請け負った仕事の量がそのまま収入に直結するフリーランス。「まずはお客様を獲得しないと…」と、新規顧客の獲得に躍起になっている――なんてことはありませんか?

たぶん、多くの企業、事業者が「事業を成功させるためには新規顧客を獲得することが必要」といった思いから、新規獲得に偏ったマーケティングを展開していたと思います。しかし、今、既存顧客をしっかりと維持する方が事業の成功につながるという「1:5の法則」や「5:25の法則」が広まり、その考え方も変わりつつあります。

そこで「1:5の法則」「5:25の法則」について改めて知るとともに、既存顧客維持のために心がけるべきポイントについても考えていきましょう。

そもそも「1:5の法則」「5:25の法則」とは?

みなさんは、マーケティング用語に「1:5の法則」というものがあるのをご存じでしょうか。「1:5の法則」とは、新規顧客を獲得するためのコストは、既存顧客から売上を上げるためにかかるコストの5倍かかる…という法則のことをいいます。

もう少しわかりやすく考えていきましょう。

例えば、新しくオフィス街にカフェをオープンするとします。まずはお店がオープンしたこと、そしてどんなメニューがあるのかなどを一人でも多くの人に「知ってもらう」ことが必要ですので、最初はチラシを作製して配布する、駅や地域の情報誌などに広告を出すなどの宣伝をしなくてはなりません。また、「まずは一度、店に来てもらうため」と、チラシに「開店キャンペーン」と銘打った割引券をつける…なんてケースも珍しくありません。

そうなると、例えば1,000円のランチを1食提供した場合、宣伝費や割引券による値引き分などを差し引くと、純粋な収入は半分の500円もあれば良いのではないでしょうか。

しかし、一度来店していただいたお客様に再度お店に来ていただき、同じ1,000円のランチを食べてもらうと思ったら、次回の来店に使える100円分の割引券を配るだけでも、充分な効果が期待できるはずです。

つまり、同じ「1,000円」という額の売上を達成するにも、新規顧客に販売する方が5倍もコストがかかり、利益率が低くなってしまうということ。ここから事業成功&成長のためには、新規顧客の獲得以上に既存顧客を手放さないよう、その関係維持に力を入れることが重要であり、より利益を得られる…というのが「1:5の法則」の考え方です。

また、「5:25の法則」も同様で、新規のお客様の5%をしっかりと維持し、離脱させることなくリピーターにすることができれば、収益は25%アップする…と説いています。

確かに、自分がお客様の立場だったら…と考えてみても、全く知らない会社からいきなり営業を受けても最初はやっぱり「本当に大丈夫なの?」と警戒しますし、よっぽど商品に魅力を感じるか、大幅な割引があって「一度くらいならいいかな」と思えない限り、積極的に購入しようと踏み出すことはないと思います。

しかし、一度商品を購入したことがある・足を運んだことがある店で、その製品やサービスにある程度の満足度を感じていれば、警戒もためらいもなく再度同じ商品を購入するでしょうし、その店で扱っている別の商品をプラスして購入する…なんてことも珍しいことではないと思うのです。

フリーランスの「新規案件獲得」はさらに難しい!?

この法則は、フリーランスが案件・取引先を確保しようとする場面においても同じ…いや、あくまでも筆者個人の感覚ではありますが、「1:5」どころか、もっと「1:7」とか「1:8」くらい比率が大きいように思います。

そもそもフリーランスが新たに案件を確保するためには、人材や案件の紹介サイトに登録する、経歴書やポートフォリオを作成し送付するなどのさまざまなアプローチが必要となりますが、まずそもそもの問題として「業務委託」の募集は非常に少ないのが現状です。その少ない募集に多くの人材が応募するわけですから、特に独立したばかりで経験や実績の少ないというフリーランスコンサルタントの場合、書類審査を通過することも、面接を勝ち抜くのも当然、難しいものになっていきます。

