中小企業診断士は、経営コンサル分野で唯一の国家資格です。会社経営に関する知識を問われる難関資格ですが、試験に合格したなら独立を考える人もいるでしょう。

この記事では中小企業診断士が独立する場合の流れや、独立に向けて必要な準備について取り上げています。年収相場や独立後の仕事内容も解説しているので、資格取得から独立を考えている人は参考にしてください。

中小企業診断士が独立する方法

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中小企業診断士の試験には、特定の学歴や職歴、年齢制限などの条件がなく、会社に勤めながら合格を目指す人が多い資格です。ここでは資格取得から独立に向け、どのような方法があるかを解説します。

中小企業診断士の資格を取得する

中小企業診断士の試験は毎年1回実施され、1次試験・2次試験に合格したのち、所定の実務に携わってから診断士として登録されます。

なお、中小企業診断士は弁護士や司法書士などのように独占業務がなく、中小企業診断士試験に合格していなくても診断業務は可能です。独立開業にあたっても、試験合格者である必要はありません。

しかし、試験範囲の学習を通じて、経営状況を読み解く知識や効果的な改善策を考える思考力が養われます。合格後に実習を受けて経済産業省に登録されれば、社会的な信頼度も得られるので、試験に合格してから独立する人が多いでしょう。

中小企業診断士の副業で経験を積む

中小企業診断士として登録されても、無理して独立を急ぐ必要はありません。企業の相談や診断業務は副業でも取り組めます。

仕事の取り方や実務の進め方などを副業で経験し、独立資金を蓄えてから挑戦した方が安心です。

また、中小企業診断士は定年後に独立開業する方法もあります。自身のキャリアプランを考え、無理なく独立できる方法を選択しましょう。

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ダブルライセンスで差別化を図るケースも

中小企業診断士の診断業務と関連する資格を持っていると、業務範囲を広げて、同業他者との差別化を図れます。

例えば行政書士の資格を持っていれば、診断業務だけでなく、事業経営に必要な補助金・助成金を申請する書類の作成・提出代行まで引き受けられるでしょう。社会保険労務士の資格があれば、従業員の労務についてのアドバイスや社会保険に関する手続きも可能になります。

中小企業診断士として登録されるまでの流れ

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中小企業診断士として登録されるには、年1回実施される中小企業診断試験の1次試験・2次試験をクリアし、所定の実務に取り組んでから申請する必要があります。

7つの試験科目に筆記と口述からなる2次試験もあるため、1発合格が難しい難関資格です。

試験内容

中小企業診断士の試験は7つの科目からなる1次試験と、筆記試験・口述試験からなる2次試験で構成されています。

1次試験は例年8月初旬頃に2日間で実施され、マークシート方式です。2次試験は筆記試験が10月下旬頃、口述試験が1月下旬頃の実施です。

試験日程は毎年3月下旬から4月中旬頃に発表されるので、受験を考える人は中小企業診断協会のホームページなどをチェックしましょう。

1次試験は資格不問で受けられますが、2次試験は1次試験の合格、または1次試験免除者が受験対象です。また、1次試験に合格した年度と翌年度は、2次試験の受験資格を得られ、特定の国家資格があると免除される科目もあります。

例えば公認会計士や税理士、弁護士などの資格を持っているか、その資格試験に合格している場合、1次試験の財務・会計科目が免除となります。情報処理技術者試験でも特定区分で合格しているなら、経営情報システム科目が免除されます。

免除される科目があれば、そのほかの科目の試験対策に集中できるので、該当資格があるなら活用したい制度です。免除を受ける際は、その資格で登録されていることを示す書類や特定の試験に合格した証明書類の提出が必要となります。

実務補習と実務従事

1次試験・2次試験に合格後、有資格者としての登録されるには、3年以内に15日以上の実務補習を受けるか、15日以上の診断実務に従事(実務従事)する必要があります。

もし、勤めている会社で診断業務に携われるのであれば「15日以上の診断実務に従事」をクリアできるでしょう。しかし、勤務先で従事する機会がないなら、中小企業診断協会に加入し、実務補習を受けなければ登録資格を得られません。

