会社員にとって、定年後に受け取る退職金は老後の大切な収入です。
しかし、フリーランスには退職金制度がありません。会社員のように厚生年金に加入できないため、国民年金のみに加入しているフリーランスの方は老後の暮らしに不安があるのではないでしょうか。
「フリーランスだから退職金がないのが不安……」「もしも廃業することになったらどうしよう……」「将来のために何か始めておきたい!」と考える方もいるはず。
そんな方におすすめしたいのが「小規模企業共済」です。
本記事では、フリーランスの退職金制度として利用されている「小規模企業共済」について解説します。メリット・デメリットや他の制度との違いについてもお伝えしますので、老後の生活に不安があるフリーランスの方はぜひ参考にしてみてください。
フリーランスのための退職金制度「小規模企業共済」とは?
フリーランスには会社員のような退職金がないため、できるだけ早く老後資金を準備しておくことが大切です。
「小規模企業共済」は、フリーランスの退職金代わりになる制度で、1965年に発足しました。政府の機関である中小機構が運営しており、2022年3月時点で約159万人が加入しています。
「本当に将来お金を受け取れるの?」と不安な方もいるかもしれませんが、公的機関であることや加入人数を考えると、積み立て先が破綻するリスクは低いと言えるでしょう。
小規模企業共済には、以下のような特徴があります。
・小規模企業の経営者、役員、個人事業主などが対象
・月1,000円から7万円まで、500円単位で自由に選べる
・月払い、半年払い、年払いで選べる
・掛金は増額、減額ができる(減額の場合は一定の要件が必要)
個人で加入できる制度ですが、従業員数や事業内容により加入できるかどうかが変わります。配偶者などの事業専従者や直接営利を目的としない法人の役員、アパート経営などの事業を兼業している給与所得者などは加入できません。
小規模企業共済制度のメリット
小規模企業共済は、退職金代わりになるだけでなく以下のようなメリットもあります。
1.掛金の全額が所得控除の対象
2.受け取り時にも節税効果がある
3.低金利の貸付制度を利用できる
フリーランスの節税や何かあった時の貸付制度の面でメリットがありますよ。
詳しく見ていきましょう。
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掛金の全額が所得控除の対象
掛金の金額は、すべて確定申告における所得控除の対象になります。
課税対象となる所得が控除されて節税につながるのです。
1年間で支払った掛金の金額はすべて控除額になるため、もし掛金が月5万円であれば、最高60万円の所得控除を受けられます。
なお、掛金は前納でき、1年以内の前納掛金であれば控除できます。前納する場合は、掛金の額により異なりますが、前納減額金を受け取れます。前納月数1ヶ月あたり1,000分の0.9に相当する額です。
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受け取り時にも節税効果がある
ここまで、掛金における節税効果についてお伝えしましたが、お金を受け取る時にも節税効果があります。
そもそもの話になりますが、廃業や年齢などの理由で受け取るお金を共済金といい、共済契約者の立場や共済金を請求する理由により受け取れる共済金の種類が変わります。
個人事業主の共済金の種類は次のとおりです。
・共済金A:廃業した、契約者が亡くなった
・共済金B:65歳以上で180ヶ月以上掛金を支払った
・準共済金:法人化して加入資格がなくなり解約した
・解約手当金:任意解約、掛金を12ヶ月以上滞納した、法人化して加入資格はなくなっていないが解約した
複数の事業を行なっている方や平成28年3月以前に、配偶者または子へ事業の全部を譲渡した方、平成22年12月以前に加入し金銭出資により法人化した方などは、異なります。
これら共済金の受け取り方法は3つあります。
・一括
・分割
・一括と分割の併用
ただし、「分割」「一括と分割の併用」を選ぶには次のような条件があります。
・共済金Aまたは共済金B
・共済契約者の死亡による請求ではない
・請求する時の年齢が60歳以上
・「分割」の場合、共済金の額が300万円以上、「一括と分割の併用」の場合、330万円以上
上記全ての条件を満たしていなければ「分割」「一括と分割の併用」は選べないためご注意ください。満たしていない場合は「一括」での受け取りになります。
なお、一括で受け取る場合は退職所得扱いになりますが、分割の場合は公的年金等の雑所得扱いです。つまり、お金を受け取ると退職所得や雑所得として課税されるため、事業所得と比べると税負担は抑えられるでしょう。
遺族が受け取る場合や、受け取ったときの年齢、掛金によっても税法上の取扱いが異なります。