実際、筆者自身もライターとして独立した当初は提示できる作品・実績がほとんどなく、毎月の収入よりも履歴書や経歴書、作品を出力し、郵送する金額の方が多い…という月が何カ月も続き、苦労した記憶があります。

また、日本の場合、まだまだ「フリーランスに仕事をお願いする」ということ自体に抵抗を感じる企業が多いのも事実。実際、経営コンサルタントとして活動する知人も、「スキルも実績も申し分ないけれど、うちの会社は個人取引をした実績がないから難しいんだよね…と断られた経験がたくさんある」といいます。こうした報われない思いをした経験をお持ちの人も少なくないと思います。

案件確保のためのいわゆる“営業活動”は、いざ取り組んでみると、かなりの時間も手間もかかるもの。「応募できそうな案件」を真剣に探すだけでも、半日、1日なんてあっという間に過ぎていくはずです。そのせいで既存のお客様の仕事に遅れが生じるなんてことは一番避けたいこと。もちろん新規のお客様へのアプローチは大切ですが、既存顧客からの要望にしっかりと応え、関係を維持する方が、その後の紹介などにつながる可能性もありますし、着実な成長・発展への近道になるのではないでしょうか。

既存顧客維持のために「心がけるべきポイント」とは?

既存顧客との関係をより良いものとし、さらにリピートでの依頼を促進するための活動のことを「リテンションマーケティング」といいます。リテンション(retention)とは、「維持」や「保持」を意味し、既存顧客との関係を良好に維持することで、売上をさらに伸ばしていこうという営業手法です。

では、フリーランスコンサルタントにおける「リテンションマーケティング」成功のポイントはどのような点にあるのでしょうか。そのためにもまずは考えたい・実践したい3つのポイントをご紹介しますので、ぜひ今後の参考にしてみてください。

常に「相手に喜ばれること」を想像した行動を!

既存顧客のリピートを促進させ、何度も依頼を寄せてくれるような「優良顧客」とするためには、「顧客からの期待に応える満足」を超え、「顧客の期待を超える感動」を提供することが重要だといわれています。

そのためには依頼された案件に対して「納期を守る」「必要な連絡・報告を欠かせない」といった最低限必要となる“期待”にしっかりと応えるだけでなく、常に「何をしたらお客様が喜ぶか」を想像し、それを実行するようにすることも重要です。

例えばWebコンサルサントであれば、提案によって導入を決めたシステムの基本的な使い方だけでなく、その企業に合わせた有効と思われる活用法を先回りして提示する。また、経営コンサルタントであれば、担当部門の売上がさらに上がるような販促手法を提案してみるなど、頼まれていなくても相手の業務負担を減らす・楽にすることを常に考え、行動するようにしてみましょう。

その結果、「ここまで頼れるのか」「こんなこともしてくれるの?」と思ってもらえるような“感動”を提供できれば、よっぽどのことがない限り関係が途切れることはないはずです。

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継続的なコミュニケーションとアフターサポートを!

依頼されたプロジェクトが無事に終了、お客様もその成果にそれなりに満足している――あなたはそこで「ひと段落」「すべて終了」と思っていませんか?

BtoCはもちろん、BtoBにおいても「売れたら終わり」「プロジェクトが終了したら終わり」という考えでは、さらなる展開・リピートにはつながりません。業務がひと段落した後も、できる限り定期的に連絡を取り「その後の成果は?」「不都合や不便はないか」などの状況を必ず確認するようにしましょう。

こうしたこまめなアプローチこそ、信頼関係構築の近道であり、その積み重ねによって、ITコンサルタントの知人のように「実はこんな問題が…と新たな相談を持ち掛けられ、追加依頼につながった」などの事例も生まれるのです。そのためにも担当者と接するときには徹底して相手の話に耳を傾ける姿勢を貫き、相手に「なんでも聞いてもらえる」「相談しやすい」という印象を持ってもらうよう心がけましょう

