2020年、全世界で猛威を振るった新型コロナウイルスは、私たちの日常や常識、そして働き方までも大きく変えました。また、緊急事態宣言の発令による行動制限で社会・経済活動の大部分がストップしたことで、フリーランスで働く人たちへの案件依頼もほぼ停止状態に。「仕事の予定が全てキャンセルになった」「取り組んでいたプロジェクトが中止になった」などの影響を受けたフリーランスコンサルタントの方もいるのではないでしょうか。
企業や団体に属していれば、雇用調整助成金をはじめ、さまざまな給与補償制度を受けることもできますが、働いた分がそのまま報酬となるフリーランスにとっては、「案件がない」というのはまさに死活問題。フリーランス歴が長い筆者でも、予定されていた仕事の大部分がキャンセルとなった時には、「今後、どうなるのだろう」とかなり動揺しました。
しかし、同じフリーランス仲間の中には、こうして生まれた“何の予定もない時間”を活用して、「今までやりたいと思っていたけれどできなかったこと」に取り組み、さまざまな経験&スキルアップにつなげた人も少なくありません。そこで今回は、コロナ禍を前向きに乗り越え、成長を遂げた3人の先輩フリーランスの実例をご紹介。もちろんあのような非常事態は二度と起きないのが一番ですが…ピンチをチャンスに変える、その視点、行動力、考え方はきっと今後、フリーランスとして活動を続けるうえで役立つ部分も多いはず。ぜひ、参考にしてみてください。
Case1.これまでの経歴をまとめ、自分の「売り」を発見!
IT系デザイン会社から独立し、フリーランスのWebデザイナーとしての活動を続けているAさん。コロナ前は同じくフリーで活動するディレクター、カメラマンなどとチームを組み、ファッションや化粧品などのWeb広告の作成を手がけ、安定した収入を得ていました。
しかし、新型コロナウイルスの蔓延で企業の広告出稿が激減、特に緊急事態宣言が発令された2020年4月からの2か月間は「新規の依頼はほとんどなく、仕事量は通常の1/5以下にまで落ち込んだ」といいます。そんな中、Aさんが始めたのが、独立からの5年間に手がけた仕事を振り返り、まとめる、自身のポートフォリオ(作品集)の作成でした。
もともと「自分の中にはもう少し仕事量を増やしたい、取引先を開拓したいという気持ちがあった」というAさんでしたが、コロナ前、常に2社の取引先企業からある程度の仕事を依頼されるようになっていたこともあり、営業活動は「完全に後回しにしていた」のだとか。しかし、コロナ禍による営業自粛のあおりを受け、エステティックサロンの広告などを中心に手がけていた1社からの依頼は完全にストップ。「前からフリーランスの先輩にも『取引先が少ないと、何かあった時にダメージが大きいぞ』と言われていたのですが…自分の甘さというか、危機意識の低さを反省しました」と振り返ります。
そこで、まずは独立後に手掛けてきた自分の作品を時系列に整理。そして自分がその作品にどう関わり、どのような提案をしてきたのかを一つひとつ振り返り、まとめました。その中で、「Webデザイナーとしてのスキルだけでなく、もっとディレクション面の経験・実績をアピールした方が仕事につながるのでないか」ということに気づいたのだといいます。
「自分がこれまで手掛けてきた仕事の大半が、各サイトの規定や枠組みの中でどうその企業の製品やサービスの良さを引き出すかを考えなくてはならない『タイアップ広告』であり、サイトを運営する側、広告を出稿する側、双方の意見をまとめ、調整するといった場面も少なくありませんでした。この制作のすべてにワンストップで対応してきたという経験こそ、自分の最大の強みになるのではないかと考えるようになったんです」
独立前に作成したポートフォリオは、ただ作品を並べ、簡単な概要を記載していただけでしたが、今回は作品をただ見せるだけでなく、
1 どのような立場で仕事に関わったのか
2 依頼主からのオファー内容
3 どのような点にこだわって作成したか
4 (わかる範囲で)作品に対するクライアントや一般消費者からの反応
などもすべて分かるように整理して表示。そしてそのポートフォリオをもとに営業活動を進め、1年間で新たに2社と契約、コンスタントに仕事の依頼が入るように。そのうち1社からはデザインから企画、ディレクションまでのすべての工程を任されており、やりがいの中で毎日の制作に励んでいます。
目の前の仕事に追われる毎日の中では、今の自分に不安や疑問を感じることがあってもつい後回しにしてしまいがち。だからこそ時間を作ってAさんのように自分の仕事を振り返る時間を取ることが大切なのです。コロナ禍のような予期せぬ緊急事態により仕事が急激に減ることになれば、誰でも最初は不安や焦りを感じることもあるでしょう。でもその最悪の状態が永遠に続くわけではありません。「自分のことだけ考えられる時間」ができたと前向きに捉え、これからの自分に必要なものをしっかりと補っていきましょう。
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Case2.苦手だった英語と徹底的に向き合い、TOEICの点数も大幅アップ!
