フリーランスの皆さんは、年収ではなく手取り額を意識したことがあるでしょうか。年収はあくまで事業の売上金額であるため、そこから諸経費や税金・社会保険料を差し引いて、残った金額が「手元に自由になるお金」、つまり手取り額となります。

本記事では、年収から手取り額を計算する方法について解説します。手取り額を増やすポイントについてもご紹介しますので、少しでも自己資金を増やし、事業への投資増額や自由な生活の向上を目指したい方は、ぜひ参考にしてください。

フリーランスの手取り計算方法

フリーランスの手取り額は、一般的に以下のように計算されます。

 手取り額 = 年収 -  (経費 + 税金 + 社会保険料)

・年収:売上やクライアントから受け取った報酬の合計額。

・経費:業務使用のものを自己負担で支払った金額。交通費や家賃・通信費も含みます。

・税金:フリーランスが支払う税金。詳細は後述します。

・社会保険料:年金や保険料の合計額。会社員と異なりこれらも全額自己負担です。

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フリーランスが支払う税金

フリーランスは自身の所得を申告し、以下の税金を納める必要があります。

所得税

年収から経費を差し引いた額に対して課税されます。

住民税

自身の所在地の市区町村に対して納める税金で、一般的には前年の所得に基づいて税額が計算されます。

個人事業税

「法廷業種」に基づく事業の種類ごとに、それぞれ3~5%の税率で計算され、所在地の都道府県に対して納める税金です。一律290万円の事業主控除があるため、事業所得が年間290万円未満の場合、個人事業税は納税不要です。

税務署に確定申告を行っていれば個人事業税も申告したこととされるため、改めての申告は必要ありません。確定申告後に税務署より納税額の通知と納付書が送付されます。

消費税

商品やサービスを売り上げた際に買い手が払った消費税から、自分が仕入れや経費として払った分の消費税を差し引いた額を納税します。

なお、個人事業主には事業者免税点制度により、前々年の課税対象売上高が1,000万円以下の場合は消費税が免除される制度が設けられているので、課税対象売上高が1,000万円を超えた2年後から納税が必要となります。

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フリーランスが支払う保険料

フリーランスは以下の保険料を支払う必要があります。

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国民年金保険料

2023年度(令和5年度)の国民年金保険料は、1か月16,520円です。クレジットカードや口座振替による納付も可能です。一定期間の分をまとめて前払いすることで、割引適用を受けられますので、詳しくは日本年金機構の公式サイトにてご確認下さい。

国民健康保険料

フリーランスや自営業、個人事業主などが病気やけがで医療を受けるために加入する健康保険の保険料です。国民健康保険料の金額は所得に応じて異なり、各市町村によって設定されています。一般的には、前年の所得をもとに翌年の保険料が決定されます。

介護保険料

40歳~64歳までの健康保険加入者が、国民健康保険料と一緒に納付しなければいけない保険料です。介護保険は、高齢や障害などで要介護となった方を支える保険です。全員強制加入のため、保険料の負担は増えますが、いざ自身が要介護となった場合保険金を受け取れるので安心です。65歳をむかえ、年金の受給を開始すると年金額から介護保険料が差し引かれるシステムに変更され、個人での納付は不要となります。

【早見表】フリーランス手取り金額シミュレーション

年収ごとの手取り額(概算)について、下記サイトを参考に算出しました。

税金・社会保険料計シミュレーション

http://jigyou-tax.hajime888.com/j07.html

年収200万円~600万円

年収2,000,0003,000,0004,000,0005,000,0006,000,000
経費500,000500,000500,000500,000500,000
所得税23,50073,500149,500266,500466,500
住民税54,800154,000254,800354,800454,800
個人事業税0030,00080,000130,000
消費税00000
国民年金保険料198,240198,240198,240198,240198,240
国民健康保険料199,314318,514437,714556,914676,114
介護保険料00000
手取り額1,022,146,754,9462,429,7463,043,5463,574,346
手取り率51.2%58.5%60.8%60.9%59.6%

年収700万円~1,000万円

年収7,000,0008,000,0009,000,00010,000,000
経費500,000500,000500,000500,000
所得税666,500866,5001,082,1001,312,100
住民税554,800654,800754,800854,800
個人事業税180,000230,000280,000330,000
消費税000400,000
国民年金保険料198,240198,240198,240198,240
国民健康保険料730,000730,000730,000730,000
介護保険料0000
手取り額4,170,4604,820,4605,454,8605,674,860
手取り率59.6%60.3%60.6%56.8%