フリーランスが一つの企業・取引先から仕事を継続的に依頼されるようになるためには、依頼された仕事の質だけでなく、こうした人柄の誠実さ、信頼度も大きな「選ばれる要素」となります。「仕事が終わったら、何の連絡もなく放置された」というイメージを持たれないためにも、定期接触の機会を設けることも重要なのです。

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常に「学び」を重ね、必要な情報を定期的に提供しよう

企業にとって「最新の情報を提供してくれる」ことはコンサルタントの評価を左右する大きなポイントのひとつ。特に日進月歩で技術が進化するIT系・Web系企業にとっては、依頼したコンサルタントが最新のIT知識や技術についても精通し、それに基づいた提案をしてくれるかどうかは企業の売上向上・成長を考えるうえでも譲れないポイントです。もし、会話や提案の内容から「この人は古い技術や手法しか持ってない」と感じたら、その段階で、「今後も取引を継続しよう」と考える確率はグンと低くなっていくはずです。

ネットが普及した今は、自分で少し調べれば、あらゆる情報を瞬時に得ることができます。これまでの経験やスキルに満足し、「自分が持っている情報こそ最新」だと思っていても、あっという間に新しい情報は蓄積されていきますし、その分野の知識を「極めた」と思っていても、ちょっと油断していれば、すぐに追い抜かされ、時代に置いていかれてしまいます。

コンサルタントとして満足度の高い成果を提供するためには、常にクライアント企業や市場の動向はもちろん、関連する最新の技術や知識、法規制に関する情報にアンテナを張り、顧客に「正しい情報」を提供できるようにしておきましょう。また、顧客にとって役に立ちそうな情報を入手したら、こまめにお届けすることも大切。それが直接、売上や業務改善などにつながらなくても、「いつも自分たちのことを考えてくれている」という印象を与え、信頼関係の構築にも役立つはずです。

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新規顧客獲得と既存顧客の維持、どのくらいのバランスを保つべき?

ここまで、新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持に力を注ぐべき――とお伝えしてきました。でも「既存顧客」を得るためには当然、新規顧客獲得のための活動も必要であり、なかには「どんなバランスで施策を考えていけばいいの?」と悩む方もいるでしょう。

新規顧客は、一度仕事の依頼を受け、プロジェクトを完結させれば既存顧客となります。そのため例えば「独立したばかりで取引先が1社、2社しかなく、収入が心もとない」という状況であれば、日々の業務に支障をきたさない範囲で新規顧客獲得にも力を注ぐべきです。

反対に「今は毎月安定した収入が得らえている」などフリーランスとしての業務が軌道に乗っているようであれば、きっと「新規顧客も確保した方がいいかな」と思っても、その部分に費やす時間を捻出する方が難しいのではないかと思います。その場合は、既存の顧客としっかり向き合い、満足度を高めることを重視しましょう。顧客との信頼関係をより強いものにしていくことで他の案件や他部署をご紹介頂いたり、新規顧客をご紹介いただけるチャンスも広がるはずです。

新規顧客、既存顧客のどちらによりアプローチすべきか、そこには明確な答えがあるわけではありません。自分の毎月の仕事量や収入のバラつきの有無などを確認し、そのバランスを調整していくといいでしょう。

・・・いかがでしょうか。

フリーランスで活動されるコンサルタントの皆さんは、たぶん「新規顧客より既存顧客の方が、案件獲得コストが低い」ということを、これまでの経験の中でも感じているのではないかと思います。新規募集も少なく、新たな取引先確保がより難しいフリーランスコンサルタントの現状を考えても、がむしゃらに「営業するぞ!」と行動するよりも、今、お取引のあるクライアントとしっかり向き合い、信頼関係を築く方が安定した成長につながるはずです。この機会にもう一度、現在の取引先との向き合い方、業務を進めるうえでの改善点はないかなど、見直してみるのもいいですね。

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