実務補習を受けると、中小企業診断士を目指す人とも知り合う機会ができるので、独立後の人脈作りにも役立つでしょう。

中小企業診断士として登録

実務補習または実務従事が終わると、必要書類を提出すれば中小企業診断士として登録されます。

登録は5年ごとに更新があり、更新には所定の研修の受講を証明する書類や診断業務を行った証明書などを添えて、申請手続きを行います。

中小企業診断士が独立に際して準備しておきたい4つの事柄

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中小企業診断士として独立するなら、次に紹介する4つの事柄を準備しましょう。しっかり準備してから独立すれば、仕事を安定させやすくなります。

開業資金や当面の生活費などまとまったお金を確保する

中小企業診断士の仕事は、商材の仕入れや人を雇う必要がないため、開業に際して高額な資金は不要です。

しかし、独立直後は仕事の受注が安定しないケースも珍しくありません。収入の不安定な状況に居ると、仕事のパフォーマンスにも影響します。

当面の生活費を備えておけば、仕事が途切れても生活に困らず、心に余裕を持てるでしょう。

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他の中小企業診断士との差別化ポイントを決める

漠然と中小企業診断士の仕事をするのではなく、自身の強みを考え、特化した分野を持っていると安定した受注に繋がります。

どんな企業・事業主をターゲットにするのか、診断業務の中でも何に重きを置くのか、得意分野を見極めてブランディングしましょう。

例えば地域に密着した中小企業と新進気鋭のベンチャー企業とでは、同じ業種であっても抱えている問題は違うものです。仕事を受注する際のアプローチも、相手に合わせて考える必要があるでしょう。

「この分野の診断業務を依頼するならこの人!」と、指名される存在になれば、仕事が途切れる心配もありません。

仕事に繋がる人脈を作る

独立から間もない中小企業診断士は、先輩が受けきれない仕事を引き受けるケースもあります。また、不得意な分野の仕事を引き受けてもらえないかと同業者から打診されたり、逆にこちらが苦手な分野を他者に回したりといったことも珍しくありません。

このように仕事を紹介し合うには、事前に信頼関係ができているのが前提です。仕事につながる人脈は、一朝一夕には作れません。独立前から人脈を広げ、構築できるよう、セミナーやサロンへの参加も積極的に考えましょう。

中小企業診断士の都道府県協会への加入も考える

各都道府県には、中小企業診断協会が存在します。中小企業診断士同士の繋がりが作れ、情報交換の場にもなっています。 

年会費は都道府県ごとに差がありますが、例えば東京都中小企業診断士協会は入会金3万円・年会費5万円です。安いとは言えない金額負担ですが、研修会・研究会への参加やクライアントを紹介してもらえるなどのメリットもあるので、独立を考えるなら加入を検討しても良いでしょう。

独立した中小企業診断士の年収相場

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令和2年の「中小企業診断士活動状況アンケート調査」によると、中小企業診断士の年収は501万円~800万円という人の割合がもっとも多くなっています。

500万円以下という人も割合としては少なくありませんが、1,000万円を超える人が3割程度存在しているのも事実です。

中小企業診断士として独立しても、安定的に仕事を受注できれば十分な収入を得られるといえます。

独立した中小企業診断士が受ける仕事の種類

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中小企業診断士が対応する仕事は、公的業務と民間業務に分類される診断や相談業務が中心です。また、同業者間で仕事を紹介し合うことも多く、知見を生かしたセミナー講師業や執筆業なども存在します。

公的業務

中小企業診断士は、公的な支援機関に専門家として登録すると、相談相手を求めている企業に紹介してもらえます。これは診断業務の中でも公的業務と呼ばれるものです。

専門家を募集している支援機関を探して公募期間中に応募し、承認を受ける必要があるので、誰でもすぐに登録できるわけではありません。しかし、登録しておくと定期的に仕事を回してもらえるメリットがあり、支援機関に登録されている存在として自信を持てるでしょう。

得られる報酬は多くありませんが、安定して仕事を受けられるので、公的業務を多くこなす中小企業診断士も存在します。

民間業務

公的機関から斡旋される仕事に対して、民間企業との直接契約による診断業務を民間業務と呼ばれています。

独立直後は民間業務を取るのが難しいこともありますが、こちらが報酬額を提示したり、金額交渉したりといったメリットもあります。独立してより多くの収入を得たいなら、条件の良い民間業務の受注量を増やす必要があるでしょう。

