会社員から個人事業主として独立し、フリーランスとして働くことになったときには、働き方のほかにも様々な変化があります。
中でも雇用保険や税金の仕組みなど、身の回りのお金のことは会社員とは大きく異なり、自分で手続きや備えが必要なことが増えるでしょう。
本記事では、社会保障制度の1つである雇用保険について、その仕組みやフリーランスになった際の注意点をまとめています。これからフリーランスになることを検討している方、またフリーランスになって間もない方はぜひ参考になさってください。
フリーランスは雇用保険に加入できない
雇用保険に加入していると、傷病手当や育児休業給付金、求職者給付などを受けることができます。求職者給付は一般的に「失業保険」「失業手当」などと呼ばれているものですね。
しかし、加入には条件があり、だれでも自由に加入できる制度ではありません。フリーランスや個人事業主は、雇用保険の加入条件を満たしていないのです。
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そもそも雇用保険とは
「雇用保険」は、「労働者の生活および雇用の安定と就職の促進のため」の社会的な保障です。
労働基準法では「労働者とは、職業の種類を問わずに、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義されています(労働基準法第9条)。
つまり、事業主に雇われ、労働の対価としてお給料をもらっている人ということになります。
そのため労働基準法で定義されている「労働者」に当てはまらないフリーランス・個人事業主は原則として加入することができません。
雇用保険の加入条件は以下の通りとなっています。
・最低31日以上働く見込みがある
・1週間当たりの労働時間が20時間以上
・学生ではない
上記の加入条件を満たしていれば、正社員・アルバイト・パートなど雇用形態の区別なく加入対象となっています。
雇用保険に加入していると、下記のような手当を受給できるなど様々なメリットがあります。
①失業保険
失業した場合に給付されるもので正式名称は「求職者給付」といいます。離職から再就職 までの生活を支え、再就職を支援します。受給条件や支給までの期間は、離職理由により異なります。
②教育訓練給付金
所定の条件を満たせば、教育訓練講座の受講料や入学料などの一部を支給してもらえます。看護師や美容師など専門性の高い資格を取得できる講座もあり、再就職に向けて手に職をつけることが可能です。
③再就職手当
離職後、早期に就職をした場合に支給される給付金です。「就職お祝い金」とも呼ばれ、失業保険の受給期間の残り日数によって給付額が変わります。
雇用保険は個人的に加入できる保険ではない
雇用保険は、労働者を雇用する場合は原則として強制的に適用される強制保険制度で、政府管掌保険と呼ばれます。
前項の通り、雇用保険には加入条件があり、加入条件を満たした労働者は被保険者となります。労働者が個人的に雇用保険に加入することはできません。
事業主は、労働者を雇い入れたら雇用保険の手続きや各種届出の義務が発生します。雇用保険は事業の規模や種類に関係なく手続きが必要です。
育児休業給付金も受給できない
出産や育児のため、休職している間に支払われる手当に育児休業給付金があります。これも雇用保険の制度の1つで、育児休業を開始する日より前の2年間に勤務日数が11日以上ある月が12か月以上ある場合に受給資格が得られます。
フリーランスの場合、仮に受給条件を満たす働き方をしていたとしても、育児のために休業した場合の給付金はありません。そのため休業中の生活費などを給付金からまかなうことができない状態となっていて、育児休業に関する支援が薄いことが問題視されています。
現在、雇用保険に加入していない非正規雇用労働者やフリーランスなどに育児休業期間中の給付制度を新設する動きが出ており、2024年以降に関連法案の提出を目指す方向で議論が進んでいます。制度新設へ向けた今後の動きを見守る必要があるでしょう。
フリーランスでも副業先で加入できる場合がある
フリーランスの中には、本業とは別にアルバイトなどでダブルワークをしている人もいるでしょう。そのような場合は、加入条件を満たせば雇用先で雇用保険に入ることができます。
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従業員を雇用する場合は加入手続きが必要
事業の規模や種類にかかわらず、従業員を雇用する場合は、事業主に雇用保険の加入義務が発生します。個人事業主であっても、従業員を雇用する場合は雇用保険の加入手続きをする必要があります。ただし、事業主本人は加入することはできません。
退職してフリーランスになるとき失業保険を受給できる?