日系コンサルティングファームから独立し、経営コンサルタントとしての活動を続けてきたBさん。コンサルティングファーム在籍時に取得した中小企業診断士の資格を活かし、独立後は中小企業に向けたさまざまな経営提案を続けてきました。
しかし、そんなBさんがちょっと苦手意識を持っていたのが英語。TOEICの点数は710点と一般的なレベルとしては決して悪くはないものの、「ビジネスの場で海外とのやり取りをするには完全に実力不足」だと自分でも認識していました。
「特にコロナ前の数年間は、社員20名以下のいわゆる極小企業でも積極的に海外との取引を考えるようになっており、その商談への同席、アドバイスを求められる機会も増えていたのですが、その度に『もう少し英語を勉強しておけばよかった…』と、後悔していた記憶があります(笑)」
そのため、コロナ禍で外出自粛が続き、自宅で過ごす時間が増えた時には、迷わず「英語の勉強をしよう!」と決断。当然、経済活動がストップしたことで、コンサルティング契約の解除、見直しとなった案件もあったそうですが、「この緊急事態はあくまでも一時的なもの。感染が収まった後にまた挽回すればいいと気持ちを切り替えました。そして自宅待機の期間は、自分のスキルを伸ばすための充電時間だと考えるようにしていました」
また、オンラインの普及によって、英会話の授業やTOEIC対策講座にも自宅から参加できるようになっただけでなく、入会金や会費なしで英会話を楽しめるオンラインサークルなども次々に誕生していたこともBさんのやる気に拍車をかけました。
「やる気さえあればいつでも自宅で英語に触れられる、そんな理想的な環境がいつの間にか整えられていた感じで…これはやるしかないと思いましたね。実はこれまでもビジネス英会話スクールには通いたいと思っていたのですが、自宅の近くにはそうした授業を展開している教室がなくて…。オンライン授業の普及は自分にとってまさに“渡りに船”だったんです。ちょうどその頃に支給が決まった持続化給付金も『自分への投資金』と考え、ありがたく活用させてもらいました」
結局、Bさんは、コロナ禍で行動制限が続いた期間、ほぼ毎日独学での勉強とオンラインでの英会話に取り組み、2021年3月に受けたTOEIC試験では775点、そしてさらに1年後の2022年3月の試験では830点と着実にスコアアップ。「これまでは商談などに同席していても会話のすべてを理解することが難しかったのですが、今はほぼ聞き逃すことなく、何より積極的に会話に参加できるようになりました」と、変化を実感しています。
行動制限が解除され、自身の業務量がコロナ前と変わらない状態となった今も、Bさんは「TOEICスコアを850点以上にアップさせたい」と、オンラインでの英会話スクール・サークルでの勉強を継続。また、800点を超えるTOEICスコア、実際にコンサルの現場で英語を活用してきた実績もあり、取引先企業から、新たなお客様を紹介いただくことも増え、「むしろコロナ前よりも取引先も収入もアップしましたし、本当に『努力は結果につながる』ものだなと実感しています」。
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Case3:収入がない! “仕方なく”始めた副業で人生の視野が広がった
大手派遣会社、人材紹介会社での勤務を経て、2019年に独立したCさん。これまでの経験を活かして、さまざまな企業に招かれての採用、社員教育に関するセミナーなどを数多く開催、順調なフリーランス活動を続けていました。
しかし、突然のコロナ禍で予定されていたセミナーはすべて中止に。収入も1/10以下となり、これまでの貯金や持続化給付金で補填するしかない状況になってしまいました。またその後、自粛期間が明け、経済活動が徐々に再開しても、多くの人が集まるセミナーの開催には消極的な企業がほとんど。仕事の依頼は「オンラインセミナーが月に2本くらいという状況が半年くらい続いた」といいます。そこでCさんは人材コンサルタントとしての営業活動を進めつつ、生活のため週に1~3日程度の副業を始めることを決断します。
