フリーランスコンサルとして独立したいと考えたときに、個人事業主として独立するのかそれとも法人化して独立するのかと考えるはずです。
どちらが良いのか考えるためには、個人事業主としての独立と法人化してからの独立の違いについて理解しなければなりません。この記事では個人事業主と法人化の違いは何かについて説明します。
個人事業主とは
個人事業主は個人として事業を行う人のことを指します。税務署に開業届を提出し、事業を始めることで、個人事業主になれます。開業届は事業を継続して行っている場合、事業を始めてから1か月以内に提出しなければなりません。
個人事業主と似た言葉でフリーランスがあります。フリーランスは働き方の名称なので、フリーランスと名乗れば誰でもなれます。その為開業届を出さずに単発で仕事を受けている場合、個人事業主ではありませんが、フリーランスです。フリーランスが開業届を出せば、個人事業主として税法上分類されます。
現在、働き方が多様化しているため、フリーランスの割合も増えています。ランサーズが行ったフリーランス実態調査によれば、フリーランスの人口は2021年に1670万人で労働人口の24%を占めており、今後もさらに伸びるでしょう。
フリーランスや個人事業主は働いた分だけ収入を得られる一方、会社員時代のように毎月決まった給料が振り込まれることはありません。社会保険も国民健康保険と国民年金になります。会社が半分払う厚生年金と違い、国民年金は自分一人で払うものになるため、厚生年金とは支給額に差があります。
日本では会社員のように社会的信用がないため、賃貸物件を借りたり、クレジットカードを作ったりする際に不利になる場合もあるのです。
また従業員を雇っているのは法人と思われがちですが、個人事業主でも従業員は雇えます。その為、会社のように従業員を雇って事業を展開することも可能です。
▼関連記事▼
フリーランスと個人事業主の違いは?それぞれのメリットデメリットを解説
法人化とは
法人化とは個人で事業を行うのではなく、法人を設立して事業を行うことです。法人になることで個人事業主よりも社会的信用が高いです。その為、資金調達もしやすくなります。
また経費で計上出来る項目が多くなるため、税金対策が個人事業主よりも有利になります。その一方で売上が少ない場合は個人事業主よりも多く税金を負担しなければならない場合があることや、法人化する際の登記の申請に手間がかかるというデメリットがあります。
そのため私のフリーランスの知人の多くは、売上と利益が一定程度を超えた段階で、法人化しています。
▼関連記事▼
意外な壁も!法人口座の開設がカンタンな銀行、難しい銀行とは?
精算ラクラク!個人の財布を傷めない!独立したらすぐ作っておくべき法人カード5選
コンサルタント起業を成功させる!営業方法や必要なスキル、法人化について解説
“苦しい”フリーランス生活から抜け出そう!「売上の呪縛からの解放」へと近づく3つの行動とは?
フリーランスも経費を使える!利用可能な経費の種類や節税のポイントを解説
個人事業主or法人化?独立時の違いとは
個人事業主として独立するか、法人化して独立するか、その違いはどこにあるのでしょうか。ここでは独立時の主な違いとして3つ紹介します。
個人事業主は開業手続きが楽
個人事業主と法人化して独立するのとでは、開業時の手続きの簡便さが違います。個人事業主として独立する場合、開業届を税務署に提出するだけで終わりです。実際に私も開業届を出したことがありますが、簡単に手続きが済みました。ただし会社員から独立して個人事業主になる場合は、提出のタイミングが重要になります。
基本的には開業して1か月以内で提出するのが開業届です。しかしどのタイミングで開業するかは考える必要があります。その理由が失業給付です。会社を辞めた場合、失業給付を受けられます。ただ開業届を出してしまうと、この失業給付を受けられない可能性が高いのです。
なぜなら失業手当は、本人が再就職する意思のあることが条件になっているからです。開業届を出してしまえば、本人に再就職する意思がないことを示していることになります。そのため失業給付の無くなる可能性が高いわけです。
こうした事情を踏まえ、個人事業主の場合は、開業届の提出のタイミングのみ注意が必要になってきます。
また個人事業主の多くが青色申告の手続きをしています。白色申告から青色申告に切り替えることで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。また純損失の赤字を3年間繰り越せます。他にも減価償却の特例を受けられるなどのメリットがあるわけです。
青色申告は新規開業日によって提出期限が変わります。1月15日以前に開業した場合は、承認を受けようとしている年の3月15日まで、1月16日以後に開業した場合は、業務を開始した日から2か月以内に提出します。
提出期限については忘れてしまうことが多いので、開業届と一緒に提出しておきます。
一方法人の設立は手続きが複雑です。2006年の法改正により、資本金1円からでも会社設立が可能となり、役員も最低1人いれば良いとなりました。その為、法人を作るハードルは以前に比べればかなり低くなったと言えます。
しかし法人化には登記が必要です。これには定款の作成や認証も含まれており、会社の設立が完了するまでに大体2週間程度かかります。
また法人化する際には費用もかかります。会社を設立する際に25万円ほどの資金が必要です。そのうえ資本金も必要です。資本金1円から法人は設立できますが、実際には数百万円の資本金でないとオフィスの賃貸物件の審査も通りません。
独立時にこの費用を負担するのは、資金に余裕が無ければ難しいでしょう。このように手続き面を見れば、圧倒的に個人事業主の方が簡単に独立出来るのです。
▼関連記事▼
フリーランス創業時に資金はどのくらい必要?知っておきべき創業融資&補助金の基礎知識
HP、Zoom、Google Workspace…フリーランス開業前の必要サービス厳選13!
