業務を全うできるか、責任感を持って成功へ導けるか、といった観点も踏まえ、適切なメンバーを選びましょう。自社内に適した人材がいない場合は、外部の人材を招へいするのも手段の一つです。
新規事業立ち上げのメンバーについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ確認してみましょう。
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事業の評価や仮説検証が早い
新規事業を成功させるためには、素早いPDCAサイクルを回すことや、評価できる仕組みを整えておくことが大切です。
先述したように、新規事業はスモールスタートで立ち上げ、市場の動向やユーザーのニーズを細かく読み取り、軌道修正しつつ形にしていくことが求められます。そのため、既存事業よりも細かく素早いPDCAを回さなければなりません。
しかし、売上の出にくい新規事業を評価する際には、通常使われる売上や利益は指針として使いにくいため、別の指針を用いなければなりません。また、定期的な検証を行うために評価プロセスを用意しておくなど、事業が走り出す前にPDCAを回す準備をしておくことが求められます。
新規事業の評価については以下の記事で詳しく紹介しているため、気になる方は確認してみると良いでしょう。
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成功した新規事業の事例
ここからは、実際に成功した新規事業の事例を3つご紹介します。ぜひ自社で取り組むことを想定しつつ読み進めてみましょう。
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スープストック東京│三菱商事株式会社
大企業が取り組んだ新規事業の事例として、三菱商事が展開する「スープストック東京」という事業をご紹介します。同社は総合商社として国内最大規模の事業を展開していますが、スープストック東京はなんとファーストフード事業。
働く女性をターゲットとして立ち上げられた同事業は、「女性がひとりでも安心してゆっくりと食事ができるファーストフード」というコンセプトで発足しました。
メインのスープという商品に込められている想いは、「スープのある一日」を通して、頑張る女性に向けて活力を与えたり、一日や一生を変えてしまえるほどの何かを提供したりすること。この企画が共感を呼び、今では多くの女性客に支持される外食事業となりました。
この事例から読み取れることは、新規事業を立ち上げる際は「ターゲット」を明確にし、そのターゲットが抱えるどんなニーズやウォンツに応えるのか、そのためのサービスにはどんなものがあるのかを精査する重要さです。
市場を数値だけで見るのではなく、よりミクロな視点も交えてターゲットの立場に立ってみると、適切なサービスの形や事業の在り方が見えてくるのではないでしょうか。
OKIPPA│日本郵政×Yper
国内の流通を支える日本郵政とアプリ開発を手掛けるYper株式会社が共同で立ち上げた新規事業が「OKIPPA」です。単身者世帯の再配達にかかるコストを削減しつつ、ユーザーの負荷を減らせる画期的なサービスとして話題を呼びました。
日本郵政という大企業と、中小企業のYper株式会社が共同で立ち上げた事業ですが、双方にとってメリットが大きいと言えます。特にYper株式会社にとっては、日本郵政と共同で事業を立ち上げることによって大企業の顧客などを引き継ぎながら隙間産業へ参入でき、PMFまでの期間やコストを短縮できるのです。
日本郵政にとっても、自社でゼロから事業を立ち上げるのではなく、既にアプリ開発などのノウハウを有している他社と連携することで、事業立ち上げまでの期間を大幅に短縮できるメリットがあります。
このように、自社内だけでなく、外部の企業と提携しながら新規事業を立ち上げるケースも少なくありません。
クロネコ見守りサービス│ヤマト運輸
ヤマト運輸が2021年2月から手掛けている「クロネコ見守りサービス」は、深刻化する高齢化に対する一助としても大きな注目を集めた新規事業です。宅配サービスという業種を、地域の見守りという意味合いで再定義した意味でも、参考になる好事例と言えるでしょう。
クロネコ見守りサービスの中身としては、高齢者の自宅に「ハローライト」というIoT製品を取り付け、自動的に点灯するはずのハローライトが一定時間点かない場合は、親族のもとへ連絡が届くというもの。
仮に親族との連絡が取れなかった場合は、クロネコヤマトの配達員が様子を見に伺うというのだから驚きです。単なるIoT製品の導入だけでなく、その後のサポート体制まで万全に整っている点が、多くの利用者獲得に繋がっています。
ちなみに、ハローライトという電球自体は、スタートアップ企業のハローライト株式会社が生産したIoT機器。こうした既存製品の機能も踏まえて新規事業を考えてみると、新たな着想が得られるかもしれません。
高齢者が単身で暮らす住宅も増加し、親族が介護や同居できないケースも少なくありませんが、こうした社会情勢を鑑みても、テクノロジーを活用した見守りサービスの需要はより高まっていくでしょう。先見の明が光る好事例と言えそうです。
新規事業の立ち上げはプロと二人三脚で
新規事業を立ち上げる際には様々な手続きや準備が必要です。他社の事例から学べることも多くありますが、ニッチなジャンルでの立ち上げを検討していたり、自社内に新規事業立ち上げに適した人材がいなかったりする場合は、外部の専門家を頼るのも一つの手段。
本記事で紹介した内容を参考にしつつ、成功する新規事業の立ち上げに挑戦してみましょう。
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