経営コンサルタントを求める企業とマッチングしてくれるエージェントも存在します。民間業務の受注を増やすなら、活用すると良いでしょう。

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同業者間での紹介や下請け

中小企業診断士は、それぞれ得意とする分野や特化している領域がある仕事です。不得手な内容を相談された際は、得意な診断士を紹介することも珍しくありません。また、先輩診断士が受けきれない仕事を引き受けてもらえないかと依頼されることもあります。

こうした同業者間での紹介や下請けも、中小企業診断士が仕事を受ける手段の一つです。診断士同士の繋がりが重要となるので、日頃から情報交換も兼ねて人脈作りを考えておきましょう。

セミナー講師や執筆業

相談業務以外に、セミナーへの登壇や有資格者としての記事執筆・監修業務によって収入を得ている中小企業診断士もいます。

本来の業務とはやや離れた仕事内容ですが、人前に立って話すのが得意な人はセミナー講師に挑戦しても良いでしょう。文章力に自信があるなら、記事の執筆・監修も自身の知識や経験を生かした仕事となります。

セミナーや作成記事の評判が良ければ、個別相談にきてくれる顧客の導線にもなるので、他の仕事と並行して受注を考えてみましょう。

中小企業診断士が独立するメリット・デメリット

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中小企業診断士として独立を考えるなら、メリット・デメリットを理解し、十分な準備をしたうえで進めましょう。

メリット1:収入を大きく増やせる可能性がある

中小企業診断士は大きな初期費用をかけずに独立でき、企業内で診断業務に携わるよりも稼げる可能性があります。

企業の中には特定の資格を持っていると、手当が付いたり人事評価で有利に働いたりするでしょう。しかし、大幅な収入増は期待できません。

年収1,000万円を超える中小企業診断士も3割ほど存在していることを考えると、独立した方が収入を大幅に増やせる可能性があると言えます。

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メリット2:自分の裁量で仕事ができる

企業に勤めていると、就業時間や休業日の設定は会社の規則に従うしかありません。フレックス勤務やリモートワークなど、多様な働き方を認める動きはあるものの、企業ごとに差があります。

また、仕事内容も自分の意志だけでは選べず、時には意に沿わないクライアントの仕事を受けることもあるでしょう。

独立すると働く時間や日数、受ける仕事の内容も自分の裁量で決められます。より自分にとって働きやすい状態にできるのも、独立によって得られるメリットです。

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デメリット1:個人の責任が大きくなる

会社に所属して働いていれば、仕事上で問題が発生しても会社全体で責任を負います。担当者が体調不良で業務から外れるならば、同僚や上司などが引き継ぎ、仕事に穴を開けないよう補うでしょう。

しかし、独立開業すると、業務の責任は全て自分で負わねばなりません。収入を大きく増やし、自由な働き方ができる反面、こうした負担がある面も理解しておきましょう。

デメリット2:業務以外の作業に手間がかかる

独立して仕事を受けるには、営業活動が欠かせません。また、日々の経費処理や会計業務なども自身で行う手間があります。自分の担当業務だけに集中できない点も、独立のデメリットです。

もし、業務外の作業が手に余ると感じるなら、人を雇ったり外注したりと、効率化を図る方法を取り入れましょう。

独立して高収入な中小企業診断士になるには準備や仕事の取り方も重要

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中小企業診断士として独立し、高収入を目指すなら、資金はもちろん他者との差別化を図り、受注に繋がる人脈作りも重要です。場合によって行政書士や司法書士、社会保険労務士などの資格と組み合わせて、特化した分野を持っても良いでしょう。

また、年会費の負担はありますが、都道府県協会への加入も中小企業診断士同士のネットワークとして役立ちます。

受けられる仕事の中には公的業務・民間業務などのほか、知見を生かしたセミナー講師や執筆業もあります。より収入を増やしたいなら、民間業務の受注を増やしたり、診断業務以外の仕事を受けたり、自身の得意分野で活躍できるようにしましょう。