フリーランスが賃貸オフィスを借りる際の注意点
フリーランス1年目は賃貸契約できない?審査を通過するポイントを解説
法人は社会的信用が得られる
法人化して独立するメリットとしては、社会的信用が得られることです。個人事業主よりも法人の方が社会的信用の高いのは、法人は廃業する際にも手続きが必要なため、簡単に経営を止められないからです。
また法人の場合、経費の処理などを厳密に行わなければなりません。一方、個人事業主の場合、事業資金と生活資金が厳密に分割されていないことが多々あります。法人の場合、そうした混同もなく決算書で財務内容を知ることもできるわけです。
さらに法人は社長とは別人格です。その為、賃貸物件を借りる場合、法人で契約して社長が保証人になれます。第3者に保証人になってもらう必要がなくなるわけですが、その責任を社長が連帯して背負うことも意味しています。
会社の運営に問題があれば、社長自らが債務の返済等を行わなければなりません。法人の方が、自分で責任を取るという決意が見られるため、信用力が増します。
こうした違いがあるため、仕事を依頼する企業側としても、法人とのやり取りの方が安心だという面があります。最近はフリーランスも増えてきており、さらに副業を認めている企業もあるため、個人事業主だからといって仕事は全く取れないということはありません。
実際に私が仕事をもらった大手企業は、今まで個人事業主とは取引をしたことがないと言っていましたが、わざわざ社内で規定を作ってくれて、個人事業主でも契約出来るようにしてくれました。そのため契約後の仕事もスムーズに行えました。
ただ法人のみとだけ取引している企業も実際にあります。あるウェブマーケティングの会社の仕事を業務委託で受けたことがあります。そこで顧客(法人)の代わりにインタビューを聞く機会がありました。「なぜ当社を選びましたか?」という質問に対して、「法人だから信用出来る」という答えが多くありました。
ウェブマーケティングの仕事は個人でも請け負うことが出来る仕事です。しかし企業の側としては、依頼するなら法人の方が良い、信頼出来ると考えているわけです。このように法人化したほうが、社会的信用があるために、個人事業主よりも受注出来る仕事は増えるでしょう。
また法人化した方が金融機関からの借り入れや、投資家からの出資が受けやすくなります。個人事業主で資金調達をしようとすると、どうしても金融機関が限定されてしまうのです。
法人の方が、社会的信用があるため、資金調達がしやすいというのもメリットでしょう。
さらに人を雇って事業展開したいという場合、個人事業主よりも法人の方が、優秀な人材が集まりやすいです。一般的に法人の方が、社会的信用が高く、採用活動がしやすいからです。
▼関連記事▼
フリーランスを成功に導く、資金調達・経営の相談も出来る税理士を探すには?
フリーランスがローンを組むには?審査のポイントや注意点を解説
フリーランスで受け取れる給付金は?利用できる給付金の種類を詳しく解説!
フリーランス創業時に資金はどのくらい必要?知っておきべき創業融資&補助金の基礎知識
税金の仕組みと税率が違うため所得が一定以上なら個人事業主よりも節税出来る
所得が一定以上なら、法人化することで個人事業主よりも節税出来るというメリットがあります。個人事業主の場合、所得税は累進課税方式が採用されているため、所得が増えれば増えるほど税率が高くなります。
一方法人税は原則同率課税のため、中小法人であれば所得が800万円以下については15%、800万円を超える場合には23.2%の税率です。また法人の場合、個人の給与を役員報酬として経費の計上ができます。給与にすれば所得控除が使えるため節税効果もあるのです。さらに所得控除が使えれば、所得税や住民税の額も抑えられます。
こうした条件を考えると800万円の所得が出たあたりから、法人化したほうが得になります。ただしコストや社会保険料も計算する必要があるので注意が必要です。
他にも税制の違いとして、法人の場合、法人住民税と法人事業税がかかります。法人住民税は赤字でも払わなければなりません。こうした税制上の違いも踏まえながら法人化すべきかどうか考えなければならないわけです。
▼関連記事▼
高年収の見通しがあるフリーランスは注意!前年度の住民税や思わぬ出費が重くなるための預金の準備を!