会社を退職したら雇用保険の資格喪失証明書が発行されます。職業安定所(ハローワーク)へ行き手続きを行い、条件を満たすと失業保険が受給できます。フリーランスに転身するときに失業保険を受給できるのか、確認していきましょう。
フリーランスになると失業保険の受給はできない
失業保険は、離職し次の就職先が決まるまでの間の生活を支援することが目的の給付金です。また失業とは、「働く意思があるのに仕事に就けない状態」のことを指します。
そのため、会社を辞めフリーランスになる場合は失業保険を受け取ることはできません。
失業保険には下記のような受給条件があり、これを満たし認定された場合に受給することができます。なお、離職理由によって条件が異なります。
<自己都合退職の場合>
転職や独立などを含む自分の意志で離職を希望した場合は、離職の日より前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あることが条件となります。
<特定理由離職者の場合>
下記のような場合は、「特定理由離職者」と認められるケースがあります。
・介護や家庭事情の急変による離職
・特定の理由により通勤が困難な場合の離職
・企業の人員整理などで希望退職者の応募に応じた退職
特定理由離職者の場合は、離職の日より前1年間に雇用保険の被保険者期間が通算6か月以上あることが受給条件となります。
<会社都合退職の場合>
会社都合とは、企業の倒産や解雇など、再就職の準備をする余裕がないまま離職することを余儀なくされたケースです。
離職の日より前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算6か月以上あることが条件となります。
これらの条件を満たす場合に失業保険の受給資格があり、さらに受給のためにはハローワークにて所定の手続きをする必要があります。
失業保険は働きたい意思がありながら働くことができない人を支援するものです。そのため不正に受給をすると、正しく受給している人との公平を期すためこれまで受け取った受給分の全額返金と不正受給額の約2倍の金額を納付するなど、ペナルティが課せられます。
再就職手当は受け取れる可能性あり
フリーランスとして独立しようと考える人は、会社を辞める前から開業準備を進め、離職と同時にフリーランスとして仕事をする人が多いでしょう。
そのような場合は、失業保険を受け取ることができないケースがほとんどであると思います。また不正受給も絶対に行ってはいけません。
失業保険は受け取ることができませんが、雇用保険からの給付金にはもう1つ「再就職手当」があります。
こちらも失業保険と同じく雇用保険制度の一部で、失業保険の受給資格を満たしている人が、早期に再就職を決めた場合に支払われる手当です。失業した人が早期に安定した職業へ就くことを推奨するもので、「再就職のお祝い金」などと呼ばれます。
再就職と言っても、企業に就職するだけが受給対象ではなく、フリーランスとして開業する場合も条件を満たせば受給することができます。
フリーランスになるときの再就職手当を受給する手順
再就職手当は、再就職すれば自動的に受け取ることができる給付金ではありません。受給には条件や手続きが必要です。順を追って確認していきましょう。
ハローワークで求職の手続きをする
会社を退職したら離職票を受け取り、ハローワークで求職手続きを行います。手続きは最寄りの管轄ハローワークで行うことができます。離職票のほか、マイナンバーカードや身分証明証、印鑑などが必要になります。事前にハローワークへ確認しておくとよいでしょう。
7日間の待機後、雇用保険受給説明会へ参加する
求職手続きを行ったあとは、7日間の待機期間と呼ばれる期間があります。失業保険の給付対象にならない期間で、ハローワークが「この人は本当に失業しているのか」を確認するための事務処理の期間です。
待機期間のあとには、雇用保険受給説明会へ参加が必要になります。ハローワークから日時の指定があり、よほどのことがない限りはその日程で参加しなくてはいけません。
受給説明会では、今後の手続きの流れや日程などの説明があり、手当を受給するための手順が細かく説明されます。
説明会ののち初回講習を受講し、その後2週間ほどで「失業認定日」となります。失業認定日には離職してからその日まで就職活動を行ったかどうかの確認が行われます。
1か月間求職活動をする
自己都合で退職した場合は、1か月間は就職活動をしなくてはいけません。フリーランスになるために離職した方は、自己都合退職の方がほとんどだと思いますので、まずはハローワークで求職活動を行いましょう。
実際には開業準備を行いながらとなりますが、ハローワーク所定の求職活動を行うことにより再就職手当受給の条件を満たすことができます。
