フリーランスとして独立する前に、お世話になったクライアントにあいさつしておく必要があります。それは会社員時代にお世話になったお礼を伝えるだけでなく、独立後にクライアントとの繋がりが仕事に結びつく可能性もあるからです。

しかし独立前のクライアントに接触したり挨拶したりすることで、独立後にトラブルが発生することもあります。そこでこの記事では独立前にお世話になったクライアントにどのように接触し挨拶すればいいか、またその際の注意点について解説します。

会社員時代のクライアントが取引先を紹介してくれる場合がある

会社員時代のクライアントに挨拶をしておいた方がいい理由としては新たな取引先を紹介してくれる場合があるからです。ちなみに今まで所属していた会社で受けていた仕事をそのままフリーランスとして受けるのはルール違反になる可能性が高いです。

しかし別の取引先を紹介してもらうことは何も問題がありません。私の知人のエンジニアも会社員時代からの付き合いであるクライアントから、別の顧客を紹介してもらっていました。その知人は元の会社とも円満に退職し、会社員時代の取引先とも良好な関係を保っていました。

そこでは取引先から別の取引先の新規案件を依頼されたようです。会社員時代の取引先は、元の会社にも話をしてくれたようで、しっかりと許可を取って依頼をしてくれているとのこと。そのため元の会社とのトラブルにもなっていません。

このように会社員時代の繋がりをどれだけ独立後も保っていられるかは非常に重要なことなのです。そのためにはいかにお世話になったクライアントに接触して、上手く挨拶をするかが重要になってくるわけです。

独立前にお世話になったクライアントへの上手な接触・挨拶のポイント

引継ぎをしっかり行っていることを示す

依頼した企業にとってはあなたが担当者から外れてその後、誰が担当してくれるのか不安になるはずです。1か月ぐらい前だと会社側の判断で次の担当者にも引き継ぎが出来ますし、今までの感謝の気持ちをクライアントにも伝えられるはずです。引継ぎをしっかりすることは、クライアントを安心させるという目的もありますが、将来にわたってあなた自身の信用度も高めます。

実際、引継ぎがなされず急に担当者が辞めてしまって案件が滞ることがあります。私もある企業にシステム開発の案件を依頼していましたが、そのエンジニアが独立して退職してしまい、現状がどのようになっているか把握できないことがありました。

本来、辞める前に現在の作業状況を会社や他の担当者に伝えなければなりません。しかしその退職したエンジニアは、自分の作業状況を、他のエンジニアにも会社にも伝えていなかったのです。

そのため独立したエンジニアがどこまで作業していたかが把握できていなかったとのこと。その結果、一から作業で来ているかどうかの点検をする必要があり、納期がかなり遅れました。

個人的にそのエンジニアの連絡先も知っていたので、仕事を個別に依頼することも可能でしたが、クライアントのことを考えてないと判断して、連絡しませんでした。最後まで自分が担当した仕事の責任を持つという姿勢は、忘れないようにしましょう。

就業時間中に独立の連絡をしない

就業時間中に顧客に独立の連絡をするのは避けましょう。就業時間内に独立のメールを出しているのは、今の仕事に対して手を抜いているという印象を与えかねません。メールは送信時間が相手に見えてしまうのでメールを出す場合は、就業時間が過ぎてからにしましょう。

今の会社の批判をしない

フリーランスになる理由として、自由な働き方をしたいという方が多いです。それ以外に、「やりたい仕事に没頭したい」「もっと収入をあげたい」「家庭と仕事とのバランスを取りたい」というのもあるでしょう。そうした希望は、会社に属していては実現することが難しく、独立したいと考えている人もいるはずです。

例えば今の会社の仕事がハードで、なかなか家庭サービスができなかったこともあるかもしれません。しかしそれをクライアントに伝えてしまうのはよくありません。そうした発言は今の会社の批判をしているとクライアントに受け取られてしまう可能性があるからです。

反対に今の会社の良い面をクライアントに伝える方もいます。独立してフリーランスになるエンジニアの方が挨拶に来たことがありますが、「○○社は他社よりも顧客対応がしっかりとしており、良い会社です。技術者のレベルも高いです。私は辞めますが○○をよろしくお願いします」と言われたことがあります。