フリーランスで確定申告が必要なのはいくらから?申告方法や注意点を解説
フリーランスが納める税金は?税金の種類や納税の注意点などを詳しく解説!
コンサルタント起業を成功させる!営業方法や必要なスキル、法人化について解説
フリーランスも経費を使える!利用可能な経費の種類や節税のポイントを解説
法人化は独立時にするのが一番いい?
ここまで個人事業主として独立するのか、それとも法人化して独立するのが良いのか比較してきました。フリーランスの場合、個人事業主として独立し、その後、条件を満たした段階で法人化するというのが一般的です。
その為ここではどのような条件を満たしたら法人化した方が良いのか、そのポイントについて説明します。
所得が800万~900万円を越えた時
節税の所でも述べた通り、所得が800万から900万円を超えたあたりから、個人事業主よりも法人の方が税制上、得になります。個人事業主の場合、所得が増えれば増えるほど納税額も増えます。
一方中小法人であれば税率は、800万円以上の所得が出ていれば変わりません。所得が増えれば増えるほど法人化した方が良いというわけです。その為所得が800万から900万円を超えたときに法人化する個人事業主が多いです。
▼関連記事▼
フリーランスの平均年収はどれくらい?平均年収以上に稼ぐ方法も解説
高年収の見通しがあるフリーランスは注意!前年度の住民税や思わぬ出費が重くなるための預金の準備を!
個人事業主2年後に法人化がお得
急いで法人化しなくても良い人は、個人事業主2年後に法人化がお得です。そうすれば個人事業主開業後2年間、その後法人化2年間の合計4年間は消費税の支払い免除になります。先ほども説明したように、消費税の基準は2期前です。
そのため個人事業主でも法人でも消費税が免除されるわけです。法人化を急いでないという方は、個人事業主2年後に法人化するのも良いでしょう。
取引先を増やしたい時
個人事業主と法人化の違いのところで、法人の方が、社会的信用があると述べました。個人事業主でも十分取引先はありますが、法人化した方が、さらに取引先が増えます。特に大手の場合、法人としか取引しない企業が多いからです。
なぜ個人とは取引しないかというと、個人と取引をした場合、連絡の取れなくなってしまうことがあるからです。連絡が付かなくなった個人事業主の人が何人かいたと、企業の担当者から聞いたことがあります。わざわざそうしたリスクを冒してまで、大手が個人と取引する必要はありません。
その為これからさらに事業拡大したい人は、法人化を検討した方が良いでしょう。
▼関連記事▼
フリーランス1年目は賃貸契約できない?審査を通過するポイントを解説
従業員を増やしたい時
従業員を増やしたい時も法人化するタイミングです。個人事業主の場合、従業員を5人以上雇用する際には社会保険の加入が必要になります。その為従業員を5人以上増やしたい場合は、法人化を検討しても良いでしょう。
法人になると従業員数にかかわらず社会保険に加入しなければなりません。社会保険は会社と従業員が半分ずつ負担する形になるため、従業員が増えれば増えるほど、会社側の負担は大きくなります。
しかし従業員の側として、法人は社会保険の加入義務があるわけですから、法人化している会社で働きたいと考えるのが一般的です。
従業員が5人以上になれば、個人事業主でも社会保険に加入しなければならないので、社会的信用を得るためにも、法人化して従業員を増やしていくようにしましょう。
法人化を検討するなら税理士や専門家に相談すべし
ここまで個人事業主として独立するか、法人化して独立するかについて説明してきました。また法人化のタイミングは独立時に限らず、どのタイミングが最適かについても説明しました。
しかしいつ法人化すれば良いかのタイミングについては、税理士や専門家に相談したほうが得策です。ここで法人化するタイミングの基準を述べましたが、法人によって差はありますので、利益が800万円なくても法人化したほうが得な場合もあります。
法人化した際にはいずれにせよ顧問税理士が必要になります。理由としては、法人化すると会計処理が複雑になるため、税理士に依頼しないと処理できないからです。顧問税理士を選ぶという意味でも、いつ法人化したらいいのか、税理士に相談してみましょう。
法人化のシミュレーションをしている税理士もいますので、一度相談してみてください。