経費を一律50万円とし、確定申告は青色申告、年齢40歳未満を想定しています。

シミュレーションしたところ、手取り額は年収に対して約6割程度との結果になりました。

一般的に、会社員の手取り額は年収の7~8割と言われており、同じ年収で比較するとフリーランスの方が手取り額は少なくなる傾向にあるようです。会社員は社会保険料の負担が会社と折半になるのも大きなポイントとなっています。

フリーランスは、売上や労働時間などを自身の裁量である程度コントロールできるメリットがありますが、税金や社会保険料などの各種控除額が少なく、手取り額では会社員より不利となるようです。

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フリーランスにとってお得な年収は600万円

一方で、フリーランスにとってコスパのよい年収の金額帯が600万円前後と言われていることをご存じでしょうか。

所得税や住民税は所得が上がるほど税率も高くなり、納める税金額も多くなっていきます。(参照:No.2260 所得税の税率|国税庁

一方、国民年金保険料は収入額によらず一律(2023年度は年額198,240円)であるため、年収の低い人にとっては負担額の比率が高くなります。所得税率も、年収約200万円以下だと5%と、低く設定されていますが、生活していく上では少し厳しい金額であると言えます。

その点、年収600万円前後ですと所得税率は課税所得195万円~330万円未満が対象の10%が適用となり、かつ控除額が一律97,500円となります。

年収700万円だと所得税率20%の対象となる課税所得330万円以上となってしまう可能性があり、結果として手取りの面では不利になってしまうことがあるというわけです。

また、年収600万円ほどですと、各種控除や手当が追加される場合があるので、こちらも考慮が必要です。児童手当の所得制限が2022年10月から廃止されたことは記憶に新しいかと思いますが、それ以外に例えば文部科学省の「高等学校等就学支援金制度」や、マイホーム購入者を対象とした「すまい給付金」などは収入の条件が設けられています。

さらに、上述した個人事業税に関しては、年間の事業所得が290万円未満ですと非課税となりますので、経費や減価償却費(設備投資など)でできるだけ調整を行い、年間所得が290万円以上にならないよう工夫をするのも一つの手段です。

フリーランスが手取りを増やす方法

フリーランスが手取りを増やす方法を5つ、ご紹介します。

スキルを磨いて収入を増やす

上述した通り、低い税率や非課税になることを目的に節税対策を行うことは有効ではありますが、節税や手当のために収入金額自体を下げてしまうようでは本末転倒です。

それよりは、納税額は高くとも多く稼いで手元に残るお金を増やした方が建設的です。

手取り額を増やすため、スキルを磨いて自身の市場価値を高める努力につなげましょう。

以下は、スキル向上により手取り額アップとなりやすい事例です。

①    単価アップ:提供する商品やサービスの質を上げて単価をアップする。同じ価格帯や似た商品・サービスを提供する他業者との競争で差別化を図り売上増加につなげる。

② マーケティング:SNSやブログなどを活用し自分のスキルや実績をわかりやすく伝えるため情報発信を行い、マーケティングを強化。ポートフォリオやウェブサイトの整備も有効です。

③ 顧客拡大:質の良い商品やサービスを納品し既存顧客との信頼関係を深め、リピート案件を増やす。また、ネットワーキングやコミュニティ参加などを通じて新しい人脈を作り出し、新規の仕事を獲得する機会を増やす。これらによる顧客拡大の狙い売上アップにつなげる。

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経費を漏れなく計上し、課税所得を減らす

あくまで目的は、手元に残る自由なお金を増やすことです。そのためには、経費を漏れなく計上し課税対象となる所得を少しでも下げることが重要です。

以下はフリーランスの方が経費として計上するのを見落としやすい項目です。ぜひ参考にし、しっかりと経費計上していきましょう。

①    交通費:フリーランスは商談や打ち合わせのための交通費を経費計上できます。バス・電車の運賃やタクシー代などはご存じかと思いますが、見落としがちなのは自家用車を使った際です。この場合、駐車場代や高速道路の料金に加え、ガソリン代も仕事に使った分だけ経費計上できますので、大まかな料金を計算しておきましょう。

②    家賃・光熱費・通信費:自宅を仕事場として兼用している場合は、家賃や光熱費も経費計上が可能です。同じく携帯電話やWi-Fiなどの通信費も対象となります。自身の私的な生活にも使っている場合は全額計上できませんが、「プライベート使用:仕事使用」の比率で按分し経費とすることで、有力な節税対策につながります。