所得控除が一番大きいのは退職所得のため、できれば退職所得で受け取れるように一括の受け取りをおすすめします。
「具体的にどのくらいの控除が受けられるのだろう……」と気になっている方は、中小機構の加入シミュレーションをチェックしてみてください。
以下の項目を入力すると簡単にチェックできます。
・加入年月日
・現在の年齢
・制度脱退の予定年齢
・毎月の掛金
・課税所得金額(入力しなくてもOK)
加入を検討している方は、加入シミュレーションを利用して節税効果を試算してみましょう。
低金利の貸付制度を利用できる
低金利の貸付制度を利用できるのも嬉しいポイント。掛金の範囲内で貸付が受けられます。
例えば以下のような制度があります。
一般貸付け | ・利率1.5% ・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)10万円〜2,000万円で借り入れ可能・借入期間最大60ヶ月(借入金額により異なる) ・借入金の返済方法は「期限一括償還」「6ヶ月ごとに元金均等割賦償還」の2種類(借入期間により異なる) ・利子の支払方法は「借入時に一括前払い」「借入時および返済時に6ヶ月分前払い」の2種類(返済方法により異なる) |
緊急経営安定貸付け | ・経済環境の変化などにより売上が減少し、資金繰りが困難な時に借り入れができる ・利率0.9% ・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)50万円〜1,000万円で借り入れ可能・借入期間最大60ヶ月(借入金額により異なる) ・借入金の返済方法は「6ヶ月ごとの元金均等割賦償還」 ・利子の支払方法は「貸付時および償還時に6ヶ月分前払い」 |
傷病災害時貸付け | ・病気や怪我による一定期間の入院、災害で被害を受けた時に借り入れができる ・利率0.9% ・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)50万円〜1,000万円で借り入れ可能 ・借入期間最大60ヶ月(借入金額により異なる) ・借入金の返済方法は「6ヶ月ごとの元金均等割賦償還」 ・利子の支払方法は「貸付時および償還時に6ヶ月分前払い」 |
福祉対応貸付け | ・共済契約者あるいは同居する親族の福祉で必要な住宅改造資金、福祉機器購入などの資金を借り入れ可能 ・利率0.9% ・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)50万円〜1,000万円で借り入れ可能 ・借入期間最大60ヶ月(借入金額により異なる) ・借入金の返済方法は「6ヶ月ごとの元金均等割賦償還」 ・利子の支払方法は「貸付時および償還時に6ヶ月分前払い」 |
創業転業時・新規事業展開等貸付け | ・新規開業・転業を行うときや事業を多角化する時に事業資金を借り入れできる ・利率0.9% ・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)50万円〜1,000万円で借り入れ可能 ・借入期間最大60ヶ月(借入金額により異なる) ・借入金の返済方法は「6ヶ月ごとの元金均等割賦償還」 ・利子の支払方法は「貸付時および償還時に6ヶ月分前払い」 |
事業承継貸付け | ・事業用資産や株式等の取得など事業継承で必要な資金を借り入れできる ・利率0.9% ・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)50万円〜1,000万円で借り入れ可能 ・借入期間最大60ヶ月(借入金額により異なる) ・借入金の返済方法は「6ヶ月ごとの元金均等割賦償還」 ・利子の支払方法は「貸付時および償還時に6ヶ月分前払い」 |
廃業準備貸付け | ・廃業する時に必要な資金を借り入れできる ・利率0.9% ・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)50万円〜1,000万円で借り入れ可能 ・借入期間12ヶ月 ・借入金の返済方法は「期限一括償還」 ・利子の支払方法は「借入時に一括前払い」 |
多様な状況に対応するさまざまな制度があり、低金利で資金調達ができます。
「もしもの時に備えた事業資金がない……」と不安を抱いている方は、小規模企業共済の貸付制度を検討してみると良いでしょう。
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小規模企業共済制度のデメリット
小規模企業共済のデメリットは大きく2つあります。
1.6か月未満で解約すると掛け捨てになる
2.20年未満で解約すると元本割れする
納付期間によっては共済金を受け取れないことも。詳しく見ていきましょう。
6か月未満で解約すると掛け捨てになる
共済金A、Bを納付期間6ヶ月未満で請求しても共済金は受け取れません。
