「独立した方が自分の収入が増えるのでは?」「自分が独立してコンサルした方が、クライアントの予算負担も減るのではないか」など、独立を決意するにはさまざまな理由があると思います。しかし、特に同職種で独立する場合にはその「独立までの対応」によっては、退職した会社との間でトラブルが生じることもあります。

そこで今回はフリーコンサルタントとして独立、トラブルを避けるために絶対にやってはいけないこと、準備しておきたいことをまとめました。中には法律に関わる問題もありますので、しっかりと確認しておきましょう。

退職までの「心遣い」で印象は大きく変わる!

独立するとは「=働いている会社を辞める」ということ。独立を決意した理由がたとえ「会社への不満」だったとしても、やはり自分のキャリアやノウハウ、人脈を作ってくれたこれまでの会社への礼儀は通すことが重要です。

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退職のタイミングを考えよう

独立後の取引先との都合など条件はあるかもしれませんが、独立はなるべく会社に迷惑が掛からないようにすべきです。大きなプロジェクトに携わっているなら最後までは任務を遂行する、繁忙期までには後任への引継ぎが終わるようにするなどの心遣いをしましょう。

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上司からの引き止めは「持ち帰る」が基本

退職の意思は、まず直接の上司に相談するのが基本。上司から見れば、部下は共に仕事をしてきた仲間ですから、退職の交渉をする上では、ほぼ「引き止めを受ける」と考えて臨みましょう。時には自分の希望に近い条件の変更や代替案を提示されることも考えられます。自分はなぜフリーコンサルタントへの道を選ぶのか、自分の「理想の将来像」は独立という道でないと実現できないのか、しっかりと考えを固めておきましょう。

また、強い引き止めがあった場合は、「その場で断らない」ことが重要。無下に断ると上司の心証を害し、“円満な退職”が難しくなる可能性もあります。どんなに独立への意思が固くても、一度提案を受け止めて持ち帰り、後日「検討したうえでの結論」という形で退職の意思を改めて伝えるのがベターです。

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会社の物品やデータはしっかり返却を!

会社から借りていた物品などは退社前に必ず返却するようにしましょう。実際に筆者も「独立後にも使うから…」と使っていた文房具などの備品を全て持ち帰った人を何人か見たことがありますが、残された側からすれば、気持ちの良いことではありません。

中には「会社から指摘される前にデータの返却届を作成し、どこに何のデータを格納したのを一覧にして会社に提出した」という人もいます。そこまで完璧にできると、会社からの印象も大幅にアップするはずです。

退職するその日まで就業規則の厳守を!

もともと上司との折り合いが悪い、退職の話し合いが上手くいかず、会社との関係が悪化した…といった場合は、特に退職日までの行動に気を付け、就業規則や社内規定を厳守するよう心がけましょう。

退職日までは労働契約期間中であり、就業規則などの会社の規則や上司の指示に従う義務があります。実際、勤務期間中に新しい職場で使用する顧客リストや退職の挨拶状を作成したことが上司に見つかり、就業規則違反に問われ、退職金の減額処分を受けたという実例もあります。

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関連する法律についての正しい知識を身に付けよう

これまでの経験を活かしてフリーランスコンサルタントとして独立したいと考えている場合、同業種での独立は競合相手ともなるため、トラブルが生じるケースもよくあります。職業選択の自由は憲法で保障されているとはいえ、在籍していた企業に対して損害を与えることがないよう、配慮しなければなりません。

そのためにも、「競業避止義務」や「不正競争防止法」といった法律の知識はしっかりと理解しておきましょう。

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「競業避止義務」とはどんな法律?

競業避止義務とは、従業員が同じ事業を行っている競合企業への転職や、新たに同業種で起業することを禁止するための契約のこと。その内容については、入社した際に記入を求められる「誓約書」や「就業規則」にその内容が記載されていることがほとんどです。

会社に勤務している間はこの競業避止義務を負っているため、契約内容を厳守しなければなりませんが、退職後は憲法で「職業選択の自由」や「営業の自由」が保証されているため、競業は自由であることが原則です。

ただし、企業によっては、入社時に交わす「誓約書」に退職後の競業避止義務についても言及、制限を設けているケースもあります。その場合、競業避止義務に抵触すると判断されれば、契約を交わした企業から損害賠償請求の訴訟を受ける可能性もあります。それを避けるためにも、起業する前に自分が在籍していた企業と入社時にどんな契約をしているのかしっかり確認してくことが大切です。

退職時に競業避止義務に関するサインを求められる可能性も!