開業届を提出し再就職手当の申請をする
7日間の待機期間、1ヶ月の求職活動を終えたら開業届を提出します。
開業届は税務署に提出する書類ですが、ハローワークにも就職が決まった(開業が決まった)旨を知らせ、手続きを行う必要があります。ハローワークでは再就職手当支給申請書を提出し、必要な手続きを行いましょう。
フリーランスが入れる雇用保険の代わりの制度はあるのか
ここまで説明してきた通り、フリーランスになると雇用保険への加入対象ではなくなり、失業保険や育児休業保険などの制度が使えなくなります。
働き方の多様化が進む中、フリーランス・個人事業主への支援制度の整備も議論されるなど、今後は動きがあるかもしれません。しかし現状は、雇用保険の代わりとなるような制度がフリーランスにはないため、ご自身で備えておく必要があります。
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フリーランスがリスクを軽減するためにとれる対策
雇用されている立場であれば、失業や休業など様々なリスクに雇用保険で対応することができますが、フリーランスとなるとそうはいきません。
フリーランスとして仕事をしていく上で失業や休業などのリスクには、ご自身で備えておく必要があるでしょう。
具体的な対策には次項のようなものがあります。
事業継続のため新規顧客を開拓する
まずは開業した事業を継続させることが大切です。仕事が続くように新規顧客を開拓し受注が途切れないように営業努力をする必要があります。
労災の加入資格を確認する
これまで労災(労働者災害保険)は、雇用保険と同様に労働者以外は加入ができないものでした。しかし、労働者と変わらない働き方をしている特定の業種の個人事業主や一人親方には、「特別加入制度」で加入が認められています。
2022年9月1日から、特別加入の対象が広がり、「ITフリーランス」も労災への特別加入制度を使って加入できるようになりました。
ITフリーランスの対象範囲は、原則として次のような作業をする方となっています。
・情報処理システムの設計、開発、管理、監査、セキュリティ監査
・ソフトウエアやウェブページの設計、開発、管理、監査、セキュリティ監査、デザイン
・そのほか、これらに関する一体的な企画や情報処理など
職種・肩書で言うと、ITコンサルタント、システムエンジニア、プログラマ、社内SE、WEBデザイナーなどがこれにあたります。
(参考:厚生労働省 労災補償 令和3年9月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がりました)
フリーランスは、仕事の責任がすべて自分にあります。しかしどんなに気を付けていてもケガや事故などにより業務ができなくなることは誰にでも起こりうることです。
そのような場合に備え労災保険へ加入していると、ケガなどの治療費、休業期間中の手当の給付などを受けられます。
該当のフリーランスの方は、加入資格を確認しておくとよいでしょう。
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損害賠償の保険に入る
フリーランスは業務中の対人・対物トラブルのほか、納品物の瑕疵による損害や情報漏洩などのリスクへの備えも必要です。フリーランス向けの損害賠償保険に加入していれば、これらのリスクをカバーすることができ、安心して業務にあたることができます。
例えばフリーランス協会の有料会員になると、自動的に損害賠償保険が付帯されます。フリーランス協会の年会費1万円で加入することができるので、気になる方はチェックしてみましょう。
▼フリーランス協会
https://www.freelance-jp.org/
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まとめ
フリーランスとして仕事をしていく上では、仕事を受注し納品することの他に、廃業やケガ・病気などによる休業のリスクに自分で備えておく必要があります。会社に雇用されているときにはこれらのリスクは雇用保険でカバーされていましたが、個人事業主は加入することができないため、他の方法でリスクに備えなくてはいけません。
労災保険や損害賠償保険など、使える制度や保険はフル活用し、万が一に備えた対策を立てておくと、いざというときにも焦らず事業を継続することができますね。
これから制度の整備などが進み、フリーランスにも雇用保険と同じような支援が広がる可能性はあります。今後の動きに注目しながら、まずはご自身でフリーランスのリスクに備えておきましょう。
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