なお、個人事業主の共済金Aとは、廃業や契約者が亡くなった時に受け取る共済金で、個人事業主の共済金Bは、65歳以上で180ヶ月以上掛金を支払ったときに受け取る共済金です。
また、準共済や解約手当金の場合は、納付期間12ヶ月未満で請求しても掛け捨てとなります。
個人事業主の準共済とは、法人化により加入資格がなくなって解約した時に受け取る共済金で、個人事業主の解約手当金は任意解約、掛金を12か月以上滞納した時などに受け取る共済金です。
小規模企業共済は節税にはなりますが、共済金を受け取るためには長期的に掛金を払い続けなければならないことを頭に入れておきましょう。
20年未満で解約すると元本割れする
納付期間に応じて解約手当金の金額は異なりますが、20年未満の納付期間で任意解約をすると元本割れが起こります。任意解約の時のみという点がポイントです。
また、納付期間が20年(240ヶ月)を超えている場合も、途中で掛金を増額・減額することで掛金納付月数が20年を下回ることも。そうなってしまうと元本割れを引き起こしてしまいます。
特別な理由がない場合は掛金の増額・減額はしないようにしても良いでしょう。
20年は非常に長いため、フリーランスになったら退職金を意識して少額からでも積立を始めておくことをおすすめします。
その他の退職金代わりになる制度
ここまで、小規模企業共済について解説してきましたが、小規模企業共済以外にも老後の資金を準備する方法があります。
1.国民年金基金
2.iDeco
3.特定退職金共済
各制度の特徴と小規模企業共済との違いをまとめました。
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国民年金基金
国民年金基金は、国民年金(老齢基礎年金)とセットで老後の所得を保障する、公的な年金制度です。
厚生年金に加入している給与所得者との年金額の差を解消するために創設されました。
国民年金基金と小規模企業共済の違いをまとめました。
国民年金基金 | 小規模企業共済 | |
加入対象者 | 自営業者、フリーランスなど | 従業員が20人以下の経営者、役員、個人事業主 |
加入年齢 | ・20歳〜60歳未満の国民年金の第1号被保険者・60歳〜65歳未満の国民年金任意加入者 | 制限なし |
受け取り時期 | 65歳 | 事業廃止時など |
掛金上額 | 個人型確定拠出年金と合算して月額68,000円 | 70,000円 |
所得控除種類 | 社会保険料控除 | 小規模企業共済等掛金控除 |
受給額の変動 | なし | なし |
途中解約 | 不可 | 可 |
iDeCo
iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金」は、公的年金とは別に給付を受けられる私的年金制度です
掛金で自ら金融商品を選んで運用し、その運用成績によって受け取り額が決まる仕組みです。
iDeCoと小規模企業共済の違いをまとめました。
iDeCo | 小規模企業共済 | |
加入対象者 | 国内在住者 | 従業員が20人以下の経営者、役員、個人事業主 |
加入年齢 | 20歳〜65歳未満 | 制限なし |
受け取り時期 | 60〜65歳 | 事業廃止時など |
掛金上額 | 国民年金基金と合算して月額68,000円 | 70,000円 |
所得控除種類 | 小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済等掛金控除 |
受給額の変動 | あり | なし |
途中解約 | 不可 | 可 |
特定退職金共済
企業が商工会議所で申し込み手続きをすると加入できます。
個人事業主や役員は加入できません。
特定退職金共済 | 小規模企業共済 | |
加入対象者 | 事業主、満15歳〜70歳未満の従業員 | 従業員が20人以下の経営者、役員、個人事業主 |
加入年齢 | 満15歳〜70歳未満 | 制限なし |
受け取り時期 | 退職した時など | 事業廃止時など |
掛金上額 | 30,000円 | 70,000円 |
所得控除種類 | 退職所得控除など(給付金の種類により異なる) | 小規模企業共済等掛金控除 |
受給額の変動 | なし | なし |
途中解約 | 可 | 可 |
まとめ
小規模企業共済は、節税をしながら将来の備えができるため、フリーランスの退職金として注目される共済制度です。万が一の場合は貸付も受けられるため便利です。
とはいえ、納付期間によっては掛け捨てになったり元本割れしたりするのがデメリット。小規模企業共済に加入する場合は損をしないように、長期間の納付になることを見据えておきましょう。
小規模企業共済以外にも将来の暮らしを保障する制度があります。自分に合った方法で退職金を準備しましょう。
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