また、入社時に交わした誓約書や就業規制には記述がなくても、ノウハウの流出を防ぐことを目的に退職時に新たな「合意書」や「誓約書」へのサインを求めてくる企業もあります。特に機密性が高い情報や独自のノウハウの取り扱いが多いコンサルティング業の場合、そのような文書へのサインを求めてくるケースは大いに考えられます。これらの書面を提示されたら、秘密保持義務や競業避止義務に関する記述がないか、しっかりとその内容を確認するようにしましょう。

実は筆者も、独立を決めた後、在籍していた企業から退職時に「合意書」を提示され、サインを求められた一人。そこには「退職後、半年間は在籍時に取引した人材、企業との取引・接触を禁ずる」という一文があったため、サインをお断りした経験があります。

このように、退職時に提示された「誓約書」や「合意書」は、必ずしもサインをしなければいけないものではありません。一読してその内容に気になる点がある、不安があるといった場合にはサインを拒否することも可能です。もしサインを強要された、断りにくいといった場合は、弁護士などが運営する退職代行を利用するというのも一つの手段です。

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独立前の顧客とのやり取りには注意が必要!

また、独立・開業当初は、新たな顧客を見つけることがなかなか難しいのが現状。そのため、独立前にやり取りをしていた顧客との関係をそのまま続けたい、新たに契約を取りたいと考える人も多いでしょう。しかし、顧客に関する情報やデータは、その企業にとっての「営業秘密」に該当する可能性が高く、不当な方法で持ち出し、それを利用すると「不正競争防止法」という法律に抵触することになります。

不正競争防止法においての「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。顧客データだけでなく、その企業独自で開発した技術やノウハウなどもこの定義に該当していれば「営業秘密」となり、勝手な持ち出しや利用は法律違反となり最悪の場合、制裁が科せられる可能性もあります。

顧客情報を「利用」しなくても、社外に持ち出す、退職時に返却せずに所持していることも禁止する規定を設けている企業も多くありますので、きちんと社内規定を確認し、慎重な対応を心がけてください。

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これまで築いた「すべて」を失う可能性も。

ここまで「競業避止義務」「不正競争防止法」など、独立・開業に当たり覚えておきたい法律について解説しました。これらに抵触する行動は、最終的に損害賠償を求められる、罰則を科せられる可能性があるだけでなく、在籍していた企業との関係はもちろん、それまで自分で努力し、築いていた人脈や信頼関係までも失い、独立・開業の夢が根本から崩れてしまった例もあります。

Case.1 確認不足で突然「警告書」が送られてきた

長年勤めたコンサルティング会社を退職し、独立・開業を決意したAさん。フリーコンサルティングとなって間もなく、独立前の会社で懇意にしていた取引先の社長から新たなお客様をご紹介いただくなど、順調な活動を続けていました。ところが起業して8か月が過ぎた頃、突然、独立前の会社から「競業避止義務に抵触している」との警告書が送られてくるという事態に。そこで改めて確認したところ、入社当時に交わした「誓約書」で、退職後1年間の競業避止義務が課せられていたことが判明したのです。

独立後、在籍時に取引していた企業への営業活動や受注がなかったこと、同僚や上司などへの引き抜きや勧誘も行っていなかったことから、何度かの話し合いの結果、「厳重注意」でことなきを得ました。しかし、元上司からは退職時に独立・開業を報告しなかったことを叱責され、また、お客様を紹介していただいたかつての取引先からも説明を求められるなど、信頼関係にも傷がついてしまいました。