副業として選んだのは、派遣会社を通して1日、2日の仕事を紹介してもらう「単発」の仕事。内容も軽作業からイベントスタッフ、試験監督までさまざまな仕事があり、自分のスケジュールや興味に合わせて選択することができます。
「正直、最初はこうした仕事をすることに、この年齢で(実際は派遣ですが)アルバイトか…という気持ちもありました。でも、実際に紹介された現場に行ってみると、平日でも30代、40代のいわば“働き盛り”の人がたくさんいたりするわけです。その現実に驚くと同時に、採用に長く関わってきた自分としては、なぜ、この人たちはこの働き方を選んでいるのだろうと、その理由というか、原因を知りたいと思うようになっていました」
そこで、Cさんは副業の現場で一緒になった人に休憩時間などを使って声をかけ、世間話を交えながら(聞ける範囲で)どのくらい頻繁に単発の仕事をしているのか、他に何か仕事をしているのかを聞いてみることに。すると、「本当は正社員として働きたいけれど、介護との両立ができない」「派遣に登録しても希望通りの仕事を紹介してもらえない」など、さまざまな“自分だけでは解決できない”悩みを抱えていることに気づいたのだとか。
「これまでは週5日、1日7時間から8時間出勤して働くことが“当然”であり、そういった仕事を求職者は求めているのだと思っていました。でもそれだと働きたくても働けない人もこんなにたくさんいるのだなと。人材が確保できない企業も多い現状を考えると、今後は時短や週休3日・4日といった、さまざまな働き方を用意すべきだと感じました」
また、製造、軽作業、一般事務、オペレーター、イベントスタッフなど、さまざまな仕事を経験し、「もちろん各企業・現場によって違いはあると思いますが、それぞれの業種で働く人たちの様子や、仕事の進め方、職場環境、安全管理の実態などを見ることもでき、新たな発見がたくさんあった」と振り返ります。
採用活動、セミナーや講演もコロナ前に近い状態まで回復した今、Cさんは自分が副業の中で経験したこと、感じたことを活かし、時短やシフトでの勤務、快適な職場環境整備についてのアドバイスを続けています。
「副業を続けたのは一年に満たない短い間でしたが、実際にその業種の仕事を経験したことで、これまでは“こうだろう”という想像の中で提案・アドバイスしてきたことも、よりリアルな視点からできるようになり、自分の自信にもつながっています。やはりそれが伝わるのか講習会やセミナーされた方からの評価もアップしましたし、今ではとても有意義な経験ができた時間だったと思っています」
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いかがでしょうか。
今回、コロナ禍でさまざまな影響を受けながらも「今、できること」に取り組み、成長につなげた3名の方の実例をご紹介しました。この3名に共通するのは、コロナ禍で思うような活動ができない、自分の意とは異なる状況を強いられても悲観するのではなく、“自分のプラスになること”を常に探し、追求していたこと。自分に足りないものが何かを見つめ、的確に取り組んだBさんはもちろん、Aさんのポートフォリオ(作品集)作りも、Cさんの副業も、「やることがないから仕方なく」「ただお金のため」と、惰性で取り組んでいたら成長につなげることは難しかったでしょう。
今後もコロナはもちろん、新たなウイルスが広がる可能性もゼロではありません。また、ウクライナ紛争や不安定な為替市場など、ビジネスの動きが大きく変わるかもしれない“火種”もたくさんあります。そうした変化や苦境の時間をただ悲観して過ごすか、「この状態が永遠に続くわけではない」と切り替え、次のステップに向けた行動に踏み出すか、それによって同じ「1年」が大きな差となります。時間も人生も無限ではありません。与えられた大切な時間をどう活用するか――常にその意識を持ち続けていきたいものです。
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