③    プロフェッショナルサービス料: フリーランスの場合は、税理士や弁護士などプロの助言を受けた料金も、経費として計上できます。また、仕事につながるSNS配信をインフルエンサーに依頼した場合なども、広告宣伝費として経費計上が可能です。

④    セミナー代、書籍代:仕事に必要なスキルを習得するためのセミナーや研修参加費、スタッフの教育費用なども経費計上が可能です。また研修参加のための交通費や宿泊費なども見落としがちですので注意しましょう。

以上のように、仕入れ額や配送料以外の出費も、実際は経費として計上でき税金額を下げるために有効ですので、お財布からお金が出て行く時には常に注意深く意識し、領収書はきちんと保管しておきましょう。

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受けられる控除をすべて受ける

手取り額を増やすためには、確定申告の際に所得控除や税額控除など、すべての控除を受けることが望ましいです。所得控除は課税されるべき所得額を下げるための控除であり、税額控除は算出された税金額から差し引くことができる控除です。

それぞれについて以下にまとめましたが、いずれも自身で理解し申告しなければ税金を減額することができません。知っていないと損をすることになりますので、よく確認し申告漏れのないよう注意して下さい。

所得控除

社会保険料控除自身や家族の社会保険料のうち指定の金額内で対象。
小規模企業共済等掛金控除小規模企業共済掛金や確定拠出年金を支払っている場合に対象。iDeCoなど。
生命保険料控除生命保険や個人年金、介護医療保険のうち指定の金額内で対象。
地震保険料控除地震保険などの損害保険料のうち指定の金額内で対象。上限額は5万円。
寡婦(夫)、ひとり親控除配偶者と死別した人や、ひとり親の人が対象。控除額は、、寡婦(夫):27万円、ひとり親:35万円。
勤労学生、障害者控除自身が学生、もしくは自身や家族が障害者である場合に対象。
配偶者(特別)控除配偶者の所得条件により控除金額が異なる。
扶養控除扶養家族の所得条件により控除金額が異なる。
基礎控除全員対象。一律48万円
雑損控除自然災害や盗難・横領などによる損失が出た場合に対象。
医療費控除自身や家族の医療費が年間10万円を超えた場合に対象。
寄付金控除国や地方自治体に寄附をした場合に対象。ふるさと納税など。

税額控除

配当控除証券投資などの配当所得がある場合に対象。
住宅借入金等特別控除住宅ローンを組んでいる場合に対象。合計所得3,000万円以下、住宅の床面積が50㎡以上など条件あり。
政党等寄附金等特別控除特定の政党または政治資金団体に寄附をした場合に対象。
災害減免額控除自然災害などで住宅や資産に損害を受けた場合に対象。
外国税額控除外国で納税している場合に対象。二重課税とならないための制度。
源泉徴収税額控除すでに売上から源泉徴収額が差し引かれている場合に対象。

青色申告で確定申告を行う

青色申告は、確定申告の際に個人事業主や自営業者が一定の条件のもとで、控除額が増えたり、赤字を翌年に繰り越したりできる制度です。白色申告と比べて提出書類が複雑であったり保存帳簿のルールが厳しかったりするなどのデメリットはありますが、節税効果の大きい手段ですので、白色申告をしている人はぜひ検討して下さい。

青色申告を希望する場合は、所管の税務署に「青色申告承認申請書」と「開業届」を

提出の上、承認を得る必要があります。

詳しくは、国税庁のサイトにてご確認ください。

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法人化を検討する

売上額の増大により、個人事業主や自営業者の範囲を超えるようになった場合、法人化することで事業の規模に合わせた節税のメリットが受けられる可能性があります。一般的には、事業所得が800万円を超えると所得税が高くなるため、法人化した方が良いとされています。

例えば事業所得が800万円の場合、個人事業主だと税率23%のところ、法人税だと税率15%となり、控除分を差し引いたとしても個人事業主の方が納税額は高くなってしまいます。事業拡大を予定している場合や、今後売上の増大が見込める場合なども法人化を検討した方がよいでしょう。

ただし、法人化することで会計や事務手続きが煩雑になったり、赤字でも税金の支払いが必要になったりするなどのデメリットもありますので、しっかり把握をした上で検討して下さい。

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まとめ

フリーランスの手取り額を計算する方法や、手取り額を増やすためのポイントについてご紹介しました。年収が多くても手取りを意識していないと、手元に自由になるお金がなかなか増えず事業投資にも回せないため、事業の成長にはつながりません。

経費や各種控除をきちんと理解し、効果的に節税対策を行うことで手取りの金額を増やし、事業の成長や生活水準の向上につなげていきましょう。

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