「技術者のレベルも高くて良い会社なのになぜ辞めるんだろう」と私は疑問に思ったので、本人に辞める理由を聞いてみました。すると本人は会社に縛られずに自由に働きたいという希望があり、会社側もそれを認めてくれて、円満退社になったとのことです。

しかも会社から独立後も仕事の依頼を受けることになっているようでした。会社として、フリーランスになることも応援しているのだそうです。この話を聞いたときに、社員のことをしっかりと考えている会社という印象がかなり強くなりました。

また同時に、会社の不満を口にせずにエンジニアとして独立するフリーランスの方にも仕事を任せたいと思いました。

もちろんこうしたエンジニアばかりではありません。筆者が会ったフリーランスの中には会社の不満を述べてしまう人もいました。前述したように、クライアントは今の会社と繋がりがあるわけですから、会社に伝わる可能性は高いです。

クライアントの側からすると、「そんな会社との取引は止めよう」となる可能性もあります。そのきっかけがあなたの批判だとしたら、会社との間で大きな問題になるはずです。辞める時には会社の悪い面ではなく、良い面をクライアントに伝えるようにしてください。

独立前のクライアントに接触する際の注意点

独立前にクライアントに挨拶をすべきなのは間違いありません。しかし一歩間違えば、法律や就業規則違反に問われることもあります。ここでは独立前のクライアントに接触する際の注意点について解説します。

会社に独立することを伝えて接触の許可をもらう

独立前にクライアントに接触する場合、必ず先に会社に対して独立することを伝えておきます。その上でクライアントに話をする許可をもらいましょう。前述したように、クライアントから会社に連絡が行く可能性は高いです。その時に許可をもらっていないと、トラブルの元です。

また後で独立することが発覚した場合、会社に内緒でクライアントから仕事を取っているのではないかと疑われる可能性があります。これもまたトラブルになる可能性が高いです。

さらに独立前は会社に属している会社員です。会社の業務の一環として挨拶していると考える必要があります。そのため会社側と話す内容も共有しておきましょう。

▼関連記事▼
遺恨を残さない! 立つ鳥跡を濁さない!フリーランス独立前の現職場での去り方の作法とは?

法律違反や就業規則に注意する

独立前のクライアントと取引すると、法律違反や就業規則に反する可能性が出てきます。前の会社の顧客情報を勝手に持ち出したという扱いになるため、それが「不正競争防止法」違反になる可能性があるわけです。

2022年10月に「かっぱ寿司」社長が不正競争防止法違反で逮捕されています。「はま寿司」の幹部社員から情報を得ており、ライバル企業の情報を不正に入手していたわけです。大企業なので大きなニュースになりましたが、企業規模は関係ありません。フリーランスが顧客情報を元の会社から持ってきて取引するのも同じです。

「かっぱ寿司」の例を見ても分かるように、日本では情報の持ち出しに対する意識の低い人が多いです。例えば会社員時代に自分が開拓した取引先だから、自分が独立後に取引しても良いだろうという人もいます。

しかし例え自分が開拓した取引先だとしても、社員としての仕事の成果は、会社に属しているわけです。そのためこれも不正競争防止法違反になる可能性があります。また秘密保持義務違反で就業規則に反する可能性もあります。

逆に私の知人は元いた企業と話し合った結果、自分が担当していた取引先をそのまま引き継ぐことに成功しました。それはクライアントの意向が大きかったからです。このように話し合いをしっかりと行い、クライアントとの関係が良い場合、そのまま取引を引き継げる可能性もあります。

新しい取引を持ち掛けない

クライアントと会社との契約を引き継ぐのはNGだと述べました。それならば新しい取引ならOKかというと、それもNGになる可能性があります。特に自分から契約を持ちかけるのはリスクが高いです。

競業避止義務に関する誓約書が存在している場合は、特に危険です。もし新しい取引をクライアントから持ちかけられた場合は、クライアントに独立前の企業に確認してもらうか、自分で元の会社に確認するようにしましょう。

実際に遭遇した好印象と悪印象の独立事例

私はフリーランスとして仕事をしながら、会社の役員もしています。そのため現在の取引先や過去に関係のあった企業から、独立する際の挨拶をもらうことがあります。ここでは実際に取引先から独立した人の好印象と悪印象の事例を紹介します。他山の石としてください。