それが直接の理由かどうかはわかりませんが、ご紹介いただいたお客様との契約も1年で終了となってしまったため、今は、売り上げにも大きな影響が出始めています。

Case.2 熱意が「非常識」と判断される結果に

ある業界専門誌の編集部に勤めるBさんは、黒字経営でありながら制作費削減を強く求めてくる上層部の姿勢に不満を感じていました。あまりの締め付けに「これではやりたいことができない」と退職する同僚が続出、さらには外部スタッフへのギャランティーまで切り詰めるしかなく、「この金額では…」と次々に依頼を断られてしまうなど、制作業務にも支障が出るようになっていました。

そこでBさんは一念発起し、自身が独立・開業して同様の業界専門誌を立ち上げることを決意。退職前の会社で使っていた顧客データを元に新たな媒体の紹介と掲載のお願いする営業活動を開始しました。

Bさんとしては、多くの人が感じていた不満を「自分が解決する!」という正義感からの行動ではありましたが、当然、狭い業界内ですぐに噂となり、在籍していた企業と訴訟寸前のトラブルとなってしまいました。

また、退職後すぐに全く同じような業界専門誌を立ち上げたこと、退職前の顧客データを使って営業活動を展開したことに対して「あまりにも非常識だ」と非難が集まり、独立前まで友好な関係を築いていた取引先や外部スタッフからも敬遠されるという最悪の展開に。結局、たった半年で売上の目処が全く立たなくなり、独立・開業はもちろん、これまで築いてきたキャリアも諦め、全く違う業界へと転職せざるを得ない結果となってしまいました。

フリーランスとして活動するには、社会人としての礼儀・礼節、そして信頼が欠かせません。契約書や法律の確認不足や「大丈夫だろう」という見切り発車が大きな損失やトラブルにつながることを肝に銘じておきましょう。

トラブルを回避するために心がけたいこと

ここまで述べてきたように、独立後、在籍していた会社とのトラブルとなるのは、会社が持っている技術や情報、そして顧客をめぐることがほとんどです。特に同業種で独立する場合は、トラブルを回避するためにも、元の会社と一定の距離を保つこと、そして以下のような「禁止事項」を守ることを心がけましょう。

顧客情報を持ち出さない

例え、自分が見つけて営業・商談をし、取引が始まった顧客であっても、それが会社に在籍していた時の話であれば、そのデータはその会社のものになります。

独立前に懇意にしていた顧客と独立後も仕事をしたい、良い関係を築きたいと考えるのは当然の感情ともいえますが、顧客データを持ち出し、それをもとに営業や勧誘をかければ、やはり会社側から見れば「顧客を取られた」と感じますし、その行為により「売上が減少した」と判断すれば、最悪の場合、損害賠償を求められる可能性もあります。

トラブルを引き起こさないためにも顧客データはしっかり引き継ぎ・返却し、独立後は自分で新たに顧客開拓するのが基本です。

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技術やノウハウを持ち出さない

各企業が考案し、確立したノウハウは、独自アイデアがつまった画期的なものも多く含まれます。そうした会社独自のノウハウには持ち出しに制限をかけているケースも多く、勝手に持ち出し、そのノウハウを使ってビジネスモデルを作り上げているのが分かれば、トラブルに発展することもあります。

また、会社が所有する特許技術などは、認可済みであれば正当な知的所有物であり、持ち出すと大きなトラブルに発展します。盗用を目的として持ち出したのが発覚すれば、犯罪となり逮捕される可能性もありますので、技術の持ち出しは決してしないようにしましょう。

在籍していた企業への確認を

同業種での起業を考える場合は、考えている事業内容が競業避止義務に抵触していないかを企業と直接話し合うのもオススメです。具体的にどのような内容の事業を行うのか、在籍していた企業の営業に影響を与えない地域の選定などを明確に伝えておけば、トラブルの回避にもつながります。

・・・いかがでしょうか。

フリーランスコンサルタントとして活動できるまでにスキルと経験を磨くことができたのは、在籍していた会社のおかげでもあります。無用なトラブルでせっかく築いた実績や信頼関係まで失うことがないよう、最後まで確認、報告等を怠らないようにしましょう。

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