独立を支援してもらえたと伝えてくれたA氏

A氏は独立が決まったコンサルタントの方ですが、所属していた会社はもともと独立する人が多い会社であり、むしろ独立することを推奨するような企業文化がある会社でした。そのような会社でしたので、フリーランスとして独立したA氏は、会社に対して感謝の気持ちが多いとのこと。

「自分のやりたいことを自由にやりたいために独立するだけで、会社そのものには不満は全くありません」とのこと。それどころか独立の支援もしてもらえたそうです。今ある仕事も継続的に依頼してくれるということです。なかなか辞める社員のために、支援することはありません。

そうした話を聞いたことで、私のA氏が所属していた会社の印象はかなりよくなりました。またA氏の印象も上がったため、今でも付き合いがあります。このように自分の会社に対する感謝をクライアントに伝えるということは、非常に印象が良くなるでしょう。

引継ぎ資料を詳細に作ってくれていたB氏

あるWEBアプリの製作を頼んだときのことです。その時の担当者はB氏でした。B氏はエンジニアとしてプログラミングだけでなく、上流工程である進捗管理もできる優秀なエンジニアでした。

前から独立するという話は聞いていたのですが、私たちが依頼している案件を行っている最中に独立することになったのです。B氏は「しっかりと引継ぎをしているので大丈夫です」と言っており、その通り、案件が滞ることはありませんでした。

次の担当者の方の話している時にB氏の話題になったのですが、B氏は今回の案件の引継ぎ資料を詳細に作って渡してくれていたのです。その資料には次の打ち手までも含まれており、どのようにリニューアルしていけばいいのかの将来に渡るポイントも書かれていたようです。

しかもその担当者は、今でも分からないところはB氏に聞ける関係だとか。自分が担当した案件については、例え会社を辞めた後でも責任を持って行うB氏の素晴らしさに感動した事例でした。

元の会社と同じことが安くできると主張するC氏

これは独立が決まったWEBマーケターC氏からの連絡だったのですが、元所属していた会社と同じ仕事がもっと安くできると言われたことがあります。確かにC氏が担当していたので、同じ仕事ができるのは分かったのですが、元の会社と契約書を結んでおり、勝手にC氏に頼むことはできません。

また今の案件をそのまま欲しいというのは、大変違和感がありました。そのため元の会社に対して、C氏から連絡があったことを伝え、C氏からの申し出は断りました。その後、一切連絡は来ません。

独立後の案件確保に不安があったのかもしれませんが、それまで一緒に仕事をしてきたので、そうした行動を取ったのは残念でした。今の案件ではなく、これから案件が発生した時に紹介して欲しいと伝えてください。

フリーランスとしての信用を失わないようにしよう!

フリーランスは個人の信用力が非常に大事です。クライアントとの繋がりを独立後も持ち続けたいがために、元の会社とトラブルになるのは避けなければなりません。元の会社とトラブルになっていると知れば、どのクライアントもあなたとの関係を切る可能性が高いです。

実際に私の知り合いで会社を裏切り、取引先と個人的に話して、自分の会社の方へと変更した人もいます。それほど大きな金額ではなかったのですが、そういう行為をした人に対しては、周りの視線は冷たくなります。

今まで仲良く付き合っていた人も離れていってしまったようです。私もそのひとりです。このように信頼を失うと、彼に仕事を頼もうという人は出てきません。少なくとも会社員時代の人脈の殆どを失ってしまったわけです。

こうした状況にならないためにも、元の会社との関係を悪化させずに、クライアントとの接触と挨拶をしていかなければなりません。また元の会社を円満退社することで、独立後も仕事をもらえることもあります。私の知人のひとりで会社から独立した後も、実際に仕事を元の会社から依頼されていた人がいます。

このようにフリーランスは、元会社からも取引先からも信用されることが最も重要です。信用を失わないように注意して独立しましょう。

▼関連記事▼
仕事が継続してやってくるフリーランスの人物像はこんな人!10の特徴を解説
受注前に知っておきたい!単価UP&顧客に選ばれるフリーランス5つの「掟」